ICT活用教育のヒント

1人1台活用レポート 生徒個々の“認知の特性”に応じた、適切なツール選択を潜在的な生徒のニーズに対応した教室文化の創造に向けて

紺谷 正樹

群馬大学共同教育学部附属教育実践センター 講師
実践時:北海道月形町立月形中学校 教諭

PC教室からの開放に向けて

本校では、3年前にモバイルワークステーション型PC端末を導入し、タブレットモードとノートPCモードを授業場面に応じて使い分けることが可能となった。その当時、近隣の中学校ではノートPCが主流であり、モバイルワークステーション型PC端末は非常に珍しかった。教育行政は、ややもすると横並び意識が強い傾向がある。しかし、月形町教育委員会には先見の明があった。

モバイルワークステーション型PC端末と並行して初めて『SKYMENU』が導入された。従前、本校ではノートPCが整備されており、その活用といえばPC教室に限定されたものであった。その活用事例は、インターネットを活用した調べ学習と総合的な学習の時間のまとめ資料作りなど限定的であった。さらに、『SKYMENU』などの環境復元ができるソフトウェアが整備されていなかった。そのため、生徒1人ひとりの進捗状況の把握や教員機の画面の一斉送信といったことができず、生徒1人ひとりの個に応じた指導の工夫に達していなかった。まず、校内研修を通して共通理解を図ったのは「いつでも、どこでも、だれにでも」という意識改革である。

デジタルかアナログかという二項対立を超えて

ICT機器の活用が叫ばれて久しいが、各自治体における条件整備の格差、教員の習熟度の違い、さらにはICT機器を活用すること自体が目的化してしまった実践事例が少なからず散見されたため、ICT機器の活用に対する議論が「YES」か「NO」の二項対立を生んでしまっていた。極論を言えば、インターネット上においては「ICT機器を使わなくても構わない」といった短絡的な意見も少なからず見られた。ICT機器をこれまでの実践と最適に組み合わせて有効に活用するという教育現場の意識改革の醸成は速度が非常に遅かった。また、近年ではコロナ禍の影響による遠隔(オンライン)か対面(オフライン)かといった二項対立の新しい基軸も見え隠れしている。しかし、この二項対立の構図における議論は、学校教育にはなじまない上に不毛であると断言できる。教育現場における限られた人的資源において、個に応じた指導の工夫をより充実させるにはICT機器の活用は不可欠である。また、生徒1人ひとりの認知に関しても、何度も繰り返して書いて覚える子もいれば、何度も発音して覚える子もいる。さらには、写真を撮るような感覚で、教科書や板書の内容を映像として覚える子もいることは周知の事実である。

本校においても、モバイルワークステーション型PC端末の導入当初はそのような議論があった。そこで、校内研修などにおけるICT機器の活用についての議論の際、二項対立に陥らないように、心理学でよく用いられるフレームワーク「ジョハリの窓」を模したXY座標平面を用意し、議論を活発化させた。二項対立の議論の内容も、その2種類の組み合わせ方を工夫すること(どちらか一方を縦軸、別のものを横軸にとると4つの象限ができる)により、教員の思考の整理を促すことができる。例えば、「デジタルかアナログか」を縦軸に取り、「個別学習か一斉授業か」横軸にとると、それぞれの学校に応じた実態が見えてくる。

いつでも・・・導入→展開→終末などの場面でも活用

活用事例では、1単位の授業時間における展開の場面でICT機器が使われることが多い。しかし、導入や終末の場面においても今後積極的なICT機器の活用が期待されている。例えば、2017年公示 学習指導要領中学校 技術・家庭編の第2章の「第2節 技術分野の目標及び内容 / 3 技術分野の内容 / A 材料と加工の技術」の指導内容の(1)には、次のように記載されている。「(1)生活や社会を支える材料と加工の技術について調べる活動などを通して(傍点筆者)」。さらに、その内容の取り扱いには、次のような記載がある。「ア(1)については、我が国の伝統的な技術についても扱い、緻密なものづくりの技などが我が国の伝統や文化を支えてきたことに気付かせること(傍点筆者)」ここで特筆すべき点は、「調べる活動を通して」「気付かせる」という語句である。(1)の内容は、評価の観点でいえば「知識・技能」に相当する。これまで教師が一方的に指導していた内容も、少しずつ生徒に調べさせ、気づかせることが重要とされていることを示唆した一例である。

どこでも・・・普通教室や特別教室、さらには屋外でも活用

モバイルワークステーション型PC端末の魅力はやはり、その持ち運びの容易さである。その反面、持ち運びの際に落としてしまい、画面を破損する恐れがある。しかし、「壊れたらどうするんだ?」という不安を最重要事項にしてしまうと、ICT機器の活用は進まない。一般的にスマホの画面が多少割れていても、機能そのものには影響はない。それと同じく、不慮の事故による画面のひび割れなどによる破損は弁償ではなく教育的配慮の下、その後の使用を続けるべきである。また、屋外での使用に際しては防水カバーを装着することで、体育科における陸上競技の試技の動画撮影などが可能となり、動画再生による振り返り活動を充実させられる。ここで重要なのは定点撮影である。そのため、既存の三脚にタブレット端末を固定できるよう自作のタブレット端末専用の三脚を製作した【写真1】。

本校では今年度より修学旅行の際、生徒1人ひとりにタブレット端末とタブレットペンを配付し、積極的な活用を促した。生徒は『SKYMENU』の機能である[発表ノート]に写真を挿入し、そのときの感想やガイドによる説明をリアルタイムでメモをとっていた。また、施設によっては音声が流れるところもあり、録画機能を活用することも可能である。

▲ 【写真1】自作したタブレット端末専用三脚
▲ 【写真2】自主研修時における写真撮影

自身の認知の仕方を気づかせることで、
その方法を自分で選択するようになる。

だれにでも・・・生徒の認知の仕方の違いに応じたICT機器の活用
~『SKYMENU』の[発表ノート]の活用事例紹介~

本校では、4月限定で全学年の数学科において、B5判の大学ノートの代わりにタブレット端末の使用を義務づけている。タブレット端末の使用ルールは【表1】のとおりである。

1か月後の5月以降、B5判の大学ノートでもタブレット端末でもどちらでも使用可にしたとき、7割以上の生徒が大学ノートに移行し、残りの3割程度がそれ以降もタブレット端末をそのまま使用している。その3割の生徒の特徴は【表2】のとおり。

生徒にとってタブレット端末の使用を一定期間強制されることにより、生徒に自身の認知の仕方を気づかせ、その後、自らノートの役割について再考し、方法を自分で選択するようになる。このことは授業参加の意欲向上につながり、ひいては学力向上に結びつくことが確認できた。また、教員が「まだノートを書き写していない人?」と問いかける場面は、ほとんどなくなったことはいうまでもない。すなわち、板書を写すことが遅い生徒に対しては積極的にタブレット端末による写真撮影を促しており、授業進度に影響を及ぼすことはない。さらに、生徒同士で「あの子は、板書を写すのをサボっている」といった発言はまったくない。

【表1】タブレット端末の使用ルール

1黒板の写真撮影ならびに動画撮影OK
→板書の内容を一言一句書き写す必要なし。

※その代わり、必ずその写真には自分の気づきをメモすること。

2タブレットペンによる手書き入力ならびに予測変換(手書きした文字を明朝体などに変換してくれる)なども自由である。

34枚以内のシートにまとめる。

※授業終了後、PDF形式で保存した上で、A4判1枚に4枚のシートを集約して印刷。自宅学習に活用する。

【表2】タブレット端末をそのまま使用している生徒の特徴

1カラフルなペンで板書を整理したい生徒

2字を書くのが遅い生徒

※さらに、字が汚いことにコンプレックスを抱いている生徒もいる。

3ノートを写すこと(文字による理解度の定着)よりも、教師の説明を聞くこと(音声情報による理解度の定着)の方が合っている生徒

4誤字をきっちりと消したい生徒

5レイアウトに対してこだわりの強い生徒

教師の強みとは1人ひとりの個性を見取り、
その子にあった学習活動を提供すること。

特筆すべき点は、⑤レイアウトに対してこだわりの強い生徒の[発表ノート]を用いた工夫である。[発表ノート]の機能では、範囲指定した文字の大きさを変えたり、移動したりすることができる。この機能を用いるとノートのレイアウトをいとも簡単に変更できる。つまり、多少ペンタブレットで大きく書いても、後から縮小し、自分が大事だと思う場所に移動できることで自分なりのノート整理を行うことが可能となる。

B5判の大学ノートの場合、レイアウトにこだわりのある生徒は教師が書き終えるまでノートを書き写さず、自分の文字の大きさに応じて、急いで書き写すことになる。意外と板書の内容を書きながら写している生徒は少ない。また、教師側においても、生徒に対して、板書を書き終えるまで板書を見ているようにと指導している事例もある。しかしながら、「令和の日本型学校教育」の構築においては、主体的・対話的で深い学びを展開することが肝要であり、指導内容の削減がほとんどないなか、その対話的な学びの時間を確保するには従来の指導方法の一部を改善し、その時間を生み出すしかない。その一つの方法として板書を写す方法についても一考することは必要だと考える。

次に、いわゆるノートの評価に関して補足説明する。数学科では50分授業のうち、最後の5分間を振り返りの時間としており、その書面を評価の対象としている。時間内にできない生徒は家庭学習となる。【写真4】は生徒作品である。ここで重要なことは、デジタルだけに傾倒しているわけではないということである。さまざまに認知の方法が違う生徒が混在する状況下において、50分という授業の単位時間を有効に活用するには、その生徒の認知にあったノートの取り方があってもいいということである。板書の内容を写すことが遅い生徒にとってみれば、その行為自体がストレスなのかもしれない。そのストレスを写真撮影することで軽減できれば、生徒は授業に対して主体的に取り組むようになる。個に応じた指導の工夫が叫ばれているなか、ノートの活用方法について再考すべき点の一つである。

▲ 【写真3】板書をタブレット端末のカメラで撮影している様子
▲ 【写真4】数学科の振り返り用紙の生徒作品

はがき新聞の取り組みとデジタル処理

本校では、昨年度より公益財団法人 理想教育財団が提唱している「はがき新聞」に取り組んでいる。主な活動としては、各教科の単元ごとの振り返りにおいて、はがき新聞によるまとめ作業を行っている【写真5】。

また、本校では登校時から朝の学活までの時間、読書のほかに新聞記事を読んで、その感想をはがき新聞によってまとめる取り組みを行っている。その取り組み当初は、廊下に掲示するだけであったが、その教育効果に付加価値を与えるべく、朝の学活でPDF化したはがき新聞を発表する取り組みを継続的に行っている。一回りするまでは、自分で書いた文章をただ読み上げる生徒が多かったが、次第に書いたことは端的に読み上げ、自分自身の文章を再度読み込むことで、本当に言いたかったことを表現するようになる。学年が上がるにつれ、その傾向は強くなる。

▲ 【写真5】はがき新聞による単元の振り返りのまとめ

まとめにかえて

2017年公示 学習指導要領 総則編の「第1章 総説 / 1 改訂の経緯及び基本方針 / (1)改訂の経緯」の中に次の一文がある。「こうした変化の一つとして、人工知能(AI)の飛躍的な進化を挙げることができる。人工知能が自ら知識を概念的に理解し、思考し始めているとも言われ、雇用の在り方や学校において獲得する知識の意味にも大きな変化をもたらすのではないかとの予測も示されている。このことは同時に、人工知能がどれだけ進化し思考できるようになったとしても、その思考の目的を与えたり、目的のよさ・正しさ・美しさを判断したりできるのは人間の最も大きな強みであるということの再認識につながっている」

ICT機器および人工知能の飛躍的な進化は、誰にでも容易に予想できる。しかし、あくまでもそれらはツールであって、教師の役割のすべてがICT機器や人工知能に代替されるものではないと言いきれる。教師の強みとは生徒1人ひとりの個性を見取り、その子にあった学習活動を提供することであると私は信じている。しかしながら、人的制限と時間的制約がある。それらを少しでも解消するためのツールとしてICT機器の活用は欠かせない。これからも、生徒の個性に応じた教室文化の醸成にむけ、ICT機器を効果的に活用していきたい。

(2021年7月掲載)