ICT活用教育のヒント

教員用タブレット「普段使い」のポイント 北畑 謙一 大阪府高槻市立五領中学校首席

教員用タブレット端末1人1台「普段使い」が進む

高槻市は、平成26年に全校全教員に1台ずつタブレット端末が整備されました。

本校は平成28、29年の高槻市教育センター委嘱の学校教育推進モデル校(ICT活用)として、「ICT機器を有効活用した、主体的・対話的で深い学びを追求した授業づくり」をテーマに授業研究に取り組んできました。

こうしたなか、大学との研究の一環で平成29年9月から40台の生徒用タブレット端末が新たに整備されました。教員用タブレット端末だけでなく、生徒用タブレット端末を活用した授業研究を新たに進めています。

生徒用タブレット端末は、特別教室の充電保管庫で管理しており、必要に応じて教員、もしくは生徒が鍵を開けてタブレット端末を教室まで持ち運んで使用しています。生徒のタブレット端末の利用に当たっては、以下のような利用規則を定めています。

生徒用タブレットパソコン ~使い方マニュアル~

教員用タブレット端末の活用率 94.4%

【図1】は、高槻市教育センターの協力を得て、市内と本校の過去2年間の教員用タブレット端末の各教科における活用率を調査し、その推移を比較したものです。

【図1】 教員用タブレットの活用率

本校の活用率は、市の平均値の2倍近くの数値となっており、特に平成29年12月には94.4%という非常に高い数値を記録しました。本校は、ICT活用の研究委嘱を受けていますが、「授業で必ず使わなければならない」というわけではありません。私たちも活用率を特に意識していたわけではなかったので、94.4%という高い数値や右肩上がりの活用率の状況にどのような要因があったのか。そのポイントを明らかにするために、本校の全教員を対象にアンケート調査を実施しました【図2】。

【図2】教員の意識調査(使用実態)

教員が「便利さ」や「生徒の変化」を実感することで、活用が広がる

ICTの活用頻度については、74%の教員が5割以上の授業でICTを活用していることがわかりました。ICTを使い始めたきっかけについては、65%の教員が「便利だから」と回答しており、ほか10%の教員は「教えてくれる人が周りにいる」ことを理由に挙げています。

活用頻度ごとに用途も調査しました。「毎回使用する」「ほぼ毎回使用する」と回答した教員は、「拡大提示などによる視覚支援」「デジタル教科書の使用」「プレゼンテーション資料や画像、動画の使用」を目的に使っていました。

一方で「たまに使う」と回答した教員の記述を確認すると「使える場面で使っている」「毎回必要とは思えない」といった記述がありました。教員が効果を理解したうえで、必要に応じて使っていることがうかがえます。

ICTを活用した成果については、「時間短縮になった」「口頭で伝えられないことを上手く説明できた」「必要な資料をすぐに提示できた」といった利便性を評価する声とともに「子どもの興味関心を引けた」「子どもの顔があがった」と生徒の変化を実感する事も多く挙がっていました。

多くの教員は同僚に相談してトラブルを解決している

タブレット端末を使うときに「困ったこと」も聞きました【図3】。

【図3】教員の意識調査(困ったこと)

半数の教員は「教員用タブレットとプロジェクターがうまくつながらない」「動作が遅い、うまく動かない時があった」というトラブルに遭う、困った経験があることがわかりました。その場合、どのように対応しているのか確認をすると、84%の教員は、校内の情報担当や同僚に聞いたり、助けてもらったりして解決していたことがわかりました。周りの教員に相談すれば解決できるだけのノウハウが蓄積されている。そして教員間で気軽に相談できる雰囲気がある。

こうしたことが、教員が安心してICTを活用できる背景になっていました。本校の強みといえる部分です。

手軽な活用から始め、タブレット端末を使う教員を増やす

では、このような本校の強みはどのようにして形成されたのか。その1つは、本校校長がICT活用の推進にあたって示した「まず使おう」「できることから使おう」という方針があります。

[カメラ]でノートやプリントを撮影して提示する、子どもの動きを撮影するといった、誰もが気軽に取り組める実践を共有し、推進したことで、多くの教員が気軽にタブレット端末に触れ、その利便性や生徒の変化を実感できました。そして、ユーザが増えることで製品やサービスが向上するように、タブレット端末を使う教員が増えれば増えるほど、さまざまなノウハウが蓄積、共有されていきました。こうした好循環によって使いやすい環境、状況が形成されていったと分析しています。

「もっと使ってほしい」という生徒の意見が多い

教員だけでなく、生徒にもアンケート調査を実施しました【図4】。

【図4】生徒の意識調査

使用頻度については「もっと使ってほしい」「今のままで良い」が97%。使用しないときと比べた感想は、「わかりやすい」「まあわかりやすい」が84%でした。少数の「わかりにくい」「別に無くてもよい」と回答している生徒の自由記述を調べると「見えない」といった指摘があり、教員が拡大提示の方法や効果的な活用場面をさらに改善することが求められています。

さらに「理解の深まり、成果」について5段階で質問したところ、51%の生徒が「5」「4」を選択し、13%の生徒が「1」「2」を選択していました。成果をあまり感じていないと答えた13%の生徒と学力には相関が見られなかったことから、ICTにかぎらず、授業づくりそのものへの工夫が求められていると捉えています。

生徒用タブレットの活用、さらなる“授業づくり”の研究が必要

本校がこれまで進めてきたICT活用は、従来の一斉指導型の授業の中で教員がタブレット端末を使うというものです。しかし、新学習指導要領では、生徒がタブレット端末などのICT機器を使うことが求められています。教員用タブレット端末の普段使いから、生徒用タブレット端末の普段使いへと発展させる必要があります。

生徒が学び合う授業づくりや主体的・対話的に学ぶ授業づくりについて、私たち教員がさらに学びを深めていかなければならないと考えています。

(2018年9月掲載)
※ タブレット端末活用セミナー2018(大阪会場および東京会場)実践発表より