授業でのICT活用

はじめに

『小学校プログラミング教育の手引(第二版)』では、A分類「学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの」、B分類「学習指導要領に例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの」、C分類「教育課程内で各教科等とは別に実施するもの」など7つの分類が提示されている。特に、学習指導要領に例示されているA分類の算数科「正多角形の作図」と理科「電気の性質」については、たくさんの実践事例が挙げられている。また、各教科との関連を保ちつつも、余剰時間の中で楽しくプログラミング活動ができるC分類についても、取り組む学校が増えているように感じる。

しかしながら、B分類においては、各教科の学習の必然性に基づいてプログラミング活動を位置づける難しさがあり、教材開発に大きな壁が存在する。そこで、「アンプラグド」という、コンピュータを使わずにコンピュータの考え方そのもの(プログラミング的思考)を学ぶプログラミング活動に注目した。各教科の目標を達成するための学習活動として、プログラミング的思考を用いた活動を位置付けることで、無理なく各教科の学習にプログラミング活動を取り入れることができる。それによって、各教科の目標も、プログラミング教育の目標も、同時に達成できるのではないかと考えた。以下、その実践を紹介する。

本単元について

第6学年「形が同じ図形」の単元では、角の大きさや辺の長さの比をもとに、拡大・縮小を見分ける学習が基本となる。子ども達は、見た目で判断してしまうことが多いことから、明確な根拠をもって見分ける力を付けていってほしい。また、5年で学習する合同な図形の単元とも関連性が高く、同時に扱うことで、より理解が深まると考えた。

そこで、拡大図・縮図・合同な図形の特徴を整理し、それらを分類するためにはどんな観点で判断したらよいのかを考える活動を設定した。これは、プログラミング的思考のうち、主に「抽象化」を活用した活動である。また、どんな順序で見分けるのかも大切であることから、条件分岐を含むフローチャートを用いることで、判断の手順を可視化する活動を設定した。これは、プログラミング的思考のうち、主に「条件分岐」の考え方を活用した活動である。

ただ、フローチャートを手書きするには、児童にとっては時間がかかる。また、いろいろに条件設定を試して試行錯誤しながら活動するには、デジタルで作成していくほうが手軽に修正できるよさがある。そこで、フローチャートを簡単に作成できる『SKYMENU Class』[プログラミング]機能を活用することで、「思考すること」に集中できるようにした。

また、完成したフローチャートを使って、実際に図形を見分ける際、フローチャートの一つ一つの処理に従って進んでいける[実行]機能を活用した。そうすることで、どのように自分が判断しているのか意識化できたり、フローチャートの誤りに気付いたりすることができる。合わせて、見分ける際に、実際の図形の角度や長さを測定した結果を、[タイムライン]機能を用いて、記録していく。そうすることで、一連の思考を可視化することができ、判断の理由をより詳細に確認することができる。

これらの活動を通して、数学的な考え方を基に判断し、根拠をもって思考・判断・表現する姿に迫っていきたい。

単元計画 (全6時間)
第1次 拡大図と縮図
第1時

拡大図、縮図とは

第2・3時

拡大図・縮図の見分け方(本時)

第2次 拡大図と縮図を書こう
第3次 拡大図と縮図の利用
本時のねらい
  • 拡大図、縮図、合同な図形を見分けるためのフローチャートをつくる活動を通して、対応する辺の長さの比と角の大きさをもとに見分ける方法を、説明することができる。
    (思考・判断・表現等)<第2時、3時>
  • フローチャートに表すと、判断の手順が分かりやすいことに気付くことができる。
    (フローチャート)<第2時>
  • 「もし〜なら〜、そうでなければ〜。」という条件分岐の考え方を用いたフローチャートをつくり、図形を分類することができる。
    (条件分岐)<第3時>
授業の実際 (指導案

<第1時>

第1時には、[グルーピング]機能を活用して、それぞれの図形の特徴を整理した【図1】。一つ一つのカードに特徴を書き並べてみると、「対応する全ての角の大きさが同じ」「対応する全ての辺の長さの比が同じ」という3つの図形に共通する特徴と、「その比が、いくつなのか」という相違点が浮き彫りになった。

[グループワーク]機能で、他の班とフローチャートを共有。見分ける手順や視点を共有できた。

<第2時>

第2時では、前時までの学習内容を再度復習し、拡大図・縮図・合同な図形の相違点を振り返ったあと、形が似ていて紛らわしい図形を、いくつか児童に提示した。児童たちは「この図形は、なんとなく拡大図だと思う」などとつぶやいていた。そこで、「図形のどこを見れば、拡大図・縮図・合同な図形と判断できるのか」という本時の課題を全体で共有していった。

まず、図形を見分けるポイントを整理してフローチャートに表し、どんな順番でチェックしていけば効率的に見分けることができるか考えた。

子ども達は、各図形の相違点を考え、何度も修正しながら見分けるポイントを配置していた【写真1】。タブレット端末を指でなぞるだけで簡単に修正できるため、見分ける順番を変えたり、分岐を逆にしたりするなど、試行錯誤することが容易となり、より納得のいくものへと仕上げていくことができた。

ある程度フローチャートが完成した段階で、[グループワーク]機能を用いて、他の班とフローチャートを共有した。最初に全ての角度が同じかどうかを見る班や、辺の比を見れば角度は見なくてもよいと考える班など、見分ける手順や視点を共有することができた。子ども達は、それぞれのよさを感じながら、自然と自分のページに戻り、再度自分のフローチャートを修正していく姿が見られた【写真2】。

子ども達は、「まずは角度が全部同じであることが大切」や「辺の長さを測って比を求めよう」などと、数学的な考え方を基に、根拠をもって図形を判断していく方法について考えることができた。

<第3時>

第2時に作成したフローチャートを用いて実際に問題を解く活動を設定した。そこでは、フローチャートを修正していくとともに、どんな根拠で判断したのか、証拠をタブレット上にメモしていった。

フローチャートを用いて問題を解く際、【写真3】のように、フローチャートの進行に合わせて画面がアップになるので、一つ一つの計算に集中して取り組めていた。「対応する辺の比が全て同じ」かどうかを実際に計測して、「はい」をタップすると、次に調べる項目が表示された。このように一つ一つ確実に計算していく姿が見られ、どんな手順で判断するのか可視化できるフローチャートのよさを存分に生かしながら、図形を判断していく子ども達の姿が見られた。

さらには、フローチャートに従って図形を調べながら、計算結果をメモや写真に記録し、それぞれの判断に紐づけていける[タイムライン]機能を活用した【写真4】。

「辺の比が1対1である」に対して、なぜ「はい」にしたのか、測った長さや計算結果を図や写真に記録して、判断の証拠として残していった。子ども達は、根拠をもって判断しながら次に進んでいくことが意識化され、本時の目標に大きく迫ることができた。

本時の最後に、どのように拡大図・縮図・合同な図形と判断したのか、その手順と根拠を友達に説明し合う活動を設定した【写真5】。子ども達は、「まず辺の長さを測ったら3cmになるので」や「全ての辺の比が1対2だから」などと、数学的な考え方を根拠としながら、効率的に図形を判断していくことができた。

[プログラミング]機能は、思考・判断を深めるだけでなく、表現する際にも大きな足掛かりになる。

実践を振り返って

これまでにも考え方の道筋をフローチャートに可視化する学習は、何度か行ってきた。その際、ホワイトボードとお手製のカードを用いて書かせていた。マーカなら何度も書き換えられるし、カードも自由に動かせると思っていたが、子ども達は、書いたり結んだりしたものを大きく動かそうとはしなかった。そのため、小手先だけでの修正で余計にフローチャートが入り組んでしまうことが多かった。

本実践では、タブレット端末でフローチャートをつくったが、子ども達はその時の発想に基づいて、大胆に修正していく姿が見られた。動かしても線は自動で付いてくるし、間に割り込ませることもできる。デジタルの利点を十分に生かせる機能だと感じた。

第3時において、判断の理由を友達に説明する子ども達の姿は、実に堂々としていた。フローチャートによって判断する手順が明確化され、さらには[タイムライン]機能によって、その理由がしっかり証拠として記録されている。

これがあれば、どんな子どもでも、自分達の判断理由を、きちんと数学的な見方・考え方をもとにして表現することができると感じた。これらの機能は、思考・判断を深めるだけでなく、それをもとに表現する際にも、大きな足掛かりになってくれるだろう。

本時の指導案
学習の流れ 主な学習活動 タブレット端末活用のポイント
第2時 復習

1. 前時までの復習を行い、拡大図・縮図・合同な図形の特徴を整理する。

・前時に[グルーピング]機能を用いて整理した、拡大図・縮図・合同な図形の特徴を、提示する。

導入

2. 本時の問題を捉え、課題をつかむ。
(1)本時の問題を捉える。
①の図形をもとにした時、②③④⑤の図形は、どんな図形でしょう。
(2)本時の課題をつかむ。

図形のどこを見て判断すれば、正しく見分けられるかな。
展開

3. 図形を見分けることができる、条件分岐を活用したフローチャートを作成する。

・グループに1台タブレット端末を配付し、[プログラミング]機能を使用してフローチャートをつくる。

終末

4. 全体でフローチャートを共有し、本時のまとめを行う。

・[グループワーク]機能を使用して、他の班のものも参考にしながら、フローチャートを完成させる。

第3時 導入

1. 前時の復習を行い本時の課題を捉える。

つくったフローチャートで問題を解き、正しく見分けられるか確認しよう。

・前時につくったフローチャートを拡大提示装置で一覧表示することで、グループによって違いのあるフローチャートができていることを確認できるようにする。

展開1

2. フローチャートを使って問題を解く。

・[実行]機能を活用し、丁寧に立ち止まって考えながら判断していく。

・実際に計測・計算したことを[タイムライン]機能を用いてメモに根拠を記録する。

展開2

3. どんな根拠で見分けたか、近くのグループと説明し合う。

・[タイムライン]機能のメモを見せながら説明し、判断の根拠を紹介し合う。

終末

4. 本時のまとめを行う。

・代表の班のフローチャートとタイムラインを、学習者のタブレット端末に表示させ、細かな計算結果なども見えるように配慮する。

(2019年9月掲載)