全員が数学の“面白さ”を実感できる授業へ
千葉県習志野市立第七中学校では、授業研究の柱として「ユニバーサルデザイン教育」を掲げ、ICTや『SKYMENU Cloud』を活用した授業改善に取り組まれています。生徒一人ひとりの気づきを大切にした「全員参加の授業」や「数学の“面白さ”を実感できる授業」をめざし、実践を重ねられる同校の稲井 智子 教諭の実践を取材させていただきました。
稲井 智子
千葉県習志野市立第七中学校 教諭
生徒の“分からない”“できない”は、教員の工夫で改善していく
本校は、生徒318名、教職員33名の小規模校です。私は中学1、2年の数学を担当し、2年生の副担任も務めています。今年度は研究主任として、校内の授業研究を進める役割も担っています。
本校では、2020年度からユニバーサルデザイン教育(UD教育)に継続して取り組んでいます。「すべての生徒が、より良く学習内容を理解できる授業づくり」を研究目標として掲げ、生徒の“分からない”“できない”を個人の問題と捉えるのではなく、授業の構造や発問、教材提示など、教員側の工夫で改善していく姿勢を大切にしてきました。具体的には、教室内の掲示物を必要最低限にするなど、余計な情報を減らした環境づくりを行う「場のユニバーサルデザイン」や、生徒が聞き取りやすい声かけや発問の工夫といった「人のユニバーサルデザイン」にも取り組んでいます。生徒が参加しやすいペアワーク・グループワークを取り入れた授業改善にも力を入れてきました。
こうしたUD教育の考え方は、私自身が大切にしてきた「誰一人取り残さない授業をつくりたい」という思いと強く重なります。着任当初から、本校の方針に深い共感を覚えていました。
「流れの明確化」「スモールステップ」で、“誰一人取り残さない”授業へ
私が教員として最初に勤務したのはろう学校でした。授業では話している内容を文字で提示したり、図形をMicrosoft PowerPointにまとめて示したりと、ICTは学習を支える重要な手段でした。手話と併用しながら、生徒が理解しやすいように日々工夫していました。その後、特別支援学校や高等学校でも、学習のペースやつまずき方が一人ひとり異なる生徒と向き合ってきました。そうした経験を通して、「どの生徒にも学びを届けたい」という思いはさらに強くなっていきました。
また、公立学校は地域の子どもたちが共に学ぶ場です。学習につまずいている生徒の状況に気づけず、そのまま授業が進んでしまうと、本人だけでなく周囲にとっても望ましい学びの環境とはいえません。だからこそ、誰もが安心して参加できる授業づくりを心がけるようになりました。
今年度、研究主任を任せていただき、研究副題を「授業のユニバーサルデザインにおける授業構成の構造化に焦点を当てて」と設定しました。授業の導入・展開・まとめの流れを明確にしながら、生徒が理解しやすいようにスモールステップで進める「授業の構造化」を推進しています。今回ご紹介する授業でも、導入を小学校内容の復習から始めるなど、生徒がつまずかないように配慮しながら、『SKYMENU Cloud』の各種機能を活用して授業を組み立てました。
[発表ノート]に貼りつけた空間図形を生徒が仲間分け
本単元では、それぞれの辺や面に注目して立体の構造を学ぶほか、体積や表面積などの計算にも取り組みます。本時はその導入に当たる授業で、小学校で習った立体に新たに「錐」という概念が加わり、それらの名前を整理しながら数学的に理解していく時間です。
授業の冒頭で、まずは[発表ノート]を配付し、すぐに[ライブ公開提出箱]に提出させた上で、10分間の個人作業に入りました。このノートにはデジタル教科書に掲載されている直方体や円柱、三角錐、球などのさまざまな空間図形が貼りつけてあり、自由に動かしたり消したりできるようになっています。その中から生徒たちは共通点のある立体を探し、仲間分けをしていきます。
例えば「転がる」という共通点であれば、円柱、球、円錐などを仲間として、ほかの図形をノートから削除します。ノートをコピーしてページを増やしながら、多様な視点で立体を観察し、より多くの共通点を見つけるよう促しました。ノートの中には、生徒が自力解決できるようにヒントを載せたページも用意しています。
また、作業時間の中盤では[ライブ公開提出箱]からほかの生徒のノートを参照してもよいと声をかけました。今回のように答えが1つではないオープンエンドな問いを扱う際には[ライブ公開提出箱]をよく活用しています。中学生にもなると、自身がつまずいた際に誰かに聞きに行きにくいと感じる生徒も少なくありません。だからこそ、友だちのノートを自分のタイミングで見に行ける[ライブ公開提出箱]は、生徒にとって抵抗感が少なく、相性が良いのだろうと感じています。
生徒の考えを[画面提示]で紹介。一人ひとりの学ぶ意欲を高める
個人作業の後は、生徒が仲間分けをした[発表ノート]を教室前方の大型モニターに映し、さまざまな考え方を共有しました。紹介している内容が全員にしっかり見えるように、[画面提示]機能を使って生徒の手元の端末にも同じ画面を映しました。今回はそれぞれの手元でノートをしっかり見てほしかったのでこの手法にしましたが、生徒が前に出て発表するときには、手元の端末ではなく発表者の方を向いてもらうため、あえて[画面提示]をしないこともあります。これもUD教育の考え方の一つで、「話している人の方を見る」という聞く姿勢を身につけてほしいからです。[画面提示]機能によって、生徒が触れる情報量を場面に応じて細やかに調整できる点がとても助かっています。
また、こうして工夫しながら共有の時間を確保しているのは、なるべく生徒全員の成果を授業中に紹介したいと考えているからです。本時、生徒たちは一生懸命に課題に取り組んでおり、私自身が想定していなかった視点で仲間分けをしている生徒もいました。そうした成果を紹介することで、生徒たちは「認めてもらえた」と実感しやすくなり、学ぶことへの意欲も高まると考えています。
インプットとアウトプットを繰り返す
生徒たちの考えを全体で共有した後は、板書をしながら本時で初めて学ぶ「錐」について整理しました。三角錐、四角錐、円錐などのバリエーションやその特徴をノートに書き込み、描き方についても練習してもらいました。
その後は、クラス全体でクイズができるデジタルツールを使って、知識の定着を図りました。クイズの問題は、生徒がつまずきやすい内容を事前に選んで作成しています。特に「三角錐」と「四角錐」は混同しやすいため、あえてひっかけになるような問題にしました。実際に、多くの生徒が三角錐と四角錐を間違えてしまいましたが、その結果が可視化されたことで、「どこでつまずいているか」がはっきり分かりました。そこでクイズの途中で定義と見方をあらためて確認し、次の授業でも再度触れるようにしました。このように授業の中でインプットとアウトプットを繰り返し、誤解をあぶり出して修正していくことも、「授業の構造化」における重要なステップの一つだと考えています。
実際に、本時の最後に書いてもらった振り返りでは「錐の特徴が分かった」「切断や見方を変えるのが楽しかった」といった記述が多く見られ、習得してほしい内容が生徒に伝わっていることが確認できました。
生徒が提出した[発表ノート]を次の学習の展開に生かす
生徒たちが提出した[発表ノート]は、基本的には次の授業までに目を通して返却するようにしています。[添削]機能を使えば、スタンプを押すことで手軽に生徒に「見たよ」と伝えることが可能です。紙のノートを集めてコメントを入れることもありますが、それを毎授業で行うのは難しい面もあります。[発表ノート]であれば、集める・スタンプを押す・返すが手早くでき、授業の合間で対応しやすいため、紙のノートよりも頻繁にチェックするようになりました。
提出された[発表ノート]はいつでも見返せるので、成績をつける際に「この単元でこの生徒はどんな考えをもっていたか」を確認することも容易です。教員から反応があるからこそ、生徒たちも一生懸命に取り組んでくれていると感じます。
今回の授業で生徒たちから出たさまざまな考えは、今後の授業でも活用する予定です。例えば、今回の仲間分けで出た「立体を正面から見ると長方形をしている」という共通点は、これから学習する「投影図」において重要な考え方です。「投影図」の授業の導入で本時の仲間分けに触れ、「正面から見たときの形に注目していた人もいたよね」と振り返ることで、生徒の考えを大切にしながら学習を進められます。生徒一人ひとりが学びに参加するきっかけにしたいと考えています。
自分で気づく瞬間に、数学の面白さがある
本時では、生徒が立体を多様な観点から見て仲間分けを行い、自分なりに考えたことに気づきを得ていました。私は、この「自分で気づく」瞬間にこそ、数学の“面白さ”があると考えています。物の名前や種類を覚えるだけでは、どうしても暗記が中心になり、生徒の興味を引くことが難しくなってしまいます。学習塾などですでに知識を持っている生徒もいますので、授業の中で“気づき”を生み出すための工夫が欠かせません。
だからこそ、手を動かしながら自分で考え、さらに友だちの考えを共有する時間を大切にしました。多様な視点に触れることで、自分では気づけなかった発想に出会えますし、先人たちが見つけた法則や考え方を追体験することにもつながります。生徒一人ひとりが授業の中で何か一つでも気づきを得て、“お土産”として持ち帰れる授業にしたいと考えて取り組んでいます。
「全員参加」から、「学力向上」へ、さらなる授業改善を進めたい
こうした学び合いを支える上で、『SKYMENU Cloud』は非常に心強いツールです。生徒が作成した[発表ノート]を共有し合ったり、[ライブ公開提出箱]でほかの生徒の考えを参照したりできるため、多様な考えを可視化できます。図形を動かす、コピーする、書き込むといった操作もスムーズで、生徒たちも文房具のように自然と使いこなしています。最終的には、子どもたち自身が「この場面ではみんなの考えを見たいからSKYMENUを使おう」「ここはノートにしっかり書いておきたい」と、自分に合った学び方を自分で選び取れるようになってほしいと思います。
取り組みの甲斐あって、生徒から「数学の授業が楽しい」「分かりやすい」と言ってもらえるようになりました。実際、これまで担当してきた学年では、全国学力・学習状況調査の数学の結果が例年より向上し、全国平均を上回るなど、授業改善の成果が数値として表れてきています。
今後は、こうした取り組みをどのように継続し、より多くの生徒の学力向上に結びつけていくかが課題です。誰一人取り残さず、全員が参加できる授業を実現するために、今後も授業の構造化を進め、『SKYMENU Cloud』などのICT活用をさらに工夫していきたいと考えています。
(2026年1月取材 / 2026年5月掲載)