一人ひとりが「問い」をもち、
対話と協働で説明文を読み深める
子ども同士がつながりやすい[グループワーク]で、ジグソー活動を展開
大阪市立北粉浜小学校の前島 有希 主務教諭は、子どもたちが対話を通じて自分の考えを深めたり、広げたりできる授業の実現をめざし、授業改善に取り組まれています。説明文の学習にジグソー法を取り入れ、子どもが問いを立て、分担して読み取って伝え合うことで文章構造の理解を深めた実践について伺うとともに、『SKYMENU Cloud』の活用についてお聞きしました。
前島 有希
大阪市立北粉浜小学校 主務教諭
ジグソー法で子どもが分担して読み取り、伝え合い、再構成する
本校は大阪市内にある児童約200名、教員約20名の学校です。小規模校の良さを生かして、教員同士が密に連携して子どもたちの成長を支えています。私は6年1組の学級担任と併せて研究主任や学級活動主任などを務めています。
今年度の校内研究テーマは「自分の考えをもち、ともに学び合う児童の育成~主体的・対話的な授業づくりを通して~」。ICTや『SKYMENU Cloud』を活用し、対話、協働によって思考を深める授業づくりに取り組んでいます。発達段階に応じた「対話スキル」の目標を設定しており、高学年は、「自分と他者を比較することで自分自身の考えを深め、相互理解を図る」として指導をしています。
今回、6年国語「イースター島にはなぜ森林がないのか」の学習において、ジグソー法による対話的な学びと相性の良い『SKYMENU Cloud』の[グループワーク]を活用した授業を構想しました。子どもたちが自ら問いを立て、分担して説明文を読み取り、ジグソー法による対話で考えを再構成していく授業をご紹介します。
[気づきメモ]に投稿された疑問や不思議から問いをつくる
単元の冒頭では、子どもたちの「面白そう」「やってみたい」という感情を引き出すため、丁寧に導入を行いました。
まず、タイトルと教科書の挿絵から、説明文の内容を想像させ、さらに「Google マップ」のストリートビューでイースター島を360度観察。実際に探検するような体験を通じて本当に森林がないことに子どもたちは気づき、教材のタイトルに立ち返ることができました。
次に、5年生で学習した「説明文」の定義や序論・本論・結論などの基本的な知識をおさらい。その後、あらためて本文を読み「不思議に思ったこと」「分からなかったこと」あるいは「もし自分が先生だったらテストにどんな問題を出す?」という内容で[気づきメモ]に入力させました。
入力後は、友達の問いを読み、「いいね」を押していきます。最終的に「いいね」が多く集まった4つの問いを学級の問いとして設定しました。
導入で説明文の定義や教材のタイトルに触れていたことで、子どもたちは教材の内容から逸脱することのない問いを立てられました。
個人活動で[発表ノート]に考えをまとめ、根拠を教科書に記す
第2時では、4人で班を組み、前時に決めたA、B、C、Dの4つの問いについて、一人一つずつ分担。個別に調べを進めていきました。子どもたちは教科書や書籍、Webサイトなどを使って、分かったことや考えたことを[発表ノート]にまとめていきます。このとき、「どこに根拠があるのか」を明確にするために、教科書の本文に線を引くように指示しました。筆者の主張と調べた情報を関連づけて考えることを意識させています。
終末には子どもたちが個人活動でまとめた[発表ノート]を[提出箱]に提出させ、授業後に教師が確認しました。まだ読み取りが不十分なものが見られましたが、この段階はあくまで学習の出発点です。次時のエキスパート活動での対話を通じて理解が深まることを見込み、学習状況の把握にとどめました。
「先生、割り箸ください!」子どもが自らモアイ像の移動を検証
第3時は、まず個人で調べたことを持ち寄り、エキスパート活動に取り組みました。ここでは[グループワーク]機能を活用し、同じ課題を担当した子どもたちがそれぞれの専門班(エキスパート班)に分かれて話し合いを行います。
[グループワーク]機能は、同じグループに入ると互いの[発表ノート]を簡単に共有できるため、資料や表現を比較して考えられます。子どもたちは、同じ課題であっても調べた内容やまとめ方が違うことに気づきます。友達が調べた資料やまとめた内容が良いなと思ったら、「その資料、僕にもくれる?」と声をかけて自分のノートに持ってくる姿があちらこちらで見られました。
ここで、あるエキスパート班の子どもたちが「先生、割り箸ください!」と声をかけてきました。何をするのかと見ていると、割り箸を木材に見立てて、モアイ像を運ぶシーンを再現していました。この方法は教科書には記載されていないため、自分たちで調べたことを基に、工作しながら検証していました。実際にやってみるとうまく運べず、「モアイ像は重いから傾斜をつけてみよう」「楽に運ぶにはもっと人が必要だね」「だからたくさん木を切る必要があったんだ」と探究的に学びを進めていました。
この姿に刺激を受けた別の班では、紙で丸木舟を作り、キーホルダーを人に見立てて航行の検証を始めました。どちらの班も『SKYMENU Cloud』の[カメラ]機能で活動の様子を動画で撮影し、[発表ノート]に貼りつけて記録していました。ほかにも、ノートに書き切れない資料や出典は[Webリンク]機能で補って表現しており、子どもたちは多様な方法で情報をまとめていました。
エキスパート活動で得られた結果を班で伝え合い、理解を深める
エキスパート班の活動を終えたらいよいよ、元の班に戻ってジグソー活動です。子どもたちはエキスパート班で調べたことについて[発表ノート]を示しながら分かりやすく伝えます。どの子も「班の仲間に分かりやすく伝えよう」という責任感と相手意識をもって取り組んでいました。
このとき役立ったのが[グループワーク]の共有の仕組みです。元の班に戻ってグループを選ぶだけで、前時にエキスパート班で作成した[発表ノート]やその中に含まれている画像や動画を、そのまま持ち寄ることができました。“つながりたい人”とスムーズにつながることができ、学習の流れを止めることはありません。すぐに話し合いに移行できる、[グループワーク]の良さが光りました。
クロストークで筆者の「論の進め方」をおさえる
第4時では、学級全体でのクロストークに進みます。「問題Aを調べた人の[発表ノート]の中で良かったものは?」 と問いかけ、友達から推薦されたノートを作成した子どもが発表しました。ここでも教科書に「どんな順序で書かれていたか」「どんな接続詞が使われていたか」「教科書の何ページに記載されていたか」といったことを適宜確認しながら進めていきました。
しかし、次第に班によって理解の深まりに差があることも見えてきました。いくつかの班では、筆者の「論の進め方」、つまり「原因」と「結果」の整理や全体構成の把握まで至っていない様子が見受けられたのです。
そこで最後に[発表ノート]を1枚追加。課題ごとに調べた内容を「原因」と「結果」に分類し、学級全体で構成図をまとめながら、文章全体の論理を整理していきました。この活動によって理解の差を縮め、説明文を読み解く視点をしっかりとおさえることができました。
授業後の振り返りには、「一人で読んでいたときは分からなかったけど、みんなのノートを見て理解できた」「検証を通してより深く理解できた」といった声が多数見られ、対話や協働を通して学びが深まった様子がつづられていました。
また、普段は発言の少ない子が「グループで考えたことだから、自信をもって発表できた」と語った場面があり、対話を通じた学びの力と安心感のある場づくりの大切さをあらためて感じました。
毎朝の「対話レクリエーション」が、学び合いを支える
今回ご紹介したジグソー活動や『SKYMENU Cloud』を活用した学びの根底には、冒頭で述べた対話スキルの育成や学級づくりの積み重ねがあります。
本学級では、年度当初こそ子どもたちが控えめで静かな雰囲気でしたが、毎日、朝の会で取り組む「対話レクリエーション」を継続することで、少しずつ話すこと、聞くことへの意識が変わっていきました。活動はいたってシンプルです。例えば「好きな食べ物」などのお題カードを使い、1分間、隣の友達と会話するだけ。「あなたの好きな食べ物は何?」「いつ食べるの?」などと話し続けるのです。
そして慣れてきた頃に、週に1回、2分間の「ロングペアトーク」に取り組みます。ここでは、話し手が、聞き手の姿勢(体の向き、相づちなど)を5点満点でチェックします。
こうした日々の取り組みを通して、子どもたちには「上手に話すことよりも相手の話をどう聴くかが大切だ」ということに気づきが芽生え始めました。今では「みんなで聞き上手になろう」という共通の意識が広がり、学級に安心して話せる雰囲気が浸透していきます。
『SKYMENU Cloud』を生かし、一人ひとりが主役になれる授業に
以前同じ単元を扱った際には、調べた内容をホワイトボードにまとめるかたちで活動を進めていました。しかし、手書きによるまとめでは、文字情報に偏ってしまいがちで、図や絵が得意な子ばかりがまとめや発表を担いがちでした。
今回の実践では、[発表ノート]を活用したことで表現の幅が格段に広がりました。画像や動画の貼りつけ、図表の作成が容易になったことで、子どもたちは自分が得意な方法で学習活動に積極的に取り組んでいました。
実際、本単元と前月に実施した別単元のテスト結果を比べたところ、文章題を苦手とする子どもたちの平均点が大きく上昇し、学級全体の理解度の差が縮まっていました。学習の過程でつまずいても、『SKYMENU Cloud』を通して他者を参照したり、エキスパート活動により協力したりしながら学習に取り組んだことで、苦手意識のある子どもたちも学びに向かうことができたのだと思います。
子どもたちのクリエイティブな表現活動は、学びの証跡として残るだけでなく、目的意識や相手意識を高め、学習意欲、そして、学力の高まりにもつながります。今後も『SKYMENU Cloud』をうまく活用しながら、「一人ひとりが主役になれる授業」をつくりたいと考えています。
(2025年7月取材 / 2025年11月掲載)