
「構想・設計」と「対話」を重視し、
身の回りの課題解決を図る、ものづくりの授業
[発表ノート]に改善前と後の変容を記録させ、指導と評価に活用
愛知県日進市立日進西中学校の技術科を担当される河村 敏文 教諭は、中学校1年「材料と加工の技術」の学習において、「製作」よりも「構想」や「設計」に重点を置いて授業を展開されています。生徒が課題意識を持ち、対話を通じて解決を図りながらものづくりを進める授業についてお話を伺うとともに、『SKYMENU Cloud』の活用方法についてもお聞きしました。

河村 敏文
愛知県日進市立日進西中学校 教諭

自分の生活に役立つものを設計・製作し、問題を解決する
本校は生徒数約870名、全校29クラスを有する大規模校です。私は主に特別支援学級の授業と技術科の授業を担当しています。本校では、教員が目配りしやすく、セキュリティ面で信頼性の高い 『SKYMENU Cloud』などの学習者支援ツールを活用することで、生徒が任意で端末を家庭に持ち帰る運用が定着しています。[電子連絡板]は部活動などの連絡事項や授業における資料の共有手段として重宝しています。
今回は、生徒一人ひとりが木材を使って本棚やペン立ての製作に取り組む、中学校1年「材料と加工の技術」の単元において、『SKYMENU Cloud』の[電子連絡板]をはじめ、[発表ノート]や[気づきメモ]などを活用した実践をご紹介します。
「生活に役立つものを設計し、製作しよう」を学習テーマとし、机の上やリビングなど、生徒の身の回りにある課題を見つけ、ものづくりをとおして課題を解決する学習を構想しました。単元のねらいは次のようにしました。
本単元のねらい
技術の見方・考え方を働かせ、自分の身の回りの生活から問題を見いだし、その問題を「ものづくり」を通して解決するために、課題を設定することができるようにする。その際、自分なりの新しい考え方や捉え方によって、解決策を構想したり、自らの問題解決とその過程を振り返ったりすることで、より良いものとなるよう改善・修正しようとしたりすることができるようにする。

なお、学習指導要領や技術教育に関する調査において、ものづくり学習について「構想や設計の時間を十分に確保できていない」「生徒が納得できる仕上がりに至っていない」「生徒が必要性を感じないまま製作している」といった課題が指摘されています。
これらの解決には、構想や設計に十分な時間を割いた単元設計が効果的であることは明白です。しかし製作には一定の時間が必要ですから、時間の調整が難しく、改善に踏み切れずにいました。本実践では学習活動にICTや『SKYMENU Cloud』を効果的に取り入れ、課題を克服することもめざしました。
構想・設計、対話に12時間、製作で6時間
単元の導入では、まず身の回りの課題を基に製作物のテーマを設定します。材料となる木材の基本的な特徴の学習も含め、導入段階には3時間程度をかけて取り組みます。
その際、[発表ノート]で作成したワークシートに、生徒が自分の考えをまとめます。生徒が手書きで描いたイメージ図も、[カメラ]機能を使えば簡単に[発表ノート]に挿入できるのが利点です。
次に、試作品を作成し、改善点について話し合う構想・設計図作成のフェーズへ進みます。ここには約12時間を充てました。試作品は実物の3分の1スケールで、スチロール素材を用いて製作します。木材は一度切断すると修正が難しいですが、スチロールは切断や修正が容易なため、試作品づくりに適しています。
その後、生徒たちは自分の試作品を持ち寄り、グループ内で互いに作品を紹介し改善点を話し合います。「ここはなぜ丸い形なの?」「これはどうやって作る予定?」といった質問が自然と飛び交い、それに答えることで、生徒自身の考えが徐々に整理されていきます。
このように、構想や設計を十分に練った上で、製作へと進む流れとしています。
なお、対話を充実させるためには、その生徒同士のやりとりが建設的でなくてはなりません。これには、学級の中に互いの長所や個性を認め合える「支持的な風土」が必要です。「相手の意見を最後まで聞こう」「良いところを見つけて伝えよう」といった姿勢を指導するよう心掛けています。みんなで学べるという経験は学校でしか味わえないことなので、大切にしています。
[発表ノート]に試作品の改善前、改善後を撮影し記録
構想・設計の段階では、生徒たちに
のように、級友の意見を受けて「どこを、どのように直したのか」を[発表ノート]に記録し、まとめるよう伝えています。写真を挿入することで、改善前と改善後の状態を視覚的に把握し、比較しながら考察することができます。これは大きな利点です。試作品をさまざまな角度から撮影させておくと、その効果はいっそう高まります。従来は一過性に終わりがちだった試作品の作成や改善も、画像として残すことで、生徒も教員も「学習の過程で何を、どう変えたのか」という変容を細かく把握できるようになりました。
こうした変化は、1人1台端末や『SKYMENU Cloud』の活用によって生まれたものであり、大きな意義と恩恵を感じています。

[電子連絡板]の参考動画を参照し、効率良く製作する生徒
製作の時間は6時間で実施しました。構想・設計の時間をしっかり確保したことで、時間短縮を図れました。試作品づくりの段階で、生徒が製作に必要な工程をひととおり経験し、つまずきやすい部分を事前に克服できたからだと思います。結果、私は気になる生徒や配慮が必要な生徒へのサポートに時間をかけられました。
特に効果を感じたのが、[電子連絡板]を活用した資料動画の共有です
。ノコギリの使い方などを2〜3分程度の短い動画にまとめ、YouTubeで限定公開。そのURLを[電子連絡板]に貼りつけ、前の授業の終わりに「次の授業までに動画を見ておいてね」と声掛けをし、[電子連絡板]上でも視聴を促すことで、製作中に生徒が質問に来る回数や、その順番待ちによる時間のロスが大きく減少しました。もちろん、こうした対応が可能になった背景には、試作品づくりを通じて、生徒が最終成果物の完成イメージをしっかり持てていることが大きいと考えています。
[添削]機能で、提出課題を手早く評価
生徒に提出を求めた[発表ノート]の課題は
、[提出箱]に提出してもらい、[添削]機能を使ってチェックした上で返却しています。
評価作業は、提出を締め切ったタイミングでまとめて行います。[添削]機能を使えば、連続して評価をつけられます。特に評価が難しい成果物があった場合は、ほかの成果物と手早く見比べられるので、整合性を取りやすく便利です。
また、『SKYMENU Cloud』の「グループ設定」を「学年・組」ではなく、「1年技術」のように「学年全体」で設定しています。これにより[提出箱]が1つとなり、8クラス分の提出箱を個別に管理する必要がありません。教員・生徒が学級の垣根を越え、自由に他者の[発表ノート]を参照できる環境もつくれます。
[発表ノート]の提出期限の設定についても、独自の工夫を取り入れています。評価対象となる[発表ノート]は、1学期であれば3、4枚程度です。単元の冒頭で、提出課題となるワークシートをあらかじめ配付し、口頭や[電子連絡板]を通じて提出期限を共有しています。提出物1枚あたりの提出期限は、1か月から1か月半程度としています。
そのため、生徒の間で提出日に1か月以上の差が生じる場合もあります。早めに提出した生徒は提出課題について相談に来ることが多く、その際は助言しています。また、提出期限は必ず月曜日に設定します。これは、生徒が自由に使える時間が多い土日を挟むという配慮です。
作品評価の方針としては、作品は技能、[発表ノート]は思考というかたちで評価を分けています。[添削]機能は非常に便利ですが、私はまず実際の作品を評価した上で、その後に[発表ノート]を確認して評価を行っています。[発表ノート]で何度も確認しているので、各生徒の作品理解がより深まり、最終的な評価も効率的かつ高い精度で行えたと感じています。
なお、生徒たちは紙にメモを取る感覚で[気づきメモ]を上手に活用しています。個人のメモツールとしてアイデア出しの場面でどんどん入力したり、製作の進捗を忘れないよう写真を撮って記録したりしています
。
メモの中には非常に重要な内容が含まれている場合もあるので、[気づきメモ]に蓄積したデータを[発表ノート]に移し、レポートに反映するよう生徒にアドバイスすることもあります。
ICTに「置き換える」のではなく、「上乗せ」する
GIGAスクール構想で1人1台端末が導入されて以降、技術分野の指導では『SKYMENU Cloud』を継続的に活用してきました。写真の使い方、伝えたい箇所の工夫、言葉選びなどが、年を追うごとに巧みになり、生徒のまとめる力や表現力の高まりを感じます。提出物の質は、確実に向上しています。これは生徒自身の試行錯誤による部分もありますし、[発表ノート]の使いやすさに支えられている部分もあると思います。[発表ノート]を通じて、これまで気がつかなかった生徒の新しい側面を発見できることに感謝しています。
最後に、技術という教科において、ICTを生かした指導や情報に関する指導は重要な要素です。近年は3D-CADソフトウェアなどが普及していますから、「デジタルで設計すればよい」という考え方もあると思います。しかし私は、生徒が試作品を作って試行錯誤するなかでしか得られない経験や認知があると考えています。これまで大切にしてきた指導とICTを融合させ、より良い方向でICTを活用していきたいです。単に「置き換える」のではなく「上乗せ」する感覚で、今後も授業改善を進めたいと思います。
(2025年5月取材 / 2025年8月掲載)