実践レポート
中学校1年 数学

[発表ノート]と[気づきメモ]で、学級全体で考えを共有 文字式を読み取る活動の充実で、
数の性質を発見、一般化

山形市立第一中学校は、生徒数433名、職員数49名の学校です。「わかる喜びを実感し、自ら学び続けようとする生徒の育成~探究的な授業づくりを通して~」を研究テーマに掲げ、電子黒板などのICT機器や学習活動支援ツール『SKYMENU Cloud』を活用した授業改善に取り組まれています。同校1年数学を担当される清水 海斗 教諭の授業をレポートします。

清水 海斗

山形大学附属中学校 教諭

(実践時:山形市立第一中学校 教諭)

実践

文字と式

本時の主張

  • 文字式のよさを実感できるように、統合的に「式を読む場面」の設定を大切にする。
  • 文字式について、目的をもって文字式を変形させることで「数の性質を発見・一般化するための道具」として扱うよさを大切にする。

本時の目標

  • 文字式を思考の対象とし、目的に応じて文字式を形式的に処理したり、文字式の構造を理解したりすることができる。〔知識、技能〕
  • 複数の文字式を統合的に捉えることで新しい発見や洞察を得ることができる。〔思考力、判断力、表現力〕

学習展開(2時間計画)

教師の発問・学習活動 指導上の留意点
1時間目

1.文字式の復習問題に取り組み、本時の課題を共有する。【全体】

課題:文字式から意味を読み取ろう

「2n+1が奇数であるなら、2n+3はどのように考えたら奇数と判断できるだろうか」

  • [発表ノート]を配付。
  • 何人かの生徒の[発表ノート]を全体で共有する。
2時間目

2.他の場合について条件を変えて 得られた文字式を読み取る。【個】

課題:連続する○つの△数の和について考えよう!
  • [気づきメモ]を使用。
  • 「連続する_つの_数の和は_の倍数になる。式で表すと__」のように解答方法を穴埋め形式で提示する。
  • [発表ノート]に抽出。

3.条件を変えて得られた式を関連づけていく。【全体】

  • 生徒の考えを[発表ノート]上で整理し、生徒の画面に転送する。

4.振り返り。

板書計画
▼ 板書計画

文字式の構造を理解し、目的に応じて変形し、解釈する

今回、中学1年数学の単元「文字と式」で 『SKYMENU Cloud』を活用して数学の研究授業を行いました。まず、今回の授業のきっかけとなったのが、2024年4月に実施された全国学力・学習状況調査の結果です。本単元に関連する「連続する2つの数を、整数nを用いて表す」という、事象に即して解釈したことを数学的に表現する力を見る問題の正答率が芳しくなかったのです。

その結果を受けて「文字式の学習が形式的な処理にとどまっているのではないか」「生徒の数に対する捉えについてもっと丁寧に追って指導することが必要ではないか」と考えました。

そこで本研究授業では、「統合的・発展的な見方、考え方」という数学教育の視点を意識して「文字式を読む」授業、つまり「文字式の構造を理解し、目的に応じて変形し、解釈する授業」の実現をめざしました。

[発表ノート]の「アレイ図」で考え、文字式と量の理解をつなぐ

生徒たちは、「偶数って何?」と問えば「2n」、「2n+1って何?」と問えば「奇数」と答えられます。しかし、「2nの次の偶数は?」と問うと「4n」と間違えることがあります。文字式の理解が、表面上の理解にとどまっている様子が伺えます。

そこで、導入ではまず課題「2n+3を奇数と読むためにはどのように考えたらいい?」を記した[発表ノート]を配付図1。「1つ余る」という観点で統合的に考えられるかを見ました。生徒たちは、アレイ図を操作して図1のように表現したり、「2n+3」を「2n+(2+1)」に変形したりして、数であることを表せていました。途中で、教員機の[画面一覧]機能で生徒の[発表ノート]を一覧で表示し、その画面を電子黒板に投影させました。

アレイ図を使い、実際の量と文字の理解をつなげる
図1アレイ図を使い、実際の量と文字の理解をつなげる

これにより、分からない生徒は友達の考えをヒントにして考えられるようにしました。教員が「これがヒントだ」と言わなくても、生徒たちは必要に応じて画面を確認して「そういうことか」と納得している様子でした写真1。[画面一覧]に映された友達の[発表ノート]を見て疑問に感じたことがあれば、その生徒の席まで行って質問することもあります。

電子黒板に投影された[画面一覧]を参照してヒントを得る
写真1電子黒板に投影された[画面一覧]を参照してヒントを得る

なお、生徒たちに配付した[発表ノート]には、学習課題だけを記載しました。アレイ図を貼りつけた[発表ノート]を配付することもできたのですが、アレイ図を使わなくても言葉や式で「2n+3が奇数」だと説明することは可能です。生徒が柔軟に考えられるよう、あえてシンプルな[発表ノート]にしています。

生徒一人ひとりの理解度やペースで学習課題に向き合えるように

そもそも、「なぜ中学校1年でアレイ図?」と思われるかもしれません。確かに文字式を用いて説明する学習は中学校2年から始まり、小学校の教科書では、おはじきやアレイ図を使って量的な理解を得ながら学びます。中学校では、文字式の形式的な処理により学習することが多いです。このため、生徒によっては実際の量と概念の理解、例えば「2n」という記号との結びつきが弱いまま学習が進んでしまうのです。これが数学の苦手意識につながっているのではないかと考えています。

本時では、[発表ノート]のアレイ図などを使うことで、生徒一人ひとりが自分のペースで考え、量と式の操作の理解を深められました。小学校と中学校の学びを橋渡しするような取り組みにできたと考えています。

挑戦した計算の結果を[気づきメモ]で共有し、「いいね」を送り合う

「2n+3」が奇数であることを[発表ノート]で考えた後、目的を持って式変形をするという発展的な内容に入っていきます。例えば「4n+4」を「4(n+1)」とくくることで、4の倍数として表せます。ところが、「6n+9」は2つの項をくくることができません。そこで「じゃあ何かの倍数と見えるようにするには?」と生徒たちに投げかけると、生徒は「3(2n+3)に変形すれば、3の倍数として見られる」ことに気づきます。

そこまで理解したところで「連続する奇数の和は2の倍数になったけれど、偶数の和はどうだろうか?」「連続する3つの奇数ではなく、5つの場合の和はどうだろうか?」などと生徒に問いかけて、本時のもう一つの学習課題「連続する○つの△数の和について考えよう!」を提示しました。

そして「計算してみたい問題に取り組み、その結果を[気づきメモ]で共有しよう」と生徒に伝えると、それぞれが考えた奇数や偶数の和の計算に取り組み始めました。ここで計算結果を[気づきメモ]で発信しやすいよう、生徒たちには「連続する_つの_数の和は_の倍数になる。式で表すと___」という解答例を示しています。

[気づきメモ]には、どんどん計算結果が入力されていきます。友達が自分と同じ計算をしていて、先に[気づきメモ]に発信されているのを見て「先を越された!」と悔しがる生徒や、「あの子が連続する3つの奇数で計算するなら、私は5つの奇数でやってみよう!」とより難しい問題に意欲的に取り組む様子が見られました。

授業者として強く意図しているわけではありませんが、[気づきメモ]で生徒が思考を共有することで、相互に刺激し合い、学習に対する意欲が高まるような効果はあると感じます。友達の気づきを見て刺激を受け、友達から「いいね」を送られて認められた気持ちになる。こうした行為が繰り返されることで、学びに向かう姿勢が自然に生まれているように思います。

[気づきメモ]上の思考の共有から、生徒同士の対話へ
▼ [気づきメモ]上の思考の共有から、生徒同士の対話へ

共有された計算結果を[発表ノート]で整理し、全体で検討へ

生徒たちが[気づきメモ]に書き込んだ後、教員機でいくつかをピックアップして[発表ノート]にコピー。その[発表ノート]を電子黒板に映し出して、「どんなことがいえるか」を全体で考えました図2。「(2n+1)+(2n+3)=4(n+1) 連続する2つの奇数の和は4の倍数になる」を取り上げ、一見4(n+1)だから4の倍数に見えるが、2(2n+2)に変形できるため、2の倍数と捉えられること。さらに、連続する3つの奇数の和が3の倍数であることや、生徒の「(2n+1)+(2n+3)+(2n+5)+(2n+7)=8n+16=4(2n+4) 連続する4つの奇数の和は4の倍数になる」という気づきを取り上げ、目的に応じた変形や規則性についても話し合いました。たくさんの気づき、つまり計算式から統合的に思考する様子が見受けられました。

[気づきメモ]に投稿された生徒の計算結果を[発表ノート]にコピーし、電子黒板でまとめをしていく。
図2[気づきメモ]に投稿された生徒の計算結果を[発表ノート]にコピーし、電子黒板でまとめをしていく。生徒の端末にも[画面転送]することで、板書時間の短縮に

授業後、生徒の振り返りを見ると

  • 「バラバラな数が1つの式やルールのもとにあると気づいてキレイだと思った」
  • 「少し考えてみるだけで、いつもと違ったことが見えてきて面白いと思った。『どうしてこうなるのだろう』という視点が大事だと分かった」

と文字式に対する理解が深まっている様子が見受けられました。また、

  • 「[気づきメモ]でリアルタイムに友達の考えが送られて来て良かった。いろいろな人の考えが見られた」
  • 「[気づきメモ]を使うと、自分が分からないところが分かるようになって楽しい」

といったように、学び方に関する振り返りもありました。意図していた学習成果を得られたと考えています。

任意のタイミングで[発表ノート]を回収、
見取りと授業改善に生かす

授業中に生徒が作成した[発表ノート]は、授業後に[回収]機能で集めて、チェックすることが多いです。提出させるよりも、回収する機会の方が多いと思います。

なぜ回収する機会が多いかというと、それぞれ目的に応じて使い分けをしているからです。例えば、生徒が自分の考えをしっかりとまとめる「レポート形式の課題」であれば、生徒たちに提出させます。診断的な評価をするためです。しかし、本時のようなアレイ図で考えた[発表ノート]は、あくまで思考の過程であり、ある意味「筆算に使った紙」と同じような類いのものです。診断的な評価をするわけではないので、提出を求めず、教員の必要に応じて回収、閲覧しています。

回収した[発表ノート]を見ると、授業中に見取れなかった生徒一人ひとりの様子を把握できます。「この子はこういう考えをしていたのだな」「この考えは拾いきれなかったな」といった気づきが得られ、授業改善に役立てられます。教員の任意のタイミングで、手軽に回収して確認できるので、生徒の学びを見取る機会が格段に増えたと思います。

『SKYMENU Cloud』には、配付した課題を生徒が提出するというアナログな動作をデジタルで再現することもできますし、わざわざ提出させなくても手軽に回収することもできます。どちらの方法も用意されているのが良い点だと思います。

「気づき」の共有から問いが生まれ、追究していく数学の授業に

『SKYMENU Cloud』を、生徒が自分の考えや思考を表現し、共有するツールとして、これからもうまく活用したいと考えています。特に[気づきメモ]には、授業改善の可能性を感じています。別の学級で同じ授業をした際に、1時間じっくりと時間をかけて[気づきメモ]で計算結果を共有し、生徒たちと考えたことがありました。そのとき「連続する5つの整数なら5の倍数になるのに、連続する6つの整数だと12の倍数になって一致しない」「でも12の倍数は、どちらも6でくくれば6の倍数になるよ」というように生徒から気づきが生まれて、話し合いが進み、統合的に読み解くところまでたどりつくことができました。そのときの「見たいように式を見ればいいんだ」という生徒のつぶやきが深く印象に残っています。

また、[気づきメモ]は文字だけでなく、写真や動画も簡単に共有できます。別の単元で「75°を作図してみよう」という課題に取り組んだ際、生徒に見つけた解き方を[カメラ]で撮影させ、[気づきメモ]で共有したことがありました図3。すると、「私はこの方法でやったよ」「これはどうやったの?」と、生徒が相互に刺激し合いながら学習が進んでいったのです。生徒たちからどんどん考えが出てきて、中には私も思いつかないような方法で作図をしている生徒もいました。[気づきメモ]を使うことで、誰かの気づきを基に、新たな気づきが得られる場面が生まれていたのです。

別の単元で作図した内容を[カメラ]で撮影。[気づきメモ]で共有した
図3別の単元で作図した内容を[カメラ]で撮影。[気づきメモ]で共有した

こうしたことから、本時や作図の単元のような「答えに行き着くプロセスが複数あるような課題」と[気づきメモ]は相性が良いと感じ、授業で活用しています。今後も授業にうまく取り入れることで、私がめざす「生徒自身から問いが生まれ、追究していくような数学の授業」の実現に少しでも近づけたいと考えています。

(2025年2月取材 / 2025年7月掲載)