実践レポート
小学校5年 算数

自分なりの方法で見つけよう!
複雑な立体の体積の求め方 友達の考えを参照し、対話を通じて理解を深める

神奈川県鎌倉市立西鎌倉小学校の原 駿介教諭は、『SKYMENU Cloud』などのICTの活用とグループでの対話を組み合わせ、児童が自分の考えを共有し合い、友達の意見を参考にしながら学びを進めるスタイルで授業を展開。友達に認められる経験を通じて、自己肯定感が高まり学力向上の効果も表れています。算数の授業を取材するとともに、お話を伺いました。

原 駿介

神奈川県鎌倉市立西鎌倉小学校 教諭

グループの対話とICT活用を絡め、一人ひとりが充実した授業に

本校は、鎌倉市の南西部に位置する、児童数727名、教員数70名の学校です。学校目標には「西鎌(にしかま)」の語呂合わせで、「にこやかでさわやかな子」「しんせつで思いやりのある子」「考える力をみがく子」「まじめで強くたくましい子」の4つを掲げています。

私は、本校のICT担当も務めており、ICT機器の運用管理をはじめ、『SKYMENU Cloud』などのICTを活用した授業の推進も行っています。これまでも個人で考えたことを[発表ノート]にまとめさせ、それを電子黒板に投影して全体で共有。私がまとめた上で、練習問題に取り組ませるというスタイルで実践していました。

しかし、日常的にICTを活用しているものの、学習活動が一斉に進むため、算数に苦手意識のある児童は十分に理解できていないまま授業が進んでしまったり、逆に算数が得意な児童や塾で勉強をしているような児童は、問題が簡単すぎて授業に満足できなかったりする様子が見受けられました。また、5年生にもなると、自分の考えを持っていても、友達の前で伝えるのは難しくなってきます。そのため、どうしても理解が速く、物おじしない子が中心になって授業が進む傾向がありました。

「本当に分かっているのかな」「子どもたちの表情があまり良くなかったかな」とモヤモヤする気持ちをずっと抱えて授業をしていました。

そうしたときに、同僚の先生が行うグループでの話し合いを重視した授業を参観し、児童がいきいきと活動している様子を目の当たりにしました。そこで2024年11月の研究授業を機に、グループで考えを共有して学び合う学習活動と『SKYMENU Cloud』などのICT活用を絡めた実践を進めています。

実践

直方体・立方体の体積

本時のねらい

直方体や立方体ではない形の体積を求められる

学習活動とSKYMENU Cloudの活用場面
導入
  • 1直方体・立方体の面積の求める公式を想起する。
  • 2[発表ノート]で本時の課題を[一斉配付]する。
直方体でも立方体でもない形の体積はどう求めたらいいだろう。
展開
  • 3[ポジショニング]で学習の理解度を把握する。自分の現在地を視覚的に把握させる。
  • 4[発表ノート]やブロック、プリント、方眼紙などを自由に使い、個人で考える。
  • 5[ライブ公開提出箱]に提出する。提出されたものは自由に見てもよいと声掛けをする。
  • 6[発表ノート]を使い、グループで考えを共有する。
  • 7グループ活動を終え、改めて[ポジショニング]で学習の理解度を把握する。
    つまずいている児童へサポートを行う。
まとめ
  • 8[発表ノート]でまとめの問題を[一斉配付]し、取り組む
  • 9[気づきメモ]に本時の振り返りを書く。

本時の学習課題を[発表ノート]に貼り付け一斉配付

本単元は、基準となる単位を選び、それを基にして直方体や立方体の体積を求めることで体積の概念を理解し、体積を測定する能力を伸ばすこと、そして体積に対する量感を豊かにする学習です。児童はこれまで、ブロックを積んで個数を数えることから始め、体積を求める公式を理解し、その公式を活用して問題を解いてきました。本時では、その知識を使って、変わった形の体積を求めることに挑戦しました。

授業の導入では、まず既習事項である直方体や立方体の体積の求め方を振り返りました。そして、本時の学習課題となる図形を貼り付けた[発表ノート]を一斉配付。

次に、本時の課題「直方体でも立方体でもない形の体積はどう求めたらいいだろう」を全体で確認しました。児童は、いつものように[発表ノート]に学習の目標を入力しています。

そこから「本時の学習の流れ」を電子黒板に提示して、児童と共有。学習に見通しをもたせて、個人思考の時間に向かいました。

[ポジショニング]で自分の理解度を可視化し、自己認識する

いよいよ個人思考の時間ですが、取り組ませる前に、[ポジショニング]機能で、本時の学習課題について解き方が「分かった」「分からない」の2択で児童に問いました図1。これは、児童が現在地、つまり課題に対してどの程度理解しているかを自己認識するために行いました。また、「分からない」と答えた児童を私が確認するための意図もありました。教員用端末では各マーカに対応する児童の名前が表示させられるので、机間指導の際に参考にすることができるのです。

1回目の[ポジショニング]。課題の解き方が「分かった」か「分からない」かを問うた
図11回目の[ポジショニング]。課題の解き方が「分かった」か「分からない」かを問うた

そして、以下の内容を板書し「解き方は全部で5つあるから探してごらん」と児童に伝えました。

見つけた解き方の数

今回の課題は、基本的には3種類の解き方があるのですが、あえて5つと提示しました。これにより算数が得意な児童や、すでに塾などで勉強をしている児童も、探究心をもち、友達と競い合って学びに向かえるようにしています。学習内容や児童の実態によって、学習課題が適切かどうかは変わりますから、いつも悩まされる部分です。

まずは5分間の個人思考、[ライブ公開提出箱]で友達の考えを参照

個人思考の取り組み方は自由です。[発表ノート]以外に、ブロックやプリント、方眼紙などの教材を用意しておき、児童が自由に考え方や表現方法を選べるようにしています。[発表ノート]で色などを工夫しながら考えて計算する子、プリントに考えを書きこむ子、ブロックや方眼紙で立体を作成して自分の考えを確かめる子など、取り組み方はさまざまです。

5分ほど経過し、個人思考がある程度進んだところで[発表ノート]を[ライブ公開提出箱]に提出してもらいました。[ライブ公開提出箱]は、友達が編集中の[発表ノート]をいつでも参照できる機能です。[ライブ公開提出箱]への提出が始まると、分からない児童や行き詰まっている児童は友達のノートを手掛かりにして進めていきます。一方で、すでに解き方が1つ以上分かっている児童は、友達のノートを参考にして2つ目、3つ目、と解答を考えていきます。自分とは異なる友達の考えを参考にすることで、児童の思考は止まることなく進んでいました図2

[発表ノート][ライブ公開提出箱]
図2

個人思考が終わってから[ライブ公開提出箱]を共有させたのは、「分からない」と回答した児童や苦手意識のある児童にも思考してほしいからです。私も個人思考の時間は、基本的に児童の学習を見守るようにしています。児童には「答えられなくても考えた時間は無駄じゃない」と常に伝えているので、集中して取り組んでくれています。

[発表ノート]を示しながらグループの友達に解き方を説明

[ライブ公開提出箱]でさらに考えを深めたら、いよいよグループでの対話で自分の考えを共有します。ここでは、図3のようなスライドを提示し、相手が説明しているときにきちんと目を向けて、耳を傾けているか、一つの課題について協働的に話し合えているかなどを確認しながら進めていきます。

「話し合う目的」を子どもと共有してグループ活動へ
図3「話し合う目的」を子どもと共有してグループ活動へ

考えを共有する際には、タブレット端末の画面をお互いに見せ合うグループもあれば、[グループワーク]機能を活用するグループもありました。[グループワーク]はいつでも自由に使ってよいと伝えており、子どもたちは使い慣れています。話し合ったことをメモしたいときに、「じゃあ1番のグループに入って」などと声を掛けながら自由に活用していました。

こうしてグループで話し合った後には、再度[ポジショニング]を実施し、学習の理解度を問いました。2回目の[ポジショニング]は、解き方が「分からない」と回答した子をチェックする目的と、グループ活動で友達と関わって学びが深まったことを実感してほしいという想いで行っています図4

2回目の[ポジショニング]の結果。友達と関わって学びが深まったと回答する児童が増えた
図42回目の[ポジショニング]の結果。友達と関わって学びが深まったと回答する児童が増えた

[発表ノート]でまとめの問題を解き、[気づきメモ]で振り返る

[ポジショニング]の後は、まとめの問題を解きます。[発表ノート]に4種類の問題を貼り付けて一斉配付しました。うち1つは教科書にも載っている問題です。本時では、その問題が解けていれば十分というもの。残りの3つは早く解き終わった児童が取り組めるように少し難しい問題にしました。

授業の最後は[気づきメモ]を使った振り返りです。ただ入力するだけでなく、友達の振り返りを見ながら入力していきます。[気づきメモ]には、「○○さんの考えが参考になった」「今度はもっと分かりやすく説明できるように努力したい」といった感想が多く見られ、子どもたちの自己有用感の育成にもつながっていると感じました。

友達に認められた経験が自己肯定感を高め、学びに向かう力に

グループ活動を中心にした授業スタイルに変えたことで、学力的にも大きな変化が見られました。例えば、算数のテストで以前は20点~30点くらいだった子が90点を取れるようになったり、解答欄を空白で返すことが多い子が、たくさん埋めて返してくれたりするように。グループ活動で周りの子が自分の考えを認めてくれるという経験を通じて、自己肯定感が高まり、それが学びに向かう力になり、学力向上にもつながったのだと感じています。

本時のグループ活動でも、友達と共有して新たな考えを見つけたり、解き方が分からない子に教えてあげたりする姿が多く見られました。また、子どもたちはやる気に満ちていて、友達と「解き方いくつ考えた?」と競い合って考えている様子も見られ、とても良い関係で学習に向かえています。算数のグループ活動で得た自信がプラスに影響しているのか、児童によってはほかの教科でも点数の伸びが見られています。

対話の土台は児童同士の信頼関係

グループ活動を取り入れた当初から、本時のようにうまくいったわけではありません。相手にうまく説明できていない場面も見られました。そこで、論理的に説明できている子や、うまくまとめている子のノートを取り上げて価値付け。さらに「相手に伝わるだろうか」と声をかけ、相手を意識したまとめができるように指導してきました。今では、どの児童も本当に分かりやすく[発表ノート]をまとめてくれます。

また、グループでの対話の土台となったのが、1学期から注力してきた学級経営でした。対話を成立させるには、児童同士がお互いに世間話ができる程度に関係性が構築されていることが必要です。そのため3日に1回席替えを行ったり、掃除当番や給食当番でも仲の良い子たちをあえて離してグループを組ませたりしています。給食の時間では、少人数ではなく横長の2列で区切り、大人数で食べるなど、さまざまな手立てを講じてきました。

その甲斐があってか、2学期以降は関係性が深まり、席が近い子と気軽に話し合う様子が見られるようになりました。誰が隣に来ても相談できるようになり、協力して解決する癖がついてきました。11月の授業改善以降は、お互いに認め合う経験がたくさんできたことで、さらに信頼関係の構築が進んでいると感じています。

これからのAI時代を生きる子どもたちには、考える力だけでなく、他者を尊重し、他者と協力して物事を達成するような力が求められます。学校の授業を通じて、みんなで学ぶことの価値や意義を実感してほしいですし、仲間と協働できる思いやりをもった人間に育ってほしいと思っています。

(2025年2月取材 / 2025年7月掲載)