実践レポート
小学校5年 理科 児童が学び方を「自己選択」「自己決定」

学習計画を立て、個別や協働で実験
電磁石の性質に迫る

福岡県朝倉郡筑前町立三輪小学校は、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実をめざし、授業研究に取り組まれています。児童が、学習計画を立て、学び方や学ぶ相手を「自己選択」「自己決定」して進める学習を展開されている、同校の井上 倫子 教諭の実践を取材するとともに、その成果や課題を伺いました。(2025年1月取材)

井上 倫子

福岡県朝倉郡筑前町立三輪小学校 教諭

「誰と」「何を」「どのように」
学び方を児童が選び、決める

本校は、全校児童743名、教員57名が在籍する、本町では最も大きな規模の学校です。「豊かな未来を作り出す子どもの育成」という学校教育目標の下、授業改善の取り組みを進めています。

2024年6月の研究授業において本町のICT活用教育アドバイザーである山本 朋弘中村学園大学教授から「『誰と』『何を』『どのように』を、児童が自己選択、自己決定する学習からスタートするとよい」とアドバイスをいただきました。それを受けて、先行実践を書籍で調査したり、先進地域への視察をしたりして、校内で協議。児童が学習内容を基に学習計画を立てて見通しをもち、自己選択、自己決定をしながら学び、自己を振り返りながら進めていく学習を「トライアルMIWA」と称して、2024年9月から先行的に取り組みをスタートさせています。

児童が自己選択、自己決定しやすい学習環境を整える

今回ご紹介する実践「電磁石の性質」の単元は、これまでの授業展開であれば「電磁石の性質」で3時間と決め、先生が必要な実験の器具を準備して、児童が班に分かれて実験。

そして、次は「電磁石の極」という題材で2時間、というように学習する内容を教員が区切って進めていました。今回の「トライアルMIWA」の授業では、こちらで学習内容や時間を細かく区切らず、単元の導入(1時)と知識の定着(9、10時)を除く、2~8時は、児童が自ら計画を立てて学習を進めます。児童が自己選択、自己決定をしやすいように、図1のような教材や学習環境を準備しました。

図1本単元における主な学習ツール

単元を通じて児童が学びを進めるためには、導入や振り返りが重要です。例えば導入については、第1時では、クイズアプリで既習事項を確認した後、「Canva」で作成したストーリー仕立てのスライド教材を提示しました。「磁力を強くするためにはどうしたらいいのか?」「どうしたら磁力は強くなるのか?」といった疑問を生じさせ、これからの学習への見通しをもたせています。

第2時からは、児童が計画を立てて進めますが、本単元においては、学習理解の観点からある程度の方向性を示しておく必要があると感じ、最初に電磁石の性質に関する実験に取り組むこととし、極や強さの実験はどちらから着手しても構わないことを伝えました。そのため、ほとんどの児童が第4時までに「電磁石の性質」、つまり磁石と電磁石の違いを実験で確認しました。

本時(第5、6時)は、約8分の導入で、ミニ講義やめあてを確認した後、75分間を学びの時間とし、それぞれに学習計画を考えて学習に取り組みます。そして最後の7分間で振り返りを行うという展開で進めました。

授業では、[ポジショニング]を学習進度の共有のために活用しています。前時までの進捗を確認するため、[ポジショニング]のマーカの位置を更新してもらったところ、これから「極」もしくは「強さ」の実験に取り組もうとしている状況がつかめました。その後、ドリルアプリを使い、学級全体で既習事項の理解度を確認。児童の理解があいまいな部分をしっかり押さえました。

[発表ノート]に記録を蓄積し、協働しながら学ぶ75分間

ここから各自で計画を立てて進める75分間の学びの時間がスタート。[発表ノート]を開いて前時までの学習内容を確認する児童、「自ら学びを進めるアプリ」で学習内容や計画を確認し、計画・めあてを立てる児童、教科書を開いて実験方法を確認し始める児童など、その様子はさまざまです。

思い思いに取り組む児童ですが、ほぼすべての児童が、使い慣れた[発表ノート]で学習の記録やまとめをしています。図2のように実験の予想から実験結果を記録、蓄積し、考察を入力。[カメラ]で撮影した実験結果の写真や動画は、[発表ノート]にそのまま貼り付けられるため、根拠を示しながらまとめています。

図2画像を使いながら[発表ノート]に実験結果をまとめる
写真1[グループワーク]でつながり、協働で実験

さらに[グループワーク]を使えば、一緒に実験をしていた児童同士で撮影した写真や動画を簡単に共有できます。この利点を生かして、一人が実験の操作をして、もう一人がその様子を[カメラ]で撮影して記録するといった協働作業が行われていました写真1。なお、教員から学習の記録やまとめに使うツールは特に指定はしていません。ノートでもほかのツールでも自由に選んでよいことにしています。

[ポジショニング][ライブ公開提出箱]が意見交流のきっかけに

授業中は、自分の学習進度を示す[ポジショニング]のマーカの位置を随時移動するように学級全体に声を掛けました。進度を他者と共有することで、自分の学習がみんなと比べて遅いのか早いのか、自分の立ち位置を自覚できるようにしています。全体の状況を見て、「私たちもそろそろ実験しよう」などと、学習計画を調整する姿が見られました。

[ポジショニング]を活用するねらいは、もう一つあります。「誰がどこまで進んでいるのか」を把握できるので、行き詰まった児童が友達に相談や質問に行きやすくなるのです。第5時が終わって休み時間になると、教えてくれそうな友達のところに行って声を掛ける姿が見え始めました。

また、このタイミングで[ライブ公開提出箱]で友達の考えを参照する児童も増えました。自分たちの実験結果が正しいのかどうか、ほかの児童はどうまとめているのかを確認していたようです。

学習した内容をまとめた[発表ノート]は、単元の終末までに提出してもらっています。しかし、[グループワーク]でつながって考えをまとめる際に、友達がまとめたノートをそのままコピーしてしまっては学びとはいえません。そのため、撮影の協力やデータの共有は協力してもよいが、一人ひとりが自分の言葉でまとめることをルールにしています。児童はまとめるのが本当に上手で、提出された[発表ノート]は、一人ひとりの工夫が感じられます。学びの目標に向けてたどった過程を、自分なりに分かりやすくまとめているのです。教員の説明を聞いて、板書を写すだけの学習では、そのようなノートにはなりません。児童があまりに上手にまとめるので、授業中に板書をする時間は以前と比べてずっと少なくなりました。

手軽にグループ設定を変更できる[グループワーク]

授業中は、ペア、グループ、個人など、学び方は自由で、途中で協働の相手を変えてもよいと伝えています。

写真2個人で実験している児童(右)に児童(左)が合流し協働へ

例えば、写真2の右側の児童は第5時の最初から一人で黙々と実験に取り組んでいました。前時は3人グループで取り組んでいたため、その理由を尋ねると、「自分のペースで実験をしたいから」と教えてくれました。その後、第6時も自分の興味、関心に基づいて個人で学びを進めているこの児童のところに、別のグループで実験をしていた左側の児童が合流。2人で実験を始め、[グループワーク]でつながって学習のまとめをしていました。結局2人は第6時の最後まで取り組みました。

左側の児童に、途中でチーム(相手)を変えた理由を尋ねると、「ほかの人と交流をしたら学びが深まると思った」と教えてくれました。この児童はコイルの実験をうまく進められず行き詰まっていたのです。それを解消するために右側の児童のところに向かって行きました。学習を進めるために、児童が「協働を自己決定」する姿を見ることができました。このような学びを支えてくれているのが、協働編集の相手を手軽に設定できる[グループワーク]機能です。

できるまで試行錯誤する、友達に相談して解決する

この数か月の取り組みで、児童の姿が大きく変化しました。理科の授業を楽しみにする児童が増え、実験がうまくいかないとき、できるまで粘り強く試行錯誤をし続けたり、友達のところに自発的に聞きに行ったりして解決を図ろうとする姿があちらこちらで見られます。

以前は実験がうまくいかない場合は、教科書で実験のやり方を確認させて正しい方法でやり直しをさせていました。これでは児童が考える余地があまりないので、課題に感じていましたが、1時間の授業の流れが決まっているため、やむを得ないことでした。

今は児童が学習計画に沿って学習を進めるため、困っている児童がいればまずは見守るようにしています。やがて児童は友達と協働したり、考えを参照したりして解決へと向かっていきます。児童が自分で解決方法を見つけ、「分かった!」「できた!」と喜ぶ様子が、授業研究を推し進める原動力になっています。

単元テストの思考・判断が向上、空白の解答欄も減少

「トライアルMIWA」の取り組みをスタートさせてからまだ半年もたっていませんが、数値的な成果も表れてきています。図3は、単元テストにおける思考・判断に関する点数の向上を示した表です。この授業スタイルで進めた5、6年の3つの単元で特に理科の学習に苦手意識のある一部の児童の点数が大きく上昇していました。また、文章記述の解答欄を空白のまま提出する児童も少なくなりました。子どもたちが自ら考え、判断して学びを進めてきた効果だと考えています。

図3単元テストで理科に苦手意識のある一部の児童の思考、判断に関する点数が向上 ※黄色「 トライアルMIWA」スタイルで実践

一方、知識・技能については現状では大きな変化は表れていません。現在、授業の導入で「ミニ講義」の時間を設けたり、[ポジショニング]やチェック問題、ドリルアプリなどを使ったり、全体で学びを確認する時間を取ったりして、知識を定着させる活動を取り入れて試しているところです。

「トライアルMIWA」を足掛かりに、町全体で授業改善へ

時折、「従来の授業展開に戻した方がいいのかもしれない」と不安を覚えることがあります。しかし、本時も試行錯誤の末、実験に成功したグループが「やった!できた」という歓声を上げていました。子どもには「分かるようになりたい」「できるようになりたい」という欲求があります。そして、教えられるよりも「自分で発見したい」という思いを強くもっています。発見の達成感が、「次もやりたい」という学ぶ意欲につながります。

今後、本校の「トライアルMIWA」の取り組みを足掛かりにして、本町全体で授業改善を進める予定です。その実現に向けてより一層、授業研究に励みたいと思います。

(2025年4月掲載)