
楽しい“ちょうせんの時間”で
主体的に学ぶ児童に
~[発表ノート]で問題を作る、[提出箱]で友達の問題を解く~
高松市立川添小学校の谷口 洸介 教諭は、子どもたちが楽しみながら主体的に学べるような授業づくりに取り組まれています。算数の時間では、『SKYMENU Cloud』の[提出箱]を活用しながら、友達の作った問題を解く“ちょうせんの時間”を設けたことで、子どもたちが前向きな姿勢で取り組む姿が見られるようになりました。その取り組みについてお話を伺いました。(2024年11月取材)

谷口 洸介
高松市立川添小学校 教諭
ICTを使って楽しみながら、主体的に学ぶ授業に
本校は、児童数510名、教員数37名の中規模校です。学校教育目標を「学に励み 心と体を磨き 川添を愛し 未来へ前進する児童の育成」とし、子ども一人ひとりが夢や志を持って主体的に学び、創造性を発揮して自律し輝く教育をめざしています。こうした目標を踏まえた上で、「主体的に学ぶ児童の育成 ~自ら『分かった!』『できた!』と実感できる授業を通して~」という主題を設定して校内研究を進めています。研究は3年目を迎え、現在は自律した学習者の育成をめざし、自ら課題を設定して学習方法を選択したり、意図をもって交流したりできる「子どもが主語になる授業づくり」を研究しているところです。
このほど研究授業で、自律した学習者の育成を見据えた1年生の取り組みを公開しました。子どもたちがICTを使って、自ら課題を設定し、意図や必要感をもって友達と交流し、楽しみながら主体的に学ぶ取り組みについてお話ししたいと思います。
実践
かたちづくり「つくろう! かたちのくに」
本時の目標
三角形や四角形の図形の構成に着目して、影絵の形になるように色板の並べ方を考えたり、自ら色板で影絵を作ったり、友達の作った影絵の形に色板を並べたりする活動を通して、形の特徴を捉えている。
時間 | 学習活動 | |
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導入 |
[発表ノート]でルーブリックを確認する
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展開 | 前半 (導入を含めて10分) |
<新しい知識を発見する時間>
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後半 (30分) |
<ちょうせんの時間>
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終末 | (5分) |
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新たな知識を身につけた後、“ちょうせんの時間”で学び合い、探究する
本時では、身につけさせたい力を「図形を構成する力 面構成、線構成、点構成」「操作(移動)によってできる図形の変化を捉える力 まわす、ずらす、裏返す、移動させるなど」と設定しました。
本実践の特徴は、展開の部分を前後半に分けていることです。前半を、教科書の問題を解いて新しい知識を発見するための時間。後半を、授業の前半やこれまでの学習で獲得してきた既習事項を使って探究する時間とし、一人で考えたり、周りの人と一緒に考えたり、子ども自身が学び方を自由に選択できるようにしました。
冒頭の10分間を導入から展開の前半とし、前時までに子どもが見つけた色板の合わせ方を黒板に掲示。「山」「ダイヤモンド」など、形の構成を確認した上でこれらを活用しながら、教科書にある家や魚の影絵をどのように色板で作るのかクラス全体で考えました。

問題を作ったり、友達の問題を解いたり、挑戦する30分
後半の30分間は、探究を行う“ちょうせんの時間”です。子どもたちは、黒い色板で形を作って、影絵の問題を作成します。作った影絵をタブレット端末で撮影し、[発表ノート]に貼りつけて、[提出箱]に提出。そして、[提出箱]を確認して、友達の影絵の画像を選び、同じ形になるよう色板を並べます。
この“ちょうせんの時間”は、影絵の問題を作ってもいいし、問題を作ることが難しい子は友達の問題を解いてもいい。分からないときは友達と一緒に考えてもいいと伝えています。
そして、友達の問題が解けた子は、色板を持って問題を作った子のところに行きます。友達の前で色板を動かして問題を解くことができれば赤色、形の作り方を説明できれば金色のシールがもらえます。
![[提出箱]から友達が作った問題を選んで挑戦する(左)、友達の前で色板を並べられればシールがもらえる(右)](img/img02.jpg)
先生と一緒に分かるようになる「先生問題」も用意
“ちょうせんの時間”に、「自分で問題を作ってみよう」「友達の問題を解いてみよう」と声を掛けても、算数が得意ではない子は、なかなか手を動かせない場合もあります。そういった子も学びに手が届くように用意しているのが、私が作った「先生問題」です。「先生問題」は、[資料置き場]に置いており、子どもは問題を[資料置き場]から[発表ノート]に貼りつけて取り組みます。
この“ちょうせんの時間”は、「先生問題」を先生と一緒に確実に分かるようになるまで解いたり、新たな問題にどんどん挑戦したり、分かるまで繰り返したくさんの問題を解いたりと、算数が得意な子もそうではない子も、全員が学びに夢中になれる時間をめざしています。
![児童は「先生問題」を[資料置き場]から取り出して取り組んだ](img/img03.jpg)
「友達の問題を解きたい」。
学ぶ意欲が高まり、前向きな姿勢に
これまでの授業は、私が話して板書したことを子どもがノートに取り、隣の子とペア学習をさせるといった展開でした。しかし、これでは与えられた課題を自分事と捉えられず、主体的になれない子もいます。クラスには、さまざまな背景を持った子がおり、誰一人取り残さない学びのためには、授業改善が必要だと強く感じました。
子どもが学習に意欲的になるためには、「分かった!」「できた!」と感じ、学ぶ楽しさを実感できる経験が必要です。そうした経験をつくり出すためには、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が欠かせません。そして、たどりついたのが、本時のような授業展開です。
“ちょうせんの時間”に問題作りを取り入れたのは、子どもが主体的に取り組むために、興味関心を生み出すことができると考えたからです。実際に、「あの子の問題を解きたい」「この問題は面白い」「どうやって形を作ったのか聞いてみたい」など、学ぶ意欲が高まり、前向きな姿勢につながっています。また、子ども自身で問題を選び、友達のところに答え合わせに行くことで、意図や目的のある交流が生まれています。友達と答え合わせをしたり、教え合ったりと、学びが孤立化することもありません。さらに、友達に問題を解いてもらうことが自己肯定感の向上にもつながっています。
授業後、子どもたちから「たくさんシールをもらえた」「問題を解いてもらえてうれしい」という声が聞けるようになり、学ぶ楽しさを感じてくれているのだと実感しています。最初は「先生と一緒に『先生問題』を解く」と言っていた子も、こうした授業を繰り返すなかで、友達の問題を解いたり、自分で問題を作ったりするようになり、変化を感じているところです。
“ちょうせんの時間”を支える[提出箱]。
他者参照が活発に
“ちょうせんの時間”を支えているのが『SKYMENU Cloud』の[提出箱]です。[提出箱]に提出することで、瞬時にクラス全員に問題を共有でき、他者参照が活発になります。
![[提出箱]に子どもたちが作成した問題が集まり、他者参照が活発になる](img/img04.jpg)
この機能を活用したのは、「この問題を解いてみよう」と私が押しつけるのではなく、子どもたち自らが「この問題は面白そうだ」「これなら僕にもできそうだ」と問題を自己選択・自己決定できると思ったからです。そして、それにより子ども同士の自然な学び合いを発生させられると考えました。
問題を書いたノートを友達に見せて解いてもらうという取り組みを行ったこともありましたが、これでは問題を作成した子は、一人ずつしか問題を見せられず、1対1の関わりしか生まれません。[提出箱]を活用することで、提出した問題をクラスの誰でも確認して解くことができ、1対多の関わりを生み出せます。これはICTにしかできないことだと実感しています。
単元の初めにルーブリックを共有し、学習の見通しを持つ
このような授業をする上で、子どもたちと学習目標を共有することを大切にしています。一単元を通じて、ルーブリックを作成し、[発表ノート]に貼りつけて子どもたちに配付しています。これは、見通しや目標を持って学習に取り組むためです。単元の最初の時間にガイダンスを行い、本単元でのゴールや学習の展開、毎時間の評価基準を示した上で、授業を始めています。
併せて
のように毎時間、電子黒板にルーブリックを表示。子どもたちは3段階の評価を確認することで、学習のねらいや身につけさせたい力から外れることなく取り組めていると思います。
本時のルーブリックでは、形の作り方を説明することができていればA評価としています。今回は、児童の発達段階も鑑み、「論理的に」説明することまでは求めていません。例えば、子どもが色板を指さしたり、くるくる回したりしながら「これは、こうだから、こう」という抽象的な説明の仕方をしていたとしても、子どもはきちんと思考しており、本時のルーブリックに基づくとA評価としています。
また、私の学級では、友達に説明する際の話型などはあえて教えていません。話し方のルールを作って型にはめ込んでしまおうとすると、途端にできなくなってしまう子もいるからです。1年生においては、子どもの良さを生かし、自然な姿で取り組ませることで、より主体的に学びに向かうようになると考えています。
日常的に活用する場面をつくれば1年生でも端末を使いこなせる
5月ごろから、さまざまな教科で[資料置き場]にある画像を[発表ノート]に貼りつけるという活用に取り組んできました。また、[発表ノート]は、カメラを起動して撮影すれば画像が自動的にノートに貼りつけられ、[提出箱]への提出もスワイプするだけです。指だけで操作できるので、日常的にこれらの機能を活用する場面を設け、無理なく続けることで、1年生でも十分に使いこなせると感じています。
また、子どもたちが端末活用に慣れるために、10分休みを除いて、端末を休み時間にも使ってよいことにしています。しかしこれには、端末を安心・安全に使えるようなルール作りが欠かせません。私は学期に1回、子どもが端末活用で困っていることを表出する話し合いの場を設けています。子どもと一緒にルール作りをすることで、端末をより良く使うことができ、トラブルは減っていくと考えています。
高学年での自己調整学習を想定し、1年生から少しずつ積み上げを
授業改善によって、子どもたちは学ぶことの楽しさを感じてくれているように思います。もちろん、知識・技能を身につけるための時間も必要なので、毎時間こうした展開で授業が行えるわけはありませんが、単元の中に少しでも取り入れることで、子どもは前向きに学習に向かえるようになるはずです。そして、この取り組みの積み重ねが、いわゆる「単元内自由進度学習」など、高学年でさらに学びを調整する姿につながっていくと思います。
また今回、授業研究に取り組んだことで、得意な子をどのように伸ばしていくかという点でまだまだ検討が必要だと感じました。例えば高学年の自由進度学習では、個別最適な学びの実現に向けて、プログラミング教材を使ったり、教科を越えた探究をしたりすることもあるでしょう。より発展的な学習につながるトピックを準備することが必要です。今後、さらに研究を進めていき、誰一人取り残さない、そして得意な子もさらに発展的・創造的に伸びていくような環境を整えていきたいと思っています。
(2025年3月掲載)