授業でのICT活用

宮城教育大学附属中学校 画面送信で考えを素早く共有し、学び合う

宮城教育大学附属中学校の理科担当 西川 洋平教諭は、2年理科単元「電流の性質とその利用」において、自分たちが計測した実験結果のデータ(測定値)を整理・分析し、規則性を推察する活動を通じて、生徒たちの科学的思考力の育成をねらわれています。
理科室に、『SKYMENU Pro』がインストールされたタブレットPC20台を持ち込み、生徒が実験結果データを整理・分析し、考察した結果をリアルタイムで共有し、考えを深めあった実践をご紹介します。
(「全国生涯学習ネットワークフォーラム2012 ICT分科会」で公開された授業です)

理科室でタブレットPC20台を持ち込み実践。データの整理や話し合いに活用された。

電流・電圧・温度上昇のデータから規則性を導く

理科第1分野「電流の性質とその利用」は、電流と電圧、電流による熱や光の発生、電流と粒子の関係、電流による磁気作用、電流と磁界の相互作用などを学ぶ単元だ。

電流に関する実験を行い、回路を正確に組み立てる技能を高め、電流に関する物理量の測定方法を習熟すること。さらに、物理量の量的な関係について、根拠をもとに、比例関係のような規則性を見いだし、科学的思考力を育むことが単元のねらいだ。

同校2年2組の生徒たちは、これまでに並列や直列回路、オームの法則などについて、実験で得られたデータから分析し、規則性を考えることを繰り返し学習してきている。

前時、西川教諭は電熱線を使って、生徒たちに班でさまざまな電流、電圧の条件で水の温度上昇の値を調べる実験を実施。本時は、実験で得たすべての班のデータを、生徒たちがタブレットPC上で整理・分析し、「電流」「電圧」「温度上昇」の3つの関係性を考察していく授業が展開された。

理科室でタブレットPC20台、無線LAN

全てのタブレットPCは無線LANで接続。教員は電子黒板で「SKYMENU Pro」を操作する。

西川教諭が作成された教材。データを自由に並べ替えられる。授業では、電子黒板と学習者用タブレットPC20台を活用された。電子黒板とすべてのタブレットPCには、ICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』がインストールされており、無線LANで接続。教員は電子黒板から『SKYMENU Pro』で全学習者機を操作できる環境になっている。

授業が始まるとタブレットPCと自作された教材ファイルを使って『「電流」「電圧」「温度上昇」の3つの関係性を導きだそう』と課題を提示された。

生徒たちは、班でそれぞれ男子2人、女子2人のペアに分かれて、1ペア1台でタブレットPCを利用。「電圧が一定のとき」「電流が一定のとき」にどのような規則性を見いだせるのか、データの整理方法から考えながら、ペアで相談して探っていった。

2人ペアになり、タブレットPCでデータを整理・分析ペアでの検討後、再び班に戻るように指示され、それぞれ話し合った内容を班で共有した。生徒たちは、データを整理したタブレットPCの画面を見せ合いながら、導き出した規則性とその根拠について説明し合った。西川教諭は机間指導で各班まわりながら、それぞれの考えに耳を傾けられていた。

マーキングで根拠を示し、わかりやすく伝える生徒

全体で考察したことを共有していく場面では、電圧、電流が一定の場合から見いだせる規則性について、それぞれ生徒を指名され、発表を求められた。

その際、『SKYMENU Pro』の[学習者画面受信]機能で指名した生徒のタブレットPC画面を教室前方の電子黒板に提示。

「電圧が一定のとき」に見いだせる規則性について生徒は「温度上昇と電流は比例すると思います。根拠は、電流が3倍になれば、温度上昇も3倍になっていたためです」と『SKYMENU Pro』の[マーキング]機能を使って、根拠となるデータに印や線を引きながらわかりやすく発表した。

タブレットPCを中心に、顔を寄せ合う生徒

続いて「温度上昇が一定のときはどうだろうか」と問いかけられ、[教員機画面送信]機能で、全学習者機画面に教員機画面を送信された。生徒たちのタブレットPC画面には、温度上昇が一定のデータごとに整理された教材が提示された。

生徒たちは新たに提示された教材を、顔を寄せ合って確認し、再び班で規則性について話し合った。西川教諭は、机間指導で班をまわり、生徒たちの話し合いのフォローに入ったり、話し合いに耳を傾けられた。

そして「面白い考えをしている人がいます」と、生徒を指名され、発表を求められた。

生徒は電子黒板に表示されたデータに印を付けながら、「温度上昇が同じであるとき、電圧と電流の積がすべて同じ数値になる関係性を見つけた」と説明。まわりの生徒たちはうなずきながら発表に耳を傾けていた。

発表を受けて、西川教諭は、予め用意されていた縦軸を温度上昇、横軸を電流と電圧の積とした散布図を電子黒板に提示。「温度上昇」と「電流と電圧の積」には比例の関係があることを視覚的に抑えられ、授業をまとめられた。

「ICT活用なしでは、時間に収まらなかった」

「ICTを活用しなければ、1時間の中で本時の学習内容は収まらなかったのでは」と西川教諭は本時を振り返られる。

実験の授業では、実験結果を共有するだけで時間が掛かってしまう。また、本時のような規則性を考察する場面では、模造紙と付箋を使って生徒たちに整理・分析させる指導方法もあるが、模造紙と付箋では、文字が小さく見えにくい。生徒たちに根拠となる数値を明らかにしながら、わかりやすく説明させることが難しいと感じておられた。

本時は、タブレットPCと『SKYMENU Pro』の[学習者機画面受信]機能や[教員機画面送信]機能を組み合わせることで、各班の考察結果を手間なく、素早く共有できること、さらに電子黒板で根拠となる数値をマーキングしながら説明させられることに着目され、指導計画を練られた。

「タブレットPCで、生徒は何度でも自由に動かし、整理できた。一番の効果は、机間指導をしながら『紹介したいな』と思った班の画面をすぐに提示できること。これはこれまでの授業ではできなかったこと」とICTの活用効果を振り返られる。

生徒の思考を止めないICTは簡単・早い・安定が鍵

考察結果を発表する場面では、生徒たちは[マーキング]機能で根拠となる数値に線を引いたり、囲ったりして、聞き手にわかりやすいように説明していた。シンプルな操作性で生徒も迷いがなく利用できていたと振り返られる。

生徒の画面を電子黒板に写して、素早く考えを発表させる

「教員も生徒にもわかりやすい、シンプルで素早く、確実なシステムが必要。授業で最も大切なのは、生徒たちの思考の流れ。その流れを途絶えさせてはいけない」と強調された。

また、タブレットPCのバッテリーが切れたりしないか、生徒のタブレットPCが急に動かなくなったらどう対応するべきか、など不安を抱えながらでは授業を行いにくい。教員のICT活用に対する不安を払しょくするシステムが必要と訴えられた。

タブレットPCと授業支援で相乗効果を

理科におけるタブレットPCや協働学習、一斉指導を支援するシステムの活用の可能性についてうかがうと、西川教諭は「動画」の活用をあげられる。タブレットPCに内蔵されているカメラで、生徒自身が行った実験の様子を撮影しておけば、振り返って確認したり、実験に失敗した場合は実験手順の誤りに気づける。また、第2分野の地学や微生物などの目に見えない世界、天体などの大きすぎてイメージしにくいものであれば、生徒のタブレットPC画面に一斉に映像を映し出したり、また一斉に教材を配付したりして、個別に確認・視聴させたりするなどの利用も考えられるとのこと。

「タブレットPCは、さまざまな機能が詰まった『ツールBOX』。授業支援の仕組みと組み合わせれば、可能性はさらに広がると思う」と期待を寄せられた。

学校紹介
宮城教育大学付属中学校

宮城教育大学附属中学校

昭和22年開校。創立66年を迎える同校は、「自ら考え行動し、共に学び合い、高め合う生徒」を学校教育目標に掲げられ、生徒同士の意見交流などを通じて、学び合う活動を授業に積極的に取り入れられている。また「創り出す力」「かかわり合う力」をキーワードに、附属校園で連携した研究も取り組まれている。

http://fu-cyuu.miyakyo-u.ac.jp/

(2013年1月掲載)