授業でのICT活用

実践レポート

井戸田 善子 教諭

疑似体験からプロフの危険性を学ぶ

学級活動で携帯電話の情報モラル指導

井戸田 善子(愛知県豊川市立御津中学校 教諭)

豊川市立御津中学校の2年4組担当の井戸田善子教諭(家庭科担当)は、学級活動の時間で携帯電話の疑似体験ツール『SKYMENU Pro 仮想携帯』を利用した情報モラル指導に取り組まれました。生徒1人ひとりがプロフを作成する体験を通じて、インターネット上に情報を公開することの危険性を考え、話し合った実践をご紹介します。
(※本実践は、平成23 年度第43回愛知県学校視聴覚教育研究大会で行われました。)

(2012年4月掲載)

学級活動の時間で『SKYMENU Pro 仮想携帯』を利用して行われた。

携帯電話所有率3割プロフ利用率1割

同校の生徒の携帯電話所有率は約3割。プロフの利用率も1割程度と比較的低い水準にある。しかし、携帯電話を所有していない生徒も、インターネットにつながる家庭のコンピュータや家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機などから電子メールや掲示板、プロフを利用しており、掲示板などに学校や友だちへの不満を書き込んだことから、生徒同士でトラブルが発生するなどの事案も発生している。

2年4組担任の井戸田教諭は、インターネット上での個人情報の記載や自分の発言に対して責任意識を持たせたい、プロフの問題点や対応策をより具体的に考えさせたい、と全2時の単元「危険!プロフの落とし穴」を設定された。

学習指導案

疑似体験でプロフの問題を身近なものに

本単元では、携帯電話をコンピュータ上で疑似体験できるツール『SKYMENU Pro 仮想携帯』の[プロフ体験]機能を活用された。仮想携帯は、生徒1人ひとりに携帯電話のメールの送信・受信、インターネットの閲覧(プロフィールサイトや占いサイト)を実際に近い状況で体験させながら情報モラル指導を行えるツール。[プロフ体験]では、生徒1人ひとりがプロフを作成でき、お互いのプロフを閲覧できる。

第1時では、生徒たちが自分のプロフを作成。本時(第2時)では、作成したプロフを見合い、プロフの作成者を予想することから、プロフから個人が特定されることを知り、そこから個人情報がインターネット上に公開されたときの問題点やその対策について意見交換していく。

これは誰のプロフだろう?

教員機で子どものプロフを確認し「SKYMENU Pro コンピュータ授業支援」の「教員機画面送信」機能で子どもに送信まず、[教員機画面送信]機能で仮想携帯が表示された教員機画面を全学習者機に送信。

「今からみんなのプロフをいくつか見せます。誰のプロフか当ててみましょう」と、生徒が作ったプロフを提示された。

全学習者機画面にプロフ画面が映し出されると、「○○さんだ」などとつぶやきが湧き起こる。理由を尋ねると、「ニックネームや習い事でわかる」「御津中の2年4組と書かれている」などと意見があがる。

さらに、友だちのプロフとリンクを設定できる「ともだちリンク」をたどって生徒のプロフをいくつか紹介。気づいたことを尋ねると「全員御津中だと予想できる」「みんな13 歳~14歳で女の子」など発言があがった。リンクをたどるとさまざまな情報が知られてしまうことを実感させた。

井戸田教諭は、個人が特定されてしまうような情報を「個人情報」ということ。1人のプロフでは個人情報を特定できなくても、複数の友だちやほかの人のプロフの情報を集めると簡単にわかってしまうことをおさえられた。

子どもがプロフに入力した内容は一覧で確認できる

勝手に友達の顔写真をプロフに利用する子も

教員機で子どものプロフを確認し「SKYMENU Pro コンピュータ授業支援」の「教員機画面送信」機能で子どもに送信「プロフが実際にインターネット上で公開されていたら、どのような問題や被害にあうだろうか」と質問すると、「変な人に襲われる」「家に知らない人が来るのでは」と意見があがる。子どもたちは、インターネット上に個人情報を公開することのリスクに気づいてきている。

しかし、クラスの友だちの顔写真を勝手に利用しているプロフなどもあり、井戸田教諭は、簡単に他人になりすませることやプロフを見た人に誤解を与えてしまうことを説明され、プロフの情報が他者によって悪用されてしまう危険性を伝えた。

ゲームサイト、ブログもうまく付き合うことが大事

最後に「被害にあわないためには、どうすればよいのか」と問いかけると「すべて嘘の情報を書けばいい」「情報を一切載せない」といった意見もあがった。井戸田教諭は、「性別や血液型、誕生日を公開することにも問題はあるのだろうか」と情報の出し方についてあらためて問われると「写真はいけないが、血液型や誕生日は大丈夫ではないか」「好きなものや趣味はいい」など、すべての情報を隠す必要はないという意見があがってきた。

「プロフをしないという答えもあります。でも、今はプロフに限らず、インターネットを使わずに生活することは難しいでしょう。掲示板やブログ、ゲームサイトなどにも同じような危険があります。個人が特定できる情報をインターネット上で安易に書かないなど、インターネットを使うメリットとデメリットを良くわきまえた上でうまく付き合うことが大事」と授業をまとめられた。

体験から自覚が芽生える

仮想携帯を利用され、井戸田教諭は「実際の携帯電話に似せて作られており、子どもたちは仮想携帯に興味を示していた。操作も携帯電話に近く、操作説明にほとんど時間がさかれなかった」といわれる。

また、「プロフを知らない子どもはプロフを作ること自体に疑問を持っています。体験を通じてプロフの『楽しさ』とその仕組みの『危うさ』の両方を実感させられました」と仮想携帯の活用効果を感じておられる。

「子どもは正直です。プロフのすべての項目にきっちりと入力する子も数名いました。今後、家庭科の『身近な消費者生活と環境』の単元では、インターネット販売や架空請求のトラブルなどを取り上げ指導する予定です。本時の授業を振り返りながら、個人情報を守ること、安易に信用してはいけないことなど、消費者として情報化社会とうまく付き合っていかなければならないことを指導したい」とお話しいただいた。

「仕組み」の理解から情報モラルの指導を(川本篤史 教諭)

同校で情報モラル指導を推進される川本篤史教諭(技術科担当)に学校 や技術科での取り組みを伺いました。

大人でも気づかないリスクを伝える

同校では、電子メールや掲示版で問題となるようなコミュニケーションや個人情報の流出にかかわるような情報モラルの問題を、道徳や学級活動の時間で指導しておられる。一方、技術科ではさまざまな情報化社会の「仕組み」を教えることを通じた情報モラル指導に取り組まれている。

川本教諭は「『無料』や『フリー』とうたわれているゲームが、なぜ『無料』なのか。大人でも正確に理解できていません。知らない間に大切な情報が盗まれていることもあります。技術家庭科ではその『仕組み』を具体的に教え、その上で消費者として許せる範囲なのかどうかを生徒たち自身に考えさせたい」と「仕組み」の理解からリスクを伝えていく必要性を強調される。

指導に取り掛かりやすいツールを

教員機で子どものプロフを確認し「SKYMENU Pro コンピュータ授業支援」の「教員機画面送信」機能で子どもに送信同校でも携帯電話の情報モラル指導に対する教員の意識は高まってきている。しかし、指導に不安を感じている教員は少なくない。川本教諭はより多くの教員に情報モラル指導を行ってもらうためには『教材やツール自体のわかりやすさ』が大事といわれる。

「最新の仮想携帯の『モデル授業用ツール』は、上から順にボタンを押すだけで授業に必要な操作が行えます。コンピュータの操作が不慣れな先生でも取り組みやすいと感じます。また、プロフの情報を悪用した例として、『恋人募集中』のプロフが生徒1人ひとりに自動的に作られる仕組みなどは、疑似体験ツールならではの要素。プロフは生徒に実感を持たせた指導が難しいので、有効なツールだと感じます」とお話しいただいた。

学校紹介
愛知県豊川市立御津中学校

愛知県豊川市立御津中学校

昭和22年創立。『「自主・友愛・勤労」を校訓とし、知・徳・体の調和のとれた人間形成を図る』を学校教育目標に掲げる。
「思いを伝え、共に学びあう生徒の育成−伝える手段を工夫する指導を通して−」を研究主題とし、「基本的な授業力の向上」「伝える手段の工夫」「ICTを活用した授業」を通じて力の育成に取り組まれている。