授業でのICT活用

実践レポート

芳賀 高洋 教諭

「自主研究」を中心とした統合型教育課程

70時間の「自主研究」活動を支える「情報活用の実践力」を育む

芳賀 高洋(お茶の水女子大学附属中学校 教諭)

お茶の水女子大学附属中学校では、教科やさまざまな経験的学びを活用して、課題を追究し、解決する力を育てていくために、「自主研究」を中心とした教科・総合的な学習の時間の統合型教育課程の開発に取り組まれています。
1学年技術科では「自主研究」に臨むにあたり、その基礎的な力として、自ら課題を設定して課題を探究していくための「課題を決定する力」や、ICTを活用して情報を収集し、まとめ、発信する「情報活用の実践力」の育成をカリキュラムの中に組み込んでいます。
生徒たちが興味、関心のある内容について、ICTを活用して「調べて」「まとめて」「伝える」一連の活動に取り組まれた、同校技術科担当の芳賀高洋教諭の授業をご紹介します。 ご使用ソフトウェア:SKYMENU Pro

(2011年8月掲載)

酒匂中学校授業風景

学習経験を活かした「自主研究」

文部科学省では、教育実践の中から提起される諸課題や、学校教育に対する多様な要請に対応した新しい教育課程(カリキュラム)や指導方法を開発するため、学習指導要領等の国の基準によらない教育課程の編成・実施を認める「研究開発学校制度」を定めている。

同校は、平成21年度「生徒の主体的な研究活動に培う実践的な言語力・思考力・論理力を活用し、課題の追究・解決の力を育てる『自主研究』を中心とした教科・総合の統合型教育課程の研究開発」の指定を受けて、教科やさまざまな経験的学びを活用して、課題の追究・解決の力を育てていくために「自主研究」を中心とした教科・総合的な学習の時間の統合型教育課程の開発に取り組まれている。具体的には次の3点。

  1. 道徳・特別活動・総合的な学習の時間を統合して「総合カリキュラム(これらを統合した時間の呼称)」を置き、「総合」領域とする。
  2. 「教科」と「総合」の2領域をつないで生徒個々の関心に基づく横断的・総合的な課題を、教科知をはじめ様々な場での学習経験の中で培った力を活用して追究していく「自主研究」の時間を第1学年~第3学年に設定する。自主研究は、年間70時間とする。 
  3. 異年齢(異学年)の生徒による多様な学習集団を構成したり、多様な学習機会を設定したりするとともに、専門が異なる教師同士の合同授業や横断的・総合的な内容に関わる学習指導を行う。

「調べて」「まとめて」「伝える」力が基本

生徒たちが「自主研究」に臨むにあたり、1学年の技術科では、ICTなどを利用して、情報を「調べて」「まとめて」「伝える」という一連の活動をカリキュラムの中に取り込まれている。

技術科を指導される芳賀教諭は、これまで、バイトやビットなどの情報の量の学習をはじめ、コンピュータに関する基礎的な内容の学習に取り組み、インターネット検索の基礎的な技術なども指導しておられる。

本時は、生徒が興味、関心を持っていることを、インターネットを利用して調べ、プレゼンテーションソフトウェアでまとめて、発表する活動に取り組まれた。

「1年生の生徒たちの情報活用のスキルは1人ひとり異なっています。今後、生徒たちが『自主研究』に取り組むためにも、まずは自分の興味がある課題を設定し、インターネットを利用して情報を検索し、入手した情報を選び、コンピュータを利用してまとめて、発表するという一連の流れを全員に体験させたいと考えました」と本時のねらいを話される。

生徒の画面を教員機で受信し、一斉提示

授業の導入では、これまで生徒たちが作成したプレゼン資料で発表する時間であることを話され、本時の学習活動を確認。そして、生徒たち自ら作成した発表資料のファイルを学習者機の画面上で開くように指示された。

発表の評価シートも配付され、発表を聞く生徒たちに「内容のおもしろさ」「プレゼンテーションの出来栄え」「発表の仕方」の3つの観点で評価するように指示された。

次に、発表する生徒を指名。教員機でICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』の「コンピュータ教室授業支援」の操作パネルを操作し、発表する生徒の学習者機を選択。[学習者機画面受信]機能で、教員機(電子情報ボード)に発表者の画面を受信した。そして、[学習者機画面送信]機能で発表者の画面を全学習者機画面に一斉に送信した。

各学習者機画面には、『全画面表示』で発表者の画面が提示され、発表する生徒は、教員機(電子情報ボード)を操作して、自らプレゼン資料のスライドを操作しながら発表していった。

1人ひとりの発表を終えるごとに、芳賀教諭は、「今の発表は1分30秒でした」と「発表にかかった時間」を伝えられた。スライドを操作しながら発表する経験をしていない生徒もいることから「発表時間の感覚」を持たせることをねらわれている。

また、工夫が凝らされているプレゼン資料があれば、取り上げて紹介され、わかりやすい資料のポイントを解説された。

電子情報ボードで『SKYMENU Pro』を操作!

科学的な理解だけでなく、情報活用の実践力の育成も

同校では、帰国子女の生徒の割合が多く、芳賀教諭は、日本の生徒と比較して、「調べて」「まとめて」「伝える」という「情報活用の実践力」が非常に高いことに注目されている。また、小、中、高等学校で連携して情報教育に取り組めていない日本の教育課程に課題があると指摘される。

「日本では、小学校においては、情報教育を担う教科が定められていません。また、中学校の技術科では、情報通信技術に関する指導内容はあるものの、ハードウェアなどコンピュータ科学に関する学習内容が多く、指導が『情報の科学的な理解』に偏りがちです。小学校から高等学校までの情報教育の指導内容に連続性もありません。特に中学校技術科の指導においては、もちろん「情報の科学的な理解」も必要ですが、「調べて」「まとめて」「伝える」という「情報活用の実践力」を育てていくことも必要と考えています。本時以降、本校の1学年は、アンケートを利用した情報収集方法なども学んでいきます。生徒たちが、今後取り組む「自主研究」に必要な「課題を設定する力」や「情報活用の実践力」を、技術科でも身につけさせたい」。

OSのように授業に溶け込む『SKYMENU Pro』

『SKYMENU Pro』は、「ユーザ情報管理」でユーザ情報を登録すると「コンピュータ教室授業支援」の操作パネルに表示される各学習者機画面にユーザ名が表示されるなど、生徒1人ひとりの状況がつかみやすくなる。

芳賀教諭は、全生徒のユーザ情報を登録し、生徒1人ひとりにユーザIDとパスワードを付与する「個人認証」の環境を構築されている。

「画面上にユーザ名が表示されることで、子どもたちの進捗状況がわかりやすく、特に本時のように発表する場面では、発表者の画面を探しやすく授業の進行がスムーズ」といわれる。

また、「個人フォルダ」も利用されている。「ユーザ情報管理」では、ユーザ情報を登録すると、ユーザごとに「個人フォルダ」や、所属する「学年」や「組」単位のグループで利用できる「グループ共有フォルダ」が自動的に作成される。

「『グループ共有フォルダ』は、生徒たちに課題や作品を提出させる際に便利に利用しています。『SKYMENU Pro』はOSのように授業に溶け込んでいます」とお話しいただいた。

パスワードを自分自身で変更させる

パスワード変更画面芳賀教諭は、1学年のはじめに、生徒たちに必ずユーザIDやパスワードに関する指導をされている。

指導は1時間を使って行われる。予め登録しておいた、「生徒番号のユーザID」と「共通パスワード」で学習者機にログオンさせ、その後「ユーザ情報管理」の[パスワード変更]機能を利用して、全ての学習者機画面に「パスワード変更画面」を表示。生徒1人ひとりにパスワードの変更をさせておられる。一方、芳賀教諭は、教員機から生徒たちが変更したパスワードを確認。生徒に試しに付けさせたパスワードを確認しながら、安全なパスワードの付け方を指導された。

「与えられたパスワードはなかなか憶えられません。また、パスワードの大切さやその付け方のポイントは言葉で説明しただけではなかなか理解されません。生徒自身にパスワードを考えさせ、変更させることで忘れにくくなりますし、パスワード設定のポイントが理解できます。既に生徒たちは、家庭で携帯電話を持ち、ユーザIDやパスワードを利用しています。技術科の時間で情報モラルの指導を行うことに対して、さまざまな意見もありますが、学校教育の中でしっかりと指導しておきたいですね」。

学校紹介
お茶の水女子大学附属中学校

お茶の水女子大学附属中学校

今年度で創立64年を迎える同校。「自主自律の精神をもち、広い視野に立って行動する生徒を育成する」を教育目標に掲げる。
お茶の水女子大学附属の保育園・幼稚園、小学校、中学校、高等学校や大学の研究者と連携して、子どもたちに「変化する社会で主体的に生きるための本物の力」を育てる教育内容・方法や教育課程の研究やさまざまな教育活動に取り組まれています。

http://www.ft.ocha.ac.jp/