授業でのICT活用

仙台市立吉成小学校

「ICT夢コンテスト」で文部科学大臣賞を受賞
仙台市立吉成小学校の総合的な学習の時間の取り組み“復興応援プロジェクト「元気のでるマガジンを作ろう」”が、このほど一般財団法人 コンピュータ教育推進センター主催「ICT夢コンテスト」において文部科学大臣賞を受賞されました。同校の実践について、菊地 博 校長、菅原 亮一 教諭にお話を伺うとともに、当時同校の教頭として活動にかかわられた菅原 弘一 文部科学省生涯学習政策局情報教育課専門職に同校の情報教育の取り組みを解説いただきました。
菊地博校長 菅原亮一教諭 菅原弘一専門職
復興応援マガジン「HAPPY LIFE」

子どもたちの心に復興の『種』をまきたい

本校は仙台市内でも山間部に位置し、津波の影響もなく、震災の影響も少なかった地域です。避難所開設期間も短く、4月から授業に取り組めるなど「被災」「復興」に関して子どもたちの意識は薄いと感じていました。

このままでは、子どもたちに震災があった事実が残るだけで、これからの復興、再生に向けて大切なことに気付かないまま風化してしまうのではないか。そのような危惧がありました。そこで震災の年には、本校独自の取り組みとして、沿岸部に位置し、図書室が丸ごと流されるという大きな被害にあった仙台市内の小学校に図書とともにNPO団体の方々の力も借りながら可動型の本棚を送る活動を展開しました。昨年度は、物を送る類の支援ではなく、津波の被害に遭われた方々と子どもたちが触れ合うような体験を通じて「復興への思い」を持たせたいと当時本校で教頭をされていた菅原専門職と相談していました。

校長先生のお話を受けて、子どもたちが体感したことを「マガジン」のような形にまとめ、情報発信していくような活動をしてみてはどうかと提案しました。6年生を担当していた菅原教諭等に、検討をお願いしたのがこの学習の始まりでした。

実践は、主に6年の総合的な学習の時間70時間を使って取り組みました。実践のねらいを①復興を支援する外部機関や団体と協同し、子どもが被災者の立場になって考え、できることを実践することで復興への思いと社会参画への意識を高める。②体験活動で得られた情報など、課題解決のために必要な情報を主体的に収集、判断し、相手の状況や気持ちを踏まえて、適切に発信する能力を育てる、と定めました。

仮設住宅訪問、復興願うストラップ作りを体験

まず、震災から1年後の町の変化や復興に向けて、どのように取り組んでいるのか。子どもたちにそれぞれ新聞をスクラップして調べさせました。身近な所は何もなかったかのように落ち着いているけれども、家がない、瓦礫の撤去が進んでいない、自分の学校で勉強ができない子どもがいることを知りました。

さらに、仙台市復興事業局の方をお招きして、仙台市の復興の状況や仮設住宅の問題について話していただきました。「孤立」や「コミュニティの希薄化」が一番の問題であると話していただき「仮設住宅で生活する人たちは『情報』に関心があり、雑誌もその1つ。子どもの立場から復興を考える雑誌を作ってほしい」と投げかけていただきました。ほかにも、「河北新報社」の震災当時の編集局長や「南蒲生浄化センター」の下水道アドバイザーの方をゲストに迎え、お話を聞き、子どもの思いを耕していきました。さらに仮設住宅敷地内の「集会所」を実際に訪問し、皆さんから話を聞いたり、復興をモチーフにしたストラップ作りを体験したりしました。

この実践は「マガジンを作る」というゴールは明確になっていましたが、それまでの道のりは、教師にも見えておらず、子どもと共に手探りで進めました。教師の柔軟な思考や行動力なしには実現できなかったと思います。

「自分たちに何ができるのか」という問いかけを大切にしましたね。そのため、子どもたちがすぐに手に入れられる情報の収集から始め、聞き取りや現地訪問などを行い、大きな被害に遭った方々の心情に触れさせながら、徐々に子どもたちの復興への思いを膨らませていく、そんな活動の工夫を行いました。教師にとっては、子どもたちの思いや状況の変化に応じて、授業のデザインに修正をかけながら前に進んでいく力が必要となったのです。

大切なことは『元気を届ける』こと

仮設住宅の訪問後、早速マガジンの原稿作りを試みました。しかし、子どもたちはインタビューをまとめただけの表面的な原稿しか書けませんでした。マガジン作りの目的は「みんなが元気になること」なのに、まったくそれに適っていなかったのです。農業復興の願いを込めて作成した「野菜のデザイン画」子どもたちとどうすれば良いか話し合い、実際に被災現場に足を踏み入れてみることにしました。使えなくなった学校や基礎しかなくなってしまった住居、瓦礫の山、これらを新聞や画像ではなく実際に見ました。潮を被った農地にも立ち、潮を被った泥の臭いを感じました。農地再生に全力を注ぐ農家の方に出会い、潮を被った地に野菜が育つまでの苦労や野菜作りに懸ける思いを聞きました。震災で損傷した歴史的な登り窯の修復作業に参加したり、農業復興を願い「野菜のデザイン画」にも挑戦したりしました。

せっかく現地取材をしても、見聞きした情報を事実として並べて満足していたのが、1回目の取材後の子どもたちの様子でした。集めた情報を一旦整理させてみて、外部の支援者の視点も生かしながら、自分たちの足りない部分に気付かせて、もう一度現地に立たせたことは、とても意味のあることだと思います。そこまでやって情報活用の力が「実践力」として身に付いていくんでしょうね。

紙ベースでレイアウトを検討、コンピュータでまとめる

マガジンの編集は、それぞれが手書きで書いた原稿に写真を切り貼りしながらページのレイアウトを考えることから始めました。ある程度出来上がったところで、各グループの紙面を見合い、意見交換をしました。良い点やさらに工夫が必要なところはどこか、元気が出る内容か、と真剣に考え、工夫を重ねていきました。紙ベースの検討を終え、コンピュータ教室での編集作業に入ってからは、2人1組でMicrosoft Wordを使って原稿をまとめさせました。原稿を練り上げる場面では、ICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』で、みんなが考えた原稿を次々に見せて意見を集約しました。1つひとつの画面をスムーズに映し出せるので、意見の共有に役立ちました。また、コンピュータ上ですぐに修正できるので、仕上がり具合を『SKYMENU Pro』で即座に共有して確認できます。

可視化しながら効率的に制作できるのは、デジタルならではのメリットでした。

ページ数が限られているマガジン作りに、学年3クラスで取り組むということは、必然的に掲載する情報の取捨選択を迫られることになります。載せたいものは全部載せられるわけではなく、どんな情報を載せるのか頭を働かせ、折り合いをつけていかなければなりません。そのために、お互いの情報をスムーズに共有できる環境を作っておくということは大事ですね。

また、コンピュータでの表現から、あえて手書きを生かした表現に変化するということも起こりました。「コンピュータできれいに整えたら伝わる」ということではなく、「あえて手書きにした方が伝わるのではないか」と考えたんです。そういった表現方法に対するセンスのようなものが、この学習活動全体を通して磨かれていったように思います。

コンピュータ教室で集中して編集、発表や話し合いでタブレット端末

仮設住宅を訪問した際は、大学の研究協力として貸与されているタブレット端末やデジカメを活用しました。子どもたちが撮影した動画や写真は、振り返りにとても役立ち、マガジンを読む相手の気持ちを考えさせられました。マガジンを仮設住宅の皆さんに配布する前には、校内で完成報告会を行いました。その会では、1年間の総合での学びも伝えることになり、タブレット端末を活用して発表も行いました。

印刷業者さんに入稿するための編集作業など、細かい作業に集中するときは、コンピュータ教室の方がやりやすいですね。レイアウトの検討や記事の取捨選択、取材内容の振り返りや発表の準備など、グループやクラス全体での話し合い活動を行うときにはタブレット端末が便利なようでした。可搬型の端末のメリットは、学習のねらいに最適な場所で活動できることにあります。こうした取り組みを支えるには、コンピュータ教室と普通教室などで使うタブレット端末との間で、データの受け渡しが簡単に行えるような環境も必要ですね。

復興応援プロジェクトを振り返って

遠藤弘之教諭マガジン作りは、子どもにとって初めての取り組み。プロの方に構成の仕方、記事の書き方を教えてもらいました。実践を終えて、子どもたちは震災復興を自分のことのように感じ「自分たちに何ができるか、何を伝えたいか」と真剣に考える姿が見られました。

廣島幸夫教諭被災地の様子を見て、聞いて、実際に体験したことに大きな意味がありました。完成したマガジンを仮設住宅の方に届けた子どもから「元気を届けるつもりが、元気を逆にもらった」という感想を聞くことができました。子どもの心を耕すことにつながりました。

教師に高度な処理や授業デザインが求められる

教師に授業を構想する力がないとタブレット端末などのICTは授業で生きないと思います。この場面ではICT、この場面では紙が必要、個人で思考させる場面、学級で共有して考える場面と授業を組み立てる力がさらに求められますね。

そのとおりですね。タブレット端末などの最新のICT環境が整えば子どもたちの学びの質が高まるというものでもありません。ICTを活用する以前からやっておくべきことがあると考えています。

タブレット端末には、さまざまな可能性があり、使い方次第で授業の幅が格段に広がると思います。一方で、教師には、これまで以上に授業をデザインする力が求められるようになるということも理解しておく必要があると思います。

復興応援ブログを開設、子どもの手で情報発信

今年度は、昨年度の取り組みを継承し復興応援マガジン「ハートフルデイズ」をまとめました。2年目ということで、見た目も内容もバージョンアップしています。今回は、マガジンの発行だけでなく、広く外部の方に取り組みを知っていただけるように「復興応援ブログ」も開設しました。投稿は子どもが行うこととし、1人3~4回の記事投稿をさせました。今年度は「仙台白菜」の栽培に挑戦し、収穫祭を開いたのですが、ブログを閲覧された仮設住宅の方々がわざわざ収穫祭に来てくださいました。子どもたちは、自分たちが発信した情報に反応が得られたことで、情報発信の意義を理解できたと思います。

子どもたちが情報発信の手応えを実感しているというのは、とてもすばらしいことです。情報活用を下支えする大きな力になります。

また、復興応援ブログのように、子どもの手による学校からの充実した情報発信は、外部とのつながりを強くしていく上でも大きな価値があります。

たくさんの人との出会いや体験の積み重ねがなければ、みんなを元気にするマガジンを作れなかったと思います。時間、予算も必要な活動ですが、一生懸命に取り組んでいれば、必ず支援の手を差し伸べていただけるということも大いに学びました。今後もできる限り継続し、被災地に元気を届けていきたいと思います。

(2014年4月掲載)