授業でのICT活用

佐賀県佐賀市立若楠小学校

平成22年度総務省予算による「地域雇用創造ICT絆プロジェクト」の教育情報化事業は、ICT環境の構築による教育分野の情報化を推進することなどを目的に、全国で46校が採択されています。採択校である佐賀市立若楠小学校は、4学年以上の全児童・全学級担任に1人1台のタブレット端末と、4学年以上の全教室に電子黒板、無線LAN環境が整備されています。
グループで1台のタブレット端末を利用して、協働や言語活動を重視して実践された、同校5年1組担任 内田 明 教諭の授業をご紹介します。(2013年3月12日取材)

タブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Future School』とグループで1台のタブレット端末を使って実践された

情報化の光と影を学ぶ

5年社会「情報を生かすわたしたち」は、情報化の進展が国民の生活に大きな影響を及ぼしていることを知るとともに、情報を有効に活用する大切さを学ばせられる単元だ。

携帯電話やスマートフォンなど情報通信端末の発達や、コンビニエンスストアのチケットサービスや商品管理の仕組みなど、私たちの身の回りではさまざまに情報化、ネットワーク化が進み、便利で快適な生活を支えている。このような情報化の「光」の部分を子どもたちに伝えるとともに、グラフなどの資料から、情報化の進展に伴いさまざまな問題や事件、犯罪が発生していることを読み取らせ、情報化の「影」の部分にも目を向けさせてきた。

内田教諭は、これまでの学習を踏まえて、4月から初めてタブレット端末を使う新4年生のために、情報を上手に活用するためのポイントをまとめた掲示物などを作成することを単元のゴールに設定。前時、「デジタル万引き」「携帯電話番号占い」「携帯電話の紛失」「なりすまし」「ネットいじめ」などのテーマの中から興味のあることを調べさせ、ワークシートにまとめさせている。

本時は、同じテーマの子ども同士がグループになり、「どうすれば情報を上手に活用できるのか」を話し合い、新4年生にもわかるようにまとめて、発表する学習を展開された。

本時の展開

グループ1台でコミュニケーションが活発に

授業が始まると内田教諭は、各自で調べたことをグループで話し合い、資料にまとめて発表しようと本時の課題を確認。また、グループで1台だけタブレット端末を使い、発表資料は[もぞうし(グループワーク)]機能でまとめるように指示された。

子どもたちは、3~4人でグループになり、各テーマにおけるトラブル事例やトラブルに巻き込まれないための対策方法を話し合い、整理していく。

最初にお互いのワークシートの内容を突き合わせてから[もぞうし]機能でまとめるグループや、早々にタブレット端末を開き、意見を募りながらまとめていくグループ、インターネット検索でさらに情報を集めるグループなど、進め方はさまざまだ。共通しているのは、どのグループも1台のタブレット端末を囲んでコミュニケーションが活発に交わされている点だ。

内田教諭は、子どもたちが議論しながら情報を整理しまとめる場面において、グループ1台の端末活用が有効であると考えておられる。

「ICTのよさは、試行錯誤がしやすいこと。『何を話しても大丈夫』という学級経営を基盤にして、そこにグループに1台のタブレット端末があることで協働のシーンが生まれ、子どもたち同士のコミュニケーションが活発になる。学習指導要領で謳う『言語活動』を充実させ、思考力、表現力を育みたい」。

学習者機画面を電子黒板で提示し、発表

新4年生にわかるようにまとめよう

発表者の画面を電子黒板に映し出し発表各グループでまとめた資料を発表する場面では、内田教諭が『SKYMENU Future School』の[学習者機画面受信]機能で、発表者のタブレット端末画面を電子黒板に映し出された。発表者はグループのタブレット端末を教卓に置き、学級の全員に向かって資料を提示しながら発表した。

「ネットいじめ」を調べたグループが、「ネットいじめとは、メールや掲示板で他人の悪口を書くこと。いじめられた人は、学校に行けなくなり、自殺してしまうこともある。家の人に相談して、一緒に学校に相談すること。決して泣き寝入りしないことが大切」と発表すると、「『泣き寝入り』という言葉が4年生には難しい」「ネット上に書き込むと多くの人に広がってしまう。言いたいことは直接いうことも加えてはどうか」と積極的に意見が挙がった。

SKYMENUは、授業で欠かせないツール

本時のように学習者機画面を電子黒板や全学習者機画面に提示することは、日々の授業の中で頻繁に行われているという。また、[学習者機画面一覧表示]機能で、子どもたちの進捗を確認したり、[教材配付]機能で教材ファイルを一斉に配付したりする使い方もよく行われているとのこと。

「SKYMENUは、授業を効率的に進める上で欠かせないツール。子どもたち1人ひとりに付与される「個人フォルダ」も便利。教員は、子どもたちの「個人フォルダ」を閲覧できるので、職員室で作品の評価を付ける際にも役立っている」。

メディアリテラシーを身につけて情報を生かそう

ノートに自分の言葉でまとめさせる本時のまとめでは、「情報」「活用」「判断」「生かす」の4つのキーワードで情報を上手に活用するためのポイントを考え、ノートにまとめるように指示された。子どもたちは、「情報を判断するメディアリテラシーを身に付けて情報を生かして活用する」など、自分なりの考えをまとめた。

内田教諭は「情報を上手に活用するには、情報を正しく判断するメディアリテラシー(情報活用能力)を持ち、行動に生かそう」と板書にまとめ、授業を終えられた。

次時以降では、本時でまとめた内容に加えてタブレット端末の充電の仕方などの基本的な使い方や、調べ学習をするときの注意点など、自分たちがこれまで学んだことをわかりやすくまとめていく予定だ。

ミニ研修、スキルタイムでICTリテラシーを磨く

4学年以上に端末1人1台を配付

同校では、平成22年に4学年以上の全児童・全学級担任に1人1台のタブレット端末と、4学年以上の全教室に電子黒板を整備。校内各所に無線LAN のアクセスポイントが設置され、校内どこからでもタブレット端末を利用できる環境を構築された。タブレット端末にはタブレット対応授業支援ソフトウェア「SKYMENU Future School」が導入されており、授業の支援からデータの管理、タブレット端末の運用管理に活用されている。

タブレット端末には、デジタル教科書(指導者用・学習者用)やドリルソフトウェアなども導入されており、授業、休み時間問わず必要に応じて利用されている。

SKYMENUで約250台を運用管理

15分研修を積み重ね、スキルアップ

まずは教員がICT機器を使いこなす

導入当初は全教職員が手探りの状態だった。まずは教員が基本的な操作を習得し、使いこなせることが第一と考えられ、毎週金曜日の放課後に15分程度の研修「ICTミニ研修」を継続的に実施された。夏期研修で集中的に行うよりも、小さな研修を積み重ねることで確実にスキルを身につけられると考えられた。全員で使い方を勉強し、『どの場面でICTを使えば効果があるのか』『この授業なら導入やまとめで使うと効果的ではないか』と話し合い、ICTの活用アイデアや授業デザインを練り合う日々が続いたという。

「最初の1年はとにかく授業でタブレット端末を使った。当初は『ICTありき』になっていた授業もあったが、成功・失敗例を教員間で共有し、実践を積み重ねることで、授業のねらいに迫るためにより効果的なICT活用、授業デザインを練り合えるようになった」。

「スキルタイム」で子どもの操作スキルを磨く

教員だけでなく、子どもたちにタブレット端末の操作を身につけさせる時間も十分にとられた。朝の時間を使ってタブレット端末の簡単な操作を学ぶ「スキルタイム」を設定し、少しずつ身につけさせていった。

今、子どもたちにもっとも利用されているのは、タブレット端末内蔵のカメラだ。理科の観察や実験で写真を撮影して記録することや、写生の時間で、タブレット端末で対象を撮影しておき、教室に帰ってから写真で色を確認しながら塗るなど活用場面はさまざま。また、発表練習で、自分の発表姿を動画で撮影しておき、後で発表の仕方を客観的に振り返って改善するといった使い方もされているとのこと。

黒板、ノート、辞書の効果を再認識

タブレット端末や電子黒板を使えば、動画や写真などを即座に、鮮やかに提示できる。子どもたちのタブレット端末画面に教員機画面を送信すれば、細部までしっかりと確認させられる。これらは、デジタルならではのメリットだ。

紙の辞書で調べる子どもしかし、内田教諭は、タブレット端末や電子黒板を活用した実践を重ねるにつれ、子どもたちに授業の流れ、思考の流れを残せる黒板、いつでも気軽に手に取れ、学びの履歴を記録できるノート、インターネットの辞書検索とは異なり副次的に関連した言葉を学べる紙の辞書、これらアナログの教材・教具のよさ、メリットを改めて認識されたという。

「紙の辞書は、子どもの語彙を豊かにし、言語活動の素地を育てる教材として優れている。私たち教員は、各メディアの特徴を踏まえ、子どもに提示する『情報』をより吟味して授業をデザインしなければなりません。子どもたちには、道具、手段の一つとして、最適なICT機器を選択でき、適切に利用できる力を身につけさせたい」。

現実的かつ効果的な指導スタイルの追及を

同校では、これまで2年間の取り組みから得られたノウハウを基に、同校独自の情報活用や情報モラル指導のカリキュラムを検討されている。

「時代の進展にも合わせ、これからタブレット端末活用を始める他校においても、参考にしていただけるような内容にしていきたい。モデルとなるような、現実的かつ効果的な授業のスタイルを探りたい」。

学校紹介
佐賀県佐賀市立若楠小学校

佐賀県佐賀市立若楠小学校

昭和53年に開校、創立35年を迎える同校。佐賀市の中心部に位置し、校舎を囲むように流れる小川には、メダカやタナゴなどの在来魚が泳ぎ、豊かな自然に恵まれている。「夢に向かって自分の学びを追求し、たくましく豊かに伸びる若楠っ子の育成」を教育目標に掲げ、「辞書引き」や「対話活動」、「協働学習」などを取り入れられ、すべての学習の基礎である「ことば」の力を重点的に育成されている。

(2013年6月掲載)