授業でのICT活用

大阪府河内長野市立美加の台小学校 協同作業でつくるふるさと新聞

河内長野市では、総合的な学習の時間において同市独自の学習「ふるさと学」に取り組まれています。河内長野市立美加の台小学校6年1組担任の田中 誠治先生は、フィールドワークを重視して学習を展開。子どもたちが個々に調べて、まとめた新聞を『SKYMENU Pro』の[グループワーク]機能を利用して、グループ4人で1つの新聞にまとめあげた実践をご紹介します。

田中先生とICT視線インの中野さんが連携して実践

平成12年から支援員を配置、PC教室活用を促進

同市では、ICT活用教育支援ソフトウェア『SKYMENU Pro』を 『Ver.4』から利用されている。平成24年度で3回目の機器更新を迎え、同校のコンピュータ教室には『SKYMENUPro Ver.14』が導入された。学習者機は、デスクトップ型のコンピュータを40台設置。コンピュータ教室の前方には、教員機1台とそれに接続された電子黒板が設置され、電子黒板から『SKYMENU Pro』を操作できる環境だ。

平成12年度からICT支援員が採用されており、現在5名の支援員で市内学校園22校を巡回し、教員のICT活用をサポートされている。教員とICT支援員の連携が進んでおり、コンピュータ教室も積極的に活用されている。

郷土 河内長野を学ぶ「ふるさと学」

子どもたちに郷土史を学ばせる「ふるさと学」の授業は、平成23年度から総合的な学習の時間の中で取り組まれている。同市では、オリジナルの教材「かわちながの物語」を作成・配付されており、小学校5年~中学1年までの3年間で同市の歴史やゆかりの人物のエピソードを系統立てて学ぶこととなっている。

今年度、田中先生は「かわちながの物語」を入り口に、同市ゆかりの歴史的人物「楠木正成」にスポットを当てて学習活動を展開。フィールドワークを重視され、これまでに「楠木正成」とかかわりが深いとされる地域の寺社「観心寺」を訪れて、観察させたり、住職の話を聞かせたりしている(全6時間)。

本時は第5時。前時までに、子どもたちは、「観心寺」で見聞きしたことや調べたことを一人ひとり手書きの新聞にまとめている。

共有ワークスペースに同時に文字や図形を書き込める[グループワーク機能]本時は、コンピュータ上の共有ワークスペース(もぞうし)に、複数の学習者機から同時に文字や図形を書き込め、協力して1つの新聞を作成できる[グループワーク]機能を利用し、一人ひとりの考えを持ち寄らせ、班で1つの新聞にまとめあげる活動に取り組まれた。

班メンバーで新聞を同時編集

授業は、田中先生と同市のICT支援員の中野さんが連携して実践された。

中野さんは、まず本時の活動内容を確認されると、子どもたちを教室前方に集め、新聞づくりに利用する[グループワーク]機能の使い方を説明され、テキストの入力方法や文字サイズ変更など基本的な操作方法を確認された。

続いて、各班の班長から学習者機に着席するように指示され、各班長に[グループワーク]機能のグループ番号のボタンから自分の班の番号を選択させた。中野さんは班ごとに「共有ワークスペース」ができたことを確認すると、班長以外の子どもたちも学習者機に着席させ、自分の班のグループ番号を選択するように指示された。これで同じ番号を選択した学習者同士は共有ワークスペース上で同時編集できるようになる。

子どもたちは、前時に班メンバーで新聞制作のそれぞれの担当部分を決めており、早速、各々自身の担当部分の編集を進めていった。

「タイトルの色は違う色に変えたほうがいいかな」「見出しはどこに置こうかな」と近くの班員や友だちに相談しながら編集していった。

[グループワーク]機能で編集する子ども田中先生と中野さんは、机間指導でアドバイスに回られ、子どもたちがソフトウェアの使い方を迷っている姿をみとめると、全員の手を止めるように指示。[教員機画面送信]機能ですべての学習者機画面に教員機画面を提示され、[マーキング]機能で画面上のボタンなどをマーキングしながら、わかりやすく操作方法を説明された。

子どもたちは、見出しのフォントや文字のサイズ、色などをさまざまに工夫し、授業時間いっぱいまで夢中になって編集していた。

一人ひとりが学習に参加できる

これまで田中先生は、「新聞づくり」による学習のまとめが、子どもたちの理解度にばらつきを生じさせてしまうと感じておられた。例えば、子ども個々に新聞をまとめさせると、個々で理解した範囲でのまとめとなってしまう。一方でグループでの新聞のまとめは、グループの一部の子どもが主導権をとり、その子どもに頼ってまとめてしまう傾向があり、こちらもばらつきが生じてしまう。

新聞づくりを通じて、うまく既習事項を定着させる方法を模索しておられたところ、ICT支援員の中野さんから[グループワーク]機能を紹介された。

田中先生は[グループワーク]機能に2つのメリットを感じたといわれる。1つは、全員が同時に書き込めるため、全員が責任を持ち、学習に参加できること。もう1つは、アナログの新聞作りでは、班全員が同時に書き込めず、時間的な無駄が発生してしまうが、[グループワーク]機能を使えば、新聞まとめ用のレイアウト(下地)に班全員が同時に書き込めるため、時間を有効に使えることだ。

協同作業で言語活動の充実を

実践後、田中先生に感想を伺うと「子どもたちにそれぞれ自分の担当部分があることで、全員が責任を持ち、手が空くことなく編集作業に取り組めていた。一人ひとりが学習に参加できていた」と話される。期待どおりの効果があったようだ。

本時、子どもたちは、初めての複数の人がコンピュータ上で同時編集することを体験したが、ソフトウェアの操作にもすぐに慣れ、夢中になって新聞制作に取り組んでいた。次時では、それぞれの班の制作状況を確認したり、それぞれの良いところなどを共有したりして、さらなる工夫を促していくとのこと。

今後は、新聞紙面を一から企画させ、フィールドワークで調べ、本時のようにグループで協力して1つの新聞にまとめるといった発展的な活動を考えておられる。

「相手に何かを伝えるためには、何を、どのように調べればよいのか。どのようなレイアウトで、どのような写真を載せればよりわかりやすいのか、などと子どもたち同士でコミュニケーションを取らせ、言語活動を充実させながら指導したい。子ども一人ひとりが学習に参加し、友だちと協力して1つのものを作り上げる学習活動を通じて、思考力や判断力、表現力を育みたい」と[グループワーク]機能を活用した授業に期待を寄せられた。

先生方と連携し、効果的なICT活用をサポート

中野友紀子ICT支援員同市では、ICT支援員が先生方のコンピュータ教室での授業を積極的に支援されている。本時も、中野さんが、ソフトウェアの操作方法を紹介されたり、子どもたちにアドバイスして回られたりと、授業を全面的に支援されている。

中野さんは、本時を振り返り「お互いの進捗具合や入力内容を確認しながら編集できるため、ほかの班員の記事と自分の記事の内容が重複していないか確かめ、柔軟に変更しながら記事をまとめていた」と[グループワーク]機能の活用効果を話される。

机間指導に回られる中野さんまた、1つの画面を複数人で共有して作業をする体験は、直接顔の見えないインターネット上でのコミュニケーションと似ており、情報モラル指導の効果もあるといわれる。

「子どもたちは、画面の向こうの相手を意識し、時にはゆずり合いながら作業を進めていました。本時の活動を通じて『相手を思いやること』を強く意識させられたのではないでしょうか。従来の文書作成ソフトウェアを利用した制作活動では体験させられなかった」。

さらに、高学年であっても、ある程度の入力スキルが身についていなければ制作物にまとめられない。協同作業の実施にはICT活用の基礎的なスキルの定着が不可欠と強調される。

「基礎的なICT活用スキルを、低学年から一つひとつ積み上げてこそ、本時のような活動を取り入れられる。6年間を通じて、子どもたちが段階的に力を身につけさせられるように、先生方と連携を密にしてICT活用授業を支援していきたい」。

河内長野市 教育メディアセンターの機能を活かす

支援員のPC教室常駐で、活用度向上

本市では、ICT機能の活用や情報モラル等の研修を支援するため、教育メディアセンターを設置しています。また当センターの機能を充実するため、平成12年度からICT支援員を継続的に配置しています。平成24年度は、市内22の学校園を5名のICT支援員が巡回しており、コンピュータ教室の授業をはじめ、教員のICT活用授業をサポートしています。

コンピュータ教室での授業は、準備に非常に多くの時間が割かれます。また、先生方はICTの専門家ではありません。授業中に起こりえるさまざまなトラブルに対する不安もあります。ICT支援員がコンピュータ教室にいることで、先生方は安心して授業に臨めています。

人的支援の充実がICT活用促進の鍵

図書館司書のように、ICT支援員がコンピュータ教室に常駐していることが理想と考えています。教員の指導のねらいを理解し、適切なICT活用の提案や、教員に代わって授業に必要なICT機器の操作を行うことで、先生方に、より授業に集中していただくことを期待しています。教員の負担軽減ではなく、あくまでICTを有効に活用して授業の質的な向上を図ることを通じて、子どもの学びを豊かにすることが目的であることを忘れてはなりません。

しかし、多くのICT支援員は、図書館司書とは異なり、国の緊急雇用対策などによって一時的に採用された方々です。人材が頻繁に入れ替わるため、授業支援のためのノウハウが蓄積されにくい状況や、ICT支援員の方々が長期的な視野で自己研鑽を重ね、授業の質的な向上につなげることが難しい状況があります。

これまで教育の情報化の施策は、ハード整備が先行し、人材面の整備が進んでいませんでした。人的支援の充実が、今後のICT活用教育を進展させ、子どもの学びをより豊かにするために欠かせないことと考えています。

教員に欠かせない資質 「ICT活用指導力」

ICT活用指導力は、今や教員に欠かせない資質の一つです。教員はICT機器の基本的な操作はもちろん、ICTを授業に取り入れることで、どのような活動が行え、どのような力を身につけさせられるのか、理解していなければなりません。もちろん授業をサポートするICT支援員の方々との連携も必要です。

近年ではスマートフォンやタブレット端末など、日進月歩で技術革新が進んでいます。学習指導要領にも記されていますが、子どもたちが情報化社会を生きていくために必要な操作や情報モラルについて、日々の学習活動の中で指導していかなければなりません。ICT活用指導力とともに、今、すべての教員に情報教育、情報モラル教育の視点が求められています。

学校紹介

大阪府河内長野市立美加の台小学校

河内長野市南東部に位置し、大阪府と奈良県境の金剛山・葛城山を望む閑静な住宅地の中にある同校。今年度で創立26年目を迎える。「地域で子どもを守り、地域で子どもを育てる」を合い言葉にさまざまな取り組みを進められている。また、地域コミュニティーに支えられた豊かな教育活動を展開するために、学校運営協議会とともに、「心豊かにたくましくきらり輝く美加の台っ子」の育成に努められている。

(2013年4月掲載)