授業でのICT活用

実践レポート

山本直樹 教諭

疑似体験ツールで「いじめメール」を体験

山本 直樹(京都市立桂徳小学校 教諭)

携帯電話に関する情報モラル指導は、子ども1人ひとりの利用経験が異なるため、共通の課題意識を持たせにくく、指導の難しさが指摘されています。コンピュータ上で子どもたち1人ひとりに携帯電話を体験させられる『SKYMENU Pro 仮想携帯』を利用して、「ネットいじめ」をテーマに情報モラル指導を行われた、京都市立桂徳小学校の山本直樹教諭の実践をご紹介します。 ご使用ソフトウェア:SKYMENU Pro

(2011年2月取材)

コンピュータ教室で行われた授業の様子

いじめメールの深刻さを伝える

「うわ、変なメールがきた」。

コンピュータ上で子どもたち1人ひとりに仮想的に携帯電話を持たせられる『SKYMENU Pro仮想携帯』を利用して、「いじめメール」の深刻さを体験する4年1組の子どもたち。本時は、総合的な学習の時間の中で取り組まれた携帯電話に関わる情報モラルの授業。

本時の板書の内容授業を担当された山本直樹教諭は、本時のねらいについて「携帯電話は大変便利な道具。しかし、便利さゆえに危険な部分が多くあります。本時では子どもたちが知らない『ネットいじめ』などのデメリットの部分について学ばせたい。いじめメールを実際に受け取る体験を通じてその深刻さやひどさを感じさせたい」といわれる。

携帯電話の光と影

「携帯電話はどんなことができますか?」山本教諭は、携帯電話のメリットについて子どもたちに質問された。電話やメール、ゲーム、音楽、写真、インターネットなどの発言があがる。子どもたちは携帯電話の機能をよく理解している。

そして、逆に携帯電話のデメリットを質問すると「通話をしすぎてしまう」「いたずら電話がかかってくる」「意地悪なメールがくる」などの発言があがった。

さらに、山本教諭は、近年発生した携帯電話やインターネットによるいじめの事例とその被害について紹介された。それを聞いた子どもたちからはどよめきが起こった。また、「学校裏サイト」がいじめなどの温床になっていることも説明され、子どもたちに「ネットいじめ」の実態をつかませた。

うわ、何このメール…ひどい!

いじめメールの内容に驚く次に、学習者機に表示されている「仮想携帯」に注目するように指示。「みんなのコンピュータ画面に映っている携帯電話のメールを読んで、どんな気持ちになるか考えてください」と話され、予め用意しておいた、友だちを傷つけるような内容が書かれた「いじめメール」を教員機から送信された。

子どもたちは「仮想携帯」に興味津々。やがて本物の携帯電話のように「メール受信中」の画面が表示され、「新着メール1件」と表示される。教室中に「メールが来た!」と興奮した声が広がる。

しかし、受信したメールを開いた途端、子どもたちの声のトーンが変わった。「うわ、なにこれ、ひどい!」「意味分かんないよ」と口々につぶやき、その声にはメールに対する嫌悪感や憤りが混じった。

そして、ワークシートを配付され、メールを受信して思ったこと、感じたことを記述するように指示された。感想の発表では「メールを送ってきた人を憎いと思った」「嫌な気持ちになった」「メールを送った人を許さない」と発言があり、子どもたちの不快感があらわになった。

そして、携帯電話が「ネットいじめ」を酷くしている要因の一つであることを伝え、その理由について話し合わせた。山本教諭は子どもたちの意見をまとめ、「少ない文字数」「匿名性」「情報の広まりやすさ」「いつでも情報を書き込めること」の4つの携帯電話の特徴が原因であることを確認された。

携帯電話と上手に向き合うには

携帯電話の利用で守ってほしいことをまとめるここで、「ネットいじめ」の被害者の子どもに関するビデオ教材を提示された。ビデオは、友だち同士の間で携帯電話を通じて主人公の悪口がやりとりされ、誰も信じられなくなり、やがては不登校や引きこもりになってしまったという内容。山本教諭は「私たちは携帯電話とうまく付き合っていかなければなりません。このような『ネットいじめ』を無くすためには、どうすればいいでしょうか?」と問いかけた。

子どもたちからは「人が傷つくようなメールを送らない」「メールでは伝わりにくいことは話し合ったほうがいい」といった意見があがった。最後に「携帯電話は大変便利な道具。でも使い方を一歩間違えると大変なことになります。将来、携帯電話を持って使う場合は次のルールを守ってほしいと思います」と話され、4つのルールを確かめて授業を終えられた。

携帯電話の危険性、正しく伝えなければいけない

「カッターやはさみなどの文房具は、使い方によって便利な道具にも危険な道具にもなります。携帯電話もそれと同じで、正しい使い方をきちんと子どもたちに教える必要がある。しかし、その指導を受けずに携帯電話を利用している子どもが多く見られます」と山本教諭はいわれる。

そして、その一方で、携帯電話に関する情報モラル指導は、子ども1人ひとりの利用経験が異なるため、共通の課題意識を持たせにくく、学校教育の中でも指導が難しいことも指摘される。

「実際に子どもに携帯電話を1人1台持たせて指導することが理想です。しかし学校のICT環境では実現は難しい。

『SKYMENU Pro仮想携帯』はコンピュータ上で子どもたちに携帯電話を利用させることができ、情報モラル指導に利用できる現実的なツールだと思っています」といわれる。

子どもの心情に訴えかける指導を

「仮想携帯」は、メールを送受信する際のアニメーションや操作感が本物の携帯電話に似せて作られている。「リアルさが、子どもたちに『インパクト』を与え、本時で大きなポイントになった」と山本教諭は授業を振り返られる。

「『仮想携帯』のリアルさに子どもが惹き付けられ、本当に自分の携帯電話にいじめメールが届いたかのように感じていたと思います。道徳教育では、『心情に訴えかける』という表現があります。『いかに子どもの心に響くのか』がその後の行動の変化に関わってくるという意味です。本当に自分の身に起こった問題と感じさせ、その上でどう行動するべきなのかを考えさせられました」。

また、「仮想携帯」でなければ同じ効果が得られなかったといわれる。

「プレゼンテ―ションソフトウェアなどで作成した提示用教材では、いじめメールの着信を自分の事と捉え、その『深刻さ』までを感じられなかったのではないでしょうか。子どもたちの心情に訴えかける仕組みとして『仮想携帯』は効果的でした」。

子どもの心情に訴えかける指導を

仮想携帯の画面4年生という子どもの発達段階から、本時ではメールを受信するという場面で「仮想携帯」を利用された。

山本教諭は、子どもの発達段階に応じて、例えば、高学年では、受信だけでなく、実際に自分でメールを送信する体験も交えて指導したいといわれる。

「情報モラル指導は、教材を提示し、教員の説明ばかりの指導では駄目です。子どもたちに考えさせ、たくさん話し合わせる必要があります。『仮想携帯』のように、実際に体験でき、子どもの心情に訴えかけるようなツールをうまく利用して、発表したり、話し合うような場面を作って指導していきたい。また、子どもたちは将来、携帯電話を持つようになります。危険性だけでなく、正しい使い方も伝えていきたい」とお話しいただいた。

学習指導案

学校紹介
京都市立桂徳小学校

京都市立桂徳小学校

京都市の西方、桂地域に昭和60年開校。東に桂川、南に桂離宮、北から西に愛宕山を仰ぎ見るゆったりとした環境にある。今年度より、生活科と総合的な学習の時間を研究。陸上競技や金管バンドなどの部活動もさかんに行っている。

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