実践レポート
小学校6年 体育

教材の工夫とICTの活用で全員参加の体育へ

みんなでルールを考える、チームで作戦を選ぶ、得点できる

東京都東大和市立第十小学校の河田 侃也 教諭は、体育でオリジナルの教材「ダブルゴールバスケットボール」を考案するなど、運動が苦手な子を取り残すことなく全員参加で楽しめることを目指した授業づくりを行われています。ICTや『SKYMENU Cloud』を活用した子供たちが意欲的に取り組むための仕掛けづくりなど、その実践について伺いました。(2023年12月取材)

河田 侃也 教諭

豊島区立南池袋小学校
(実践時:東京都東大和市立第十小学校 教諭)

運動が苦手な子も「楽しめる」体育に

本校は、児童数640名、教職員数50名という中規模校です。若手の教員が多く、ICT活用をはじめとして、新しいことに積極的に挑戦していく雰囲気がある学校だと感じています。本校では、『SKYMENU Cloud』を中心にタブレット端末の活用を進めており、教員間で機能についての情報共有や授業での活用方法の相談などが気軽に行われています。

私自身も、タブレット端末を全ての授業で活用することを目標としており、積極的に研修に参加したり、研究授業を行ったりしています。私は、本校で6年生の担任と研究主任を務めています。また、体育を専門にしており、体育主任のアドバイザー的な役割も担っています。

体育をはじめとする授業づくりで大切にしていることは、全ての子供たちが「楽しめる」という視点です。運動が苦手な子も体を動かす楽しさや喜びを感じられる授業にするために、教材の工夫やタブレット端末の効果的な活用を模索しています。

実践
タブルゴールバスケットボール

「やってみたい」「またやりたい」と思える教材を考案

全ての子供たちが「楽しめる」という視点で考案したのが、「ダブルゴールバスケットボール」です。通常のゴールリングに加え、子供がポートボール台に立ってゴールマンになる、名前のとおりに、ゴールを2つ設けたバスケットボールです。写真1

写真1 ゴールリングの近くにポートボール台に立ったゴールマンを配置し、2つのゴールを用意

「楽しい」と感じることは、「やってみたい」「またやりたい」という意欲につながっていくと思います。通常のリングは高くてシュートが届かなくても、ゴールマンにならシュートが打ちやすいです。苦手な子も得点できる楽しさを味わえることで、前向きに取り組めると考えました。

この単元では、「子供たちがチームで協力して勝利を目指すこと」そして「勝敗を受け入れること」という2つが大きな目標です。本単元では、基本的なルールやゲームに必要な技能を身に付けるための練習方法を共有した上で、みんなが楽しめるようにルールを工夫しながらゲームを重ね、最終時間にはトーナメント戦を行います。

単元の5時間目となる本時では、「自己やチームの特徴に応じた作戦を選び、ゲームで勝利を目指す」をねらいに授業を展開し、作戦を選択する場面で主にタブレット端末を活用しました。端末は破損を防ぐため、各チームに1台、体育館に持ってくるように指示しています。

勝利を目指してチームで作戦を選ぶ

本時は、まずはゲームを行って相手チームの特徴を捉えた上で、次のゲームに向けて、勝利するためにはどういった作戦が必要になるのかチームで話し合って考える展開です。

協力して勝利を目指すために、作戦は欠かせません。しかし、子供たちだけで一から作戦を立てることは難しいため、私が考えたいくつかの作戦を、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]に記載して配付しました。子供たちは、その中から選択する方法をとっています。図1-1

図1作戦や練習メニューがひとまとまりになった[発表ノート]

作戦は、例えばパスをつなぐ「パスパス作戦」、ゴール前に人を配置する「前で待ってる作戦」などです。作戦には、「パス」「シュート」「ドリブル」という子供に身に付けさせたい技能を反映しています。また、ゴールを決めると帽子の色を赤から白に変え、試合後に白帽子の人数分のボーナス点を加えるルールを設けています。「ボーナス点のためにシュートを決めよう」という意欲につなげようと、「全員赤から白作戦」も用意しました。

また、1チーム8人の編成で、試合には前後半で4人ずつ出場します。試合中は、出場していない子が、紙のスコアシートでメンバーがボールに触れた回数やシュート数などを記録し、メンバーの個性やチームの特性を把握し、作戦を立てる際に役立てています。こうした工夫により、試合に出ていない時間も、積極的にメンバーに声掛けをするなど、勝利に向けて意欲的に取り組めるようになったと思います。

作戦の成功へ向け練習メニューも選択

勝利を目指すこと、そして、全員が楽しみながらゲームに参加するためには、「パス」「シュート」「ドリブル」というバスケットボール特有の技能を最低限保証することも大切です。そのために、「三角パスゲーム」「ドリブルリレーゲーム」「パス・シュートゲーム」など、基本的な技能の習得につながる練習メニューを単元の冒頭で共有しました。毎時間、これらの練習メニューに取り組む時間を確保しています。

練習メニューの内容を記載した[発表ノート]も配付しており、本時では、作戦を選択する際に併せて、作戦を成功させるために必要なメニューもチームで話し合って選びました。図1-2

そして、その練習に取り組んだ後、2試合目に臨みました。

タブレット端末の活用で話し合いが活発に

作戦を立てたり、練習メニューについて話し合ったりする場面で、タブレット端末の有効性を感じています。[発表ノート]には、作戦名や練習メニューだけでなく、「作戦ボード」も提示しています。作戦ボードは、コート上でのメンバーの配置や動き方を、ボード上の記号を動かして確認できるものです。図1-3

実際に作戦ボードを動かせることで、子供たちは自分の役割を把握したり、友達の役割を説明したりしやすくなり、作戦タイムでの話し合いが活発になっていました。写真2

[発表ノート]を基に班や友だちと意見交換した後、全体交流で考えを共有
写真2[発表ノート]を活用してチームで作戦などを話し合う

そして、ICTならば作戦を選び直すことも簡単です。本時では、紙のスコアシートも活用しながら、勝利に向けてメンバーの個性を生かした作戦を選ぼうと試行錯誤し、これまで一度も勝てなかったチームが初めて勝利することができました。まさに、本時のねらいに迫ることができたと実感しています。

また、それぞれのチームが選んだ作戦は、その場で[発表ノート]をのぞいて確認できるので、アドバイスがしやすいというメリットもありました。

全員参加や授業の効率化に役立つ[発表ノート]

視覚支援で、ゲームやルールへの理解を深める

全ての子供たちが楽しくゲームに参加するために大前提となるのが、ルールを理解することです。本単元では、授業の冒頭で、バスケットボールの競技そのものやルールについて説明し、その際にもICTを活用しています。

体育館に設置しているモニターに[発表ノート]を映し、バスケットボールは世界で一番競技人口が多いスポーツであることや、基本的なルールを説明しました。さらに、シュートの打ち方のポイントを画像で示したり、作戦ボードを使ってシュートチャンスが生まれる動き方を解説したりしました。

作戦ボードを実際に動かしたり、画像で示したりと、視覚に訴えることによって、子供たちがイメージをつかみやすく、理解が深まりやすいと感じ、こうした場面でもICTの有効性を感じました。

振り返りや意見を共有し、ルールを変更

全ての子供たちが楽しめるためには、ルールの工夫も必要です。基本的なルールを共有して、試しにゲームをやってみた上で、単元の2時間目には、全員が楽しめるようにルールを工夫する時間を設け、その際にも[発表ノート]を活用しました。「ボールを持って3歩まで歩いてもよい」「壁に当たったボールがコート内に戻ってきたら、そのままゲームを続ける」など、出てきた意見を体育館のモニターに[発表ノート]を映しながら整理し、その場でまとめていくことができました。

子供たちは、授業の最後に、本時での気付きや次回に生かしたいことを紙の振り返りシートに記入写真3。毎時授業の冒頭に、前時での振り返りを[発表ノート]にいくつかピックアップしてモニターに映して共有しています。その振り返りを基に、ルールに修正を加えることもあります。

[発表ノート]を基に班や友だちと意見交換した後、全体交流で考えを共有
写真3河田先生が作成した振り返りシートを活用してチームで振り返りを行う

授業準備や進行をスムーズに

[発表ノート]は、授業をスムーズに進めることにも役立っています。本時では、コート割りを図2のように[発表ノート]で示すことで、子供たちはひと目で理解でき、口頭で伝えるよりもスムーズに試合を始めることができています。また、[発表ノート]の活用により、ルールを示した資料を印刷する手間や資料を配付する必要がなく、授業準備の時間を削減することにもつながっていると思います。

図2[発表ノート]で作成したコート割り

体を動かす楽しさを感じられる授業へ

「ダブルゴールバスケットボール」以外にも、タブレット端末を活用しながらチームで話し合って作戦を選ぶという展開で授業を行っています。例えば、短距離走・リレーの単元では、[発表ノート]に走順を入力したり、バトンの受け渡しをする区間で前の走者を待つ位置を星印で示したりしました。子供たちは、走順を入れ替えたり、星印の位置を置き直したりしながら、勝利に向けて作戦を何度も練り直していました。図3

図3リレーでは前の走者を待つ位置を星印で示しながら作戦を立てる

今後も、こうした授業展開によって、子供たちが楽しみながら勝利を目指し、一人一人が体を動かすことの楽しさと喜びを感じられる授業を目指していきます。

私の授業では、全ての教科でタブレット端末を活用することが定着しつつあります。これからも、体育に限らず、授業をもっと面白くする“仕掛け”を一つ一つの授業でつくっていきたいと思っています。そのために、ICTの効果的な活用方法を探り、追究していくとともに、研究授業などを通じてその成果を広げていきたいです。

(2024年5月掲載)