実践レポート
中学校2年 理科SKYMENU Cloud事例

自律的な探究を実現するラボノートの活用

赤木 隆宏 教諭

香川大学教育学部附属高松中学校

はじめに

中学校学習指導要領(平成29年度告示)の理科では、「自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力の育成」が一層重視され、課題の発見、追究、解決といった探究の過程を通じた学習活動を意識した指導の改善を図ることが示された。本校では、それを受け、科学的に探究するために必要な資質・能力を育成するために、見通しをもった科学的な探究を生徒が主体となって展開できるよう、研究を進めている。その際、探究の過程を記録するラボノートをICT化できないかと考え、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]を活用し、開発した。

[発表ノート]を用いたラボノートの開発

ラボノートとは、生徒一人ひとりが課題や仮説、検証方法、結果、考察等の一連の探究の過程を詳細に記録し、結果をもとに科学的な根拠に基づいた論を構築する場である。その際、科学的な視点である実証性(観察、実験等によって仮説を検討できること)・再現性(同じ条件下では必ず同じ結果が得られること)・客観性(多くの人々によって承認され公認されること)を意識させることで、科学的に探究するために必要な資質・能力の育成を目指している。

本校が開発した[発表ノート]を用いたラボノートは、「表紙」「探究マップ」「結果」「考察」で構成している。ただし、結果と考察の枚数の規定などはない。

探究マップ

生徒の自律的な探究を実現するためには、探究に見通しをもつことが大切となる。そのために、ワンページに探究の流れを整理する「探究マップ」を開発した。

探究マップとは、自然の事物・現象に対する気付きや疑問、課題の設定、仮説の設定、検証方法の立案、結果の処理までを整理させるものである図1。これを探究の導入段階で全体で練り上げたり、吟味したりすることで、生徒一人ひとりに見通しをもたせ、自律的な探究を実現させている。

その際、実証性が担保されているかを意識させ、記入するよう指示している。探究マップは、[発表ノート]に画像を背景化させることで、生徒がその枠内で自由に記述できるようにした。

図1 探究マップ

▲岩手県立総合教育センターの「探究マップ」(https://www1.iwate-ed.jp/04kenkyu/01kyouka/104rika/r01_04_08_0.pdf)を参考に、本校の研究を加え作成した。

結果

結果には、先ほどの探究マップに記入した「結果の処理」を参考に、示すよう指示している。1人1台端末が導入され、理科の結果の示し方も変化してきている。端末の導入前は、観察結果をスケッチで行うことが多く、スケッチを苦手にしている生徒にとっては、観察したものを上手に表現することができず、困っていることが多かった。確かに回数を重ねていくうちに、上手にスケッチをすることができるようになるが、やはり限界はあったように感じる。現在では、1人1台端末が導入されたことで、生徒は写真や動画を用いて結果を表現することができるようになり、以前よりもよりよいものを追求できるようになった。

さらには、写真や動画の結果は、班員や他の班とも共有しやすいため、観察、実験が失敗した場合でも、結果を得ることができる。本校では、観察、実験の際、個人や各班で行うことを基本としているが、結果に関しては共有することを許可している。その際は、観察、実験が失敗した理由も考察させることで学びが深まるよう工夫している。

考察

考察には、結果をもとに課題に関する結論を示すよう、指示している。結果から何が明らかになったかを整理させ、既習内容や日常生活の経験とも関連付けながら、自然の事象をモデルや図、言葉で表現させ、より客観性が高く、妥当な自然に存在する理論や法則、摂理の獲得を目指している図2

また、その内容を『SKYMENU Cloud』を利用して、班や全体で共有させ、議論する場も設けている。加えて、探究を通しての疑問や気付きも記録させることで、次時の課題や探究につなげ、つながりのある学びを展開している。

図2 考察のページ。共有された結果をもとに個人で考察する

[発表ノート]を用いてラボノートを行っている利点

教師
  • ラボノートを一斉に配付できる。
  • 班や全体の場での共有が行いやすい。
  • [提出箱]で、回収や添削が容易に行え、いつでも返却できる。
  • 複数の生徒のラボノートを同時に比較できる。
  • [教材・作品][資料置き場]に資料やデータを置いておけば、生徒も利用できる。
生徒
  • タイピングが苦手な子は、タッチペンや手で書き込める。
  • 手書き認識で文字入力ができる。
  • 他の子の結果(データ)を[グループワーク]で簡単に共有できる。
  • [グループワーク]を使えば、結果の共有までを班で行い、考察は個人で行える。
  • 授業中に終わらなかった場合は、家のパソコンでも作業ができる。
実践事例 気象とその変化「大気中の水の変化」

2年理科「気象とその変化」の単元で、生徒が『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]を用いてラボノートを作成した。生徒が見通しをもって自律的に探究を行うために、探究マップを用いて学習を展開した事例を紹介する。

単元で目指す生徒の姿
身近な気象に関する観察、実験や観測記録をもとに、気象要素や天気の変化、日本の天気の特徴を大気中の水の状態変化や大気の動き、それを担う太陽のエネルギーなどと関連付けながら理解し、科学的な理論や概念を獲得している。また、獲得した理論や概念、技能を用いて日常生活で出合う問題や疑問を科学的に探究し、客観性の高い論を構築するとともに、科学的に妥当な知を創り出している。
単元の評価規準

知識・技能

気象要素と天気の変化との関係に着目しながら、気象観測、天気の変化、日本の天気の特徴についての基本的な概念や規則性を理解するとともに、観察、実験の基本操作や記録の仕方など、科学的に探究する技能を身に付けている。

思考・判断・表現

気象とその変化について、探究マップをもとに見通しをもって観察、実験などを行い、その結果を分析して解釈し、気象要素や天気の変化、日本の天気の特徴についての規則性や関係性を見いだし、表現している。

主体的に学習に取り組む態度

気象に関する事物・現象について進んで関わり、見通しをもって科学的に探究するとともに、ラボノートの内容をもとに探究の過程を振り返り、実証性・再現性・客観性を追究している。
本時の目標
  • 気圧と温度の関係や気圧による空気の変化に関する実験を正確に行い、仮説を立証するために必要なデータを得て、記録することができる。
  • 気圧による空気の変化や温度との関係を、既習内容や粒子モデルと関連付けながら考え、図や言葉で表現することができる。

指導の実際

生徒は、タイムラプスカメラやモデル実験をもとに気象現象が起こる仕組みとその規則性に関するキーワードを探究マップに整理し、説明仮説を考案した。また、その説明仮説を実験で立証するための作業仮説に組み替え、実証性の視点で吟味させ、検証計画の立案、結果の処理までを考えさせた図3。その結果、生徒は自律的に観察、実験を行い、仮説を立証しようと意欲的に取り組むことができた図4

また、考察の場面では、仮説の是非を明らかにするとともに、目に見えない気象現象の法則を見いだし、自分の言葉で表現していた図5。中には、その理論をバスケットボールのドリブルに例えて表現する生徒もおり、既習内容や生活経験をつなげて考えを深めることができていた。

図3 探究マップの記入内容

図4 実験結果を[発表ノート]にまとめたもの

図5 生徒が記入した雲ができる仕組みの考察内容

実践を終えて

[発表ノート]を用いてラボノートを開発し、実践したところ、生徒はICTを効果的に活用し、結果を示したり、結果を共有したりしていた。特に動画を結果として示すことは、今まで行っていたラボノート(紙)では、難しい部分であったため、生徒の学びを深める一助になった。

また、探究マップを用いたことは、自律的な探究を促し、生徒が主体となって学ぶためには効果的であった。特に探究マップを電子黒板に提示し、全体や班で議論することは、科学的な視点の獲得にもなり、対話的な学びも実現することができた。

考察の場面では、生徒はICTを効果的に活用して自分の考えを表現したり、生徒同士で[発表ノート]を見せ合いながら、学びを深めたりする姿が多く見られた。

今後も開発したラボノートをさまざまな単元で実践することで、生徒の科学的に探究するために必要な資質・能力の育成を目指したい。また、考察の場面がさらに充実できるような手立てを考え、[発表ノート]に取り入れていきたいと考えている。そうすることで、「自然の事物・現象を科学的に探究し、妥当な知を創る理科教育」の実現を目指す。

(2024年1月掲載)