実践レポート
小学校4~6年 算数児童1人1台の活用 <SKYMENU エキスパートTeacher> 授業づくりとICT活用

算数科で反転学習を取り入れ、「自立した学習者」を育む

[発表ノート]が教材の作成、配付、考えの共有をスムーズに

大阪府大東市立住道南小学校の田中 大樹 教諭は、自立した学習者の育成をめざして、4~6年生の算数科で反転学習を取り入れて実践されています。『SKYMENU Cloud』の[提出箱]や[発表ノート]を活用することで、教材準備の効率化に加え、学習意欲と学力が向上する成果もみられています。その実践について伺いました。(2023年8月取材)

田中 大樹 教諭

大阪府大東市立住道南小学校

3年生以上で端末持ち帰り保護者はスマホで[電子連絡板]を確認

本校は、すべての学年で2学級、全校児童は約400名、教職員約30名という比較的小規模な学校です。ICT活用に積極的な学校で、本年(2023年)度の7月からは全学年で[電子連絡板]の活用を始めました。大東市がオプション機能を導入していることで、保護者もスマートフォンなどから[電子連絡板]を確認することができます。現在は、月1回作成する学年だよりを[電子連絡板]から見てもらっており、子どもを介すことなく学校からのお知らせを直接届けられるので大変便利です。子どもたちも[電子連絡板]から学年だよりを開いて、クラスで一緒に確認しています。

全学年で1人1台端末の持ち帰りを実施。大東市では家庭用のACアダプタが整備されているため、子どもたちは宿題などで使った端末を充電して学校に持ってきています。そのほか「Microsoft Teams」で欠席の子に連絡したり、新型コロナウイルスのために登校できない子がWeb会議システムを使ってオンラインで授業に参加したり、といった活用が進んでいます。低学年については今後より一層、活用の促進に取り組んでいきたいと思っています。現在のところ、[カメラ]機能や[電子連絡板]で学年だよりを開くことが、活用の第一歩となっています。

反転学習の手法を取り入れ、子どもが考えをアウトプットできる算数科の授業へ

私は4~6年生の算数科を担当しています。さらに情報担当、学力向上の担当も兼任しています。学力向上に向けて、全国学力・学習状況調査をあらためて見返してみると、年々求められる力が変わっていることを感じました。これまでのように知識を詰め込むのではなく、「対話を通して他者と協働的に課題を解決するために、自分の考えをどう伝えるか」という、アウトプットする力が大事だと考えました。

また学力向上には、子どもたちが学習へ向かう意欲や関心を高めることが欠かせず、そのためには子どもが楽しめる授業づくりが必要です。そこで、プリントに印刷した問題を解かせるだけではなく、子ども同士で話し合い、自分の考えを発表する場面を設けることで、楽しみながら力をつける授業をつくりたいと思いました。そこで考えたのが、図1のような方向性です。

図1 算数科で新しい学習方法を取り組むにあたって掲げた方向性

算数科の学びを通じて、自立した学習者になることを目指す。ここでいう自立した学習者とは “既存の知識を使って新たな課題に自ら向かう姿” “一人だけで課題を解決したつもりにならず協働的に学び新たな課題に向かう姿” “正解だけにとらわれず最適解を見つけるために議論する姿” この3つの姿が見られる学習者のことをさすものである。

この実現に向けてたどり着いたのが『SKYMENU Cloud』と「反転学習」の手法を取り入れた新しい算数科の学習方法です図2

図2 課題配付から添削まで [発表ノート]で反転学習を効率的に展開:高学年の場合

学習の流れ SKYMENU Cloudの活用
宿題

課題に取り組む

授業が始まるまでに考えを提出

[発表ノート]で課題を配付

授業

班交流(15分)

個別交流(7分)

班ごとに意見交換

ほかの班の友だちと意見交換

子ども:[発表ノート]を見せながら交流し、気づいたことを書き加える

[提出箱]で子どもの考えを確認、提示

全体交流(3分)

各班の代表が発表

アウトプット(20分)

振り返りをまとめる

ドリル

子ども:[発表ノート]に振り返りをまとめ、提出する

[提出箱]で子どもの考えを確認、提示

授業後

フィードバック

添削して子どもに返却

まずは家庭でそれぞれに考え、授業で友だちと話し合って深める

具体的には、まず次の授業で取り組む課題を[発表ノート]に貼りつけ、宿題として配付。併せて問題を解くためのヒントになる図などを貼りつけた[発表ノート]やヒント動画も作成します。子どもはそれらの資料を確認しながら、[発表ノート]に記入して提出します。

授業では冒頭の15分間、記入してきた[発表ノート]を基に班で話し合います。単に自分の書いてきた[発表ノート]を読み上げるだけではありません。友だちと考え方や書き方が違うならどこが違うか、いいなと思った点はどこかなどを話し合い、自分の[発表ノート]に書き足していきます。自分の考えに友だちの考えを加えて深めること、そして分かりやすく簡単でいつでも使える方法をみんなで考える時間だと子どもたちに伝えています。

その後の10分程度は、交流の時間です。自由に教室内を立ち歩き、ほかの班ではどんな考え方や話し合いをしたのか、子どもたちがそれぞれに確認し合います。高学年では、全体交流の時間として各班から1人ずつ、全体で発表をさせています。グループでの対話だけでなく、全員の前で発表するというのも一つの学習です。

最後は授業で学んだことをアウトプットします。教科書の問題や計算ドリルなどを解いたり、先生や友だちの説明をもう一度聞きに行ったり、自立した学習者に向けて子どもたち自身で学習を調整する時間です。この時間に[発表ノート]に振り返りを書いて提出します。「どんなことを学んだか」「友だちの考えで良かったのは何か」などをポイントとして書かせています。

友だちと[発表ノート]を自由に見合えることで対話につながる

こうした流れで学習を行うに当たり、『SKYMENU Cloud』の活用は欠かせません。特に[発表ノート]や[提出箱]によって課題の配付・提出・共有が簡単にでき、授業をスムーズに進めることができています。

『SKYMENU Cloud』の最も便利なところは、チェックを入れるだけの簡単な設定で、子どもたちが宿題として記入して[提出箱]に送った[発表ノート]を、子ども同士で閲覧できることです図3。これにより、友だちの進捗状況を確認できる安心感が生まれています。多くの子どもが授業前に友だちのノートをチェックしており、朝の自主学習の時間に友だちの[発表ノート]を参考にしながら、自分のノートを記入する子もいます。そのほかにも交流の時間に、すぐに意見を聞きたい友だちのところに向かうこともできています。

図3 友だちの提出状況や考え方が見える[提出箱](5年)
▲ 5年生は学級ごとに配付・提出。6年は学年単位で配付・提出し、学年全体で閲覧できるようにしている

話し合いによって書き足し、振り返りを記入した[発表ノート]を再び提出させ、授業後に評価。私の視点で良かった考え方や振り返りを記入した子を「Microsoft Teams」で紹介しています。子どもたち自身がたくさんの友だちの[発表ノート]を確認することで、それぞれに一番分かりやすいと思う説明を見つけ「推しノート」ができている子もいます。

[発表ノート]を基に班や友だちと意見交換した後、全体交流で考えを共有
▲ [発表ノート]を基に班や友だちと意見交換した後、全体交流で考えを共有

宿題の回答は「分からない」でもいい

そのほかにも、子どもたちには「ヒントがあるから見て考えてみよう」「途中まででもいいし、分かりませんでも良いから何か書こう」と伝えています。「分からない」と書くとしても[発表ノート]を開かなければならず、問題を見ることになります。事前に問題を一度確認しておくだけで、授業での話し合いへの入り方がスムーズになります。そして「分からない」という子がいれば、同じ班の子どもたちは「教えてあげよう」という意識が強くなり、授業中の対話も活発になります。回答は「分からない」でもいいというのは一つのポイントだと思っています。

アウトプットの時間は、個別最適な時間として子どもが主体的に活動する
▲ アウトプットの時間は、個別最適な時間として子どもが主体的に活動する
振り返りの入力、教科書やドリル問題に取り組む、先生や友だちに分からないことを質問するなど、時間の使い方は子どもそれぞれ

教師が「まとめ」をしないことで、子どもが学びに主体的になる

さらに、私が大事にしているのは、教師が学習のまとめをしないことです。これまでの授業のように、最後に教師が板書でまとめてしまうと、子どもたちはそれをノートに書き写すだけになってしまいます。みんな同じノートが出来上がり、教師も、子ども自身も、「本当に理解できているのかどうか」がわからないままになってしまいます。

教師がまとめを書かないことを繰り返すと、次第に分からなければ教師や友だちに何が大事かを確認するようになります。子どもが学びに主体的になっていくのです。

もちろん、授業の内容を理解できていない子は、アウトプットの時間に取り組む「振り返り」を書く手が止まってしまいます。そういった子には個別で声を掛けて、フォローをしています。一方で、学習内容を理解している子は、分からない友だちに教えたり、自ら教科書やドリルの問題に取り組んだりしています。アウトプットの時間を、個別最適な学びの時間として活用しています。

全国学力・学習状況調査で算数科の正答数が上がり、平均正答率も上昇

授業改善の効果は、全国学力・学習状況調査の結果に表れました。昨年(2022年)度まずは、5年生で取り入れたところ、算数科では正答数4問以下の子はほとんどおらず、全国上位3都道府県に近い平均正答率を出すことができました。不得意な子も、得意な子も一定の効果があったと考えています。

そして何より、子どもたちが「算数が楽しくなった」「分かるようになった」とアンケートで答えたことが大きな変化です。授業の限られた時間ではなく、家でじっくり課題に取り組むことができ、理解できている子は自分の考えをより分かりやすく伝えることに時間をかけられます。すべての子どもにとって有意義な時間になっているのだと思います。

こうした効果により本年度、4、6年生の算数科の授業でも、自立した学習者を育成するための取り組みを取り入れることになりました。

[発表ノート]でヒント動画を配付。ICTで準備時間を短く

反転学習は準備が大変そうだ、といったお話を伺いますが、私は『SKYMENU Cloud』やICTを活用することで効率的に準備をしています。例えば、課題は教科書の問題を[発表ノート]に貼りつけ、課題を解くためのヒントも教科書の数直線などの図を活用。ヒント動画は、簡単に動画作成できるソフトウェアを使い、[発表ノート]や[Microsoft Teams]などで配付しています。動画は3分以内と決め、基本的に一発収録で、凝ったものを作りません。作業に慣れた今では5分程度で準備ができるようになり、負担感はほとんどないです。

算数科では現在、各クラスの担任と私の3人で分担して、課題やヒントの準備を行い、ノウハウを共有しています。また、理科でも反転学習を取り入れ、家で実験計画を立てたり、実験動画を確認したりといったことを行っています。こうして、少しずつ校内で広がりが見られています。

やはり、こうした学習方法を横展開していくためには、教師に無理がないように、いかにICTをうまく活用し、準備時間を短くできるのかがポイントだと思います。

「自分で勉強できた」 成功体験の 積み重ねで、自立した学習者へ

子どもたちを自立した学習者にするために、最も大切なポイントは、「自分で勉強できている」とどれだけ思わせられるかだと考えています。

そのためには、ヒント動画の工夫が重要で、分かりやすさだけでなく、子どもが自ら気づきを得て、知識を獲得したと感じさせるような内容であることが理想です。サッカーに例えるなら、まずは教師がゴール前までボールを持っていき、そこから子どもにパス。子どもがシュートをしてゴールを決めたところに、すかさず「すごいね」と褒めてあげるという感じでしょうか。

このような成功体験をたくさん積ませることで、「自分で勉強できている」という感覚を持ち、さらには課題解決に向けた協働や対話の経験から「友だちの意見を聞いて、こんなふうに変われるんだ」という実感を持つことにつながります。ですので、ヒント動画は一発撮りであったとしても、そのポイントを絶対に外さないように心がけています。

また、子どもたちに与える宿題、つまり学習課題も重要です。宿題で取り組んで終わりではなく、学級で友だちと話し合って解決できるような課題である必要があります。もし、家で取り組んだことを発表するだけで済むような課題であれば、授業がまったく楽しくありませんし、そもそも授業で考える必要がなくなってしまいます。教師の課題づくりのセンスが問われるところであり、最も難しい部分だと思います。本校の取り組みはまだ始まったばかりです。今後も試行錯誤をしながら、そのセンスを磨き、予測困難な未来を生き抜ける、自立した学習者を育てていきたいと考えています。

(2023年10月掲載)