実践レポート
実践発表レポート

学習者主体のICT活用を実現する授業デザイン

『SKYMENU Cloud』をご利用いただいている全国の先生方と日々の実践のアイデアを共有することを目的に、『SKYMENU Cloud』実践セミナーをオンラインで開催しています。今回は2022年12月26日に開催したセミナー「学習者主体の学びを実現する授業づくりとICT活用」の中から、実践発表の内容をレポートします。

はじめに(趣旨説明)
子どもが見通しを持ち、自ら学習を進められることをめざす

コーディネータ

小林 祐紀准教授

茨城大学

1人1台端末の活用は2年目に入り、多くの先生方が端末の効果的な活用について突き詰めてこられたと思います。文部科学省が示すロードマップでは、効果的な活用はステップ2に当たります。これからめざすのはステップ3の「教科の学びをつなぐ。社会課題等の解決や一人一人の夢の実現に活かす」ことです。これはまさに探究的な学びです。探究的な学びのなかで、学習を見通すことは不可欠な学習活動であり、子どもたちもその大切さを認識していくことでしょう。今回の実践発表では、子どもたちが見通しを持ち、自ら学習を進められることをめざして、1人1台端末の活用を意図的・計画的に取り組まれている、久保田 智子 神戸市立若草小学校 主幹教諭と斉田 俊平 大阪市立今里小学校 指導教諭に発表をいただきます。

実践発表 1 | 図画工作
1人1台端末で自ら記録し、振り返る。子どもが自ら学ぶ姿勢を育む

発表者

久保田 智子主幹教諭

神戸市立若草小学校

まずは情報共有や学習の振り返りで1人1台端末を活用

私は中学校での勤務を経て、現在は小学校で図工を担当しています。本校は以前から授業や校務で『SKYMENU Class』を活用していました。1人1台端末の導入後、私は図工の授業でも活用しようと、図工室の環境を整え、担任の先生と連携しながら活用を進めていきました。私が端末を活用することで、学級間の情報活用能力のでこぼこをならし、学校全体の底上げにもつながっていきました。

では、どのように1人1台端末の活用を進めたかについてご紹介します。まずは児童との共有の場をつくろうと、クラウド型グループウェア「Microsoft Teams」内の全クラスに「図工チャネル」を作りました。そこに授業の説明を載せておくと、児童は各自で見返すことができ、欠席児童にも授業内容を伝えることができました。その後必要な持ち物もここから確認させるようにしました。

次にアンケート作成ツール「Microsoft Forms」を活用して授業の振り返りを始めました。アンケートフォームを活用したのは、自分の意見を発表したり、手がきの文章で表現したりするのが苦手な児童を取り残すことなく、毎時間クラス全員で取り組めるようにしたかったからです。これを2、3回行うと児童はすぐに慣れ、片づけを済ませたら自ら振り返りを行うようになりました。授業中に入力できなかったときは、下校後に家から送信したり、翌日に教室から送信したり、「振り返りが遅くなってすみません」と気に掛けて入力してきた児童もいます。児童は自分のタイミングで1人1台端末を活用するようになりました。

学びの過程や完成した作品を[シンプルプレゼン]で記録に残す

そして児童が撮りためた写真、つまり学びの記録の活用について考え、まずは『SKYMENU Cloud』の[シンプルプレゼン]を使うことにしました。[シンプルプレゼン]は、文字数、写真枚数に制限があり、図工の「つくる」時間を確保できるからです。

図1は当時5年生の児童が初めて作成した[シンプルプレゼン]です。スライドが横並びで表示されることを生かし、作品をストーリー仕立てで紹介しています。そして、最後は作品の写真を逆さまにして載せていたのです。私はこれを見たとき、デジタルの活用で新たな作品が生まれる可能性を感じました。作品作りが思うように進まなかった児童も、発想豊かに[シンプルプレゼン]を使っていました。

図1作品をストーリー仕立てで紹介する[シンプルプレゼン]

活用が日常になると、児童は自律して端末を使い、学び方を考えるように

写真1児童が自分のタイミングで1人1台端末を活用する

併せて[発表ノート]も活用しています。教師があらかじめ作成したひな型の[発表ノート]を[配付]することもありますが、それをどのように使うかは児童に委ねています。経験を重ねると、白紙の[発表ノート]に画像を貼りつけて丸や矢印などを入れて指し示したり、学びの記録や振り返りをしっかり書いたりと、自ら学びを蓄積し、次へ生かせるようになりました。

こうした活用を進めるなかで、児童自ら学び方を考えるようになっています。写真1は1人1台端末の活用を始めて2か月後の様子です。作品を作る児童もいれば、端末を使って検索をしたり、振り返りを入力したりと、さまざまな学び方をしています。児童の適応能力には、驚かされました。

授業で大切にしていることは児童が「決める」「自ら残す」「いつでも共有・対話」

私には授業で大切にしていることが3つあります。1つ目は「児童が決める」、2つ目は「児童が自ら残す、記録と振り返り」、3つ目は「いつでも共有・対話」です。「自分の思いをどう広げるか」を共通項とした、5年生2学期の3つの学びについて紹介します。

児童が自分で決めた本の中の言葉からイメージを広げたことを描くという題材では、こんな場面がありました。授業では、時間配分や制作する枚数も児童に委ねていました。ある児童は描いた絵を撮影して[発表ノート]にコメントを書き、しばらく眺めて考えると「ここで終わる!」と言って2枚目の制作に取り掛かったのです。自分のタイミングで学びの記録を残すことで客観的に捉え、見通しを持てるようになってきたのだと思います。また、自分の絵で動画を作って載せている児童もいました。動画や音声つきの振り返りはデジタルならではです。

そして児童は[発表ノート]で互いに作品を見合い、[グループワーク]でメッセージを送ります。このとき[資料置き場]に用意している2色の付箋に、それぞれ「題名・自分の思い」「友達へのメッセージ」を書いています図2。グループワーク後の[発表ノート]も共有できるようにしておき、児童は授業外でも友達からのメッセージを確認していました。

図2ピンクの付箋は、友達へ。黄色の付箋は、自分の思い。いつも色を決めている

児童の[発表ノート]の振り返りから、作品に込められた想いに気づく

本の言葉からイメージを広げるという題材を、岡本太郎さんが「太陽の塔」に込めた社会へのメッセージを学び取っていくという題材へつなげた後、次は自分の思いを込めた立体作品(ワイヤーアート)を制作する実践に入りました。児童は、作品がだんだんと立ち上がっていく学びの過程を[発表ノート]に残していきました。そのなかにウクライナでの戦争のことを端末で調べてコンセプトにした児童がいたのです。授業中、何度も対話しましたが、私は、そのことを[発表ノート]を見るまで気づいていませんでした。日々、児童の目線で見取ることの大切さをあらためて教えられました。

私は今が一番、授業をするのが楽しいです。これからも端末が日常にある、児童が主体の学びは続いていきます。

1人1台の端末が整備される前と後で、変わらないこと、変わったことは何でしょうか。

変わらないことは3つあります。まず、「この題材は8時間を予定している」など、あらかじめ配当時間を児童に伝えて見通しを持たせることです。次に、毎時間子どもたちに自分のめあてを決めさせること。最後は「なぜ学ぶのか」、児童が必要性を感じて取り組めるように、題材が単発で終わるのではなく、つながりを持たせるように計画することです。

一番大きな変化は、私自身が児童の残した記録や振り返りから、子どもの目線で学びを見取れることです。やっていたつもりで、できていなかったと気がつきました。また、1人1台端末を使って記録し、振り返りをしているからこそ、いつでもどこでも共有できます。それにより協働的な学びにつなげられ、対話が増えました。児童自身が端末の中で自分の学びを可視化できることも変わった点です。さらに言葉で残すことで、思考力もついてきました。他者と関わることで学びを深めていると思いますし、何よりも自分の学びを客観的に見られる。成長が分かることで、以前よりも粘り強く取り組めるようになりました。

教育の世界は「不易流行」という言葉でよく語られます。学習者中心の授業観はもう不易です。新しいツールが入ってくることで、教師自身の見取り、子どもたちの自分自身への自己評価や作品の質がより広がり、深まっている。それらの相互作用が相まって良い方向に変容してきたことを伺えました。

実践発表 2 | 国語
すべての子どもたちの可能性を引き出す
個別最適な学びと協働的な学びの実現

~子ども自ら学ぶ力を育む~

発表者

斉田 俊平指導教諭

大阪市立今里小学校

予見、遂行、自己省察を繰り返して自らの学習を調整する

本校は大阪市東成区に位置し、全校児童144名、全学年単学級の小規模校です。私からは「子ども自ら学ぼうと粘り強く取り組み、自らの学習を調整する」ことをめざした実践を発表します。「自らの学習を調整する」というのは、「自己調整学習」の考え方に基づいています。自己調整学習は、「メタ認知、動機づけ、行動において、自らの学習過程に能動的に関与して進められる学習」として、米国の教育心理学者(Barry Zimmerman)により提唱されたものです。そしてこの自己調整学習とは、「予見」「遂行/意思コントロール」「自己省察」の3つの段階があり、これらが循環的、らせん的なサイクルをなして進行するものとされています。

図3「自己調整学習」の3つのSTEP

まずは自己調整学習の3つの段階について、学習活動に置き換えながら整理します図3。STEP1の「予見」は、見通しや学習計画の作成です。単元全体を見据えた導入段階になります。STEP2の「遂行/意思コントロール」は学習の実行です。このとき、児童が主体的に粘り強く取り組み、学びを深め、計画を修正していく。このサイクルを何度も回す中で、1人ひとりが自分の考えを持つとともに、友達の意見を知り、自分の意見と統合したり、更新したりしていきます。STEP3の「自己省察」では、学習のまとめとして振り返りを行い、その内容を他者と共有します。これらの3つのSTEPを学習活動において循環的、らせん的に何度も回していくことが重要であると考えます。

STEP1 予見
商店街の課題を踏まえて未来の姿をイメージする

以上のことを踏まえて、6年生国語科「町の幸福論」での実践を紹介します。単元のねらいは「情報を関係づけて目的に応じて活用し、自分の考えを伝える」です。また、本校の地域には、大規模な商店街があります。そこで、自分たちが暮らす地域の10年後、100年後の未来がより元気で明るいものであるには、今後どのような取組が求められるのかを考える探究的な学びを設定しました。

まずは、STEP1「予見」において、商店街の課題を把握することを目的にアンケート調査を実施しました。アンケートフォームに飛べるQRコードを記載したポスターを商店街や市役所などに掲示し、商店街や市役所を利用される方に自分たちの暮らす街についての調査にご協力いただきました。そして、アンケート結果から顕在化された課題(不便・危険など)についてグループで話し合いました。課題をもとに、未来の商店街の姿をイメージし、[発表ノート]にまとめました。

個で未来の商店街の姿をまとめた[発表ノート]を、児童同士で共有

意識していたことは、目的や状況などに応じて互いの考えを伝え合い、集団としての考えを形成していく児童の資質・能力の育成です。実現に向けて、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させ、主体的・対話的で深い学びの授業実現をめざしました。

個別最適な学びでは、児童がそれぞれに自己調整学習の3つのSTEPのサイクルを循環させていきますが、ここで孤立した学びに陥らないように他者と協働する場面を設けることが重要です。それにはICTの活用が効果的だと考えます。

個人で取り組んだ、未来の商店街の姿をイメージしてまとめた[発表ノート]を児童同士で共有できる設定にしておけば、友達の思考を可視化したり、共有したりできます図4。他者の考えを見たり、意見を交換したりしながら、自分の考えを深めることができます。

図4[発表ノート]を児童同士で確認し合い、考えを比較する

STEP2 遂行/意思コントロール
個で調べたことをグループで話し合い深める

次はSTEP2「遂行/意思コントロール」において、商店街の多くのお店にインタビューを行い、その内容を個々で[発表ノート]にまとめ、情報を共有しました。さらに紙にまとめて教室に掲示したことで、商店街の取組、お店の方々の思いや考えなど、日常において探究的な学びを意識づけることができました。

続いて、構想した未来の商店街を実現するために、必要になる情報やそれを調べる方法について個人で考えた上で、似ているテーマの児童同士でグループを作り、粘り強く情報収集に取り組みました図5。さらに、全国の商店街での取り組みを本やインターネットを使って調査。ここでもまずは個別で調べた内容をグループで話し合って学びを深めていきました。

図5個別の作業の後、考えが近い児童同士でグループを作って話し合う

そしてグループごとにプレゼンテーションの構成を考え、内容の概要を作成した上で発表しました。

STEP3 自己省察
あらかじめ提示していたルーブリックを基に評価と振り返り

最後にSTEP3「自己省察」において、振り返りを行いました。児童は各グループの発表時に、良かった点、新たに気づいたこと、発表内容の改善点などについて「Microsoft Excel」に書き込み、相互評価を行いました。そして、友達のアドバイスを確認して、再度振り返りを記述しました。

振り返りのポイントは、事前にルーブリックを作成し、単元の始めに児童に提示することです。未来の商店街を提案するに当たり、どのような視点で発表を構成し、内容をまとめ、資料を活用していくのかを意図させました。そしてこれを教室に掲示し、子どもたちに常に評価基準として可視化し、意識させました。

ほかのグループの発表を聞くときにも、「どういった課題があり、どんな事例や提案をしたのかなどの聞くポイントが明確になり、目的意識を持って内容を聞き取る」ことを基に相互評価することで、自己省察がなされると考えています。

自己評価、他者評価を含めて再度、自らの学びを振り返る。さらにルーブリックを単元の冒頭で示すことで、進むべき方向性を子どもたち自身が認識しながら、探究的な学びを進めていけるのですね。学習者主体の授業に向けての取組がよく分かる発表でした。

実践発表を受けて

自己調整学習
教師がどこまで児童に働き掛けるのか、どう評価するのか

斉田先生、久保田先生、ぜひ今後の課題と展望についてお聞かせください。

課題は2つあります。児童が自己調整しながら学習を進められることをめざしますが、自分自身のこれまでの授業を振り返ると、児童に手立てを用意し過ぎてしまうところがあると思います。教師が児童にどこまで働き掛けていくのか、このさじ加減が難しいと感じています。

次は自己調整を行う児童をどのように評価するかということです。評価するために「児童生徒が自らの理解の状況を振り返られるような発問の工夫」や「自らの考えを記述したり話し合ったりする場面」「他者との協働を通じて自らの考えを相対化する場面」を、単元や内容のまとまりの中で設けることが必要です。教師が事前にこういった単元構想を意図しておかなければならないと感じています。

子どもたちが自らの力で進んでいけるようにどう見守り、どう手だてを講じていくのかという点がこれから問われますね。展望についてはいかがでしょうか。

学習を通して児童のメタ認知を高めていきたいです。そして協働的な学びを通じて自己を振り返って計画を修正していく自己調整スキルも身に付けさせたいです。

また、指導の個別化・学習の個性化をめざしたいと思っています。個別最適な学びの実現には児童1人ひとりに対する教師の指導の個別化が必要です。ICTの活用で1人ひとりが今行っている作業を確認することは容易であるが、それに対してアドバイスを返すことや机間指導を工夫することは難しい。また学習の個性化については、今回の実践ではめざす未来の商店街のイメージが近い児童でグループを作成しました。協働学習から学んだことをもとに、自分に合った課題、自分に合った追究の仕方で学習を進めていくことが今後のめざす姿です。これからも多様な児童を誰一人取り残すことなく公正に個別最適化された学びを実現させたいと思っています。

「学習の個性化」については、児童が自らの興味関心を深めるために、ICT「も」使っていくことがこれからも課題だと思います。だからこそ教師が子どもたちの探究的な学びの1歩でも2歩でも前に行くことが大事だと感じました。

児童の記録や振り返りのデータをどのように活用し、フィードバックできるか

私も課題は2点です。まずは、児童が残している記録や振り返りのデータをどのように活用し、分析して、児童にフィードバックしていくか、ということが目下の課題です。そして、端末で行うからこそ、振り返りの質を上げていきたいです。自分の学びをどのように高めたのか、友達からどう学んだかということが分かる児童のコメントが増えるように、現在は解析している段階です。質問項目の工夫やより詳しい評価規準を、児童にいつ提示するのかも課題に感じています。

またお話ししました通り、児童は自分のタイミングで撮影し、記録していますが、なぜそのタイミングだったのか、根拠を探っています。題材の目標や三観点と照らし合わせながら記録させ、評価できるような仕組みを作っていきたいです。

その他展望はたくさんありますが本校でも、家庭での1人1台端末の活用に挑戦しています。家でも児童が自分でどのように考えて使っていくのか、保護者と共に取り組んでいきたいと思います。

「教わる授業」から「学び取る授業」へ
教師の役割は学びの場をデザインし支援すること

1人1台端末とクラウド環境がインフラ化し、自らの学びを振り返ったり、他者の考えから学び取ったり、子どもの学びを推進する一つのツールとして活用している様子を伺うことができました。

これまでの教師が主導して学習者に何かを伝達する授業は、子どもたちにとっては「教わる授業」です。そこでの教師の至上命令は分かりやすく教えることになり、意識されるのは、知識・技能でしょう図6。ICT活用に関しては、大きく写して分かりやすく説明するだけで、子どもたちが1人1台端末を使う機会はありません。また教師が交通整理役となり、子どもたちに考える時間を保証したり、時に協働的な学びを促したりする場合でも、ICTは皆が一様の使い方になってしまいがちです。

図6「教わる授業」から「学びとる授業」へ。教師は場をデザインすることが役割になる

これからの授業は、学習の見通しを持ちつつ、ゴールを共有し、計画をも共有しながら子どもたちに学ぶ時間、そして学ぶための道具や環境を十分に保証していかなければなりません。そのなかで、子どもたちが「学びとる授業」になっていき、教師の役割は今日のお二人の発表のように、場をデザインして支援することになります。お二人の今後のさらなる取り組みを楽しみにしています。