実践レポート
実践発表レポート沖縄県西原町教育委員会

1人1台活用の日常化と子ども主体の学び

SKYMENU Cloudの日常的な活用で、授業改善、家庭学習の充実へ

『SKYMENU Cloud』をご利用いただいている全国の先生方と日々の実践のアイデアを共有することを目的に、『SKYMENU Cloud』実践セミナーをオンラインで開催しています。今回は、2022年8月9日に開催したセミナー「1人1台活用の日常化と子ども主体の学び」の中から、甲斐 崇 沖縄県西原町教育委員会指導主事(発表者)と佐藤 幸江 放送大学 客員教授(聞き手)による実践発表の内容をレポートします。

発表者

甲斐 崇指導主事

沖縄県西原町教育委員会

聞き手

佐藤 幸江 客員教授

放送大学

実践発表西原町全体で進めるタブレット端末活用の日常化

今回は沖縄県西原町における実践とともに、1人1台端末の活用促進に町としてどのように取り組まれているのかをご発表いただきます。甲斐先生、よろしくお願いします。

まずは西原町について紹介します。西原町は、人口約35,000人、琉球大学などが立地する文教の町です。小学校が4校、中学校は2校あり、児童生徒数は計約3,400名。教職員は約210名いますが、指導主事は私1人、主幹が1名という体制です。このようななかで1人1台端末の活用を進めてきました。

『SKYMENU Cloud』を導入し、現在授業をはじめとするさまざまな場面で活用を進めています。『SKYMENU Cloud』は、ユーザーインタフェースが分かりやすく、多様な機能があることが導入の決め手になりました。

1人1台端末の本格導入前は、端末を使って何ができるのか、本当に分からない状況でした。そこで2020年2月に西原東小学校で40台を先行導入。情報担当の先生のクラスに私も入って一緒に授業をするなど実証実験を重ね、本格導入後に先生方がすぐに端末を使って授業ができるよう、「ICTを活用した1時間の授業の流れ」を作成図1。もともとあった本町の授業展開に『SKYMENU Cloud』の活用を組み合わせて提案しました。この提案の根拠には、本町の学力向上推進プランがあります。そこでは授業改善の方向性として「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて1人1台端末の効果的な活用を掲げており、日常的な活用を通じて、情報活用能力の育成や学びの質を高めることもめざしています。

図1導入した1人1台端末をすぐに活用できるように作成した授業の流れ

日常的な活用の実現に向けては、1人1台端末の活用目標も設定しました。「1日1、2回は活用する」と掲げましたが、まずは「できること」からやってみること、そして端末に「たっぷり触る」時間の確保をするというところからのスタートでした。

研修と授業研究の充実で、「使ってみる」から「ならではの使い方」へ

1人1台端末の実際の運用に当たって、2021年4月に対面・オンラインの両方で導入研修を実施しました。研修は、児童が使用する端末と同じものを使い、『SKYMENU Cloud』を活用した授業のイメージが持てる内容を用意。併せて「なぜタブレット端末を使うのか」という意図や方針、方向性などもしっかり説明しました。この研修には、各学校で端末の活用促進を後押ししてもらえるように、管理職の参加を原則としました。そのほかにも、タブレットドリルや情報モラルに関する研修、講演会などを開催し、少しずつ先生方に端末活用のイメージを持っていただきました。

授業研究にも積極的に取り組んでいます。各学校で公開授業を行う際は、タブレット端末をできるだけ使っていただくように先生方に呼び掛けました。公開授業に向けて、多いときには毎週のように学校に通って授業づくりに参加。「タブレット端末を活用した授業がどうあるべきか」を先生方と共に考えてきました。こうした経験から、活用促進に向けて、私たち指導主事が先生と一緒になって授業づくりに参画する重要性を実感しています。

2021年12月の坂田小学校の5年外国語の公開授業では、『SKYMENU Cloud』を効果的に使った実践が見られました写真1。「オリジナルのピザを作ろう」という実践で、子どもたちが店員とお客さんに分かれて、英語でピザの注文をしたり、受けたりするという取り組みです。[発表ノート]でピザ生地といくつかの具材のイラストを用意して[配付]しておき、店員役の子どもがタブレット端末を操作して、お客さん役の子どもの注文どおりに具材を生地の上にのせていきました。子どもたちが端末を介しながら、楽しくコミュニケーションをしている姿が見られた大変良い授業だったと思います。

写真1オリジナルの教材を活用し、子どもたちが楽しくコミュニケーションを図る

2021年は、中学校区の先生方が集まる小中連携の授業研究会、経年研修などの場を活用し、多くの授業公開や実践の共有が行われました。そうしたなかで「まずは使ってみる」というところから、「ならでは」の活用が見えてきたように思います。授業における効果的なタブレット端末の活用が、少しずつ広がってきたように感じています。

[ポジショニング]で意見を可視化。多様な意見に触れ、自分の考えを表出

[ポジショニング]を活用した好事例もあります。今年度は5月に、6年国語「話の内容をとらえて自分の考えをまとめよう」という単元で公開授業が行われました。「授業は対面とオンラインのどちらが良いか」というテーマを設定し、子どもたちは[ポジショニング]を使って意見を出し合いました。同じ考えの子ども同士で話し合うだけでなく、[ポジショニング]で反対の意見も確認しながら自分の意見をまとめ、発表していました。[ポジショニング]により、意見を可視化することで多様な考えに触れることができ、自分の考えを表出することが苦手な児童でも自分の立場や考えを示すことができます。このような機能を使い、少しずつ学習のねらいに迫る活用が進んでいると感じています。

こうした実践を通じて、『SKYMENU Cloud』の魅力は、子どもたちの個々の思考やその変容を可視化でき、さらに共有・協働できる点にあることが見えてきました。[発表ノート]をはじめ[ポジショニング]や[画面一覧][画面比較]などの活用は、思考の見取りや比較、話し合いに有効です。また、クラス全員の状況が把握しやすく、使い込んでいくと協働制作などでの試行錯誤も容易にできるようになります。さらに、発表することに苦手意識のある子どもの意見を、先生が[画面一覧]の中からピックアップして、そこから話し合いを展開するという活用も可能になるのです。

端末の持ち帰りを実施。学校と家庭の学びの接続や自学自習に生かす

授業での活用だけでなく、本町ではタブレット端末の家庭への持ち帰りも実施しています。コロナ禍による臨時休業により昨年6月、準備の整った学校から持ち帰りを実施し、昨年8月にはすべての小中学校へ持ち帰りを指示。オンライン授業を行った学校もありました。持ち帰りには保護者の理解が欠かせません。タブレット端末の家庭での活用についてガイドラインを示したり、GIGAスクール構想についての講演会を行ったりと、保護者と連携して進められるよう、きちんと周知を図りました。

昨年度11月の算数の公開授業では、持ち帰りを踏まえた予習型の授業が行われました。次時の課題を[発表ノート]で[配付]し、家庭学習で自分の考えをまとめてから授業に臨むという、持ち帰りでの課題をベースにした授業展開です。これは、課題解決に向けた主体的な学びにつなげられる効果的な実践でした。

さらに今年度は、「自学自習」もポイントに入れ、自分なりの家庭学習に取り組ませるための研究に取り組んでいます。西原東小学校では、持ち帰りと連動させ、自分で立てた目標の達成に向けて家庭での自学自習の計画を作るという授業が行われました写真2。先生と子どもがやりとりし、事後の変容を押さえながら、1週間の自学自習の計画を作り、実行、見取りまで行いました。自宅でインターネットを使って調べ学習をするという計画を立てて、実行した子どももいたと聞いています。こちらも素晴らしい実践です。

写真2[ポジショニング]を活用して子どもたちの自学自習の現状を可視化

端末に「たっぷり触る」時間を確保。学級差、学年差、教科差の解消へ

今回はご紹介できませんでしたが、中学校でもさまざまな教科・領域でタブレット端末の活用が進んでいます。ここまでお話ししたとおり、本町では、教育委員会、先生方、保護者が共にタブレット端末を活用した学びを進めています。そして、端末活用の促進とともに授業改善にも取り組み、その一環として『SKYMENU Cloud』を用いた端末の日常的・効果的な活用が広がりつつあるところです。これにより、子どもたちが端末を活用するスキルが飛躍的に高まっていると実感しています。

まだまだ学級差、学年差、教科差があると感じているので、今後はこの解消に取り組んでいきます。そして、個別最適な学びの充実、情報活用能力の育成という視点に立った実践も進めていきたいです。今年度は、「1日2、3時間タブレット端末を使う」ことを目標として掲げていますが、まだ「たっぷり触る」時間が足りていないと感じるところもあります。情報活用能力は使わないと身に付かない部分もあるので、とにかく毎日しっかり使ってもらえるよう、引き続き町として取り組んでまいります。

実践発表を受けて

先生と一緒に授業研究。現場の不安や悩みに寄り沿い支援

ご発表ありがとうございました。西原町では、1人1台端末を日常的に活用するとともに、授業改善にも取り組まれ、さらに持ち帰りも実施しているというお話でした。端末を使う、使わないだけではなくて、一歩先んじて、端末を授業改善に役立てるものとして活用していく提案をされたわけです。「ICTを活用した1時間の流れ」を作成して、先生方に「やっていきましょう」と呼び掛けられたのだと思うのですが、先生方の反応はいかがでしたか。また、その反応に対してどのように対応されたのでしょうか。

やはり「どんなものか分からない」「どう使えばいいか分からない」という不安の声はあったので、教育委員会として、活用のイメージを持っていただけるような研修などに取り組みました。また、学校に行って先生たちと一緒に授業研究に関わったことも重要だったと思います。タブレット端末の活用の具体的な場面などをお伝えする機会になりました。

西原町には指導主事が甲斐先生お一人と伺いましたが、このように関わることにはご苦労もあったと思います。

子どもたちの力を伸ばす後押しができるので、学校に行くことは楽しいです。そして、学校に行くことで気づきも得られます。例えば、タブレット端末の活用が進んでいる学校では、休み時間にも端末を使っている子どもの姿を見かけます。授業での活用と日常での活用は車の両輪のようなものだと感じることもできました。

考えを比較したり、関連づけたり。
自分の意見との共通点や相違点を
子ども自身に考えさせる授業を。佐藤 幸江 先生

紙のノートを撮影して[提出]させ、クラスで共有することから始める

『SKYMENU Cloud』については、使いやすさや多彩な機能があるから選んだというお話がありました。発表の中でもたくさん活用している場面が出てきましたが、先生方はまずどのようなところから使い始めたのでしょうか。

最初は子どもたちに課題に取り組ませた紙のノートを撮影して[提出]させ、それを先生が画面共有して授業を構築するという使い方が多かったです写真3。先生がホワイトボードに書く手間がなくなり、使い勝手の良さを感じてもらえたのだと思います。そのうち、[ポジショニング]の活用も増えてきました。

写真3ノートにまとめた考えを[カメラ]で撮影

先ほど、「オリジナルのピザを作ろう」という実践を紹介しましたが、先生が[発表ノート]などで独自教材を作り、子どもたちに画面上で試行錯誤させるという取り組みも昨年度の後半ぐらいから徐々に見られはじめました。そのほかにも、子どもたちが課題に取り組んだ[発表ノート]を、同じグループの子ども同士で共有するという活用もされています写真4。画面上でほかの人の考えを見られることで、自分の考えと比較・検討し、考えを深められる大変効果的な活用だと思います。

写真4[グループワーク]を活用し子ども同士で考えを共有

先生が紙の代替として[発表ノート]にスライドを作って提示するという活用は多く見受けられるのですが、西原町では考えを比較したり、関連づけたりしながら授業を進められています。自分の考えとの共通点や相違点を子どもたち自身に考えさせるという授業は、素晴らしいです。

そうですね。これまでは、教師主導で、教師がピックアップした子どもの意見について考えさせるという展開が多かったと思います。それが[ポジショニング]や[提出箱]の共有などによって、クラス全員の考えに簡単に触れられるようになりました。これは大きな変化です。今後は、「すぐに共有できる」ことをベースにした授業づくりが、より一層必要になると思っています。

教師に決められた宿題から、
「自分に必要な学習は何か」と
子ども自身が考える自学自習へ。甲斐 崇 先生

子どもが自立的に学ぶ力を育むために、1人1台端末を生かしたい

「自学自習」の取り組みについてのお話もありましたが、持ち帰りを当初から想定し、家庭学習についても、子どもたちが自立的に学ぶ姿勢を育てようとしていることが見えました。なぜ自学自習に取り組まれているのでしょうか。

沖縄県では、キャリア教育の一環として自学自習ガイドを作成しています。各種調査から、沖縄県の子どもたちは、夢やなりたい自分に向けて計画を立て、具体的な行動に移すことに課題があるということが分かっています。そこで注目したのは宿題です。これまで、私たち教師は決められた宿題に取り組ませていました。これを反省し、「自分に必要な学習は何か」と子どもたち自身に考えさせる取り組みをスタートさせています写真5

写真5自学自習に取り組む子どもたち

具体的には、西原町の今年度の学力向上推進プランの中で、夢や希望、目標への見通し・計画・実践・振り返り等を通し、何のために学ぶのかを考え、成長を実感できる学習を図ることを目標に掲げました。そして今、その実現に向けて、タブレット端末をどのように効果的に活用できるのかを考えているところです。

ありがとうございます。コロナ禍での休業時に、子どもたちは自ら学ぶことに難しさを感じていることが分かりました。先生方は急きょプリントを用意するなどの対応に追われ、こうした経験が一斉伝達型の学習を見直すきっかけの一つになったのだと思います。子どもの自立的な学びの育成という課題に対し、西原町ではGIGAスクール構想を機に、授業だけでなく、家庭学習も含めて、タブレット端末を活用しながら取り組まれています。

「先生も子どもたちもタブレット端末を使うスキルが向上し、紙を端末に変えて授業をしている。しかし、授業の展開は先生がコントロールする」というところにとどまっている学校も多いのではないでしょうか。西原町で取り組まれているような、学習者主体で、個別最適な学びと協働的な学びを一体化する授業づくりはハードルが高いものです。研修やこうしたセミナーでのお話を生かしながら、授業改善に取り組み、たくさんの授業の引き出しを持っていただけたらと思います。

SKYMENU Teacher's Communityから甲斐先生の発表資料をダウンロードできます

https://www.skymenu.net/stec/