実践レポート
実践発表レポート北海道教育大学附属函館中学校 Simple is best 情報を端的にまとめる力

教師による「授業」から子ども主体の「学び」へ

『SKYMENU Cloud』をご利用いただいている全国の先生方と日々の実践のアイデアを共有することを目的に、『SKYMENU Cloud』実践セミナーをオンラインで開催しています。
今回は、2022年6月25日に開催したセミナー「Simple is best 情報を端的にまとめる力」の中から、郡司 直孝 北海道教育大学附属函館中学校 教諭と佐藤 幸江 放送大学 客員教授(聞き手)による実践発表の内容をレポートします。

発表者

郡司 直孝教諭

北海道教育大学附属函館中学校

聞き手

佐藤 幸江 客員教授

放送大学

実践発表制限の中で学びの本質を捉える

1人1台端末で、毎時間社会科の学習をプレゼンでまとめる

まず、郡司先生に実践をご発表いただきたいと思います。よろしくお願いします。

本校は、2013年度から生徒に学校所有端末を貸し出す形で1人1台の活用をスタートさせました。2017年度からは保護者が入学時にChromebook端末を購入する形に変更し、今年で6年目になります。

本校では探究的な学習の研究に取り組んでおり、1年生の1学期の総合的な学習の時間を使って、探究的な学習に必要なスキルを集中的に指導しています。具体的には、引用やプレゼンテーション(以下、プレゼン)のやり方、Chromebookの基本的な操作などです。しかし、練習を重ねたとしても、プレゼンやそのための資料を作成することは、生徒にとってとても難しいことだと感じています。

例えば、私が担当する社会科では、その時間の学習を生徒がプレゼン資料にまとめるというスタイルで授業をしています。その際、目的意識や相手意識をもってもらうために、図1のようにプレゼンをする状況を必ず設定しています。左列は資料の形態を表していて、例えば「資料の配布」とは授業で教員が配布する資料のようなものを指します。そして一番の上の行は、プレゼンをする対象を表しています。生徒に相手意識を持たせるために設定します。例えば「身近な他者」とは、友だちや家族など知っている相手。「公共の他者」は、初めて会う人やこれまでに関わりがない人。「中間の他者」とは、本校でいえば教育実習に来る大学生のような存在です。実際の授業では、「今日は、『公共の他者』に対する『資料の配布』を作りましょう」などと言って状況を指定します。

図1プレゼン資料を作成する学習活動では、状況を設定している

しかし、状況設定をするだけで、生徒が適切なプレゼン資料を作成できるわけではありません。例えば図2は、口頭発表を設定した際によく見られる生徒のスライド資料です。一見、よくまとまったスライドなのですが、口頭発表の資料としては情報量が多過ぎます。

図2生徒が「スライド」で作成した資料の例。1枚のスライドに含む情報量が多く、見た目を重視している。学びの本質を捉えられていない

また「このスライドで一番大切な内容は何ですか」と問うと、生徒はうまく答えられません。そして、口頭発表の際にはスライドの内容をすべて読み上げてしまうのです。社会科の学習としても、情報活用能力の育成としても、十分な指導ができているとはいえず、1人1台端末を活用した自身の指導を強く反省しました。

「画像1枚」「25文字以内」。[シンプルプレゼン]の“制限”で思考が深まる

そうしたときに出会ったのが、『SKYMENU Cloud』の[シンプルプレゼン]機能です。[シンプルプレゼン]で、スライドの枚数やスライドに挿入できる画像の数、入力できる文字数などに意図的に制限を与えることで、指導上の課題をクリアできると考えました。

[シンプルプレゼン]を使った授業は、次のような流れで展開しました。まず授業の冒頭で「本時の学びの中心となる部分は何だろうか」と生徒たちに問いかけます。そして私が学習内容に関する説明を行い、それを受けた生徒たちが10分間で[シンプルプレゼン]を使いその時間の学びをまとめます。その際、教員機で[シンプルプレゼン]のスライドに挿入できる画像を1枚、文字数は25文字以内といった制限を設定します。制限があることで、生徒は情報の取捨選択を迫られ、この学習の本質を考えなければならなくなるのです。また25文字以内という入力文字数の制限があることで、生徒が口頭発表する際にセリフを補って説明することを迫れます。このように[シンプルプレゼン]の仕組みを生かすことで、生徒に社会科の学習内容に迫らせつつ、情報活用能力を育成できると考えました。

図3は、2年生社会科地理「世界から見た日本の自然環境」の単元(全5時間)で取り組んだときの内容です。各時間の最後10分間で、その時間の学習内容の中核となる資料を一つ選び、説明を加える時間を取りました。生徒は、地震や火山はプレートの境目で起きやすいことを端的にまとめています。さらに単元の終末では、完成した5枚のスライドを使って、本単元の学びを振り返らせることもできました。歴史の授業でも同様の展開で実践したのですが、制限がある中で生徒たちは本当によく考えていました。

図3毎時間の学習内容を[シンプルプレゼン]でまとめる。単元の終末では振り返りに活用した

[シンプルプレゼン]を継続活用、端的に情報を表現できるように

この実践をした学年(2年生)は、この取り組みを1年間続けました。そして3年生からは、Google Workspace for Educationの「スライド」を使ってまとめさせました。図4は、卒業する直前に生徒がスライドでまとめたものです。通常のプレゼンツールでも、本質を捉え、的を絞った資料を作れるようになってきました。矢印を使った表現や、大事な部分を枠で囲んで強調するなどの工夫も見られます。もちろん、まだまだ絞れるところはあると思いますが、[シンプルプレゼン]の活用を続けたことで情報を端的に表現できるようになったと考えています。いずれにしても、このような学習活動は[シンプルプレゼン]の制限をする仕組みがなければ、取り組みにくいものです。教員が生徒の情報活用能力を鍛える場面を意図的に設定し、うまく[シンプルプレゼン]を活用してほしいと思います。

図43年生の生徒が「スライド」で作成した資料。教科の本質を考え、端的に表現する力が身に付いている

社会科の力と情報活用能力、2つの資質・能力の育成につながる

授業後、生徒にアンケートを採りました。「[シンプルプレゼン]は、あなたの学習をより良いものにしましたか」という質問に対して、99%の生徒が「とてもそう思う」「少しそう思う」と回答しました。「文字数の制限があるので、良いプレゼン資料が作れる」と具体的に理由を書いている生徒もいて、情報活用能力の育成につながっていることが伺えます。加えて「授業の内容を、もう一度振り返ることができたので復習ができた。理解が深まり、授業の中でどんな部分が大事なのかをしっかり捉えることができた」という感想もありました。教科の学びの深まりが分かる記述だと思います。こうした生徒の反応から、冒頭で課題として挙げていた、社会科の力と情報活用能力の2つを資質・能力を同時に育めた実践だと考えています。

それから私の主観ですが、生徒が私の説明(プレゼン)を見ているという感覚を強く持つようになりました。結果、私が示すスライドや資料の質も上がっていきました。加えて、この実践では生徒が[シンプルプレゼン]でまとめる時間(10分間)を、私は必ずつくらなければなりません。短い時間で端的に説明しなければいけなくなり、それも授業改善のきっかけになりました。授業改善という側面からも、生徒の力を高めることにつながったと感じています。

実践発表を受けて

健康調査や連絡など、生活面でも積極的に端末を活用

ご発表ありがとうございます。郡司先生の授業を観て、私がいつも感じるのは、先生が常に「学習者目線」で考えているということです。子どもたちにどのような学びが起きているのか、どのような力が発揮されているのかを、先生が目を配りながら授業されていると思います。

さて、北海道教育大学附属函館中学校では、もう10年近く1人1台端末の学習環境で指導されていると伺いました。この積み重ねから私たちが学ぶべきことはたくさんあると思います。端末導入の当初は、その活用について先生方からさまざまな反応があったのではないでしょうか。教員の意識がどのように変容したのかをお聞かせください。

導入当初は、本校でもさまざまな反応がありました。そのなかで1人1台端末の活用を推進してきたわけですが、授業に限らず生活面でも端末を積極的に活用したことが功を奏したと思います。例えば、健康調査の入力や学級の連絡などで積極的に端末を取り入れていきました。一方で、授業面では、道徳、総合的な学習の時間、学校行事といった複数の教員が関わる行事や場面で端末を活用するようにしました。

教員も生徒も、全員が、端末を使わざるを得ない状況をつくる。それにより、まずは生徒が使えるようになり、やがて教員がその便利さに気が付き、自ら使うようになる。そうして1人1台端末は、すぐに手放せないツールになりました。

先生方は「生徒たちがこんなふうに使えるなら自分の授業でも使ってみよう」と手応えを感じられたのでしょうか。

はい、生徒たちの姿が教員の背中を押したように思います。私は、ICTに関しては教員がすべてを理解・把握してから生徒に渡すという関わり方では上手くいかないと感じています。もちろん、大人として生徒に指導すべきことはたくさんあります。しかし、生徒の方が端末を上手に使えている場合は少なくないと思います。また、ICT活用が得意な教員ほど、詳しい生徒から教わる姿勢で取り組んでいるように思います。

それから、活用が進むと、生徒指導的な問題も発生します。そうしたときに、本校の教員は「問題が起きた」とはいわず、「問題が見えるようになった」というようにしています。おそらく、これまでにも生徒がプライベートで使っている端末で、さまざまな問題が発生していたはずです。これまでは1人1台端末がなかったために、それらの問題が見えていなかっただけだと思うのです。見えるようになったことで、生徒に指導する機会を得られたと捉えて取り組んでいます。

まず私たち教員の意識を変えなければなりませんね。

他者に学習に入ってきてもらい、
批判をしてもらう、もしくは改善案を
一緒に考えることが重要です。郡司 直孝 先生

知識注入型の授業は、そもそも知識を注入できていたのか

郡司先生の授業は知識注入型の授業とはまったく違っていて、学習者が学び取るような学習活動を展開されています。郡司先生は、どのようにしてご自身の授業を変えられたのでしょうか。

そもそも私は、知識注入型といわれる授業であったとしても、本当に生徒たちに知識を注入できているのだろうかと考えています。「注入している」と思っているのは、実は授業者である教員だけであって、聞いている生徒は、すぐに忘れてしまっているのではないでしょうか。

例えば、これは私も含めた中学校教員が陥りがちなのですが、「前の時間の続き」といえば、教員は一つしか思い浮かびません。でも、毎日たくさんの授業がある生徒たちにとっての「前の時間の続き」は無数にあります。私たち教員が思うほど、生徒は学習内容を覚えていないのではないでしょうか。

そうした状況を考えれば、教員がひたすら説明をするような授業だけで、ペーパーテストで高い点数を取れるようになる、という発想には無理があります。ですので、今は「先生が説明することだけが授業の形ではない」と考えて授業を組み立てています。

では、私が授業でまったく説明をしていないのかというと、そうではありません。必ず説明はしていますし、説明は必要だと考えています。ただ、その説明は「教科書と同じような情報源の一つとして教員を使ってもらおう」という発想で行っています。私の説明で分かる生徒はそれでいいですし、説明後のまとめる活動の時間で分かる生徒も、それでいいのです。とにかく、教員による説明だけですべての生徒に分からせようとするのは、違うのだろうと思っています。

他者との関わりにより、個別の知識を超えて概念的な知識を得る

そもそも、社会科の言葉を覚えるだけであれば、先生の説明を聞いていれば十分です。しかし、社会科の授業で情報活用能力を育成するのであれば、例えば溢れる情報の中から必要な情報を収集する際に、情報に優先順位をつけるといった力がとても大事になってきます。そうしたときに欠かせないのが、他者との関わりです。

私たち大人も「この情報は必要だ」と一度思い込んでしまうと、1人ではその考えから抜け出せなくなってしまいます。だからこそ、他者に学習に入ってきてもらい、批判をしてもらう、もしくは改善案を一緒に考えることが重要です。他者との関わりのなかで「そのような考え方もできるのか」と学んでいくのです。

そもそも、他者と共に考え、学びを深めることが、教室で学ぶことの意義だと考えています。そのような学びによって、個別の知識を超えて、概念的な知識を獲得していく。その積み重ねによって、生徒が物事を構造的に捉えられるようになると信じて、実践を重ねています。

子どもたちを信じる、大事なことですよね。先ほどのお話のなかで、[シンプルプレゼン]を使ったときに、生徒がとても深く考えていたというお話がありました。覚えた知識はすぐに忘れてしまうものです。けれども、今回の取り組みのように「収集した情報から必要な情報を選択整理・分析→解釈→表現→他者の目からの批判を検討→改善」というプロセスを[シンプルプレゼン]で考えるなかで、さまざまな知識が獲得され、知識が構造化されていったということですね。

先ほど、教員も情報源の一つであるというお話がありました。郡司先生はタブレット端末には、どのような情報源を用意していますか。

社会科では、生徒が自由に調べられるように、ポータルサイトを作っています。行政機関のWebサイトなどのリンクや、自作の読み物教材のデータを置いています。学習内容にもよりますが、基本的に授業中のインターネット検索も認めています。イヤホンを取り出し、資料映像を見ている生徒もいました。とにかく生徒が良いと思った媒体から情報を集めれば良いと考えています。

1年生の最初の段階では、とにかくインターネット検索をしようとします。インターネット上に答えがあると思っているのです。しかし2年生ぐらいになると、紙に戻ってくるのです。教科書と資料集に当たってみて、それからインターネット検索をする生徒がとても多くなる。もしかすると、さまざまな媒体の資料を用意しておくことによって、子ども自身が良いものを選ぶようになる。デジタルとアナログの情報収集力、検索力が身に付くのではないかと考えています。

情報を選択するためには、さまざまな情報源に触れて、体験することが必要なわけですね。

そうですね。実は1年生の最初は、端末を使わずに、すべて紙で情報をまとめさせています。必要な資料をカラーコピーさせて、のりで貼ってまとめるところからスタートしています。

[シンプルプレゼン]で考えるなかで、
さまざまな知識が獲得され、
知識が構造化されていく。佐藤 幸江 先生

コピー&ペーストができない、[シンプルプレゼン]。
生徒は自ら考えるように

先ほど、教員の説明が大事だとお話を伺ったのですが、生徒たちが表現をするとき、情報を収集、分析したり、まとめたりすることがあると思います。でも社会科ですので、教科書やネット上の情報をコピーしてズラズラと並べるだけでは、生徒の解釈は見られません。郡司先生はどのようにして指導されたのでしょうか。

[シンプルプレゼン]を活用した本時では、その点をあまり意識せずに指導ができていたと思います。なぜなら[シンプルプレゼン]には、入力できる文字数や画像の数に制限があるので、そもそもコピー&ペーストで情報をまとめられないからです。この仕組みがあるだけで、生徒は自ら考えなければならない状況になっていました。そうした意味では、[シンプルプレゼン]で本当に良い学習活動ができたと思います。

なるほど。[シンプルプレゼン]の仕組みをうまく使って授業をしてほしいですね。ありがとうございます。

さて、ここまで郡司先生に生徒が学び取る授業、子ども主体の授業についてお話を伺ってきました。私たち教員は、授業改善を通じて、未来の社会の土台をつくっています。私たちは、学び続け、自分の授業観や価値観を更新する必要があります。今、教員免許状の更新制度がなくなり、強制的に研修を強いられることは少なくなります。だからこそ、自ら立ち止まり、自ら機会を作って、自立的に学ぶことが大切です。ぜひ、多様な考え方に触れ、協働的に学ぶ場を校内、校外のさまざまなところで見つけてほしいと思います。

SKYMENU Teacher's Communityから郡司先生の発表資料をダウンロードできます

https://www.skymenu.net/stec/