実践レポート
小学校 図画工作児童1人1台の活用 SKYMENU Cloud 実践報告

[発表ノート]で、作品を撮影して記録
児童の意欲高まり、ねばり強く

図画工作の授業で毎時間1人1台端末を活用

久保田 智子 教諭

神戸市立若草小学校
兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科研究生

神戸市立若草小学校 久保田 智子 教諭は、図画工作科において1人1台端末や『SKYMENU Cloud』を積極的に授業に取り入れられています。毎時間、[発表ノート]と「Microsoft Forms」を利用して、学びの蓄積と振り返りを行うことで、児童の作品づくりに対する意欲が高まり、ねばり強く制作に向かう姿が見られているといいます。久保田先生に、図画工作科における1人1台端末の活用について伺いました。

3年生以上の児童は毎日端末を持ち帰る

本校は、全校児童約320名、教員約30名の学校です。平成28年に神戸市からICT活用重点推進校(3年間)の指定を受け、さまざまな環境整備が行われました。校長先生のリーダーシップの下、ICTを活用した授業づくりの研究に教職員全員で取り組んできました。

GIGAスクール構想による1人1台端末の配付は、令和3年4月に完了し、Microsoft 365や学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』を使った学習活動を進めてきました。昨年2学期から、1、2年生の児童は週末に、3年生以上の児童は、毎日家庭への端末持ち帰りをスタートさせました。児童が家で端末を開き、宿題をする。そして、充電して翌朝学校に持ってきて、端末で連絡を確認することが日常になっています。

図工室でも毎時間、児童が端末を使う

私は、令和2年コロナ禍、休校が続く中、着任しました。整った環境や先生方のICTの活用に驚きました。しかし、私自身はICTが得意ではなく、1人1台端末が導入された当時、図工室で、どのように使えばいいかわかりませんでした。

そんな時、「端末を、他の持ち物と同じように毎時間、図工室に持って来させるべき!」という助言をある同僚からもらいました。水や絵の具の付着による端末の汚損が心配でしたが、まずは図工室で使ってみることにしました。

アンケートフォームで「振り返り」をデジタル化

図工室に端末を持って来させるわけですから、1人1台端末の活用を、授業の手立ての一つとして確立させたいと考えました。そこで、アンケート作成ツール「Microsoft Forms」を使った授業の振り返りを構想しました。

振り返りを端末で行う理由はいくつかあります。一つは、児童が授業で必ず1回は端末を操作する機会を設けられるという点。

もう一つは、アンケートフォームを使えば、手で書くことに苦手意識がある児童や、声に出して意思を伝えることが難しい児童も積極的に回答できるのではないか、という点です。

取り組み始めてわかったのですが、授業の状況に応じて、柔軟に質問を変更し問い直すことができました。事前に印刷しておいた振り返りでは、できなかったことです。また、回答状況を即座に提示すると、色別で可視化されたグラフの結果は、児童にとてもよく伝わりました。全員の振り返りを、学級全体で共有し、発言を引き出したり、次時の導入の場面にも活用したりすることができるようになったのです。

▲ 「Microsoft Forms」で作成した振り返りのアンケートフォームに入力。回答結果は、まとめや次時の導入で活用している

振り返ることで、ねばり強く学習に取り組む力や、
自ら学びへと向かう力を高めたい。

子どもがねばり強く学びに向かうように

振り返りを始めてすぐに感じたのは、児童の作品づくりに対する姿勢の変化です。これまでは「もうこれでいい!」といって、作品づくりを諦める子がいたのですが、そのような反応を示す児童がほとんどいなくなりました。むしろ、自分の作品にこだわりを持って、ねばり強く取り組む様子が見られるようになりました。

また、机間指導で声掛けがしやすくなりました。前時のアンケート結果から、子ども一人ひとりの状況や考え、悩みを把握できているので、短い時間で全員の児童に的確に声を掛けられるようになったのです。

そして、これが最も大きな効果ですが、私が児童の学びをより客観的に捉えられるようになりました。紙で振り返りをしていたときは、指導や評価に私の主観が強く働いていたと思います。アンケートフォームを活用してからは、データを参考にすることで、より客観的に児童の取り組みを見られるようになったのです。

[発表ノート]に作品を記録させ、自らの学びを振り返らせたい

当初は、端末を使わせることが目的でスタートしましたが、児童の手元にいつも端末があり、いつでも使えるようにしておくことで、いつしか、端末が道具の一つになりました。アンケートフォームを使った振り返りを続け、個別にコメントを返す手法も実践しましたが、児童が毎時間、一生懸命に取り組む、大切な作品があります。毎時間の学びの過程を端末で記録させられないかと思うようになりました。

そんな時、授業中に、ある児童が「先生、とちゅうの作品を撮影していい?」と聞いてきたのです。私は、「そうだね。自分が気に入っているところを撮影して、どんどん学びの記録を残していこう」と学級全体に広げました。

記録には、[発表ノート]もしくは[シンプルプレゼン]を使うことにしました。自分の作品について「いいな」と思ったら、いつでも撮影して貼り付けるのです。とっておきの1枚を撮影したり、さまざまな角度から何枚も撮影したり、自分の判断で動画を撮影するなど、子どもたちは楽しみながら取り組んでくれました。

こうして授業中は、「いいな」と思ったときに、[発表ノート]に写真を貼り付け、ローマ字入力を習った学年は、日付や自分の想いも入力し[提出]する。授業の最後は、アンケートフォームで振り返るという活動が、図画工作の授業ルーティーンになりました。

こちらから特に声を掛けなくても、子どもが主体的に撮影して、[発表ノート]を[提出]できるようになりました。早く振り返りを入力したいのか、自ら進んでてきぱき後片づけをするようにもなりました。

図工室には、久保田先生が作成された「とろう!」「いいな!をいつでも残そう」というメッセージが掲示されている

[添削・返却]機能で、子どもの「伝えたい」気持ちを受けとめる

新しい授業ルーティーンの確立によって、私のルーティーンも変わりました。授業後に児童が[提出]した[発表ノート]一つひとつに目を通し、コメントを返したり、学級ごとにクラウド型グループウェア「Microsoft Teams」で開設している「図工チャネル」に、児童の振り返りの記述や[発表ノート]を紹介したりするようになりました。

その際、役立っているのが[発表ノート]の[提出箱]や[添削]の機能です。児童が[提出]したノートに、スタンプやコメントを添えて手早く[返却]できます。私から素早く返事がくるので、児童たちも楽しみにしているようです。

このような取り組みを行ってあらためて実感するのは、児童が自分の作品や作品づくりについて、先生や友だちに「知ってほしい」「伝えたい」という気持ちを強く持っているということです。実際、机間指導であまり会話ができなかった児童ほど、[発表ノート]や振り返りにたくさん入力してくれます。

教師の目線ではなく、子どもの目線からも学びを見とりたい

長年、図画工作の教師をしていますが、子どもの学びを見とるのは、本当に難しいことです。自分には、授業中の児童全員の学びを見とる力量がなく、以前は、デジタルカメラやビデオを使って、児童の学びを撮影して見返していました。しかし、それは「教師の目線」で切り取った情報にすぎないことに気が付きました。

ですので、今回、1人1台端末と『SKYMENU Cloud』で児童が自ら学びの過程や作品を撮影して発信できるという学習環境が実現されたことは、本当に革新的なことだと思うのです。児童の[発表ノート]や実物を確認しながら、「この子は、本当はこのように感じていたのか」「この部分にこだわりがあったのか」と、気づかされることばかりです。

すべての子どもたちに新たなチャレンジ

この取り組みを継続してきたことで「逆転現象」ともいえる状況が生まれています。これまでは図画工作の授業においても、紙の振り返りカードに文章を上手に書ける児童が目立つ傾向がありました。しかし今は、書くことや伝えることに苦手意識があった児童も[発表ノート]やアンケートフォームでさまざまな想いを発信できるようになりました。「提出箱を学習者同士で閲覧」する機能で鑑賞させた時、友だちから「すごいな!」と声をかけてもらい、その児童はとても誇らしげな表情をしていました。ICTの活用で、すべての子どもたちに新たなチャレンジの場が生まれたのです。これはとても大切なことで、私がこの取り組みを継続する一つの原動力になっています。

それから、今あらためて、「自己調整学習」の必要性が問われています。見通しをもち、ねばり強く学習に取り組む力や、自らの学びを振り返って次の学びへと向かう力が必要です。振り返りは、その力を高める1つの方法であると考えられています。私は、児童に、自分のめあてに対して、どのような学び方に挑戦したのか振り返りで問いかけ続けています。

市内で実践事例や[発表ノート]の教材ファイルの共有をスタート

このような本校の図画工作科の取り組みや児童の姿を広く共有したいと考え、神戸市のクラウド型グループウェアの中に、図画工作における1人1台端末の活用に焦点を絞ったチーム「R4年度GIGA ずこかつKOBE」を作りました。今年度、神戸市の図画工作部会の正式なチームの一つになり、役職や校種、教科を問わず、約80名が参加してくださっています。日々の授業の様子やアンケートのテンプレート、『SKYMENU Cloud』の便利な使い方などを投稿して、交流しています。

また、先日『SKYMENU Cloud』のアップデートで[発表ノートの受け渡し形式での保存]機能が搭載されました。これにより、教員間でデータの共有がしやすくなりました。早速、神戸市教育委員会が[発表ノート]の教材を共有するためのチームを開設してくださいました。今、たくさんの先生方が、さまざまに工夫を凝らした[発表ノート]を投稿されています。

▲ 「R4年度 GIGAずこかつKOBE」のチーム内では、実践アイデアや教材ファイルなどが交流されている

「SKYMENU Teacherʼs Community」有識者や全国の先生方からのコメントがモチベーションに

実践や教材の交流という点では、『SKYMENU Cloud』を活用する先生同士が交流できるコミュニティサイト「SKYMENU Teacher's Community」にも参加させていただいています。本校の図画工作の実践紹介に、北陸学院大学の村井万寿夫教授や茨城大学の小林祐紀准教授などの有識者の先生方や全国の学校の先生から多数の「いいね」やコメントをいただくことができました。休日のオンラインセミナー等で学ばせていただいている有識者の先生方から、直接コメントをいただけるとは・・・モチベーションが上がります!これからも神戸市内の先生方との交流を大切にしながら、コミュニティサイトで全国の先生方とも実践を交流し、たくさんの刺激をもらいたいと思っています。

教師が授業を楽しめているから、子どもも楽しく学習に向かえる

GIGAスクール構想によって、私の図画工作の授業は大きく変わりました。それは、これまでお話ししてきたことに限りません。例えば、[教材・作品]の[配付]機能を使えば、自作したプリント教材をカラーで児童に届けられますし、製作のヒントを[配付]すると、児童が、自分のペースで見返すことができるようになりました。欠席していて不安だった児童にも伝えられたのです。

もちろん、児童が提出した[発表ノート]や振り返りのデータを確認したり、授業準備の時間が増えたりしているのは事実です。けれども、それらを私はまったく苦に感じていません。「明日は、どんな導入にしようかな?この場面でICTを活用すれば学びが深まるのでは?」と考えると、ワクワクして、時間も忘れて教材研究に没入してしまうのです。授業をする私自身が楽しめているからこそ、子どもも楽しく学びに向かってくれているのだと思っています。

いつも、陰で端末の整備をしてくださっている先生方に感謝を忘れず、これからも挑戦していきます。

(2022年6月取材 / 2022年9月掲載)