実践レポート

小学校5年 社会米づくりのさかんな地域 SKYMENU Cloud 実践報告 「この場面」×「この機能」で「よりよい社会科の学び」を実現 [ポジショニング]機能で、教師の見取りをアップデートする

椎井 慎太郎 新潟大学附属新潟小学校 教諭

椎井 慎太郎教諭

新潟大学附属新潟小学校

教師の見取り これまでの限界

ペアトークやグループ単位での対話。よく見る日常の学びの様子である。しかし、ここで起こる対話のやりとりや、それをきっかけに促される子供の気付き、思考の変容を見取ることは思いの外難しい。あるグループにのみ焦点を定めれば、それらを見取ることはできる。しかし、同時進行に進む複数グループの対話を把握して次の指導に生かすことは至難の業である。

昨年度、5年生社会科において「森林とともに生きる」の学習を行った。そして、「森林のピンチな状況をなくすために、どうすればよいか」という課題を設定し、よりよい解決策を追究することを通して、これからの林業の在り方や森林への関わり方を考える学習を構想した。解決策を子供同士で検討する対話場面を25分程度設定した。すると、

「林業の機械化・スマート化」→「ゼロエミッション」→「私たちが木を買う・使う」→「このサイクルを森林環境教育で伝える」ことで、(中略)森林はよい方向に進んでいくと思った。

と、対話を通して子供自身が個々別々の取組を関連付ける姿を具現できた。しかし、取組同士の関係性に気付くことができなかった子供がいたことも事実である。自他の考えを検討する時間を十分に確保したにもかかわらず、一つの取組に固執した。この原因は考えの交流を子供に委ね続け、価値ある子供の気付きを捉え、全体に広げられなかった私の指導にあった。

解決策の検討を行わせる際は、この場面でこそ教師の指導性を発揮しなければならない。対話中であっても、子供の迷いや関連付ける発想を捉えることができれば…と、悔しさが残った。

このような対話場面における子供の見取りの限界は、社会科に限らず、すべての学年のすべての教科・領域において言えることだろう。対話の最中に子供が「何に気付き始めているのか」「誰がどんなことを考えているのか」など、一人一人の気付きや思考の一端を把握することは難しかった。

[ポジショニング]機能は、
思考とその変容を瞬時に可視化し、
授業者に説得力のある示唆を与えてくれる。

教師の見取りをアップデートしてくれるポジショニング

そのような悩みを抱いている時に出合った機能が、『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]機能(以下:[ポジショニング]機能)である。[ポジショニング]機能は、子供の考えの揺れ動きを可視化してくれるツールである。教師の視点で見た時、課題に対する子供の考え(立ち位置=ポジション)が、手元の教師端末でいつでも把握することができる。また、考えの変化に応じて更新されるマーカの再配置も自動記録されるため、思考の変容の過程も常に見ることができる便利な機能である。

初めて使った時の衝撃は大きかった。[ポジショニング]機能は、思考(とその変容)を瞬時に可視化し、授業者に説得力のある示唆を与えてくれる。そういう意味では、これまで職人技と言われていた教員の勘や経験則に頼っていた部分(思考の状態が分からない状況で、授業をうまく展開していく)を、誰もがしやすくするように補ってくれるツールだと強く感じた。そして、この機能を活用することによって、先述の実践の課題を乗り越えようと考えたのである。

社会科×ポジショニングでよりよい学びへ
附属新潟小式「ICT活用デザインフォーム」を用いた実践

▲ 附属新潟小式「ICT活用デザインフォーム」

附属新潟小学校では、「ICT活用デザイン フォーム」をイメージしながら、学習場面ごとにICTを意図的・効果的に活用することを全職員で意識している。

この「ICT活用デザインフォーム」は、「この場面」「この機能」「よりよい学び」という3つのキーワードを図式化したもので、ICTを活用する授業デザインを構想しやすくするフォームである。

この場面ここでICTを活用すると、子供にとってよりよい問題解決につながると構想できる場面。

この機能授業支援ソフトやアプリケーション。本校では、端末に標準搭載されているものに加え、「Google Workspace for Education」や授業支援システム、AIドリルなども活用している。

よりよい学び価値ある子供の学びのイメージ。目指す子供の姿。

このフォームを活用することによって、5年生社会科「米づくりのさかんな地域」を構想した。

実践の概要

私たちの生活に欠かせない稲作が今、高齢化や担い手の減少などに伴いピンチな状況を迎えている。このような現状を知った子供は、「農業のピンチな状況を乗り越えるために、何をすればよいか」と課題意識をもち、その改善に動き出す。よりよい解決策を追究することを通して、農業の発展をイメージしながらこれからの稲作の在り方を考える学習を構想した。

この場面社会に見られる課題の解決に向けて、「解決策はどうあればよいか」と子供同士で検討する場面を選択した。

この機能[ポジショニング]機能。課題に対する子供の考え(ポジション)や、その変化(思考の揺らぎ)をリアルタイムに可視化することができるため、子供同士で検討する場面において効果的な手立てを考えられるようになると考えた。

よりよい学び考えの差異を受け入れたり、新たな考えにふれたりすることによって、子供が最適解や納得解を追究することができると考えた。具体的には、「農業のピンチな状況を乗り越えるために、何をすればよいか」という課題に対して、「『消費者がお米を使った料理を食べる・買う』→『6次産業化の取組』の順番で農家にお金が入るしくみをつくる。その後に『スマート農業』に取り組んで、農作業を少しずつ楽にしていく」などと、複数の取組を関連付けながら、農業の課題を解決していくための方策を見いだす姿である。

授業の実際

図1絞り込まれた4つの取組

「農業のピンチな状況を乗り越えるために、何をすればよいか」という課題に対して、子供は事前に実際の取組を調査している。授業内での調査活動のほか、専門家からスマート農業の話を聞いたり、新潟市内にある農家レストランに出向き、6次産業化の取組について調査をしたりしている。子供は、様々な調査活動を通して、実社会にある課題解決に向けた取組を情報として収集した。そして、調査活動において知り得た複数の取組を4つにまで絞り込んだ図1。絞り込む前に、課題解決に向けて誰のどの取組が効果がありそうかと問うており、その結果を反映させている。

次に、誰のどの取組から始めるとよいかと問うた。すると子供は、農業の課題を解決するためにはどの取組からスタートすればよいかを考え始めた。そして、タブレット端末上の[ポジショニング]機能に初発の考えとその理由を示した図2。そして、考えに差異ができるように意図的にグループを編成した後、考えを交流する場を設定した。

図2初発のポジショニング

1対話を通して初発の考えが揺らぎ始める

対話の場面を20分設定した。「A:6次産業化の取組」「B:お米を使った料理を、食べる・買う」「C:スマート農業」「D:農家の体験イベントを開く」の4つの取組のうち、「誰の、どの取組から始めるとよいか」について、子供同士で議論を交わす。

そして、相互の関係を考えながら、途中で考えを変えたり迷ったりして初発の考えが揺らぎ始めた。

農家の体験イベントを開いた方がいいと思う。なぜなら、スマート農業と6次産業化に比べればお金がかからないから。

確かにスマート農業はお金かかるからなあ。トラクターとかは高額だから。

じゃあ、ちょっと(ポジションを)動かそう。うーん。

えっと、ちょっと位置変えて、C1さんと同じところになった。

私も位置変えて、6次産業化の取組とお米を使った料理を食べる・買うの間になった。ほぼ一緒だし、どちらもいいから。

▲ マーカを動かす姿

2先生が、1人ひとりの考えの変化を見取る

このような初発の考えが揺らぎ始める対話が、学級のあちこちで進行している。しかし、[ポジショニング]機能があれば、考えの「揺らぎ」を見取ることができる。教員機では、全員分の画面を一覧で見られるだけでなく、1人ひとりマーカの移動の軌跡を確認することができるからである。これにより、対話中であっても、子供の迷いや関連付ける発想を捉えやすくなった。

本実践の対話場面では、複数の取組を関連付ける姿を目指している。この「関連付ける思考」を見取るためには、マーカが複数の取組の間を行きつ戻りつしていることがポイントである図3。たとえ関連付ける思考を発揮している対話場面を見取れなくても、ポジショニングの画面からそれを見取ることができる、または発揮したのではないかとターゲットを絞り込むことができる。本実践では、その対話グループに身を置き、対話の続きを観察したり、ときには「ポジショニングがこう変わったのはどうして?」とさりげなく聞いたりすることで、複数の取組を関連付ける姿を把握することができた。

図3マーカの軌跡から「思考」を見取る
▲ 見取った後、対話に耳を傾ける

これまでは「対話に耳を傾けて思考の発揮を見取る」ことが当たり前であった。しかし、本実践はその逆で「ICTによって思考の発揮を仮に見取り、その実際を知るために対話に耳を傾ける」という見取り方であった。[ポジショニング]機能でこれまでの見取り方をアップデートし、対話中でも「関連付ける思考」の発揮をことができた。冒頭の限界を乗り越えた瞬間である。

3全員のマーカを重ねて表示し、価値ある考えを全体で共有する

複数の取組を関連付ける姿を見取った後は、全員のマーカを重ねて表示し、価値ある考えを全体で共有する場面を設定した。取組を関連付けている子供をすでに見取っているため、この場面では意図的な指名で進めることができた。複数の子供から出された解決策は次のとおりである。

「お米を使った料理を、食べる・買う」→「農家の体験イベントを開く」→「6次産業化の取組」→「スマート農業」

これは、稲作の発展に関わる個々別々の取組の中に順序性や優位性を見いだし、農業の課題解決に向けた方策を考えた姿である。そして、この解決策を聞いていた子供が「流れが大事!」とつぶやいた。

流れが大事ってどういうこと?

お米を食べる・買うから農家のイベント体験を開いて、農家の6次産業化を、その後…っていう流れ。

このようにして、「流れ」で効果が決まることを捉え始めた子供は2回目の対話を始めた。そして、取組の順序性や優位性を視点に、複数の取組を関連付けた解決策を多くの子供が見いだしていった。

おわりに
Education first,Technology second

「Education first,Technology second」は、GIGAスクール構想の実現を着実に進めていく中で大切にしたい指導観の一つである。直訳すれば「教育を先に、科学技術を次に」となる。つまり、「最先端のICT 機能が導入されても子供を中心に考えよう」「機能・機械を見ないで子供のことを考えよう」という指導の構えを表している。ICT活用を授業の目的とせず、子供に身に付けさせたい資質・能力があり、そのための指導の工夫の1つとしてICTを活用する、このような指導観をもつことが大切なのだと考えている。当然のことながら、ICTを取り入れたからといって授業が変わるわけではない。効果的で適切なICT活用があるから授業が変わるのである。

今回紹介した実践は、5年生社会科の解決策を検討する対話場面における子供の見取りの限界を、[ポジショニング]機能を活用することによって乗り越えることができたと実感している。

そして、「この場面×この機能=よりよい学び」というフォームを活用することによって、[ポジショニング]機能を使うことを目的とせずに、社会科で育みたい資質・能力の育成や、目指す子供像の具現につながるよう意識することができた。

[ポジショニング]機能は、子供の思考を見取りやすくしてくれる画期的なツールである。今後も、授業のねらいの具現に向けて、「どの場面」で[ポジショニング]機能を活用するのか、そしてそれが「子供のよりよい学びにつながるのか」という発想から始める効果的なICTの活用を目指した授業実践を積み重ねていきたい。

また、本校Webサイトで、本実践に関する詳細な情報を紹介している。参考にしてほしい。

(2021年11月掲載)