
映像資料で工場見学“ちくわ づくり”の工夫に迫る
[発表ノート]に毎時間の学びを記録。振り返りや試行錯誤、 考えの把握に効果GIGAスクール構想に基づき、本校でも児童1人1台端末環境での実践が可能となった。これまで1グループに1台の活用や、共有の端末で児童1人1台の活用を行ってきたが、今回の1人1台端末の整備で従来とは大きく異なる取り組みができるようになった。社会科において、「タブレット端末をノートとして活用」する実践を行った。本稿では、デジタルノートの可能性について述べたい。

福田 晃教諭
金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校
実践概要
第3学年社会科「探ろう、岩内かまぼこ店(生産の仕事)」を対象とした実践である。コロナ禍につき、児童は工場の見学はできていない。それゆえ、「Google ドライブ(以下、共有ドライブ)」に入れてある「教師が撮影してきた映像資料(写真・動画)」の情報を基に学習を進めていった。また、これまで児童は、学習課題、個人の考えや意見、学習のまとめ、振り返りなどといった学習の軌跡を個人の紙のノートに蓄積していたが、本単元ではすべてを『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]に蓄積していくこととした。
本単元の目標
岩内かまぼこ店(岩内蒲鉾店)は、明治9年(1876年)に創業した蒲鉾屋である。金沢の食文化を支え、『市民の台所』として親しまれる「近江町市場」に店を構え、昔ながらの変わらない味を守っている。
この岩内かまぼこ店におけるちくわづくりの仕事について、仕事の種類や産地の分布、仕事の工程に注目し、映像資料などで調べたりまとめたりすることを通し、生産の仕事は自分たちの生活と深い関わりがあることを理解できるようにするとともに、主体的に学習問題を追究・解決しようとする態度を養う。
単元計画 | |
1~2 | 学習問題をつくる |
3 | 予想を基に学習計画を立てる |
4~5 | 映像資料を基にちくわづくりの工程や工夫していることを調べる |
6~7 | ちくわの原料をどこから仕入れているかを調べる |
8 | 生産されたちくわの出荷先から地域との関わり(販売)について調べる |
9 | これまでの学習の中で解決できなかった疑問について調べる |
10~11 | 学習問題について分かったことをスライドにまとめる |
授業の実際
[発表ノート]による試行錯誤の促進

ちくわをつくる仕事の工程を[発表ノート]1枚に表現させた
。なお、その際には、使用できる写真の枚数を5~6枚までという条件を与えた。写真を5~6枚に限定したのは、ノートの煩雑化を防ぐことと、ちくわづくりの工程をおおまかに分類して捉えることを意図していたためである。
児童は共有ドライブにある「ちくわづくりの動画」を視聴し、[発表ノート]に貼りたいシーンのスクリーンショットを撮り、その写真を基にちくわづくりの工程を表現していく。[発表ノート]に取り上げる写真がそれぞれ異なることから、クラスの仲間がどのようにまとめているのかが気になるようであった。実際に、教師の指示ではなく、児童自らが端末を見せ合い、[発表ノート]にまとめたものを見合うという、ゆるやかな交流が行われていた
。ここでは、交流を終えて、選択する写真を変えたり、使う言葉を選び直したりする児童が多くいた。紙のノートでは、一度書いたものの修正は難しく、修正すればするほどごちゃごちゃしてしまう。「見やすいノートを作成したい」という思いをもつ子にとって、修正に対する抵抗感はかなり大きい。しかし[発表ノート]であれば、試行錯誤が容易だ。修正に対する敷居が大幅に下がる。結果的に、何度も映像資料を見直し、ちくわづくりの工程を表現し直すことにつながった。
「学習課題に立ち返る場」として[発表ノート]が機能した
紙のノートの場合、ノートに写真を貼らせる際には、教師と児童に非常に大きな労力と時間が必要であった。教師はあらかじめ撮影した写真をPCに取り込み、人数分を印刷し、配付しなければならない。さらに写真を配付された児童は、はさみで必要な写真を切り、ノートに貼っていくことになる。この作業にかかる時間はとても長い。ほかにも、「授業内容の想起」を目的として前時の板書写真をノートに貼る活動には意味を見いだせるが、前述した理由で、日常的に取り組めるものではない。
だが、タブレット端末や[発表ノート]であれば、これらの課題を容易に解決できる。これまで以上に既習事項に立ち返らせることが可能であると考えた。「探ろう、岩内かまぼこ店」に関する[発表ノート]を1つ作成させ
、毎時間新しいページを追加していった。1ページ目には学習課題を作った時間の板書を貼り、その後のページには予想や疑問を書かせた。授業のたびに自分の予想や疑問ページを見直し、予想と実際とのズレや、疑問に思っていたことが解決しているかどうかを考えさせることを意図していた。さらには、毎時間の授業の板書写真を[資料置き場]に置いておき、その時間のページに添付しておくことを行った。

これまでの自身の社会科の授業では、どうしてもその授業の中の課題で閉じてしまう傾向が強かったように思う。つまり、児童には短期的な視点しか持たせられず、単元を通した学習問題を意識させた中長期的な視点をもたせる際には、教師の発問が必要であった。
だが、本実践では、児童自らが既習事項に立ち返る姿が見られた。特に、4~9時間の授業では、予想と実際との比較や、前時で確認した内容と関連させて考えを発表する姿が見られた。なお、その際には以前のページに[マーキング]機能で「かいけつ!」などといった言葉を加えている児童もいた。
単元終了後、このことを児童に問うと、約半数の児童が既習事項の確認や今後の学習の見通しをもつために[発表ノート]を自発的に見返していたことが分かった。以下は、児童の単元終了後のアンケート調査での記述内容であるが、単一の時間の視点ではなく、中長期的な視点をもたせることに役立ったと考えられる
。[発表ノート]で学習の見返しをしたことについて
- 紙のノートだったら、ページをめくって、いちいち探さないといけない。けど、発表ノートだとノートが(内容ごとに)分かれているからすぐに開ける。
- 振り返りを書く時などに、前のページに前の時間(前時)の黒板の写真があるので、それを見ながら書けます。次に何をしなければならないのかも考えることができます。
児童アンケート
学習の見通しをもつために、
児童は[発表ノート]を自発的に見返していた
[提出]・[回収]機能による意見の把握と活用
これまで、授業前に教師が個人の考えを把握したり、授業場面で意図的に指名したりするためには、手元に必ず児童のノートがなければならなかった。当然、課題に関しての個人思考を宿題とした際には、翌朝全員にノートを提出させ、授業開始までの間に教師はすべてのノートに目を通さなければならなかった。
だが、本実践では[発表ノート]の[提出]や[回収]機能を活用することで、教師用端末さえ手元にあればいつでも児童の考えを把握することができた
。また、紙のノートを回収する時とは異なり、[発表ノート]は確実に全員の考えを回収できる。「考えを把握できない児童」は生じないというメリットもあった。
単元終了後に、紙のノートの代わりに[発表ノート]を使ったことについて、アンケート調査を行った。結果、クラスの半数の児童が[提出][回収]が便利であると回答し、
のようなコメントが寄せられた。紙のノートの代わりに[発表ノート]を使ったことについて
- 先生に紙のノートを提出してしまったら、(後から)見ようと思っても見ることができなかった。けど、発表ノートだと提出しても手元のものを見ることができるので便利です。
- 振り返りを一生懸命書いていて、うっかり(紙の)ノートを出すことを忘れることがあった。発表ノートだと、振り返りが(授業中に)間に合わなくて家で書いても、先生が回収してくれるから助かりました。
児童アンケート
アナログと同じ感覚でノートを確認できる[添削]機能
単元の途中で『SKYMENU Cloud』に[添削]機能が搭載された。児童が提出した[発表ノート]に、マーキングでコメントを添えたり、スタンプで印をつけたりして、一斉に返却できる。使ってみると、紙のノートと同じ感覚で取り組め、手間をかけず、短時間で添削から返却までを行えた。教師からすぐに反応が返ってくるので、児童も喜んでいた。
添削の際に、便利に感じたのは[比較表示]の機能だ。複数のノートを見比べながら添削できるので、紙のノートで添削する時と同じような感覚で作業ができた。むしろ、じっくりと児童の考えを確認できるので、次の授業展開を考えたり、自身の授業を振り返ることに役立った。
実は、本実践以前は、タブレット端末を紙のノート代わりに使うことについては懐疑的だった。児童から提出されたデジタルのノートを、紙のノートと同じくらいに効率的にフィードバックする方法が見当たらなかったためだ。[添削]機能の活用によって、その懸念は払拭された。今後は、ほかの教科での活用を模索したい。
実践を終えて
紙のノートの代替として、[発表ノート]を継続的に活用することで、児童の試行錯誤及び既習事項への立ち返りが促進され、児童の意見把握が容易となった。もちろん本実践は、GoogleスライドやGoogle Classroom など、ほかのアプリケーションを活用して行うことも可能だ。
しかし、同様のことをする際に、教師や児童にかかる「手間」や「負担」は、『SKYMENU Cloud』の方が限りなく少ない。この「手軽さ」が1人1台端末の日常的な活用、ひいては効果的な活用につながると考える。
もちろん、授業によってはGoogle スライドやGoogle Classroomも活用している。それぞれのアプリケーションの特性を考えて、授業の中にどのように位置付けるのか。教師が適切なツールを判断していくことが大切ではないだろうか。そして、いずれは、児童自身が活用するコンテンツやアプリケーションを自己決定できるようになってほしいと考えている。
(2021年5月掲載)