「自ら学びを自覚して進める力」を育む授業へ
「インフルエンサー教員」が他校をサポート
GIGAスクール構想以前からICT環境の整備を進め、1人1台端末や『SKYMENU』を積極的に活用してきた堺市。GIGA第2期を迎えた今、さらなる授業改善に向けて共通指針「学びのコンパス」を策定し、「自ら学びを自覚して進める力」の育成を図っています。さらに、教員が他校の教員を直接サポートする「インフルエンサー制度」を導入し、市全体での取り組みを強力に後押しされています。同市の教育DXの現状や今後めざす姿について、堺市教育センターの滝沢 知之 主任指導主事、戸ヶ崎 晋平 主任指導主事、小原 和喜 指導員にお話を伺いました。
堺市教育センター
滝沢 知之 主任指導主事
堺市教育センター
戸ヶ崎 晋平 主任指導主事
堺市教育センター
小原 和喜 指導員
ICTの環境整備や研修、教育相談を一体的に支援
滝沢氏
堺市は、大阪府の中南部に位置する人口約80万人の政令指定都市です。日本最大の古墳・仁徳天皇陵古墳があり、中世では自治都市として栄えるなど、歴史資源が豊富な環境で144校・約5万7,000人の児童生徒が学んでいます。
本市では、「ひとづくり・まなび・ゆめ」の教育理念の下、家庭や地域と連携しながら教育の充実に取り組んでいます。そのなかで、教職員の指導力・資質の向上や児童生徒、保護者への教育支援などを総合的に行っている機関が、堺市教育センターです。教育相談や関係機関との連携を担う「企画相談課」、システムや端末の整備を進める「学校ICT推進課」、授業改善に向けた研究や学習状況調査の分析を行う「能力開発課」の各課が連携しながら、さまざまな取り組みを行っています。
「変えるもの」と「変えないもの」を見極め、『SKYMENU』を継続
小原氏
堺市では、児童生徒1人1台端末の活用が進んでいます。2021~2025年度を計画期間とする「第3期未来をつくる堺教育プラン」の指標を基に成果と課題を整理したところ、子どもと教員のICT活用能力等の向上が見られました。また、「令和6年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」において、本市では86.9%の教員が「児童生徒のICT活用を指導する能力がある」と回答しており、全国平均を上回る結果となりました。
滝沢氏
ただ、これまではタイピング練習や、「ICTツールでどんな授業を行うのか」といった、端末に「慣れる・使う」ことに多くの時間を割いてきました。これからはICTを最大限活用し、「授業に端末がどう関わるか」について考え、取り組む必要があります。
2026年度からスタートした「第4期未来をつくる堺教育プラン」では、基本的視点の一つとして「教育DX」を掲げ、授業や校務、教務にICTを活用することで、子どもの学びや多様な子どもへの対応の充実を図ることとしています。
2026年2月には端末の更新を行いました。児童生徒や先生方に実施したアンケート結果を踏まえ、故障・破損が少なく、機動的で使いやすいiPadを新たに導入しました。
そして、更新と同時に『SKYMENU Cloud』を導入しました。本市では長年『SKYMENU Class』を活用していたため、子どもたちや先生方に[発表ノート]と言えば必ず伝わります。今回の更新のように、何かを変えるときには「変えるもの」と「変えないもの」をつくることが大切です。変えるものが多すぎると、またゼロからのスタートになる可能性があります。端末を変える分『SKYMENU』は継続し、より機能性の高い『SKYMENU Cloud』を整備しました。
「学びのコンパス」で、「どう学ぶか」を意識して、学びを進める子どもに
戸ヶ崎氏
GIGAスクール構想第2期を迎え、本市においてもICTを日常的に使える状態になってきたと感じています。ただ、だからこそ問い直さなければいけないのが、「子どもがどのように学ぶのか」という学習過程です。そこで、2024年度に教育センターとして「学びのコンパス」を作成しました。これは、子どもが自ら学びを自覚して進められるように学び方の一例を表したものです。
この考え方の背景には、コロナ禍で学校が休校になったときに、「自分で学びを進めていくのにどのような視点を持ったらいいのか分からない」と不安を感じた子どもたちの様子があります。その姿を見て、「もしかしたら学校では、これまで先生とともに学ぶ視点はあったけれど、子ども自身が自分に合った学び方について考えるという視点をもてていなかったのではないか」という問題意識が生まれました。だからこそ、この先変化の激しい社会を生きていく上で、子ども自身が「どう学ぶか」を意識しながら、自分で学びを進めていく力が必要だと考えました。学校だけで学びが完結するのではなく、家庭でも「こんなことを調べてみたい」「こういう方法で学べるのではないか」と、自分で学びを広げていけるような姿をめざしたいと考えています。
そのため、「学びは自分のものだ」と感じられるように、子どもと共有できる資料を作成しました。これからの授業づくりでは、子どもが自ら学びを自覚し、当事者意識を持つ視点について考えていくことが大切だと思います。
「学びのコンパス」は2024年度から発信し、この1年間は周知期間としました。子どもの学んでいる姿や取り組んでいる先生へのインタビュー動画を作成するとともに、研修などを通じて現場の先生方の意見も聞きながら、段階的に浸透していくよう努めています。
そして、こうした力を育むためには、ICT活用の意味について捉えることが大切だと考えています。環境が整った今、ICTは「使えるかどうか」ではなく、「何のために使うのか」という視点が重要です。例えば、『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]を授業で活用するとします。[ポジショニング]で思考を可視化することで、クラスみんなの考えが分かり、自分と友達の考えを比較し、思考が深まる。だから、この機能を使うのです。教職員用の「学びのコンパス」の資料の中では、このように学習活動を「動詞」で捉え、「『何のために』ICTを使うのか?」を子どもたちと共有してほしいと伝えています。ICTはあくまで手段であり、目的は子どもの学びが深まることにあります。「使えばよい」ということではなく、「使うことで何ができるようになるのか」を、教員も子どもも意識することが重要だと考えています。
インフルエンサー教員が要請のあった学校へ週1回出張し、支援
「学びのコンパス」を指針に、各校に合った伴走で授業改善へ
小原氏
こうした授業改善やICT活用を広めるために、センターとして力を入れているのが「インフルエンサー制度」です。インフルエンサーとして教員が週1回、派遣要請のあった市内の学校に出張し、伴走支援を行っています。2023年度にスタートし、本年度は過去最多の計10名が活動しています。
インフルエンサーには、「学びのコンパス」を活用した授業改善を進める「こどもの学び研究員」と、ICT活用のサポートや研修、活用相談などを担う「ICT活用推進研究員」がいます。どちらも基本的にセンターが任命する方式です。しっかり活動できるよう、所属校の管理職にはセンターから説明するとともに、教員を加配するという工夫を施しています。
インフルエンサーの先生方は年度当初、助言する際のポイントや『SKYMENU Cloud』の活用方法などを学んだ上で、6月から各校への訪問を始めています。授業改善とICT活用は一体的に充実させていく必要があるため、各校の希望に応じながら両方のインフルエンサーが出向き、さまざまな側面から助言できる環境を整えています。
戸ヶ崎氏
学校によって雰囲気も規模感も違うので、各校に合った伴走支援を行いたいと考えています。ただ、共通の視点は必要です。そこで「学びのコンパス」、つまり、「自ら学びを進める」という一つの方向性を意識した上で、各校にアドバイスしてもらっています。インフルエンサーが伴走支援することで、「基礎基本を固める」「さらに探究する」「もっとICTを活用する」というように、各校の現状に合った授業改善が進んでほしいと思っています。
滝沢氏
派遣校数は年々増加しており、2025年度は88校でした。アンケートでも、「大変勉強になった」「同じ教員の立場からアドバイスをもらえたのが良かった」といった好意的な声が多く寄せられているほか、インフルエンサーの助言によって端末の活用率が向上した学校もあります。
今、教壇に立っている教員からの助言だから共感できる
小原氏
本制度において最も大切なのは、インフルエンサーが「教員と一緒に走り、共感する存在であること」です。訪問時以外も気軽に質問できるよう、Microsoft Teams上に「堺市GIGAスクールコミュニティ」を設けました。インフルエンサーの先生方が実践を発信したり、質問にも積極的に答えたりしてくださっています。こうしたやりとりを見ていると、日々子どもたちと接しているからこそ届けられる言葉があるのだと、強く思います。
滝沢氏
また本制度は、人材育成にも効果を発揮しています。先生が成長する一番のポイントは、「授業を見ること」です。インフルエンサーは年間100時間ほど授業を参観します。これにより、助言を求められたときの「引き出し」がどんどん増えていきます。実際に彼らの姿を見ていると、これからの堺市の教育を背負う人たちが育っていると感じます。
「だって、これ(発表ノート)が一番使いやすいやんか」
滝沢氏
子どもたちや先生は『SKYMENU』に慣れ親しんでいたため、端末が変わってもスムーズに活動できたのがとても良かったです。
小原氏
先日、ある先生から伺ったエピソードが印象に残っています。ワークシート、ノート、iPadなど、どれを選んでもよい状況で「何を用いて学びますか」と聞くと、ほとんどの子どもがすぐにiPadを出し、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]を開いたそうです。理由を聞くと、「だって、これが一番使いやすいやんか」と答えたといいます。[発表ノート]は思ったことをすぐ形にしやすく、扱いやすいのだと思います。手書き文字認識の入力に対応しているため、キーボード入力に苦手意識のある子どもが使いやすいという点も、大きなメリットではないでしょうか。
また、[ライブ公開提出箱]も先生方から好評です。子どもたちが困ったりつまずいたりしたとき、友達の考えをリアルタイムに参照し、比較しながら学びを進められます。
そして、インフルエンサーの先生方を中心に活用が進んでいるのが[マインドシート]です。堺市立上野芝小学校の山口 千晶 教諭は、自校の教職員への伴走支援として、5年国語の物語文「銀色の裏地」の単元で[マインドシート]を使って登場人物の関係性をまとめる学習を提案されました。提案を受けて授業を展開した5年国語科担当の北口 誠一郎 教諭は、[ライブ公開提出箱]を使ってお互いの[マインドシート]を見られるように工夫。友達のシートからヒントを得てあらためて自分で考えた心情をつけ加える子どももいたといいます。
このような、『SKYMENU Cloud』を活用した実践事例は、先ほどご紹介した「堺市GIGAスクールコミュニティ」で共有しています。『SKYMENU Cloud』を介すことで教材の受け渡しが簡単に行えます。また、全国の先生方が授業で活用した教材をダウンロードできるWebサイト「SKYMENU Teacher’s Community Site」の活用も広がっています。
子どもたちに還元するために、先生に寄り添った支援を続ける
小原氏
ICTの活用は着実に進んでいます。すべての学校でより活用が広がるように、「インフルエンサー制度」や研修を通じて直接働きかけるミクロの視点と、市全体で考えるマクロの視点の両輪で、今後も先生方をバックアップし続けたいと思います。
滝沢氏
1人1台端末の活用により、1回の授業だけで『SKYMENU Cloud』やMicrosoft Teamsを通じて膨大なデータが出てくるようになりました。今後の課題は、子どもたちに還元するために、そのデータをどう活用するかです。各所にあるデータを集約し、先生方が授業のフィードバックや児童理解、学習支援に生かせるようにしなければなりません。そのためにどのような方法が有効なのか、模索している段階です。
戸ヶ崎氏
第4期プランの基本施策の一つに、「確かな学び」で「自ら学びを進めることができる子ども」と示されています。この方向性に合わせ、センターとして、授業改善の視点や考え方を引き続き広めていきたいです。自ら学びを進められる子どもの育成を支えるために、先生たちが活躍できる場づくりや、先生同士がつながれる仕組みづくりをこれからも続けていきたいと思います。
(2026年6月取材 / 2026年9月掲載)