教育情報化最前線
愛知県豊田市立朝日丘中学校

単元を貫く学習課題で協働的に学ぶ
“朝中型探究学習”を推進

全教科で、[発表ノート]を活用した振り返り活動を推進

愛知県豊田市立朝日丘中学校は、2023年度から豊田市教育委員会より研究指定を受け、「朝中型探究学習」に取り組まれています。全教科で組織的に推進される探究学習の取り組みや統一して実施される『SKYMENU Cloud』[発表ノート]を活用した振り返り活動について、大橋 博幸 教諭、富田 祐介 教諭、坂本 晃伸 教諭、石川 兼也 教諭にお話を伺いました。 (2025年8月取材)

愛知県豊田市立朝日丘中学校

大橋 博幸
教諭(教務主任、外国語)

愛知県豊田市立朝日丘中学校

富田 祐介
教諭(理科)

愛知県豊田市立朝日丘中学校

坂本 晃伸
教諭(研究主任、理科)

愛知県豊田市立朝日丘中学校

石川 兼也
教諭(体育)

協働的に探究する生徒の育成をめざし、「朝中型探究学習」を構想

大橋先生

本校は、豊田市の中心部に位置し、生徒数850名と市内で最も大きい規模です。近隣には博物館や美術館などの文化施設も充実しており、恵まれた学習環境にあります。2023年度から豊田市教育委員会より「学習指導」に関する研究指定を受け、「探究学習」と「サードプレイス(博物館や美術館、地域の人・もの・こと)の活用」の2つをキーワードに、全校一丸となって研究を進めています。

坂本先生

研究主題は「協働的に探究する生徒~未来を切り拓く力を育む『朝中型探究学習』を通して~」としました。これは中央教育審議会の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」を強く意識しました。知識伝達型の授業から、生徒が仲間と話し合ったり、さまざまな教育資源を使ったりしながら主体的に学んでいく授業へ、そして生徒が目的意識をもって課題解決していく探究的な授業へ。全教員が、子どもたちが未来を切り拓く力をつけるための「朝中型探究学習」の実現をめざすことを共有しています。
 「朝中型探究学習」では図1のように4つの支援を掲げました。例えば「①『出会い→習得→活用』の段階を明確にした単元構成」については、「出会い」の段階では、「探究課題(単元を貫く課題)」を設定します。課題は、生徒の身近なところや生徒の願いを基に設定し、生徒自身が必要感や「~したい」という探究意欲がもてるようにします。
課題を解決していくなかで、生徒たちは知識や技能を習得する必要感をもちます。そこで「習得」の段階では、教科書やデジタルドリルを使い、学ぶ必然性をもたせながら授業を展開します。
そして最後の「活用」の段階では、生徒が習得した知識・技能を使い、各教科の見方・考え方を働かせて、課題を解決したり、単元を通して構築した想いを他者に表現したりします。
このとき、「②『個の探究』と『集団の探究』の保障」にあるように、個で探究してきた思いや考えを基に、協働的な話し合いができるように授業を展開し、学びが深化するように支援します。

▲【図1】未来を切り拓く力を育む「朝中型探究学習」の4つの支援

[発表ノート]を活用した「振り返り」を、全教科で統一

坂本先生

「③学びを整理する『振り返り』の統一」については、全教科の授業で[発表ノート]を活用した振り返りを行っています。終末の7分間を使い、そのうちの5分間で個々に振り返りを記述し、残った2分間で全体共有します。
探究の過程において、生徒は個々に探究を進めます。終末に振り返りシートを書くことで、本時で分かったことや次の時間で取り組むことが整理でき、自ら学びを調整できるのです。そして、その内容を教員が見取り、次の授業の支援の方向性や教材準備などを考えています。

富田先生

図2が振り返りシートの内容です。「学びの整理」という項目を設け、「分かった」「広がった」「つながった」「深まった」という4つの観点を示しているのが大きな特徴です。生徒は該当する観点に◯をつけます。観点を示すことで、生徒が自分の学びを客観的に見直し、言語化できるようにしています。[提出箱]などで、教師が振り返りを見取る際にも、学級の傾向を視覚的につかみやすいというメリットもあります図3
また「印象に残った言葉」という欄を設け、教科のポイントが押さえられているかどうかを確認しています。
振り返りに関して、生徒にアンケート調査をしたところ、好意的な回答が多く得られています。「[ライブ公開提出箱]で友達の意見を参考にできて良い」「友達の振り返りが見られるので、授業の内容を深められる」といった回答が多く、7割くらいの生徒が友達の振り返りを参考にしていることが分かっています。

▲【図2】[発表ノート]で作成された「振り返りシート」
▲【図3】[提出箱]や[ライブ公開提出箱]で教員も生徒も振り返りを参照している

「振り返るべき価値のある授業」でなければ、振り返りは生きない

石川先生

生徒が振り返りを記述している間、教員は[ライブ公開提出箱]で、個々に入力している段階から見取っています。振り返りの中に、本時の落としどころにしたい内容があれば、意図的な指名を行います。また振り返りを次の授業の導入で生かしたいというときは、放課後にチェックしています。

坂本先生

[ライブ公開提出箱]を使えば、教員も生徒も簡単に他者参照ができるので重宝しています。振り返りは、基本的に授業中に入力しますが、探究にのめり込んでいる生徒ほど家に帰ってからも編集している様子が見られます。友達の振り返りを参考にして書き加えたり、家で疑問に思ったことを調べ、それを書き加えたりするのです。そのため、振り返りシートの提出期間を長めにとっています。

大橋先生

振り返るべき価値のある授業でなければ、振り返りは生きません。知識伝達の授業であれば、おそらく生徒は「~が分かりました」しか振り返りを書けません。もちろん、そのような指導も必要なので、その際は振り返りを書かなくてもよいことにしています。「出会い→習得→活用」「『個の探究』と『集団の探究』の保障」、これらが授業の中にあるからこそ、振り返る価値がある学びになります。振り返りは、自分の思考を整理する時間として有効であり、探究に欠かせない活動です。

富田先生

これまで「学んだことを生徒がどう活用できるか」「生活とどうつなげるか」を考え、試行錯誤しながら授業改善を進めてきました。生徒の振り返りを見ると、学んだことが既習事項や日々の生活とつながり、そして新たな疑問が芽生えるという姿が見られるようになってきました。本校の研究成果を感じています。
また、授業改善の過程で、教員が自ら化石を採掘したり、学芸員から話を聞いたりして探究を経験する場面が増えました。結果、「この単元でここまで深い学びができるのか」と新たな気づきを得られ、教材観、授業観が変わるきっかけとなりました。教材研究は大変なのですが、「探究の楽しさを生徒に伝えたい」という想いが、私たちの授業づくりの原動力になっています。

探究的な学びを支える『SKYMENU Cloud』の活用

外国語 習得した英語表現を[発表ノート]に蓄積し、終末の交流で活用

大橋先生

外国語では、外国の方に伝える、交流することを単元のゴールとし、「出会い→習得→活用」の流れで指導しています。例えば、先日は当市の複数のALTに協力してもらい、「お互いの国のお薦めスポットを紹介し合う」という探究課題を設定しました。
「出会い」では、あらかじめ撮影しておいたALTの自国紹介の動画を使い、生徒が交流したい相手を選ぶことができるようにしました。その際、[Webリンク]機能でALT一人ひとりの写真に、動画URLのリンクを挿入した[発表ノート]を配付し、生徒が知りたい国や交流したいALTを選びやすくしました。
こうして生徒が目的意識をもってから、「習得」の段階へ進みます。教科書を活用しながら、例えば接続詞whenを学ぶ単元では「whenを使って、お薦めの食べ物を伝えよう!」と投げかけます。生徒は、学んだ表現を使って[発表ノート]に紹介する文章を書いていきます図4左。さらに次の時間では、ifを使ってまた新しい文章を考えます。こうして習得した英語表現が[発表ノート]にどんどん蓄積されていくのです。
最後の「活用」の段階、つまりALTの方に紹介する際は、[発表ノート]に蓄積した英語表現に加筆、修正して内容を作っていきます。例えば、図4右のような[発表ノート]を使い、お薦めのローカルフードを紹介する文章に、材料・トッピング、味・食感などの情報が含まれているかを分析。足りない表現があれば、[発表ノート]に蓄積された表現で改善をかけます。[発表ノート]は、手書きと比べて容易に文章の修正・追加ができるので、生徒は積極的に取り組むことができました。

▲【図4】(左)習得:終末の交流を見据えwhenを使った表現を考える (右)活用:英文を分析し、習得・蓄積した英語表現で改善

理科 ページを結合し、単元の学びを一つの[発表ノート]に集約

富田先生

2年生物分野の単元「生物のからだのつくりとはたらき」では、人体の仕組みを扱いました。「出会い」の段階では、博物館の剥製を見比べて、動物の共通点、相違点に着目させました。
習得の段階では、教科書の内容を押さえつつ、「人の血液量はどのくらいか」「血管をすべてつなげるとどのくらいの長さになるか」といった問いを投げかけました。生徒が調べると「地球を2周半するほどの長さになる」というデータが出てきて、「そんなに長いの?」と驚きの声が上がりました。
そして、毎時間[発表ノート]を配付し、そこに学んだ「人の体の特徴」を整理していきます図5。その際、生徒は[ノートの結合]機能を活用して、毎時間の記録を一つの[発表ノート]にまとめていきます。これにより学習の流れを俯瞰できるようになります。
単元のまとめ、つまり「活用」の場面では、地元豊田市の名産であるアユの解剖を実施しました。生徒は、「人とアユの体を比較する」という視点をもった上で、構造の共通点・相違点を記録し、「アユはどんな生き抜き術をもっているのだろうか」を考察しました。
探究した内容を、一つの単元の中で一貫して[発表ノート]にまとめていく活用がスタンダードになっています。

▲【図5】(左)習得:人体の特徴を調べまとめる(右)活用:人とアユの体の共通点・相違点を比較して考える

理科 [発表ノート]に「個の探究」をまとめて共有し、「集団の探究」へ

坂本先生

1年地学分野「大地のつくり」で、地域の地質に着目した探究学習を行いました。最初の「出会い」では、豊田市博物館を訪問。展示されている花こう岩や、風化と堆積によって形成された地層の標本を見学し、生徒は「足元にこんな地層が広がっているの?」「どうやってできたの?」と疑問を抱きました図6
そこから「豊田の大地に秘められた歴史を解き明かそう」という探究課題を設定。「習得」の段階では、教科書を用いて火成岩や地層の基礎知識を学んだ上で、博物館や図書館から郷土資料を借りて学習を進めました。生徒たちと花こう岩の隆起や風化という大地の変遷を、年表と照らし合わせながら追っていきました。
生徒たちは、単元を通じて学んだことや気づきを[発表ノート]にまとめており、「活用」の段階では、「日本列島と豊田市域の大地の形成」「猿投山と矢作川のでき方」など、それぞれ自分の興味に応じたテーマで探究を進めました。さらに、[ライブ公開提出箱]や[グループワーク]などを活用して、個の探究を集団の探究の場で伝え合うことで探究していたことがつながり、豊田の大地の成り立ちを解き明かす探究の授業になりました。
最近取り組んだ2年化学分野の学習では、探究課題「ホットケーキがふっくら膨らむしくみを科学的に解き明かそう」を立て、ホットケーキの原料に着目して探究しました。どの原料をどのくらい混ぜる、もしくは抜いたら、どのようなホットケーキになるのか。膨らむ様子を動画撮影して[発表ノート]に挿入し、分かりやすくまとめていました図7

▲【図6】 出会い:博物館での気づきを写真とテキストでまとめた
▲【図7】 個の探究:原料による膨らみの違いを動画とテキストでまとめた

体育 [発表ノート]で作戦を可視化し、議論。全員参加で探究

石川先生

体育では、学びの「出会い」を遊びから始めることもあります。今回は、鬼ごっこにルールを加えた、「スポーツタグ鬼」に取り組みました。YouTube動画で、スポーツ鬼ごっこの映像を見せ、活動への興味を高めました。そして、タグラグビーのように腰にひもを付けて、「タグをとられたらタッチとする」というルールを設定しました。体力差に関係なく誰もが前向きに参加できるよう、戦術を工夫することを重視し、単元目標を「勝つために、どんな作戦が有効だろう?」と設定しました。
「習得」の段階では、まずは、勝つために有効な作戦について個人で考え、[発表ノート]で作成した「作戦ボード」で作戦を可視化。それをグループ内で発表し合い、最終的にはチーム全体で作戦を組み立てました図8
「活用」の段階、つまりゲームの前には、「立てた作戦を試してみよう」と目的を明確化。その結果、相手チームによって作戦の有効性が異なることや、自分たちには合わなかったことに気づく経験が生まれました。そして作戦を見直すという、「習得」と「活用」の往復を自然に行っていきました。
このプロセスの中で、自分たちのチームの良さに気づいたり、「できた」という達成感を得たりする姿も多く見られました。作戦という観点から突き詰めていくことで、すべての生徒が主体的に参加できる体育の授業となりました。

▲【図8】 習得:個人で作戦を考え「作戦ボード」で可視化。グループ内で作戦を持ち寄り話し合った

4つの支援部会で、全教科の探究学習を支える

石川先生

体育は、人の動きや起こった事象を言語化する必要があるため、そもそもまとめや振り返りが難しい教科です。最初は振り返りの入力に時間がかかっていましたが、年々、入力するスピードは速くなっています。
また、誰かに伝えようという視点をもって表現する生徒が多くなり、振り返りの質も高まっています。これは全教科で振り返りを行うことで、言語化する力が鍛えられているからこそだと思います。

大橋先生

全教科で取り組んでいることは大きいですね。先日、体育館で100名ほどの教員が参加する研究授業を行いました。2年生の生徒たちは堂々と英語で発表や話し合いをしていて、成長を感じました。協議会では、他校の教員から「生徒のリアクションがとても良いですね」とお褒めの言葉をいただきました。これも日々の教科指導のなかで、話し合いの活動を取り入れたり、聞き手の姿勢を意識させたりしているからですね。

坂本先生

確かに「話し合ってごらん」と言うと自然に対話が始まり、その後の発問では手がたくさん挙がります。これは、全教科での取り組みに加えて、「朝中わくわくタイム(朝の学活での話し合い活動)」を継続してきた成果でもあると思います。本校の教員のファシリテーション力が高まっていることも一つの要因かもしれません。

富田先生

そこは授業支援部会が果たした役割が大きいと思います。本校には「学びの支援部会」「話し合い支援部会」「ICT支援部会」「振り返り支援部会」という4つの授業支援部会が組織されています。それぞれを担当の教員が責任をもって運営しており、組織が一丸となって探究的な学びを推進しています。
探究のベースとなる部分を全校統一でしっかりと押さえられているのが強みだと思います。

「朝中型探究学習」をさらに発展させる「次の一手」を考えたい

石川先生

本校に来てから、私の授業観は大きく変わりました。それぞれのスポーツの特性や楽しさをどのようにして生徒に感じさせられるかと、教科の学びを深めるための授業づくりに意識を向けられるようになりました。
今後に向けては、道徳の授業において[発表ノート]をはじめ[ポジショニング][気づきメモ]を効果的に活用して、思考を深める話し合いを実現したいと考えています。学年共通で行うので、先生方が指導しやすい活用方法を見いだしたいと考えています。

坂本先生

今はまだ端末や[発表ノート]に加えて、紙のプリントに重要なキーワードを書かせて、知識の習得を図っています。しかし、これまでの本校の研究成果から[発表ノート]などのデジタルを中心にしても十分に知識の習得は図れると考えています。まずは[発表ノート]を中心とした授業を展開していきたいと思います。

富田先生

私は[発表ノート]に加えて、実験時の記録の共有を目的に[気づきメモ]の活用に挑戦しています。[グループメモ]でつながれば、全班の結果をすぐに共有できるので、結果から考察へとスムーズに移行でき、時間短縮につながっています。
今後は、生徒同士が気づきを共有し、自ら学びをつなげていく授業をめざしたいと思っています。私は、ファシリテーターとして生徒の支援をしつつ、教科の学力を着実につけられる指導ができるようになりたいです。

大橋先生

本校の研究成果を参考にしてくださり、「探究学習をスタートさせた」「[発表ノート]の振り返りシートをそのまま使っている」といったお話をいくつか頂戴しています。これまでの私どもの研究成果が横に広がりはじめており、手応えを感じています。今後は、ここまで築き上げた「朝中型探究学習」を、どのようにアップデートしていくのかが課題です。子どもたちが未来を切り拓くための力を育む、そのために必要な「次の一手」をみんなで考えたいと思っています。

(2025年11月掲載)