教育情報化最前線
千葉県習志野市教育委員会 GIGA第2期に『SKYMENU Cloud』を市内全小・中学校に導入

思考の可視化、共有による対話の充実で、より質の高い学びへ

1人1台端末の活用が定着しつつある千葉県習志野市。さらなる学びの質的な向上をめざし、GIGAスクール構想第2期において学習者支援ツール『SKYMENU Cloud』を新たに導入。運用開始から約2か月で活用が広がりを見せています。千葉県習志野市総合教育センターの白神 和幸 係長、肥田 史宣 指導主事に導入の経緯やめざす教育の姿についてお話しいただきました。

千葉県習志野市総合教育センター

白神 和幸係長

千葉県習志野市総合教育センター

肥田 史宣指導主事

「ICTマイスター」と協力し、市全体のICT活用、情報教育を底上げ

習志野市は、千葉県北西部、東京から30km圏内に位置する都市です。市内には小学校16校、中学校7校があり、教職員数は748名、児童生徒数は1万2,787名に上ります。

習志野市総合教育センターは、「学力に関する調査・研究」「教職員の研修」「情報教育の推進」などを通じて、教育の質の向上に取り組む専門機関です。これらの役割の中で私たちは情報教育の推進を担当し、ICT環境の整備、情報教育に関する学習指導・教材開発および研修といったICTに関わる役割を担っています。

情報教育とICT活用の推進においては、「学び方改革」「教え方改革」「働き方改革」の三本柱に基づく取り組みを行っています。これらの取り組みを通じて、探究的で深い学びにつながる授業づくりや、児童生徒を「授業の主語」として捉える授業スタイルの構築、校務のDX化をめざしています。

ICT活用のリーダーとなる人材を育成するICTマイスター研修
写真1ICT活用のリーダーとなる人材を育成するICTマイスター研修

そのほか特徴的なのが、これらの取り組みを推進していく立場として、育成を進めている「ICTマイスター」制度です。ICTマイスターはICTを活用した授業改善に向けて先進的な実践を行うことをはじめ、日常的にICT活用で困っている教員をフォローしたり、ICTマイスターが集まって行う研修の内容を校内に展開したりと、ICT活用の推進をリードする役割を担っています。夏の研修では、市内の先生方に自身の実践事例を発表する機会も設けています。写真1

ICTマイスターは、各学校から年に1名、管理職の推薦によって選出されています。情報担当である必要はなく、ICTの得意・不得意も問いません。重視しているのは、「もっと授業を良くしたい」という高い意欲です。この制度は今年度で5年目を迎え、現在では約90名のICTマイスターが市内外で活躍しています。

「スムーズな授業進行」
「充実した話し合い」
「意見集約の効率化」を実現したい

GIGAスクール構想第1期では、児童生徒が1人1台端末の利便性を実感し、学習活動の幅が広がった点が成果として挙げられます。学校現場において、端末を活用することが定着しつつあり、授業内でICTを使うことが自然なこととして受け入れられるようになってきました。

GIGA第1期において、「まずはとにかく端末を使う」という意識で取り組んできました。活用に慣れてきたからこそ、第2期では「効果的な活用」へとステップアップすることが必要でした。

その実現のためには、学習環境をあらためて見直す必要があると考えました。第1期では、ワープロソフトや表計算ソフト、プレゼンテーションソフトなどの学習用ツールを活用して、情報共有や課題の提出を行っていました。しかし、特に小学校低学年の児童にとっては、さまざまなツールを動かすための操作が難しかったように思います。そのため、スムーズな授業進行、話し合いや意見の集約が難しく、深い活用にはつながりにくいという点が課題でした。

第2期において、「効果的な活用」、つまり児童生徒の思考力や表現力、協働性を高め、教科指導の本質に迫るICT活用を実現するためには、すべての教員が前向きにICT活用に取り組める環境づくりが欠かせない要素でした。

児童生徒の考えを可視化・共有し、より双方向性のある授業に

こうした第1期での課題を解決するために、導入したのが『SKYMENU Cloud』です。児童生徒の意見を可視化・共有できるさまざまな機能があり、教員と児童生徒、または児童生徒同士の双方向のコミュニケーションや主体的な学びを促す授業づくりに役立つツールだと期待しました。

導入に当たり昨年度、試用期間を3か月間設け、複数のICTマイスターに活用してもらいました。教員も児童生徒もその利便性をすぐに実感できたと思います。例えば[ライブ公開提出箱]により、クラス全員の意見や思考を可視化・共有できるようになったことで、算数の授業では、これまで手が止まりがちだった子も、友達の考えを参考にしながら答えにたどり着けるようになりました。さらに発展させれば、自分の端末から友達の解き方を確認し、疑問があれば自ら席まで聞きに行くことも可能です。

子どもたちはすぐに操作に慣れ、[発表ノート]で作った教材を期待するようになりました。ICTマイスターからも、操作が直感的で分かりやすく、「ICTに苦手意識のある教員でもすぐに授業で活用できるのでは」という声がありました。

考えを可視化・共有できる機能を活用することで、教員からの一方通行の授業ではなく、より多くの児童生徒の意見を引き出すことができます。学びの質の向上につなげられるのではないかと考え、採用を決めました。

[画面一覧][ポジショニング]で、多様な考えを共有し、話し合いを深める

『SKYMENU Cloud』の活用が本格的に始まると、すぐに授業に変化が見られました。教員が[画面一覧]を活用して手元の端末でクラス全体の考えを把握できるようになったことで、普段発言しない子の意見にも視点を当てることができるようになったのです。これまでは、自ら手を挙げて発言する子の意見を中心に授業が進行することがありましたが、児童生徒の考えが可視化されることで、より多くの子にスポットを当てることができるようになったと感じています。また、考えを可視化できることは、誰一人取り残さない授業を具現化するためにも重要なポイントです。

さらに、道徳の授業では[ポジショニング]機能が活用されています 写真2。この機能は、自分の意見や立場を画面上にマーカで示すとともに、その理由をコメントとして入力できます。ある授業では、子どもが友達のコメントを読んだ上で「もっと詳しく話を聞きたい」と自ら質問を投げ掛け、その発言をきっかけにクラス全体の話し合いが深まっていきました。

写真2[ポジショニング]の画面(写真右)。友達の考えや自分との意見の違いを確認しながら話し合う

まさに子ども主体の授業であり、この授業を見て、教員の役割が授業を主導するのではなく、子どもたちの話し合いを整理したり、困ったときに解決の糸口を与えたりする「コーディネーター」へと変化しつつあると実感できました。

『SKYMENU Cloud』の導入により、端末の活用が、単なる「つけ足し」ではなく、「授業の中心的な手段」として位置づけられるようになってきました。導入からわずか約2か月でこうした変化が見られ、市内の多くの学校で端末活用の機会が明確に増加し、授業全体のICT活用が着実に底上げされていると感じています。

「SKYMENU Teacher’s Community」で、自らの実践を発信

GIGA第2期においては、学習環境の整備だけでなく、教員の指導力向上の重要性も増しています。

現在、デジタル機器やツールを授業の中で活用するために、校内の先生の好事例を参考にする「模倣」からの学びが広がっていると考えています。模倣は、教員のICT活用に対する心理的ハードルを下げ、授業改善の第一歩として大きな意義がありますが、今後は、自分なりの実践を「創造」し、さらに「発信」へと授業改善のステージを進めていくことが重要です。

人に多様性があるように、教員にもそれぞれの授業スタイルや教育観があります。ベテラン教員の手法をなぞるだけではなく、自らの実践を創り出し、発信し、他者からのフィードバックを通じて学び続けることは、教員のやりがいにもつながると思います。

そこで注目したのが、全国の教員が授業で活用した教材や実践事例を投稿・閲覧できるWebサイト「SKYMENU Teacher’s Community Site(以下コミュニティサイト)」です。これを活用することで、指導力の向上やICT活用の推進に役立てられます。

例えば、まずはコミュニティサイトに投稿された教材を模倣する。その上で、子どもたちの実態に合わせて教材を自分なりにアレンジする。こういった経験を積み重ねていくことで、教材研究の深化や自分なりの実践の創造につながっていくと考えました。

コミュニティサイトに授業実践を5回以上投稿するなど一定の条件を満たすと、「SKYMENU エキスパートTeacher」として認定されます。本市では、この認定取得をICTマイスターの一つの目標として示しています。ICTマイスターの多くの先生方が、コミュニティサイトに実践を教材と共に投稿しており、55件の投稿(8月18日時点)があることから、先生方が積極的に授業を創造、発信している様子が見受けられます。図1

図1ICTマイスターの教員が、コミュニティサイトに実践や[発表ノート]教材を投稿し、自身の授業を発信

投稿に当たって実践内容をまとめる過程で、次の授業づくりに生かせる気づきがあるはずです。さらに、投稿した実践に対して、外部の先生から評価のコメントが寄せられると、教員の刺激になり、授業改善への意欲の向上にもつながると思います。こうした取り組みが「実践力」と「発信力」の両方を備えた教員の育成に大きく寄与すると感じています。そして、そうした教員が校内外でリーダーシップを発揮していくことで、地域全体の教育力向上につながっていくのだと期待しています。図2

図2コミュニティサイトに投稿した記事に寄せられるコメントが先生方の励みに

まずは、コミュニティサイトを活用して授業改善に取り組み、そして、今度は自分の実践を投稿し、他者と共有、評価を受ける。こうした学びの好循環が生まれることをめざしています。

授業を磨き上げる文化を広げ、より多くの教員を“授業の発信者”に

本市では今後、先生方や子どもたちが『SKYMENU Cloud』をより日常的に活用できるよう、環境整備と支援の両面から取り組みを一層強化していく方針です。ほかの児童生徒の考えを共有したり、比較したりできる環境が整ったので、これを生かしながら、子どもたちが分かる授業、楽しい授業につながる効果的な活用方法を、ICTマイスターの先生方と共に広げていきたいと思います。

先述のとおり、先生方が実践者にとどまらず、その成果や工夫を全国に発信する“授業の発信者”として活躍していくことも、本市が注力する重要なポイントです。コミュニティサイトなど、あらゆる機会で自らの実践を発信し、教員同士が学び合い、授業を磨き上げていく。そうした文化が広がることで、授業の質がより一層高まり、本市の子どもたちへと返っていくものと考えています。

(2025年8月取材 / 2025年11月掲載)