
小中一貫教育の連続性、系統性で、自ら学びを調整する子どもを育む
『SKYMENU Cloud』が、情報活用能力を育む土台に茨城県那珂市は、2015年より学園制を取り入れ、小中一貫教育を推進されています。GIGAスクール構想によって整備された端末の活用や情報教育の推進にも、小・中学校が一体となって連携しながら歩みを進めてきた点が大きな特徴です。同市の教育情報化の現状について、富樫 大輔 茨城県那珂市教育委員会 指導主事に伺うとともに、小・中学校における指導の実際と『SKYMENU Cloud』の活用について伊藤 智之 青遙学園那珂市立額田小学校 教諭と飯島 葵 ばら野学園那珂市立菅谷西小学校 教諭に伺いました。(2025年6月取材)

茨城県那珂市教育委員会
富樫 大輔指導主事

青遙学園那珂市立額田小学校
伊藤 智之教諭
(前:ばら野学園那珂市立第一中学校 教諭)

ばら野学園那珂市立菅谷西小学校
飯島 葵教諭
小中一貫教育で進める授業改善、1人1台活用の推進
富樫
指導主事
那珂市は、茨城県内に位置する人口約5万人の中規模自治体です。市内には小学校9校、中学校5校が設置されており、約4,000名の児童生徒が学んでいます。
当市では、中学校区ごとに5つの「学園」を編成し、小中一貫教育を展開している点が大きな特色です。この取り組みは本年度で11年目を迎え、小・中学校間の連携は年々深化しています。
この一貫教育の連続性と系統性を土台に、「那珂市 EdTechプラン」を策定しました。個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図るとともに、探究的な学びの実現をめざし、デジタル学習基盤や生成AIの導入・活用を積極的に進めています。
また、1人1台端末の活用もすでに「日常化」の段階を越え、現在はその質をいかに高めていくかが大きなテーマとなっています。
今回は、ばら野学園の飯島先生と、昨年度ばら野学園でご指導されていた伊藤先生にご登場いただき、那珂市の実践の全体像をご紹介します。
1年生が表現方法を自ら考え、選択できるように
飯島先生
私は今年度を含めて、4年連続で小学校1年生の担任を務めています。日々の指導では、児童が「ICTを表現の選択肢の一つとして活用できる力」を自然に身につけられるよう心掛けています。児童から「端末を使ってもいいですか?」という声が自然に上がるような姿をめざしています。
もちろん、1年生が端末を扱えるようになるまでには一定の指導が必要です。しかし、昨年度の児童たちは、3学期の生活科「もうすぐ二ねんせい」の授業において、紙やICTといった表現手段の中から、自分に合った発表方法を主体的に選び、堂々と表現してくれました。
発表のテーマは「1年間でできるようになったこと」。縄跳びができるようになったことを動画で紹介した児童は、「実際に跳んでいる様子を見せたい。でも、みんなの前で実演するのはちょっと緊張するから、あらかじめ動画を撮って発表しよう」と、自分なりに考えて表現方法を決めていました。中には、絵や写真を組み合わせて発表する児童もおり、それぞれがICTを“伝える手段の一つ”として捉え、聞き手に最も分かりやすく伝わる方法を自分なりに考えて工夫していました。
また授業以外でも、係活動の一環として、学級の問題(課題)を解決すべく児童の発案で のようなポスターを『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]で作成しました。「給食の時間をスムーズに始めるには何を伝えればよいか」と子どもたちは考え、写真やスタンプなどの機能を使いながら、自分たちの言葉で工夫を凝らしていました。完成したポスターの掲示場所も、子どもたち自身が話し合って決めました。ポスターを作り、その効果を実感することで係活動への意欲がさらに高まりました。

富樫
指導主事
係活動は、学級をより良くしていくための大切な自治的活動です。このポスターには、給食をスムーズに始めるために「何をどう伝えるか」を、児童が主体的に考え、行動へとつなげようとする姿が表れていると感じました。
特に印象的だったのは、写真を使って“良い例・悪い例”を視覚的に提示したり、伝わりやすいキャッチコピーを考えたりと、子どもたちなりの工夫が随所に見られたことです。必要な経験を積ませれば、小学校1年生でもこれだけの表現力と主体性を発揮できるのだと、あらためて可能性の大きさを実感しました。私にとっても、1年生の指導観を見直す契機となりました。
「自走する学び」を支える。

中学校は、小学校での指導を基盤に「自走する学び」へ
伊藤先生
私は昨年度まで、飯島先生と同じばら野学園の中学校に勤務していました。この学園では、小学校段階からICT活用が定着しているため、中学校へ進学した生徒たちも、自然に1人1台端末を使いこなしています。係活動や委員会活動においても、ICTは特別なものではなく、日常的に活用していました。
例えば、中学校2年では、地域と連携した「起業体験学習」に取り組みます。自分たちで作製した商品を実際に販売する活動で、予算獲得のためのPTAへのプレゼンテーション、商品POPの作成、売上の計算まで、あらゆる場面でICTが活用されていました。
教科指導も同様です。例えば昨年度、私が担当した中学校3年の国語「レモン哀歌」の授業では、生徒たちの情報活用能力を土台に、「自走する学び」の実現をめざして取り組みました。
授業では、まず[発表ノート]を用いて「学習目標」や「単元全体の流れ」を共有。詩の中で気になった表現を取り上げ、それぞれが自分で課題を設定し、探究を進めていきました。生徒たちは、提示された学習の流れを参考にしながら、自分の学びの順序を柔軟に選択していました。さらに、本やインターネット、AIなど多様な情報源を活用したり、友人と意見交換を重ねたりするなど、自らに合った方法で課題に迫っていきます。
また、成果の発信においても、OS標準のアプリケーションや[発表ノート]など複数のツールから、自分に適した表現手段を選ぶ姿が見られました。
富樫
指導主事
ICT活用においては、まずプレゼンテーションなどのアウトプット活動から始めることが多いと感じています。当市では、小学校段階でそのような経験を十分に積んでいるため、中学校では「自己調整」など、より深い学びへと踏み込んだ実践に挑戦できる環境が整っているのだと思います。
伊藤先生の授業では、[発表ノート]を起点として、生徒が多様な手段で学びを進めた上で、最終的に再び[発表ノート]に立ち戻るという流れが構築されており、非常に興味深い活用方法だと感じています。
伊藤先生
[発表ノート]で、本時の振り返りや次時の活動の計画を生徒自身が設計する活動をすることで「自走する学び」につなげられました。もちろん、それだけで生徒たちが自走できるというわけではありません。自己調整や自走する学びを支える上で、教師の伴走は不可欠ですから、教師の伴走を支えるツールとしても[発表ノート]を活用しました。
具体的には、毎時間の振り返りを[発表ノート]にまとめて提出させ、生徒一人ひとりがどのようなテーマを立て、どのような手段で課題に迫っているかを確認していました。『SKYMENU Cloud』以外のツールで探究を進める生徒もいましたが、その場合は授業の最後に1時間の成果をスクリーンショットで記録し、[発表ノート]に貼りつけて提出してもらいました。こうすることで、教員は成果物を一覧で把握できるので伴走に役立てられるとともに、[発表ノート]内に学習の履歴が蓄積されるため、生徒自身がいつでも振り返ることができました。
現在は、別の学園の小学校に異動していますが、中学校での経験を生かし、4年の図工や3年の書写の授業でも、[発表ノート]を基盤とした「自走する学び」の可能性を小学生の実態に応じて模索しています。具体的には、3、4年生では文字入力に時間を要する児童が多いことから、[発表ノート]上にキーワードや選択肢を表したカードをあらかじめ配置し、タップで選べるように工夫しています 。

早い段階から自分の考えで手段を選ぶ経験をさせたい。

1年生がもつ主体性を、ICTを使って発揮させる
富樫
指導主事
お二人は、ICTを活用した授業において当市のトップランナーといえる先生方です。とはいえ、特別な存在というわけではなく、多くの先生方が同じ方向をめざし、日々授業改善に取り組まれています。『SKYMENU Cloud』をはじめとするICTの効果的な活用についても、実践と試行錯誤を重ねながら模索されていると感じています。
飯島先生は、1年生をどのように指導されているのでしょうか。
飯島先生
先ほど、富樫先生から「トップランナー」とご紹介いただきましたが、実は私はICTが得意な方ではありません。そんな私でも使いやすく、児童にも安心して使わせられるのが『SKYMENU Cloud』の良さだと思います。またベテランの先生方にとっても扱いやすいようで、私が作った[発表ノート]の教材を共有すると、すぐに実践をしてくださいます。教員間で教材の共有がしやすい点も良さだと思います。
さて、1年生への指導についてですが、ばら野学園では、情報活用能力の中でも特に「伝える力」に焦点を当て、系統立てたカリキュラムを構築しています。私が勤務する菅谷西小学校では、各学年・各教科において、どのようにICTを活用して伝える力を育むか、また対話や協働的な学びをどう取り入れたのかを記録・整理し、全教員で共有・更新しています。
昨年度は、「児童が自ら学びを調整できるようになるためには、早い段階から自分の考えで手段を選ぶ経験が必要である」と考えました。加えて、「1年生でもきっとできる」という確信もありました。そのため、先ほどご紹介した3学期の生活科で“表現手段を自ら選んで発表する”ことを目標に、年間を通した指導を計画しました。
児童が自分で表現方法を選ぶには、まずさまざまな手段を経験しておく必要があります。そこで、夏休みの思い出は絵で描いて発表する活動を行い、図工で完成した作品はカメラで撮影し、推しポイントをコメントとして書き込んで[発表ノート]で共有しました。
2学期の生活科では、飼育していた虫を観察し、その「発見した秘密」を友達に伝える学習を展開しました。その際、「自分が伝えたいことを、どんな方法なら一番伝わると思う?」と問いかけ、児童自身に表現手段を考えさせました。ダンゴムシの足をクローズアップして撮影し、拡大写真で紹介した児童や、起き上がる様子を伝えたいと考えて動画を撮影した児童もいました。こうした多様な経験を通じて、「何をどう伝えるか」を考えながら、自分に合った表現手段を選ぶ力を育てていきました 。

富樫
指導主事
飯島先生の実践では、児童に一斉に同じことをさせるのではなく、選択肢を提示し、その中から自ら選ぶ機会を大切にされています。物理的な環境だけでなく、子どもが「自分で決めてよい」と思えるような心の環境=マインドセットの両面が整えられているのだと思います。
もともと幼児教育の段階では、子どもたちは遊びの中で自ら方法を選び、試し、結果から学びを得ていました。その自然な姿を、小学校でも引き継ぎ、広げていこうという意図を飯島先生の指導観に感じられます。「自分で選んでいい」「自分の考えでやっていい」という期待感やワクワク感が、結果として先ほど紹介されたような係活動でのポスター制作にもつながっているのではないでしょうか。
『SKYMENU Cloud』を土台に、小中連携で資質、能力を育む
伊藤先生
GIGAスクール構想が始まった1年目、中学校では目新しさも手伝って、生徒たちは前向きに端末活用に取り組んでくれました。しかしその一方で、「文字がうまく入力できない」「使い方がよく分からない」といった戸惑いの声も多く聞かれました。また、ICTを活用しながら「意味のある立ち歩き」などを含む対話的、協働的な学びに発展させていく点でも、生徒たちにはまだ抵抗感があり、質的な高まりにつながらない場面も少なくありませんでした。
2年目には中学校1年生を担当しましたが、入学してきた生徒たちがすでにICTや『SKYMENU Cloud』に慣れていたことに驚かされました。まさに、小学校の先生方が飯島先生のように、情報活用の力をしっかり育てた上で送り出してくださったおかげです。その結果、授業の進行がとてもスムーズになり、[発表ノート]やスプレッドシートなど、新しいツールを段階的に紹介していくことで、生徒の学びの選択肢を広げることができました。
富樫
指導主事
当市の小学校では、中学校での学びをしっかりと見据えた上で、ICT活用や情報教育の指導が行われています。複数の小学校から一つの中学校に進学する学園もあるため、学園内の小学校同士が情報を共有し、一定以上の水準を保てるような工夫もされています。
このように小中一貫の枠組みがあることで、教育全体における取り組みの効果が、より一層高まっていると感じています。
伊藤先生
今年から小学校に異動して、そのことをより実感するようになりました。小学校の先生方は、小中一貫9年間の学びを見通して、さまざまな資質・能力の育成に取り組まれています。特に情報活用能力については、『SKYMENU Cloud』をベースにして共通認識を持ちながら取り組めています。これは当市ならではの特色だと思います。
[Webリンク][気づきメモ]のコピー、目立たない機能が学びを支える
伊藤先生
現在は別の学園である額田小学校で『SKYMENU Cloud』を活用しながら指導を行っています。低学年から積み上げてきたICT活用の経験によって、3、4年生では情報活用能力も着実に育ってきています。そうした力を生かしながら、児童が『SKYMENU Cloud』を用いて自己調整しながら学習を進められるように指導を工夫しています。
子どもたちが自ら学びを調整していく上で、非常に役立つと感じているのが[Webリンク]機能です。授業の中で課題を解決したからといって、それで学びが終わるわけではありません。授業後も、児童の興味や関心が持続し、学びが自然に続いていくようにしたいと考えています。
そこで私は、児童の関心に応じた動画教材や青空文庫などの関連サイトへのリンクを設定し、[発表ノート]を通じて配付しています 。

飯島先生
ばら野学園では、学級や教科ごとに[電子連絡板]を作成しています。そこに学習に関連するWebサイトや動画へのリンクを貼りつけたり、アンケートフォームのURLを共有したりと、さまざまな情報共有に活用しています。連絡帳のデジタル版として[電子連絡板]を使っている学級もあります

伊藤先生
共有の観点で特に便利だと感じるのが、先ほど飯島先生が話されていた[発表ノート]のファイルを教員間でやりとりできる機能です。同じ学年の先生方や特別支援学級の先生方と教材を簡単に共有できるので、それぞれの学級の実態に応じて自由に編集して活用しています。
そのほか[ライブ公開提出箱]や[気づきメモ]なども活用しています。例えば、[気づきメモ]は、国語の「書く活動」で活用しました。授業では、2つの写真を比較させ、双方の特徴を踏まえた上で「どちらが良いか」と問い掛け、生徒にその理由を[気づきメモ]に書き出させました。生徒たちが前向きに取り組んでくれることに加え、根拠を示しながら多様な意見が出てくる点が良いと感じています。さらに私が良いと感じているのが、[気づきメモ]から[発表ノート]に選択したメモの情報をコピーできる機能です。思考の断片をアウトプットにつなげる流れがスムーズに行えるため、授業中でも扱いやすく、非常に効果的です。
このような“目立たないけれど重要な工夫”が、子どもたちの学びを支え、教師の指導を助けてくれています。こうした細やかな配慮こそが、現場にとってありがたいのです。
富樫
指導主事
今のお話のように、異なる校種・学年・教科の先生方が『SKYMENU Cloud』を“共通言語”として活用しながら、実践を語り合えるようになってきたことは、大変意義深いと感じています。
今後は、[発表ノート]で作成した教材をさらに共有し合うことで、多様な知見が混ざり合い、先生同士が授業の精度を高め合えるような文化が広がっていけば、小中一貫教育としても理想的な姿になると考えています。
市全体で取り組んでいく。

「量」から「質」へ、市全体が転換点に
飯島先生
これからは「GIGAスクール構想 第2期」ともいわれますが、たとえ制度や名称が変わっても、教育の本質は変わらないと思っています。私はこれからも、子どもの「やってみたい」という気持ちを大切にできる教員でありたいと願っています。そのためには、まず自分自身がアンテナを高く張り、引き出しを増やし続けることが重要です。
加えて、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向け、授業改善にもより一層取り組んでいきたいと考えています。現在は、[発表ノート]上に「ヒントカード」を用意し、使いたい児童が自由に活用できるような工夫を試行中です。1年生が「自分で考え、選択する」という学びの機会を、これからさらに充実させていきたいですね。
伊藤先生
私も飯島先生と同じく、子どもたちが自分の学びに合ったツールや方法を自ら選べるようになることをめざし、今後も取り組みを続けていきたいと思っています。
活用するツールはさまざまありますが、『SKYMENU Cloud』は、当市の教員や児童にとって“共通言語”ともいえる存在です。そのため、児童が学習の始まりと終わりに立ち返る“基地”として、つまり学習の「核」として、これからも活用の幅を広げていきたいと考えています。
今後は、振り返りの質を高める工夫や、自分で学習計画を立て、見通しをもつ力を育てる場面でも、『SKYMENU Cloud』を一層生かせるような活用方法を模索していくつもりです。
富樫
指導主事
ここまでご紹介いただいたように、飯島先生や伊藤先生の実践は、リアルな学びをデジタルが支えたり、学びの価値を増幅させたりする点において、とても象徴的です。当市のICT活用も、今まさに「量」から「質」への転換点を迎えていると実感しています。
これからのフェーズでは、教育委員会として、先生方一人ひとりの個別最適を支えることがより重要になってくると考えています。先生方の「やってみたい」や「こうありたい」という想いを出発点にして、それを小中一貫教育の文脈に位置づけ、市全体で取り組んでいく。それこそが、私たち教育委員会の役割であり、教育施策の効果を最大限に高める道だと考えています。
(2025年6月取材 / 2025年9月掲載)