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教員に寄り添う「伴走型」の支援で、授業改善とICT活用を両輪で推進
1人1台端末や『SKYMENU Cloud』の日常的な活用が広がる高松市。市内小中学校のICT活用の支援や研修、環境整備を担当される高松市総合教育センター ICT教育推進室では、学校、先生方に寄り添う「伴走型」の支援に注力されています。その取り組みについてお話を伺いました。


高松市教育委員会 高松市総合教育センター ICT教育推進室
山下 哲央指導主事

高松市教育委員会 高松市総合教育センター ICT教育推進室
小原 敏昭研修指導員

高松市教育委員会 高松市総合教育センター ICT教育推進室
松原 正樹研修指導員
ICT活用に関する研修や環境づくりで、
先生方の授業づくり、授業改善を支える
高松市は、人口約41万人を抱える中核市です。分校を含めて小学校が49校、中学校が24校あり、教職員数は約2,700名、児童生徒数は約3万1,800名、香川県全体の児童生徒のおよそ半数が本市の小中学校に在籍しています。
現在本市では、2024年2月に策定した「第3期高松市教育振興基本計画」の下、基本理念である「高松を愛し 夢と志を持って 一人ひとりが輝く教育」の実現をめざしています。
本計画の「確かな学力と個性を伸ばす教育の推進」という項目の中に「ICTを活用した教育の推進」が位置づけられています。これからの予測不能な時代を乗り越えていくためには、情報活用能力や問題解決能力は欠かせないものです。その育成に向けて、一斉指導に加えて、子どもたち自身の判断で個別最適な学びや協働的な学びができるような学び方を身につけていく必要があります。高松市総合教育センターICT教育推進室では、ICT活用に関する研修や環境整備などを通じて、先生方の授業づくり、授業改善を支援しています。
「伴走型」の支援で、先生のお困り事を
一緒に見つけ、寄り添う
本センターには、総務、研修、幼児教育、特別支援の各係、そしてICT教育推進室という大きく5つの部署があり、計41名体制で市の教育を支えています。私どもICT教育推進室は8名体制で、ICT環境の整備、ICT教育の推進、情報モラル教育、校務DXなど、ICTに関わるあらゆる業務に対応しています。また、先生の校務用端末、教育用端末のトラブル対応に「SKYSEA Client View」を活用することもあります。
高松市のICT活用率は年々高まっており、特に電子黒板の活用率はほぼ100%と広く利用されています。この事実を別の視点からみると、教師主導の授業スタイルでICTが活用されていると受け止めることができます。今後は、先生の指示の下でICTを活用するだけでなく、子どもたちが自らの学びのために活用できる力を高めていきたいと思っています。
そのため、端末を授業改善のツールとして活用してもらえるように、様々な取り組みを進めています。その中で私どもが大切にしていることは、「伴走型」での支援です。先生方の困り事を一緒に見つけ、寄り添いながら、やりたいことを実現できるようにサポートできればと考えています。
「明日からの授業で使える」
実践的な内容の研修
授業改善に向けて、まずは夏季休業中の研修のかたちを大きく変えました。昨年度も研修は実施していましたが、午前のみの実施で、『SKYMENU Cloud』の基本的な操作を体験する内容でした。本年度の研修では、午前の3時間を使って『SKYMENU Cloud』の機能や操作について学んで技能を身につけてもらい、午後の3時間はその技能を生かして学習プラン作成・模擬授業という構成に変更しました
。

研修の構成を変えたのは、「明日からの授業で使える」をキーワードに、2学期からの授業に生きる実践的な研修にしたいという思いがあったからです。操作について理解したと思っていても、いざ授業に活用しようとすると手が止まってしまうというのはよくあることです。そういった方々へのフォローを意識しました。
さらに、研修は授業と相似形となるよう意識しました。「操作を教わって終わり」ではなく、それをどのように活用できるのかを考える時間も必要です。授業づくりについてそれぞれ個別に考え、グループで模擬授業を行い、意見交流することで、少しでも今求められている授業をイメージしてもらえるメリットもあると考えました。
終日の研修としたことで、参加者が集まるのか不安もありましたが、約30名が参加。ICT活用が得意ではないけれど、「使いたい」という意欲をもった先生方が集まりました。
紹介する機能を4つにしぼり、焦点化
活用イメージをより具体にする
午前の研修では、Sky株式会社の担当者に、主に[発表ノート][気づきメモ][ポジショニング]について操作方法などを教えてもらいました。加えて、端末の持ち帰りを想定して少し[電子連絡板]にも触れてもらいました。
「明日からの授業で使える」ことを意識して、Sky株式会社の担当者と一緒に研修内容を練り上げ、あえて機能を4つに絞り込みました。[発表ノート]は他者参照でき、マーカを配置して考えを示せる[ポジショニング]は道徳などで、活用の一歩として使いやすい機能です。そして、[気づきメモ]はチャット感覚で自分の考えや気づきを表出できるだけでなく、友達の考えを参考にしたり、Webリンクを共有したりすることが可能で、子どもたちの主体的な学びにつながるツールです。
広く浅く、幅広い機能を紹介するのではなく、機能を絞り、一つひとつを詳しく紹介したことで、参加した先生方に授業で活用する具体的なイメージをもってもらえたと思います。
先生役、子ども役で模擬授業、
そして議論
午後のスケジュールは、前半の1時間45分で、授業づくりに取り組んでもらいました。このとき、これからの授業では、子どもたちが主体となり、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることが求められていることをあらためて共有しました。そうすることで先生方は、授業改善への意識をもちながら、持参していた教科書を使って、2学期に実施したい授業づくりに取り組みました。
後半の模擬授業では、グループの中で、自分の考えた授業を行い、意見交流しました。グループのほかの人が授業を行っているときは、児童生徒役を担います。先生としての端末操作だけでなく、子どもたちの操作や画面を確認できるので、より具体的な視点で授業づくりを進めることができていました。
教えることが自信に
研修で学んだことを学校で実践
研修を終えて「楽しかった!」「あっという間だった」という声や
のような多数の感想をいただきました。自分で授業を考えて、実践するだけでなく、ほかの先生の授業を子どもの立場で体験し、意見交流できることが刺激になったようでした。研修に参加した先生方は、これまで学校内でICT活用について教えてもらうことが多かったと思いますが、研修ではグループの中で教え合う姿が見られました。教えることで自信につながり、学校に戻って研修で学んだことを実践したくなる。苦手な先生が頑張っていることは、周りの先生の刺激にもなる。こうした好循環につながったと考えています。

また、私どもは授業と相似形の研修をめざしています。本研修の授業づくりにおいて、先生方は「明日からの授業で使える」という目標に向かって、一人ひとり様々な方法を工夫し、時に教え合いながら取り組まれていました。まさしく、今求められている学びのかたちを体験する研修を実現できたと思っています。
学校や先生のニーズに合わせた
アウトリーチ型研修
夏季休業中の研修のほかにも、ICT活用のさらなる拡充をめざし、アウトリーチ型研修として、学校に出向いた研修を行っています
。パッケージ化された研修ではなく、セキュリティや基本操作など、学校の要望やニーズに合わせた研修です。研修実施に向けて、学校の活用状況や実情などを密にやりとりすることで、学校が抱える真の困り事に寄り添う研修内容を考えています。こうした研修の機会に[気づきメモ]や[ライブ公開提出箱]などの機能を紹介することもあります。先生方は、ICTを効果的に使いたいという思いから、役立つ情報をもっと知りたいと思っています。こちらから有用な情報を提供すれば、それを生かして自ら活用を進めてくれるのです。研修後の学校から、「研究授業の際に[気づきメモ]を活用し、授業の参観中に先生同士で気づきを共有してみました。」という報告を受け、うれしく思ったこともあります。


指導案作成から研究授業まで
伴走して進める実証研究
ICTに係る実証研究事業として、小・中学校各1校を選出し、ICT教育推進に向けた先進的な実践に取り組んでいます
。「伴走型」の支援として、研究授業だけを見て感想や意見を言って終わりではなく、指導案作成の段階から関わり、助言をしています。その際に「ICTを使わなければいけないのではなくて、使うことによって効果があることに気がつけた」という感想をいただくことができました。そして、この実証研究での先進的な取り組みを広げていくことも欠かせません。その情報発信のために、研究授業の様子を動画にまとめ、授業でのICT活用や子どもたちの学びに向かう姿勢が伝わるように工夫して編集し、発信しました。また、その手段として「GIGA新聞」も不定期で発行しています
。このGIGA新聞でも研究授業の内容を記事にするとともに、撮影した動画を視聴できるURLを記載して配信しました。GIGA新聞では、『SKYMENU Cloud』の新機能がリリースされたときにも発行し、機能について紹介しています。

友達の考えを参照しやすい
[気づきメモ][ライブ公開提出箱]
[気づきメモ]と合わせて、[ライブ公開提出箱]も先生方から評価の高い機能です。こうした機能を活用することで、電子黒板を使って進める一斉授業から、少しずつ授業改善が進んでいると感じます。
電子黒板は授業の流れを確認するために使い、その後は子どもたち一人ひとりが[気づきメモ]や[ライブ公開提出箱]を活用して、自分に必要な情報を探して参照します。先生は全体の学びの進み方を確認し、必要に応じて個別指導を行っていました。端末で友達の考えを参照した後に、対面で交流する場面が生まれ、それが教室全体に広がっていくという展開も見られました。対面での交流のきっかけ、つまり自分に必要な相手を探すために[気づきメモ][ライブ公開提出箱]が役立っているのです。
ICTで学校、地域、家庭をつなぎ
子どもの学びを広げたい
夏季休業以降、『SKYMENU Cloud』を活用しているという話をたくさん聞くようになりました。夏季一日研修をはじめ、先生方に寄り添う「伴走型」のサポートを積み重ねたことや情報発信の取り組みが実を結びつつあるのだと、手応えを感じ始めています。
子どもの学びに即した機能が開発され、定期的にアップデートされる『SKYMENU Cloud』を現場の先生たちは頼りにしています。ICTの活用が深まりつつありますが、単に活用率を上げるのではなく、私どもがめざしているのは、家庭や地域とつながって子どもの学びがもっと広がり、さらに学校に集まって対面で話し合うことでレベルアップしていけるような学びの実現です。それに向けて引き続き、ICTを活用した授業改善のサポートに取り組んでいきたいと思っています。
(2025年2月取材 / 2025年5月掲載)