教育情報化最前線
山口市立宮野小学校

写真の加工はOK?NG?
[ポジショニング]で考えを可視化し議論

「デジタル・シティズンシップ教育」の視点を取り入れ、考え、判断する力を育む

山口市立宮野小学校の古屋 伸浩 校長と金谷 亮二 教諭は、デジタル・シティズンシップ教育の視点を取り入れたメディア・リテラシー教育の実現をめざして授業研究に取り組まれています。写真をより良く見せるための加工は、どこまで許されるのか。児童の加工の体験を契機に、その問題に気づかせ、『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]機能で考えを可視化しながら、話し合った授業を取材しました。(2025年1月取材)

山口市立宮野小学校

古屋 伸浩校長

山口市立宮野小学校

金谷 亮二教諭

教員、児童の情報活用スキルやリテラシーを高め、児童主体の活用へ

古屋校長

本校は、山口盆地の北部に位置する児童数471名、教員数30名の中規模校です。教育目標「美しい心をもち 夢に向かって進む子どもの育成」のもと、今年度は、問題解決的な学習を基本として「主体的・対話的で分かりやすい」授業の展開や、ワクワク体験・感動体験による魅力ある居場所づくり・絆づくりを重視して取り組みを進めています。
本市では全ての教室に電子黒板が導入されていることもあり、教材提示から理解の促進、考えさせるといったさまざまな場面でICTの活用が広がっています。電子黒板や1人1台端末の活用が日常化した今、教員、児童一人ひとりの情報活用のスキルやリテラシーをさらに高めることで、情報活用の次の段階、つまり児童主体の活用への流れをつくっていきたいと考えています。

情報モラル教育に加えて、情報を上手く活用する力の育成が重要

古屋校長

これからの児童が生きるSociety 5.0の高度情報社会においては、あらゆる人々が情報端末に触れ、情報を取捨選択して活用することが求められます。そのため従来の情報モラル教育に加えて、情報を上手に活用するという「デジタル・シティズンシップ教育」の視点を取り入れた新しいメディア・リテラシー教育が必要です。

金谷先生

例えば、「SNSは使わない方がいい」といった指導はもはや非現実的です。恐らく中高生になってもSNSを使わない児童はいないでしょう。SNSのメリット、デメリットをきちんと知らせたうえで考え、判断できる力を育てることが重要です。

古屋校長

しかし、現状では情報モラルに関する指導が行われるのは、ネットいじめや著作権違反など何らかのトラブルが起きたときです。その場合、動画教材やプレゼン資料を提示するような「べき」「べからず」の指導に終始しがちです。これはこれで必要な対応ですが、これでは先ほど金谷先生が述べたような、児童が考え、判断するような力は育まれません。そこで、先生方が取り組みやすく、かつ普段の教科の学習に関連させられる高い汎用性があること、さらにデジタル・シティズンシップ教育の視点を取り入れ児童が考え、判断する力を育むことをコンセプトに、金谷先生と授業研究に取り組んでいます。

<実践>小学校4年・総合的な学習の時間「見て見て!私のベストショット!」

古屋校長

今回のご紹介する実践「見て見て!私のベストショット!」は、次の2点を重視して検討しました。
1点目は「指導のしやすさ」です。教科の指導と関連させやすく、無理なく取り組めるように「写真の加工」をテーマに選びました。児童にとって写真撮影や加工は身近です。小学校低学年から端末で写真を撮影したり、撮影した写真にペンツールで書き込んだりしています。最近ではAIによる写真加工を売りにした商品がCMで紹介されており、写真の加工は児童の興味を引きやすいテーマだと考えました。
また丁度、本校の4年生は2学期に景観学習を行い、校区周辺の風景を端末でたくさん撮影していました。自分たちで撮影した「お気に入りの写真」であれば「加工して、より良く見せたい!」という意欲が高まると考えました。
そして2点目は、「問題解決的な学習」です。児童が主体的に考え、対話を通じて友達の意見を聞くことで学びが深まります。本校で注力しているフリートークの手法を取り入れた展開にしました。

金谷先生

児童の対話を充実させることが、深い学びにつながるわけですから、フリートークはとても重要な学習活動です。前時の写真加工の体験から本時の加工写真の鑑賞まで、児童が写真加工の是非を真剣に考え、フリートークで話し合えるような展開を考えました。

本時指導案(本時2/2)

ねらい宮野で見つけた印象的な写真を加工することにより、加工の是非を考えることができる。

学習活動 ICT活用場面
導入
(10分)
1.前時で加工した写真をグループで鑑賞し、感想を伝え合う。
(グループ→全体)
・写真の加工方法(トリミング、明るさ、色)
めあて 写真を加工することは、OK? NG?
〇『SKYMENU Cloud』
[発表ノート]
[提出箱]
2.写真の加工について、良いか悪いかを判断し、自分の考えを記入する。
◇ワークシートに自分の考えを書くことで、考えの変容が分かるようにする。
〇『SKYMENU Cloud』
[ポジショニング]
展開
(25分)
3.「写真の後処理」のクリップを見て画像加工の意図を理解する。
◇話し合いの様子を見ながら、人物の画像への加工はどうか問うことで、
 もう一度写真加工の可否を判断し、話し合いを活性化させる。
〇NHK for School
クリップ
〇『SKYMENU Cloud』
[ポジショニング]
4.写真の加工について話し合う。
「写真を加工することは、OK? NG?」
◇話し合いの間、[ポジショニング]の使用を認めることで、
 友達の意見を聞きながら自分の考えを変えられるようにする。
まとめ 5.写真の加工について自分の考えをまとめる。 〇『SKYMENU Cloud』
[ポジショニング]
6.振り返りをする。
・振り返りの視点
①自分の意見の変容 ②変容のタイミング(友達の意見、動画や資料)
◇自分の考えの変容が分かるように、振り返りの視点を伝え、
 本時の学習を振り返ることができるようにする。

友達と加工の成果を見せ合い、利点を実感

金谷先生

まず前時は、2学期の景観学習で撮影した多数の写真の中からお気に入りの1枚を選ばせました。そして端末でトリミングしたり、明るさや色を調整したりすることで、より良く見せられることを伝え、実際に写真を加工。加工前と後の写真を[発表ノート]に貼り付けて、[提出箱]に提出するまでを取り組みました。
本時は、前時に作成した[発表ノート]の内容を、グループで見せ合い交流するところからスタート写真1。「はっきり見えるように加工した」「あえて暗く加工することで、怖い感じが出せた」など、児童は自慢げに発表していました。ここで多くの児童が加工によってより「良くなる」という感覚をもち、それを個人ではなく学級のみんなが感じていることを実感させました。
グループ内で共有した後、今度は電子黒板に[提出箱]を投影し、おすすめの作品を学級全体に向けて発表してもらいました写真2。[提出箱]の一覧から紹介したい児童の作品([発表ノート])を選んでさっと表示させられるので、短時間でテンポよく発表できました。ここでも加工によって「良くなる」という認識をもたせるとともに、同じ写真であっても加工する人の考え方次第で加工の仕方が変わることも伝えました。

写真1自分が加工した写真をグループ内で見せ合う
写真2良いと思った友達の作品を発表し、学級全体で共有

『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]で自分の立ち位置を表明させる

金谷先生

写真の加工によって「良くなる」というプラスの認識をもつ児童に対して、ここで一つ揺さぶりを入れました。細身の男性の写真とその写真を明るく調整し、さらに腕を太くして健康的な印象にした写真を見せたのです写真3。これまで写真加工のプラスの面ばかりを見ていた児童は、ここではじめてマイナス面に触れたのです。「あれ?」という疑問が児童に生まれ、教室はザワザワとしました。そして、このタイミングで、本時のめあて「写真を加工することはOK?NG?」を提示。あわせて[ポジショニング]機能でこの問いを配り、児童に自分の立ち位置を表明させました図1

フリップや動画で児童の考えを揺さぶる
写真3フリップや動画で児童の考えを揺さぶる
学習のねらいから外れないように、授業中はルーブリックを電子黒板に表示
図1『SKYMENU Cloud』[ポジショニング]で写真加工に対する考えを把握

金谷先生

教員用端末で[ポジショニング]の結果を確認すると、予想よりも多くの児童が「NG」に振れていました。もう少し「OK」に振れるように、子どもから意見を出させたり、加工のプラス面を強調する教材を出したりして、考えを揺さぶる必要があると考えて授業を進めました。
続いて、先ほどのフリップと関連したNHK for Schoolの動画を提示。この動画は、写真加工のプラス面とマイナス面をバランスよく伝えてくれる内容なので、そのまま提示してよいと判断しました。このとき、児童には「視聴中に自分の考えが変わったら都度[ポジショニング]のマーカを動かしてもよい」と伝えています。児童に考えながら視聴させるとともに、意見の揺れ動きを教員機からリアルタイムで把握したいと考えました。

マーカ位置や軌跡で考えの変容を把握し、意図的指名

金谷先生

動画の視聴後は、いよいよフリートークの時間です。フリートークでは、いつも机を中心に向かって寄せ合い、児童は相互に指名し合い発言をつないでいきます。「やりすぎはよくない」「おいしく見せるのはいい」「だますような加工はNG」といった発言が次々に上がりました。
しかし、OK、NGと明確に判断することが難しい問題ですから、次第に発言が減っていきます。そこで[ポジショニング]です。マーカの位置や軌跡、変化量を参考にして、意図的な指名をしていきました写真4。児童から「人じゃなかったらOK」「景色はOK」という意見が出てきて、納得したような様子だったので、ここで準備していた「AIによる写真加工を売りにしたCM」に関するフリップを提示。児童は、AIによる写真加工を使うことで、不要な情報の削除や色彩の変更を誰もが簡単にでき、写真の見栄えを大きく変えられることを知ります。すると児童から「景色の加工はNG」という意見が上がり始めました。理由を聞くと「SNSなどで発信すると、(その場所に)行ってみたいと思った人に間違った情報を与えてしまう」というものでした。子どもたちは風景写真の加工を体験したばかりです。その経験を踏まえ、考え抜いて出された意見なのだと思います。

[ポジショニング]で考えを把握しながらフリートーク。 軌跡や変化量を表示すれば、意見の変容を視覚的に把握できる
写真4[ポジショニング]で考えを把握しながらフリートーク。 軌跡や変化量を表示すれば、意見の変容を視覚的に把握できる

古屋校長

授業中、[ポジショニング]のマーカは真ん中に集中していました。これは児童が考えていないということでは決してありません。フリートークの間、児童は友達の意見を聞いて唸ったり、うなずいたりしていました。写真加工のメリット、デメリットに気づき、OKともNGとも判断しがたくて悩んでいたのです。その様子を見て、本時のねらいは十分に達成されていると感じました。
この問題に答えはありません。今後、児童が学校で写真を撮影したときや、家のテレビでCMを見たときなどに、「写真の加工っていいと思う? 私は……」と自分の考えを人に伝えることができるような児童になってくれれば、デジタル・シティズンシップが身に付いたといえるのだと考えます。

本実践を参考に、各学年、教科の学習に関連付けて指導を

古屋校長

本実践に関する指導案や教材は、今後、本校のWebサイトでご紹介する予定です。また本市の情報教育研究会の研究として提案し、実践の裾野を広げたいと考えています。指導案は、本県で広く使われている「板書型指導案」をベースに、ICT活用の項目を付加したフォーマットで作成しています。実践全体をひと目で把握できるようにしています。ぜひご覧いただき、「自分の学年、教科ならどこに関連付けて指導できるだろうか」などと考えていただければ、うれしいです。

金谷先生

私の学級では今、総合的な学習の時間に山口情報芸術センター(YCAM)と連携して「360°図鑑」を作っているのですが、今回の授業を踏まえて「加工した写真を図鑑に載せていいのだろうか?」などと児童から疑問が生まれることを期待しています。情報モラル教育に関するさまざまな問題、トラブルは、すでに児童にとって身近で、ありふれた内容になっています。どの学年、どの教科にも指導のチャンスはあります。今回の実践で終わらせることなく、次の取り組みへとつなげていきたいと思います。

古屋校長

もう20年、30年も前ですが、私の尊敬する先輩が「私たち教員に大切なのは、たくさんある教材の中から意図をもって教材を選び、必要に応じて子どもに与えることだ」と教えてくださいました。その言葉が今でも私の中に深く根付いていて、本時のような授業を考える原動力になっています。今回ご紹介した実践は一つの例にすぎません。より多くの学校、先生方に実践いただけるよう、今後さらに指導案や教材を整えて発信したいと考えています。

▼本時指導案や教材はこちら

山口市立宮野小学校 Webサイト
https://fa.fureai-cloud.jp/miyano-e/

(2025年4月掲載)