教育情報化最前線
愛知県豊田市教育委員会 SKYMENU Cloudで他者参照や思考整理を容易に

子どもの思考を活かすクラウド活用事例とそれを支える教育委員会の取組

成田 彰

愛知県豊田市教育委員会 指導主事

豊田市情報化プランについて

子どもの可能性を引き出すICT環境へ

愛知県豊田市は、人口は約42万人、県の面積の18%を占める中核都市です。児童生徒約34,300人、教員約3,000人を擁し、市街地の大規模校から山間部の小規模校まで、104の多様な学校があります。

そんな豊田市では、右図に示すように“「つなげる子ども」が未来を創る”というテーマの下、「豊田市学校教育の情報化プラン」を策定し、ICT環境の整備に取り組んでいます。個別最適な学び、協働的な学びを通して、子どもの可能性を引き出すことを目的に、ネットワーク環境や教職員データベース、1人1台端末などの整備を実施しました。

今回は、小学校・中学校におけるICT活用の取組について、実践事例を交えてご紹介します。

文部科学省「ICTを活用した指導方法(1人1台の情報端末・電子黒板・無線LAN等)~学びのイノベーション事業実証研究報告書より~」を参考に愛知県豊田市教育委員会が作成

実践事例 小学2年 算数
クラウド活用による他者参照

[気づきメモ]で他者参照して気づきを得る

水谷 清二 豊田市立元城小学校 教諭の小学校2年生の算数「かけ算・ひき算のひっ算」における、『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]と[発表ノート]の活用例をご紹介します。振り返りを通して他者参照を行い、仲間の気づきから新たな気づきを得ることをねらいとして行った実践です。

水谷先生が注目したのは、グループを組んだ子どもたち同士で、互いに入力した内容を見合うことができるという[気づきメモ]の機能。これが、子どもたちの考えを関わらせるのに役立つのではないかと考えたそうです。

授業の最後に、子どもたちがおのおのの気づきを[気づきメモ]に入力していきます。「かける数とかけられる数」の授業の振り返りでは、「○○さんと◇◇さんの意見を聞いて、3×5だと問題に合ってないということがわかりました」と入力した児童も。友達の意見から、気づきを得ている様子がありました。

振り返りが苦手な子も考えをまとめやすく

そして、単元の振り返りでは、友達の[気づきメモ]の中から特に良いと思ったものを3つ選び、[発表ノート]に貼りつけるという活動も行いました図1。ある児童は、「かけ算をすると速く簡単にできる」という友達の[気づきメモ]を自分のノートに貼りつけています。そして、その気づきから、「同じ数が何個もあるときに、かけ算をするとすぐに数えられることが分かった」と、新たな気づきを得ている様子がありました。

図1友達の[気づきメモ]を基に他者参照を行い[発表ノート]で振り返りを行う

グループを組んで[気づきメモ]を共有すれば情報量が多くなり過ぎることもないため、低学年でも、他者の意見を参照しながら新たな気づきを得るという協働的な学びを実現できています。「ひき算のひっ算」の振り返りでも、同様の学習方法を繰り返しました。教材を変えて同じことをやっていくにつれて、仲間との協働的な学びを実感していくことができます。

実践時の様子を水谷先生に聞くと、子どもたちからは、友達の意見を見て「そういうことか!」と気づきの声が出たほか、振り返りの際にいつも「う~ん」と頭を悩ませていた子が、友達の意見を生かして振り返りを入力できていたとのこと。子どもたちの明るい表情もたくさん見られたようです。

実践事例 中学2年 生物
デジタルノートで思考整理

仲間の意見が視覚的に把握できる[発表ノート]

続いて、中学2年生の生物の授業における、岸田 偲勇斗 豊田市立藤岡中学校 教諭の実践をご紹介します。[発表ノート]をノート代わりに使い、思考の整理に役立てる取り組みです。

岸田先生は、[発表ノート]で使うノートを、3つの形式に分類して活用しています。1つ目は、小単元ごとに作成し、まとめる「ノート型」。2つ目は、実験の際に使用する「ワークシート型」。そして3つ目は、グループワークで活用できる「ホワイトボード型」です図2

図2岸田先生が考える[発表ノート]の3つの活用分類

まずは、「ワークシート型」の活用例について。「ワークシート」といっても、穴埋め式のものではなく、[発表ノート]に写真や動画を貼って、実験で得た気づきと併せてまとめるかたちです図3。次に、「ノート型」は、実験が難しい「天気」などの単元で活用。先生による演示実験の様子を撮影した写真を使ったり、教科書の図を引用したりしながら、ノートをまとめていきます。

図3[気づきメモ]で共有された実験結果の写真や動画を貼って[発表ノート]にまとめる

写真の上に矢印などを書き込んだり、動画をノートの中に貼って、実際に動いているものを見せたりしながら、自分が学んだ内容を友達に共有することができるのも、[発表ノート]のメリットです。

岸田先生によると、生徒が考えたことを順々に発表していく場合、これまでの授業では、AさんとBさんが同じことを意図していても、表現が違っていると、Aさんは「僕とBさんの言っていることは違う」と解釈してしまうケースがあったのだとか。

例えば図3は、メダカの血液の流れを観察する実験を行った際に、生徒がまとめた[発表ノート]です。メダカの赤血球を「透明な小さい粒だ」と表現する子もいれば、「オレンジ色の小さい粒だ」と表現する子もいます。考えたことを言葉で発表するだけでは、生徒は「『透明』と『オレンジ』は違うものを指しているの?」と考えてしまいます。しかし、[発表ノート]を活用すれば、実際に動画を流し、「この小さな粒が動いています」と、指し示しながら説明することが可能になります。これにより、「透明」と「オレンジ」と、表現する言葉は違っていても、どちらも赤血球に言及していることが分かります。このように、[発表ノート]を活用することで、表現が違っていても、同じ意見を持っていることに気づけるようになったそうです。

[気づきメモ]で思考を共有して整理

また、思考の整理には[気づきメモ]も活用。実験結果を班内で共有し、[発表ノート]をまとめる際に活用しています。岸田先生によると、理科に苦手意識がある子でも、共有された[気づきメモ]で友達の考えを取り入れながら、自分の[発表ノート]をまとめることができるので、喜んで取り組む子も出てきているとのことです。

また、授業の終わりには、生徒がそれぞれまとめた[発表ノート]を[提出箱]に提出させて、回収しています。岸田先生はこのとき、提出期限を授業終了から24時間後に設定しているのだそう。提出までの猶予を設けることで、岸田先生いわく「帰宅後に自主学習として調べたことや、考えを深めたことなどをまとめて提出してくれるようになり、主体的な学びが行われていると感じている」とのことでした。

市全体のICT活用に向けた教育委員会の取組

楽しく自立的に学び続ける教員になろう

当市では、「楽しく自立的に学び続ける教員になろう」というメッセージを、研修などの場を使って先生方にお伝えしています。ここで実践をご紹介した岸田先生や水谷先生は、「SKYMENU エキスパート Teacher」の認定を受けられるなど、自主的に学ばれている先生方です。教育委員会としては、そんな積極的な先生方を支えたいと考えています。そのために「eラーニング」「実技研修を広げるOJT」「学校訪問における実践の場」という、大きく分けて3つの取り組みを進めています。

Sky株式会社のWebサイトなどを参考にしながら、eラーニングを用意。先生自身が個別に学ぶことができる環境を提供しています。そして、ICTの実技研修を広げるOJTの場も設けています。現場にいながらにして、先生同士で学んだことを広げていくという取り組みです。また、教育委員会による学校訪問では、ICTを活用した授業実践の場も。ここでは、公開授業の7割以上でICTを活用してもらうよう、先生たちに依頼しています。

教員のニーズに応じた研修で端末活用を促進

特に注力しているのが、実技研修を広げるOJTです。当市では「新しい学びのスタイル推進委員」を設置しており、委嘱された教員が講師として研修を行います。研修中は、写真1のように教員同士が互いに学び合っている様子もあります。

写真1新しい学びのスタイル推進委員による講演と実技研修

研修は、初級・中級・上級の習熟度別で実施。初級の研修は、「タブレット端末を使った授業が初めて」という先生も端末を使えるようになることを目標としています。自分の小学生・中学生の頃にはまったくタブレット端末を使ったことがなかったという初任の先生から、育児休業から復帰した先生、さらには校長先生まで参加されていました。

初級の研修に参加した新任の先生からは、「何となくで使っていたツールの使い方が理解できた。[発表ノート]の使い方をしっかり教わったので、積極的に使っていきたい」という声が。また、「現場で一度も使ったことがなかったので、基本的なところから教えていただいた。若い先生たちと情報共有しながら、さらに有効に使っていきたい」という校長先生もいました。

受講者が「各学校で研修をするまで」を研修に

中級では、受講した先生方が、それぞれの学校でOJTを行い、活用を広げるところまでを研修としています。ICT活用のアイデアを教職員全体で共有する時間を設けたり、グループワークや研究会を行ったりと、各学校でさまざまな取り組みがされています。

このようなOJTは、若手の教員に活躍の場をつくることにも役立っています。自分が学んできた内容を伝えることで「学校の中で役に立っているな」と実感してもらえます。

収集したデータを分析・評価し指導に生かす

当市としては、現在、先生方に協働的な学びと個別最適な学びを支援しながら、KKD(勘・経験・度胸)の授業から、EBE(EvidenceBased Education)への移行をめざしているところです。必要なデータを収集してデータの分析・評価を行い、その結果に基づいて実行していく。そんな教育を行っていきたいと考えています。

EBEへの移行をかなえるためには、可能性・安全性・時間の最大化が重要です。当市には104の学校があり、テストの結果やデジタルドリルのログなど非常に多くのデータがあります。そんなビッグデータを基に、指導に役立てていく、これが「可能性の最大化」です。一方で、「安全性の最大化」、つまりセキュリティの強化も必須。来年度はゼロトラスト環境の整備を進める予定です。そして、事務処理の自動化を進め、子どもと向き合う時間を確保する「時間の最大化」。当市としては、これらを支援していきたいと考えています。

(2024年11月掲載)