鹿児島市教育委員会
NEXT GIGAに向けた
ICT活用の広がりに対応できる運用管理体制を
遠隔サポートにより合計約23,000台の端末の一元管理を実現
鹿児島市では、令和3年度の児童生徒1人1台端末の整備以降、ICT活用が右肩上がりに進展。域内全120校のICT活用を支えるために『SKYSEA Client View』を活用した遠隔サポート体制を確立されています。23,000台を超える端末の運用管理の現状とGIGAスクール構想第2期に向けた方針について、鹿児島市教育委員会の木田 博 教育DX担当部長にお話を伺いました。(2024年7月取材)
鹿児島市教育委員会
木田 博教育DX担当部長
文部科学省 学校DX戦略アドバイザー
校務用と学習用に『SKYSEA Client View』を導入
本市は、鹿児島県本土のほぼ中央に位置する人口約58.6万人の中核市で、小学校が78校、中学校が39校、高等学校が3校の計120校あり、約4.7万人の児童生徒が学んでいます。令和3年度のGIGAスクール構想によるICT環境整備により、児童生徒用および指導者用の1人1台端末(学習用端末)の整備を行いました。以前から、校務用端末の3,390台にはクライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入していましたが、1人1台端末の整備を機に、中学校・高等学校の学習用端末合計20,245台(中学校生徒用端末16,804台、中学校指導者用端末1,253台、高等学校生徒用端末2,011台、高等学校指導者用端末177台)にも導入し、合計23,635台の端末の運用管理を一元化しています。
学習用端末の整備完了以降は、右肩上がりにICT活用が進み、毎時間のように活用している学校もあるなど、日常的な活用が定着しつつあります。その背景には、教員研修(ICT活用講座など)を、集合開催とオンライン開催のハイブリッド型で行い、開催回数を増やしたことがあります。本市は市域が広いため、研修会場となる「学校ICT推進センター」まで往復すると、約半日を費やしてしまう学校もありますが、研修をライブ配信した上で、過去の研修の動画もいつでも見られるようにし、より多くの研修を受講できるようにしたことで、ICT活用指導力の底上げにつながりました。
今では授業だけではなく、心の健康観察などの幅広い場面でICTが活用されています。子どもたちが登校すると、まず端末を起動してアンケートに回答することが日課になっている学校もあり、少しずつではありますが、学習用端末が学校生活にとってなくてはならないものになってきたと実感しています。
学校の実情に即した柔軟な運用管理が可能
学校生活に不可欠となった端末の運用管理と活用促進に役立っているのが『SKYSEA Client View』です。本市では以前から校務用端末の管理に『SKYSEA Client View』を活用してきましたが、学習用端末の整備に伴って管理対象となる端末(クライアントPC)の台数が7倍近くに増え、日常的な活用も進んでいることから、これまで以上に役立つ場面が増えています。
学習用端末の管理には「Microsoft Intune」など、OSメーカーが提供するMDMツールを利用することも少なくありません。しかし、OSのアップデートといった端末の管理だけなら十分に対応できますが、より柔軟かつ迅速に対応するにはクライアント運用管理に特化したソフトウェアの方が、機能が充実しています。
例えば、校務用端末は[デバイス管理]機能でUSBメモリなど外部記憶装置の使用を制限しており、学校管理職が管理するセキュリティ機能付きUSBメモリ以外は使用できないように設定しています。しかし、外部講師を招いた際に資料データをUSBメモリで持参されるというケースもあります。こうしたとき、期間を決めて制限を一時的に解除し、期間終了後は制限を自動的に戻すといった柔軟な対応も行えます
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また、校務用端末と学習用端末を一つのツールで管理できるので、非常に効率がいいです。本市では、機微な情報を取り扱う校務用端末は、情報セキュリティ対策としてさまざまな制限をかける一方、児童生徒用端末は、文房具として自由な使い方ができるように可能な限り制限を少なくしています。
このように運用の考え方も、各種設定も混在した端末を1つのツールで管理すると、一つひとつの作業が煩雑になりがちです。しかし、『SKYSEA Client View』では、学校ごとに端末を登録し、その中で校務用端末、指導者用端末、児童生徒用端末を分けて管理できます。その上で、全校の児童生徒用端末だけを集約して、一括して設定変更するといったことも簡単にでき、煩雑さを感じることはありません。
また、管理画面が分かりやすく、外部記憶装置の細かな制御やソフトウェアのアップデート適用などは、指導主事を中心に自分たちで行えるので、学校の実情に即して柔軟な運用ができるという点も高く評価しています。
[リモート操作]によって、ICT支援員4名で120校の活用を支援
本市では、4名のICT支援員が120校のICT活用を支援しています。これは4校に1人程度の配置をめざす文部科学省の目標水準には及びません。しかし、文部科学省の「次期ICT環境整備方針の在り方ワーキンググループ」の取りまとめ(令和6年7月22日公表)では、次のように言及されています。
目標水準を満たす又は上回る配置がなされ、ICT活用の推進に大きく貢献している例が多数ある一方で、目標水準には至っていないものの、GIGAスクール運営支援センター事業等を活用し、遠隔サポートと組み合わせて必要な支援体制を構築している例や、教職員が十分なICT活用能力やトラブル対応能力を備えており、常駐の支援を必要としない例も見られる。
本市は、まさに「遠隔サポートと組み合わせて必要な支援体制を構築している例」に当たるといえます。教育委員会内に常駐するICT支援員が、[リモート操作]機能を活用して、学校からの問い合わせにワンストップで対応し、学校を遠隔でサポートできる体制を整えています。
具体的には、4名のICT支援員がすべての問い合わせの一次受けつけを担当し、内容によって対応者の振り分けを行います。ソフトウェアの操作方法や授業・学習での活用などは、そのままICT支援員が対応。情報教育推進に関する内容やICTを活用した授業設計などの場合は、指導主事につなぎます。また、高度なトラブル対応やネットワークの調査など技術的な問い合わせについては、常駐するシステムエンジニアに引き継ぎます。そして、すべての担当者が管理者権限を持っており[リモート操作]機能を使うことができます。
ICT支援員が問い合わせの一次受けつけを対応し、内容によって振り分ける
例えば「校務システムで、通知表のレイアウトの作り方を教えてほしい」といった問い合わせがあった場合は、ICT支援員が対応します。このとき口頭では伝えにくい内容でも、学校の端末をリモート操作して、実際の操作手順を見せながら説明することができます。学校では数人の教員が一度にレクチャーを受けることもあり、日常的にミニ研修が行われているような状態です。
毎日20件程度の問い合わせがありますが、この体制で十分まかなえています。その理由の一つが、綿密な情報共有ができることです。
を見ていただくと分かるように、ICT支援員の座席は背中合わせに配置しています。これはICT支援員からの要望で、席を立って回り込まなくてもお互いのPC画面が見られる上に、椅子を回転させるだけですぐに相談できるように工夫した配置なのです。こうすることで、常に情報共有が行われており、ICT支援員によって知識やノウハウに差が出るということを防いでいます。この点について、前述のワーキンググループの取りまとめには、次のような記述もあります。 ICT支援員の座席は、互いの画面を見合って情報共有ができるよう背中合わせに配置ICT支援員が担う業務は多様であり個々の支援員が得意とする分野も異なる中で、人材の交代があることとも相まって、4校に1人以上を配置しているものの、学校現場と十分な関係性を構築した上で学校のニーズに合致した支援を行うことに課題を感じている例も見られる。また、必要な ICTスキルを有する人材の不足により配置が困難となっている例も見られる。
一般的に、ICT支援員が学校を訪問する際は1名で行動することが多いため、情報共有が難しいといわれています。しかし、本市では4名のICT支援員が執務室内で対応するため、その場で情報を共有できます。また、学校を訪問する場合は、可能な限り2名1組で行動するようにし、常に経験やノウハウを共有しながら知見を蓄積できる体制とすることで、学校のニーズに合わせた支援ができるようしています。
ICTの活用促進を前提にして、故障にも備えることが大切
学習用端末の運用においては、端末の故障対応についても考える必要があります。とはいえ、端末の活用率と故障発生件数は比例するものです。例えば本市では、すべての児童クラブにWi-Fi環境を整えました。子どもたちが下校後に児童クラブに行ったときに学習用端末を使った学習ができるようにするためです。整備に合わせて、児童クラブを管轄する市長部局と教育委員会の連名で、すべての学校において全学年の端末持ち帰りを推進する通知を行いました。このように活用が進むほど、家庭に持ち帰ったり校外で使用したりする機会が多くなり、破損等の故障リスクが増すことは避けられません。
もちろん、丁寧に扱うように指導する、緩衝材が入った手提げバッグに入れて持ち運ぶ、といった対策は行っていますが、それでも活用のなかで故障してしまった場合には、市の予算で修理対応を行っています。それは「端末を壊さないこと」を強調し過ぎるあまり、子どもたちが活用を尻込みすることがないようにしたいと考えているからです。
故障に対して補償が受けられる保険に加入することも選択肢の一つですが、現在は故障率の高さから保険料が高騰しています。また、保険の適用には相応の事務手続きが必要で、2万台を超える学習用端末を運用する本市の環境では事務作業量が膨大になり、数値に表れないコストが積み重なることが懸念されるため、個別に修理対応する方が全体のコストが抑えられると判断しています。
本市では、修理対応のための補正予算も組みました。また、GIGAスクール構想第2期に向けた予算(令和5年度補正予算)では、15%以内の予備機の整備も含まれました。これまでの学習者用端末の活用の経験を踏まえ、端末の更新に当たっては、MIL規格に適合するなど堅牢性が高い端末を選定するといった対応はもちろんですが、子どもたちの学びを止めず、自由な発想で活用の幅を広げられるようにすることを第一目的として、故障・修理についても考慮した整備計画を検討していきたいと思います。
授業観・学習観のマインドチェンジがカギを握る
前述したように、本市では児童生徒用端末の制限は必要最小限にとどめています。子どもたちが不適切な使い方をしないよう厳しい制限をかけるというのも、一つの考え方ではあると思います。しかし、できることが限られた端末しか使ったことがない子どもが、コンピュータを「自分の道具」として自在に活用できるようになるでしょうか。いざ自分の端末を購入し、何かしらの設定をしなければならないときに、自分ではどうすることもできないという状態では意味がありません。
もちろん、危険なWebサイトにはつながらないように制限したり、ウイルス対策ソフトウェアを更新したりといった安全に関わる設定や管理は行いますが、それ以外は子どもたち自身が「自分の道具」として活用する経験のなかで身につけることが重要だと考えています。むしろ厳しい制限で縛ろうとすると、かえって抜け道を探そうとしてしまうものです。
その意味で、GIGAスクール構想第2期においては、教員の授業観・子どもたちの学習観のマインドチェンジが大切になります。よく、子どもたちが「端末を文房具の一つとして使う」ということがいわれていますが、言葉でいうほど簡単ではありません。
これまで子どもたちは、教員の指示に従って端末を使ってきました。みんなが同じタイミングで、同じツールを使い、同じ活動をする。これは、教員1人だけが知見を保有していて、それを子どもたちに分け与えるのが主な仕事だった時代の学び方です。ですから教員は常に研さんに励み、自身の知識や経験の幅を広げる努力をしてきました。もちろん、それ自体は今後も変わらず必要です。
しかし一方で、どれほどの知見を得ようとも、インターネット検索や生成AIによって得られる情報量を超えることはないということも認識する必要があります。これからの教員はその認識に立ち、子どもたちがどのようにして問題解決に取り組むのかを見守るとともに、いかにファシリテーションするかが問われます。
先行きが不透明で将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)」の時代とされる現代においては、絶対的な「正解」というものは少なくなっており、「最適解」と呼べるものですら少なくなってきているなか、自ら「納得解」を作るという学習経験が大事になります。「納得解」を作るには、ほかの人の意見を聞くことが欠かせないので、協働的な学びが不可欠になります。また、探究学習が重視されるのも、こうした時代の変化が背景にあります。教員がこうした活動を適切にハンドリングし、ファシリテーションしながら、学びが問題解決に向かうという経験を、子どもたちにさせていくことが重要になります。
次の5年を見据えてICT環境の在り方を考える
学習用端末の更新に当たっては、GIGAスクール構想の当初からこれまでの実践を踏まえつつ、授業観・学習観のマインドチェンジを考慮し、5年先のICT環境の在り方を見据えて考える必要があります。これからは、子どもたちが自分の判断で端末を使い、調べてまとめたり、情報を共有したり、意見交流したり、あるいは一連の活動を記録して振り返ったりといった自由な使い方が求められます。
そのために、それにふさわしい端末を選定することと同時に、それを可能にする運用管理の体制が必要になります。だからこそ、学習を取り巻く環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できるよう、自分たちで端末の運用管理ができる体制を大切にしたいと考えています。
本市としては、これまで以上にICT活用を推し進め、子どもたちの学習活動の幅を広げていくために、より安全に活用できる運用管理をめざして、今後も取り組んでいきたいと思っています。
これからの学習環境の変化にも
迅速かつ柔軟に対応できるような
端末の運用管理体制を大切にしたい
(2024年10月掲載)