教育情報化最前線

兵庫県加古郡稲美町立加古小学校 全校で『SKYMENU Cloud』を活用 チーム担任・教科担任の情報共有や業務改善に効果

兵庫県加古郡稲美町立加古小学校は、2022年度から「チーム担任制」と「教科担任制」を取り入れた学校経営に取り組まれています。1人1台端末やクラウド環境、『SKYMENU Cloud』を効果的に活用して、全教職員が連携。学習活動の充実と業務効率化を推進されています。同校の取り組みについて、野邊 久美 校長、冨田 有統 教諭、荒木 好美 教諭に伺いました。

野邊 久美校長

兵庫県加古郡稲美町立加古小学校

冨田 有統教諭

(3~6年・体育担当)
兵庫県加古郡稲美町立加古小学校

荒木 好美教諭

(1~2年・国語担当)
兵庫県加古郡稲美町立加古小学校

チーム担任制と教科担任制で、多様性を生かした学校へ

本校は児童数169名、全学年単学級の小規模校です。2022年度よりコミュニティ・スクールをスタートさせ、地域や隣接する幼稚園や保育園と連携を密にした学校運営を進めています。

今年度、学校目標を「自ら学ぶ意欲と豊かな心を持ち、未来に向かってたくましく生きる子の育成~地域社会の一員として自分の良さを活かして幸せに生きていける力をつける」と定めました。子どもたちがそれぞれの良さを発揮できる場や機会をどんどん増やし、多様性を生かせる学校をめざしています。

児童の端末活用は日常化しており、端末の持ち帰りも全学年で行っています。また、毎週火・木曜日にはキーボード練習の時間や月に1回の情報モラル学習の時間を設けており、全校を挙げて情報活用能力の育成を図っています。

前任校長の発案で、本校では2年目から「チーム担任制」と「教科担任制」を取り入れています。1、2学年では2名、3~6学年では5名で教員がチームを編成し、1週間交代で学級担任を回しています。教科担任制は、例えば3~6年生は、国語、算数、社会、体育、音楽を教科担任が指導し、縦のつながりを意識した系統的な指導を展開しています。

そもそもチーム担任制は「児童をさまざまな先生と関わらせたい」「多様な目で児童理解を図り指導したい」という思いからスタートしました。特に前者については、本校は全学年単学級のため、児童も教員も人間関係が固定されてしまいます。当然ながら教員と児童の相性や、高学年になれば、異性の教員には相談しにくいといったこともあります。また、保護者にも相談しやすい教員がいます。チーム担任制は1週間ごとに学級担任が代わるので、児童も保護者もどの教員にも相談できるメリットがあります。

児童の様子や共有事項は、毎週木曜日に開催する「チーム担当者会」で共有していますから、どの担任に相談しても問題ありません。特別支援学級の担任や専科教諭、養護教諭も参加し、学校全体で情報共有を図っています。打ち合わせ内容は、Google スプレッドシートでリアルタイムに共有し、効率化を図っています。

■ 稲美町立加古小学校のチーム担任制・教科担任制 3~6年生の場合

複数教員による多様な学級指導と
教科担任による系統立った指導

私は、本校のチーム担任制の推進と、3~6年生の体育を担当しています。チーム担任制を2年間推進して、学級担任制の時と比較して、指導の充実を感じています。

例えば学級担任制では、私たち教員は自分の強みを生かして学級経営をしていました。その一方で、教員が苦手な部分は十分に指導できないまま、もしくは、自身の指導の不十分さにも気がつかないままに1年間を過ごしていました。それがチーム担任制になり、複数の教員で学級指導を行うことで変わりました。各教員の得意分野を生かしつつ、不得意な分野があれば、教員が互いに補い合って指導できるようになったのです。どの学級も等しく底上げできたという感触があります。

教科担任制についても効果を感じています。例えば5年体育の授業では、単に技を練習するだけでなく、図1のように動画で動きを撮影して、技のポイントとなる部分を自ら確認。練習を振り返りながら学びを進めています。

これは、児童が自己調整しながら自ら学習を展開できるようになってほしいという考えから行っています。児童の成長をイメージして、系統立った指導ができるという教科担任制の良さを実感しています。

図15年体育:[発表ノート]で目標を設定し、動画やメモで振り返る。児童生徒の「自ら学ぶ力」を育む

私は昨年度、本校に異動してきました。赴任して最初に感じたのは職員室の雰囲気の違いです。先生方が複数の学年、学級を担任として関わるので、どの学年の、どの児童の問題も自分が解決すべき問題として捉え、考えていたのです。一つのチームとして、子どもたちに本当に必要なことを議論して取り組もうとする姿がありました。

低学年では、昨年度9月からチーム担任制に切り替わりました。そもそも低学年の指導は、人手がいくらあっても足りません。「1年31名、2年24名の児童をそれぞれ1人が見る」から「2人で55名の児童を見る」という変化だけで、精神的にも肉体的にも大きな違いを感じました。児童は、相談できる先生が2人に増え、教員は2人で協力して指導できるという安心感があります。

教員は16時45分に定時退勤

業務改善にもつながっていて、多くの教員は16時45分の定時で退勤しています。教頭は、夜にPTAなどの地域の方々との打ち合わせが入る場合がありますが、普段は18時半ごろまでには退勤しています。教科担任制によって教員の授業時数がそろえやすくなり、毎日直接授業を担当しない時間を確保できるのです。先生方はその時間を使って、ノート点検や評価、教材研究などをしています。

また、毎日の職朝をやめ、職夕に変更するといった改善もしています。職夕は、1年生から順番に児童の欠席状況や気になったことを共有します。専科教員や養護教諭、指導補助員の先生も含めた全教職員で情報共有します。職朝がないので、先生方は毎朝、職員室に顔を出したら、すぐに教室に向かいます。朝の時間が子どもたちと触れ合うための時間になっています。

『SKYMENU Cloud』を
共通の学習支援ツールとし、全教員、全児童が活用

各教科担任から児童に発信しやすい[電子連絡板]

朝の出欠連絡や必要な情報の共有は、クラウドサービスや『SKYMENU Cloud』[電子連絡板]などを活用しています。

[電子連絡板]には、1年から6年まで、学級ごとに連絡板が開設されています。職員室で情報を更新すれば、すべての学年、組の児童の[電子連絡板]に反映されるので、とても便利です。今では、連絡事項の共有だけでなく、さまざまに活用が広がっています。例えば「体育の学び箱」や「音楽の学び箱」では、児童が自ら学習を進められるよう、参考になるWebサイトのURLを掲示。「タブレット活用掲示板」では、プログラミングやタイピング練習のWebサイトのリンクを載せており、児童の興味関心に応じて取り組めます。

「加古っ子掲示板」は、Google フォームで作成した児童を対象としたアンケート調査のURLを載せています。教員が児童に回答を依頼するだけで調査が進むため、とても効率的です。

■ さまざまに活用が広がる[電子連絡板]。左は2年1組の連絡用、右はアンケート調査に活用できる「加古っ子掲示板」

学級担任制では、連絡ツールは学級ごとに異なることが多いですよね。チーム担任制だからこそ全学年で共通化し、足並みをそろえることができたのはよかったと思います。

すべての教員と児童が使いやすいツールを検討した結果、最もシンプルで使いやすいと判断できたのが[電子連絡板]でした。全学年で使うため、[電子連絡板]のフォーマットや記載する内容の統一も図りました。

チーム担任制では、「共通化」や「情報共有」がとても重要です。特に小学校は、教員や学年、学級ごとに独自の学級ルールが存在します。それは連絡帳の書き方や休み時間の過ごし方、給食の配膳の仕方など多岐に及びます。そのため、本校では、学級運営に関する事項を細部まで洗い出して、指導内容を決めて統一を図っています。ですので、どの先生が担任業務にあたっても、児童が戸惑わないようにしています。

冨田先生が作成した「学級チェックリスト」が役立ちました。それから、[電子連絡板]の表示方法や連絡帳の書き方を共有しているので、4月には2年生が「ミニ先生」となって、1年生に連絡帳の書き方を教えてくれるようになりました。チーム内の学年だからこそ子ども同士の関わりが生まれ、さらに教員の負荷軽減にもつながっています。

学級経営の方法が統一されたことで、年度初めの学級開きに使っていた時間が大幅に削減される、という効果もありました。

汎用的なツールを使うよりも、汎用的な力を高めることが重要

[発表ノート]や[電子連絡板]は、本校の学習活動を下支えしてくれているツールだと思っています。全校で活用が広がっている理由の一つに、学習活動に必要な機能だけが搭載されていて、シンプルな造りをしていることが挙げられます。そのため、汎用的なプレゼンテーションツールを活用した際に起こりがちな、「スライドの装飾やアニメーションなどの加工に児童が注力してしまって、学びの本質とは異なる部分に時間が割かれる」ということがありません。教員も児童も学習活動に集中できるのです。よく「高学年になれば汎用的なツールを使わせた方が良い」といったご意見を伺いますが、私たちは情報活用能力をはじめとした、児童の汎用的な力を高めることこそが重要であって、そのために必要なツールを使って指導をすることが大切だと考えています。本校ではそれが『SKYMENU Cloud』でした。児童に汎用的な力がしっかりと身についていれば、将来どのようなツールと出会っても、自在に使いこなして課題解決を図れると思っています。

『SKYMENU Cloud』を全学年共通の学習ツールに決めたことで、児童同士、教員同士も教え合いが進み、学校全体の活用促進につながったと思います。

特に[手書き入力]機能が優れており、タイピングが苦手な低学年の児童でも[気づきメモ]に気づきを入力しています。最近では、メモの内容を[発表ノート]にコピーして、思考ツールで整理するといったことまでできるようになりました。『SKYMENU Cloud』は低学年から高学年の児童まで幅広く活用できる、数少ないツールだと思います。ですので、昨年度はGoogle Classroomも活用していたのですが、今年度からは『SKYMENU Cloud』を中心にして学習活動を展開しています。

■ 2年国語:[発表ノート]で漢字を部首ごとに分類。分類した結果を見せ、話し合う

教科担任制も3年目になり、校内で[発表ノート]などの教材がたくさん蓄積されました。2年目以降は、作成した教材を加工して授業を進められるため、業務効率化につながりました。教材研究の時間を確保できるようになり、教材の練り上げにもつながっています。その際に役立っているのが、コミュニティサイト「SKYMENU Teacher’s Community」に投稿される全国の先生方の教材です。日々の実践の中で研究され、作成された教材ですので、力の入ったものだと思います。例えば3年体育の授業では、神戸市立本山第一小学校の田渕 宏樹 教諭が投稿された振り返りのフォーマットを参考にさせてもらっています図2。校内の先生方にも共有し、さらなる授業改善や業務改善に役立てたいと思っています。

図2田渕教諭が投稿した[発表ノート]を参考に、冨田教諭が作成した振り返りシート

収集した情報を選択して活用する
「情報活用能力の育成」を研究テーマに

本校では情報活用能力の育成を研究テーマのひとつに掲げています。今年度は放送大学の中川一史教授らが推進されている「情報活用能力ベーシック」の考え方を基に研究を進め、情報をうまく活用できる児童を育てたいと考えています。

今まではICTを活用した情報収集が注目されていましたが、今後はICTを使って収集した情報を選択し、活用する力を育成することがより重要になると考えています。

私が注目しているのは[シンプルプレゼン]です。この機能にはスライドに挿入できる文字数や画像の数に制限が設けられているので、児童は情報を取捨選択しながらまとめ、発表する必要に迫られます。情報をまとめる過程で言葉を選ぶ力を育むことや、「スライドを読み上げる発表」から脱却して「自分の言葉で伝える発表」へと学びを変えられると考えています。こうしたツールを教員が学習指導にうまく取り入れることで、情報活用能力を育成できると思っています。

その一方で「書く」「指先を使う」といった従来の学習方法の大切さをあらためて感じています。ICT活用が日常化してきたからこそ、従来の学習方法の見直しやICTをより効果的に活用できる場面の検証を進めたいと考えています。

(2024年6月取材 / 2024年9月掲載)