授業でのICT活用

【教育情報化最前線】子どもにICT活用を任せられる安心で、使いやすいICT環境をめざす 高松市教育委員会

高松市教育委員会は、「高松市ICT教育推進計画」に基づき、2018年度から2023年度の6か年計画で教育の情報化を進められています。2018年度から順次、普通教室等へ電子黒板等の設置を開始し、合計1,332台にも及ぶ、教育用タブレット端末の導入を進めています。教員研修、ICT環境整備、さらには校務用PCとタブレット端末を含む教育用PCを合わせて約7,000台の端末を一元管理されている高松市総合教育センターの篠原 隆則 所長、河田 祥司 指導主事、大胡 賢太郎 指導主事にお話を伺いました。

高松市教育委員会 高松市総合教育センター 篠原 隆則 所長 河田 祥司 指導主事 大胡 賢太郎 指導主事

教員研修からICT環境整備、運用管理まで幅広い業務を担う

香川県の中央に位置する高松市は、県の人口の約4割を抱える中核市です。管内には、分校を含む小学校48校、中学校24校、高等学校1校があり、約35,000人の児童生徒が在籍しています(2019年5月1日現在)。

私ども高松市総合教育センターは、教員研修を主業務とし、中核市として県教育委員会と協力しつつ、独自にさまざまな研修を展開しています。それらに加えて、不登校などの対応や特別支援教育、さらにはICT機器など情報に関する学校の施設整備、運用管理なども行っており、幅広い業務を担っています。

2023年度までの中長期計画「高松市ICT教育推進計画」を策定

当市における教育の情報化は、小学校外国語教育の先行実施をきっかけに、大きく進展しました。当時、教育委員会では、外国語教育にかかる先生方の負担をどのようにして軽減するのかが課題になっていました。検討の末、文部科学省のデジタル教材などを有効活用するために、小学校5、6年の教室に電子黒板を整備することが決まりました。

当センターでは、その環境を5、6年生の教室だけでなく、市内全校全教室へと展開したいと考え、「ICTを活用した新しい時代に必要な資質・能力の育成」を目標に、中長期的な整備計画「高松市ICT教育推進計画」を策定しました。具体的には、目標達成のための方策として「児童生徒の情報活用能力の育成」「教員の授業におけるICT活用能力の育成」「ICT環境の整備」の3つの取り組みを掲げています。

「ICT環境の整備」については、計画当時に文部科学省が示した「普通教室のICT環境整備ステップ【図1】」を参考にしました。当時は、Stage1ですら達成できていない状況でしたので、推進計画ではStage3に向けて6か年計画で段階的に整備を進めることとし、市長部局の理解を得て、2018年から整備をスタートさせています。

図1

特定の教科や単元、場面で使える
アクセサリー的なツールより、
毎日の授業で先生も子どもも使えるツールが必要

「横のつながり」を重視し、「学年ごと」に整備を進める

整備の計画にあたり、私どもがこだわったのは、「横のつながり」を重視した整備です。これまで当市は、各校でICT機器が均等に配分されるように整備を進めてきました。その結果、ICTが得意な一部の先生に機器が集中し、ほかの先生に活用が広がりにくい状況が生まれていました。

そこで、今回の整備では、学年ごと、つまり「横のつながり」に配慮してICT環境をそろえる方針で計画を練りました。電子黒板を例に説明すると、2018年4月から小学5、6年の全普通教室で、2019年4月から中学校の全普通教室で電子黒板を使用できるように整備を完了させました。そして現在は、2020年4月から小学3、4年の全教室で電子黒板が使用できるように整備を進めています。

「高松型5点セット」で、使いやすい教室環境へ

【図2 】高松型5 点セット

電子黒板の導入にあたっては、「高松型5点セット」をつくり、同じ構成で展開しています【図2】。

このセットは、「電子黒板」をはじめ、デジタル教科書等がインストールされた「教育用PC」「実物投影機」「保管庫」、そして「スタンド」で構成されています。保管庫には、教育用PCや実物投影機を保管します。以前の教育用PCは、職員室の保管庫で管理していたため、持ち運びや設置、配線の手間から、思うように活用が進みませんでした。各教室での管理に変えることで、先生方の手間や負担感を軽減させ、より使いやすい環境の実現をめざしています。

細かな部分ですが、電子黒板のスタンドもこだわりました。狭い普通教室内では、スタンドの脚は邪魔になります。脚を折りたたむことで、わずか20㎝でも省スペースになるものを探して選びました。

電子黒板とタブレット端末を連携させる学習支援ツールが必要

【写真1】電子黒板とタブレット端末を連携させて実践

「高松型5点セット」の整備を進める一方で、タブレット端末の整備については、コンピュータ教室のデスクトップPCをタブレット端末に置き換える形で実現しています。

すべてのタブレット端末には、学習支援ツールとして学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しました。これはパイロット校として、さまざまなICT機器の活用研究を進めていた東植田小学校や勝賀中学校での取り組みを参考にしています。両校ともに学習活動ソフトウェアによって、電子黒板とタブレット端末の連携が円滑になり、さまざまな子どもの考えを共有しながら授業が展開されていました【写真1】。自分の考えをタブレット端末上で表現すること。さらに電子黒板で友だちのさまざまな考えを知ることで学びは充実します。私どもは、その連携を支える学習活動ソフトウェアは、新学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、欠かせないツールだと捉えています。

直感的に使える操作性、安定性、素早い動作を重視

学習活動ソフトウェアの選定にあたっては、いくつかのメーカーの製品を比較、検討しました。特定の教科、単元や学習活動に紐づいた「アクセサリー」的な機能が充実したソフトウェアを求める声もありましたが、最終的に『SKYMENU Class』を選びました。

選定にあたって一番評価したのは、『SKYMENU Class』の「ツールバー」です。授業で必要な機能が一つにまとまっていて、先生も子どもも直感的に使える操作性を備えていました。加えて、私どもが重視した電子黒板との連携については、「先生と子ども」「子どもと子ども」をつないでも、一つひとつの機能が安定して動き、素早い動作を実現していました。コンピュータ教室の『SKYMENUPro』から続くソフトウェアですから、授業のために作り込まれているソフトウェアだと感じました。

このような直感的な操作性や挙動の早さ、安定性といった総合的な「使いやすさ」があることで、先生は安心して子どもにICT活用を任せられます。新学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」を実現する上で、欠かせないことだと考えています。

「ICTの研修」ではなく、「ICTで研修」へ

【写真2】タブレット端末を研修ツールに

機器を整備しただけでは、活用は広がりません。当センターでは、タブレット端末や『SKYMENU Class』に関する研修会を、各校への導入を終えた2019年11月中に3回実施しました。各校の情報担当の先生を中心に、約100名の先生方が参加しました。Sky株式会社のインストラクターによる操作説明も実施し、先生方は「最初は難しいと思っていたけど、できそうだ」と、意欲をもって会場を後にしていました。基本研修である初任研や、中堅の先生方向けの研修の中にもICTに関する研修を入れています。

2018年度からは、情報教育やICT活用に関連しない研修において、タブレット端末や『SKYMENU Class』を研修のツールとして用いて研修をしています【写真2】。研修で体験することで、授業で活用するイメージを持ってもらえると考えています。今後も、ICT操作スキルの習得を目的とした研修だけでなく、ICTで研修することで操作や活用を自然に学べるように研修形態を工夫していきたいと思います。

量から質へ、先生から子どもへ

こうした研修に加え、要請があれば学校に訪問して研修や研究授業に向けた指導を行っています。ほかにも社会や理科、英語などの先生方の任意の研究会や教職経験5年未満の先生向けの自主研修「高松塾」においても、ICT活用をテーマとした研修を実施しています。さまざまな機会を使って、ICTに触れる人、触れる量を増やしています。

「量を増やす」ことについて言えば、研修の中で「まずはICT活用の質ではなく、ICT活用の量を増やそう」と先生方にお伝えしています。最初はさまざまな授業で使い、とにかく量をこなすことが大切です。量をこなすことで、次第にICT活用の質は高まっていくものと思います。

例えば、電子黒板の例ですが、導入したある学級では、最初は先生が教材を提示するために活用されていました。先生にはまだ「子どもに電子黒板を使わせよう」という発想はありませんでした。けれども、毎日使ううちに先生も慣れていきます。そのうち朝の会で、日直に電子黒板で動画を提示させ、リコーダーの練習をさせて、その間に先生は授業準備をするといった活用が見られるようになりました。先生の活用から子どもの活用へとICT活用の質的な変化が起こったのです。やがて、子どもが発表や話し合いの中で電子黒板が自然に活用されるようになり、ICT活用の質が大きく変わりました。この話には続きがあって、ある日子どもがお楽しみ会で椅子取りゲームをするときに「実物投影機で録画したい」と先生に相談してきたそうです。先生は「記念に映像を残したいのかな」と思って「いいよ」と答えたそうですが、実は判定が難しい場面に備えて、「ビデオ判定」をするために録画していたそうです。子どもは、大人の想像を超える使い方をするという良い例だと思います。

こうした「量」から「質」への転換、そして「先生」から「子ども」へとICTの恩恵を還していくような流れを、さまざまな取り組みを通じて作っていきたいと考えています。

『SKYSEA Client View』が、約7,000台の端末の一元管理を支援
【図3】

当市は、2011年に校務用PCと教育用PC(ノートPC)にクライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入し、当センターから、市内全校の端末を一元で管理する体制を構築しました。2018年度から導入を進めているタブレット端末にも『SKYSEA Client View』を導入しており、合計7,000台以上の端末を管理しています【図3】。膨大な数の端末がありますが、運用管理やヘルプデスク的な業務は、当センターの情報グループ(係長1名、指導主事2名、ICTアドバイザー1名、嘱託職員2名)のわずか6名で対応しています。

先生方は、ICTの専門家ではありませんから、例えばコンピュータを使っていて、何かトラブルがあったとき、その原因がどこにあるのか見当がつかないという場合は少なくありません。先生方から電話があれば、当センターの『SKYSEA Client View』の管理機から、[リモート操作]機能を使って相手の画面を確認し、問題の解決にあたっています。画面を通じてソフトウェアの操作を説明できるので、操作を覚えてもらえる機会にもなっています。

また先生方は、授業や子どもの対応があるので、常にコンピュータの前にいるわけではありません。そうしたときは「電源を入れて、インターネットにつないでおいてください」とお伝えしておき、離席中に[リモート操作]機能で対応します。授業、校務、子ども対応と忙しい先生方の手を止めることなく、素早い対応が実現できています。

このような長年の運用実績や使い勝手の良さが、タブレット端末1,332台への『SKYSEA Client View』の導入を後押ししました。

[ソフトウェア配布]で、全タブレット端末に一括インストール

当市ではプログラミング教育の推進にあたり、Scratchの活用を広げています。先日、Scratchが3.0にバージョンアップされたのですが、動作するブラウザがGoogle Chromeに変更されました。タブレット端末にはGoogle Chromeがインストールされていなかったため、全端末にアップデートとインストールの作業が必要になりました。

そこで役立ったのが『SKYSEA Client View』の[ソフトウェア配布]です。当センターの管理機からすべてのタブレット端末に一斉にアップデートモジュールやインストーラーを配布して対応できました【図4】。もし『SKYSEA Client View』がなければ、私どもが1校ずつ回って作業をするか、作業のためのマニュアルを作り、各校の先生方に作業をお願いする必要がありました。『SKYSEA Client View』によって、先生方の手を止めるとなく、素早く、確実な対応ができました。

図4

不注意やミスによる情報漏えいを防ぎ、教員を守る

ICT活用の推進にあたって、学校現場の現実的な課題として、さまざまな生徒指導上のリスクへの対処があります。コンピュータ教室から普通教室へ活用の場面が広がると、より多くの教員、児童生徒が触れる機会が増え、リスクも高まります。そのリスクを未然に防ぎ、減らす仕組みや、トラブルが発生した際に速やかに状況を分析し、適切に対処できる仕組みが必要です。『SKYSEA Client View』の[リモート操作]や[ログ(操作履歴)]は、そうした場面で、大いに役立てられるものと考えます。そして、その安心感が先生方のタブレット端末活用を後押しするものと期待しています。

『SKYSEA Client View』が校務用PCに導入されてから、約7年が経ちました。当初はUSBメモリなどの使用制限に戸惑いの声もありましたが、今では当たり前の環境として先生方に受け入れられています。それでも、情報セキュリティ対策に不便は感じるものと思います。しかし、その不便の一つひとつが児童生徒の大切な情報を守り、ひいては先生方を守ることにつながっています。教員の情報漏えいの原因の多くは、不注意による紛失やミスと言われています。日々懸命に授業、校務に取り組まれている先生方を、一瞬の不注意やミスから守りたい。私たちはそのために『SKYSEA Client View』を役立てたいと思っています。

台数にとらわれず、先生も子どもも使いやすい環境づくりへ

今の時代、情報の分野は目まぐるしく状況が変わります。「高松市ICT教育推進計画」は2023年度までの整備計画ですが、国の動向にあわせて2021年度以降の方向性を見直し、2020年度中に整理する予定です。

ただ、タブレット端末の台数を単純に増やせば、それでICT活用が進み、教育が充実するというものではないと考えます。教室に「先生も子どもも使いやすいICT環境」をつくることが大切であり、ネットワーク環境や運用管理、情報セキュリティ対策などさまざまな要素を踏まえて、トータルで整備を考える必要があります。

そして、教員のICT活用指導力の向上もセットで考えなければなりません。推進計画で掲げる3つの方策「児童生徒の情報活用能力の育成」「教員の授業におけるICT活用能力の育成」「ICT環境の整備」。この方策をブレさせることなく、バランスよく進めたいと思います。

(2019年11月取材/2020年3月掲載)