授業でのICT活用

【教育情報化最前線】生徒が主体的・対話的に学ぶ、新しい授業をめざす 学校法人宣真学園 宣真高等学校

2020年に創立100周年を迎える宣真高等学校は、2018年より校舎のリニューアルを実施。同年12月に最新のICT機器を活用しながら、主体的・対話的に学ぶための新しい学習空間「ICTルーム」を新設されました。48台のタブレット端末や複数のプロジェクタ、さらには学習形態に応じて自由にレイアウトできる可動式の机や椅子などを生かした授業が展開されています。同校の取り組みについて、中川 千津江 校長、北村 仁 教頭、奥村 千晶 教諭にお話しいただきました。

学校法人宣真学園 宣真高等学校 渡瀬 金次郎 校長、藤田 貴憲 教頭付、北原 久仁香 教諭

女子の資質を最大限に伸ばし、社会で輝き活躍する女性へ

本校は、大正9年に大阪に開校し、2020年に創立100周年を迎えます。「品格ある人格形成」をめざし、社会で活躍できる女性の育成のために創建されました。成長期には、男女の脳の性差が見られますから、それぞれの性に合った教育が必要です。女子教育に特化し、女子の資質を最大限に伸ばすための指導に取り組んでいます。

具体的には、異性を気にすることなく、自分らしさを発揮できる「安心感を与える環境と指導」や、個々に合わせた「きめ細かい学習指導」、さらには、「キャリア教育」を充実させることで、社会で輝き活躍できる女性の育成に注力しています。

なかでも、キャリア教育を重視しています。これまでも時代と共に、社会に求められる女性像は変化してきました。現代は、男女が肩を並べて働き、お互いに助け合って仕事と家庭を両立させることが、もはや当たり前になっています。私どもは、こうした新たな女性の強さというものを、異性のいない本校だからこそ育むことができると考えています。彼女たちが本来持っている企画力や運営力、行動力を発揮し、3年間の学校生活で、社会で必要とされるリーダーシップを高めてほしいと思っています。

また近年、人工知能(AI)やロボットの発達によって、今後10~20年後に日本の労働人口の約半分の職業がAIやロボットなどに代替されるという推測が出されています。そうした未来においても残ると予測されているのは、AIが取って代わることのできない創造的な、クリエーティブな仕事です。そうした仕事で求められるスキルや資格、そして必要不可欠なICTを道具として使いこなせる力を身につけて卒業させたいと考えています。

「個人フォルダ」に3年間の学びの足跡を残す

本校には、2つのコンピュータ教室「情報第1教室」「情報第2教室」があります。画像処理や動画編集が可能なデスクトップPCを、それぞれ50台ずつ設置しています。これらの教室は、教科「情報」の授業に加えて、総合コースの情報デザインエリアの授業「パソコン検定講座」や、広告制作や画像、音楽、動画を組み合わせた映像作品制作などに取り組む「コンピュータデザイン」の授業などで使用しています。非常に多くの授業が行われるため、教室が空いている時間はほとんどありません。

学習活動ソフトウェア『SKYMENU Pro』を導入しており、使い勝手が良いと感じています。活用方法としては、主にコンピュータの電源を一斉にONにしたり、授業中には[教材配付・回収]機能を使って課題ファイルを一斉に配付、回収したりしています。[画面一覧]機能は、学習者機の状況をリアルタイムに確認できるので、進捗を確かめながら授業を進行する上で役立っています。

[小テスト]機能で、テストや定期考査も行っています。集計結果がCSV形式で出力されるので、評価にかかる業務の効率化につながっています。それから、現在試行段階ですが生徒の課題ファイルや作品、学習の履歴を生徒1人ひとりに付与される[個人フォルダ]に蓄積していき、3年間の学び足跡を示すe-ポートフォリオとして今後、大学入試等に生かしたいと考えています。

※[ユーザ情報管理]機能で、教員や生徒のユーザ情報を登録すると、サーバ内に自動的に生成されるユーザ専用のフォルダ

アクティブ・ラーニングの実現をめざし、ICTルームを新設

このようななかで、開校100周年に向けた事業の一環として新校舎を建設すること、さらにはタブレット端末等を使用して学習できる新しい教室「ICTルーム」を新設することが決まりました。

新設にあたって最初に固めたのは、コンセプトです。関係者で話し合った結果、単にタブレット端末を使う空間にするのではなく、さまざまなICT機器を活用できること。さらには、新学習指導要領の求める「アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)」の実現に向けた新しい学習空間にすることをコンセプトに定めました。【写真1】が完成したICTルームです。

【図1】
多様な学習形態に柔軟に対応できるホームベース型の机
【図1】

ICTルームを設計する上で、最も重視したのは「机」です。生徒たちがICTなどを活用して対話的に学ぶために、従来の普通教室とはまったく異なる学習空間を作りたいと考えました。今回導入した「ホームベース型」の机は、可動式で単体のデザインが良いこと、加えてグループで机を組み合わせたときのデザインの良さや、さまざまなパターンで柔軟に組み合わせてレイアウトできる点を評価しました【写真2】。

教室の前後壁面をホワイトボード化、授業に限らず多目的に活用したい

教室の前後の壁面はすべて天井まで届くホワイトボードで仕上げました。プロジェクタの投影だけでなく、生徒たちが付箋を使って、グループでKJ法やマッピングで思考を整理するといった学習活動にも取り組めます。

【図1】

また、タブレット端末の充電保管庫は4台あり、そのうち2台には、無線画面転送機能付きの無線LANアクセスポイントと超短焦点プロジェクタを収納しています【写真3】。生徒たちが4つのグループに分かれて、それぞれホワイトボードにタブレット端末の画面を投影しながら話し合うといったことも可能です。

こうした教室環境は、授業に限らず、アニメ・アートコースの生徒によるホワイトボードアート作品の制作、文化祭などでの展示会場として使用したいと考えています。加えて3Dカメラなどの幅広いICT機器の活用や、クラブの作戦会議や進路指導のセミナー、教員のための会議やミーティングなど、多目的に活用していきたいと思います。

すべてのタブレット端末に『SKYMENU Class』を導入

アクティブ・ラーニング(主体的・対話的に学び)の実現において、タブレット端末は有効なツールです。教員、生徒がタブレット端末を活用してより効果的に学習できるよう、48台のタブレット端末すべてに学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しました。

タブレット端末と『SKYMENU Class』を使うことで、例えば[発表ノート]で作成した教材を一斉配付したり、[発表ノート]で作成した資料をグループで見せ合いながら交流したり、さらには生徒の端末画面を教室前方のホワイトボードに投影して発表するといった学習活動がスムーズに行えます【写真4】。

普通教室と違い、堅苦しさのないICTルームの雰囲気とタブレット端末というツールの活用によって、活発に意見交流する姿や工夫して発表しようとする姿が見られました。ICTルームが、普通教室やコンピュータ教室では見られなかった彼女たちの新しい一面を見せてくれています。

SKYMENUで、教員、生徒1人ひとりのアカウントやデータを一括管理

『SKYMENU Class』を選定した最も大きな理由は、コンピュータ教室で使用している[個人フォルダ]にあります。[個人フォルダ]があれば、校内のどの端末においても、自分のユーザアカウントでログオンすれば自分のデータを読み出すことができます。これにより、情報第1教室とICTルームを併用した授業展開が実現できます。まだ構想段階ですが、例えば教科「情報」の選択授業で設定しているプログラミングの授業において、まず情報第1教室のデスクトップPCでプログラミングを実施。そのデータを[個人フォルダ]に保存し、ICTルームでそのデータを読み出してプログラミングロボットやドローンを動かすといった授業実践を計画しています【図1】。

ICTルームの設置が本校の情報化のゴールではなく、あくまで今後の情報化に向けた実験的な取り組みだと考えています。将来的には、すべての教室で無線LANが使えるようになり、教員や生徒がタブレット端末などを活用することが当たり前のものになると想定しています。そうした状況を見据えて、[ユーザ情報管理]によるユーザアカウントの一括管理や[個人フォルダ]によるデータの一括管理化を進めている段階です。

サーバを設置せず、クラウド上でファイル共有・管理する案も検討しましたが、私どもとしては一足飛びにクラウド管理へと進めるのではなく、まずは校内サーバやネットワークを教員や生徒が安心してICTを使用できる環境を構築すること。そして、安心できる環境の中で、生徒、教員1人ひとりの情報モラル意識や情報セキュリティに対する意識を高めることから始めようという結論に至りました。一つずつ土台を固めて、着実に情報化を進めたいと考えています。

教員が“便利さ”を実感することで、授業での活用が広がる

ICTルームの活用は始まったばかりです。今は英語科での活用が中心になっていますが、今後はさまざまな授業や用途で幅広く活用してもらいたいと考えています。活用を広げる取り組みの一つとして、2学期からICTルームで教職員会議を行う予定です。タブレット端末や『SKYMENU Class』を使い、ペーパーレスの会議を想定しています。先生方が実際にICT機器に触れ、その便利さを感じてもらうことで「自分にもできそうだ」「こんな授業で使えそうだ」という感触をつかんでほしいと考えています。併せて、ペーパ―レス化によって、会議資料を準備する手間や会議時間を短縮するという業務の効率化を進め、生徒たちと向き合うための時間を創出するというねらいもあります。

そして、ICTルームがめざすのは、あくまでも新学習指導要領のめざす授業の実現、アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善です。私たち教員は、これまでの一斉指導と異なる対話型授業へと授業の在り方を変えなければなりません。まずはICTルームで授業を積極的に実施し、公開授業として校内に公開していきたい。教員も生徒も楽しみ、ワクワクしながら主体的・対話的に学ぶ姿を共有し、学校全体で新しい授業へと進みたいと思っています。

(2019年6月取材/2019年8月掲載)