授業でのICT活用

【教育情報化最前線】高い学力と豊かな人間性を持つ、次世代リーダーの育成をめざす 学校法人智辯学園 智辯学園和歌山小学校

智辯学園和歌山小学校は、2016年にICT環境を一新し、全教室にプロジェクタや映写対応のホワイトボード、無線LANアクセスポイント、無線画面転送装置などを設置。教卓周りのICT機器の配線を取り払い、「線のないICT環境」を整えました。また、タブレット端末42台と学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入し、授業の効率化やコミュニケーションの充実による学力の向上をめざして取り組まれています。
同校の取り組みについて、渡瀬 金次郎 校長、藤田 貴憲 教頭付、北原 久仁香 教諭にお話を伺いました。

学校法人智辯学園 智辯学園和歌山小学校 渡瀬 金次郎 校長、藤田 貴憲 教頭付、北原 久仁香 教諭

感謝の気持ちを素直に伝えられる、豊かな人間性を育む

本校は、智辯和歌山中学校・高等学校に併設する小学校として、小中高等学校12年間の一貫教育による深い人間性・高い価値を身につけた人材の育成をめざして、2002年に開校しました。東京大学、京都大学をはじめ、医学部などへの進学する子どもも多く、その数は県内でトップレベルにあります。

次世代のリーダーとして活躍することが期待される本校の子どもたちに求められるのは、高い学力やスキルとともに、人として手をつなぎ、共に歩みたいと思えるような「豊かな人間性」や「品格」です。常に謙虚さを持ち、「ありがとう」「ごめんなさい」を素直に言えるような人間力の育成をめざして教育活動に取り組んでいます。

情報教育も重視しています。今後、AI(人工知能)のさらなる発展によって、今ある仕事の半分がなくなるといった予測が立てられています。2020年から全面実施される小学校学習指導要領においても、プログラミング教育が必修化され、「プログラミング的思考」を身につけることが求められています。私たちは、タブレット端末をはじめ、充実したICT環境を整え、子どもたちにプログラムやAIを使いこなして問題解決を図れるような力を身につけさせたいと考えています。

教室のICT環境を一新
無線化で教卓周りの配線をなくす

本校は開校時に全教室を有線LANで結び、校内ネットワークの構築を早期に完了しました。そして2010年頃からは、全教室にプロジェクタやマグネットスクリーン、実物提示装置、ブルーレイ/DVDプレーヤー、教師用のノートPCなどを導入し、「わかりやすい授業」「印象に残る授業」の実現を進めてきました。プロジェクタで教材を大きく提示したり、学級で情報を共有して話し合ったりするICTの活用は、この頃に定着しました。

一方で、教師用ノートPCを使ってデジタル教材を提示するという活用は、思った以上に普及しませんでした。教科担任制のため、授業のたびにノートPCを教室に移動させたり、マグネットスクリーンや各種機器を接続して準備したりする必要があり、その手間が負担となって活用を遠ざけていました。

このような課題を踏まえて、2016年の整備では、さらに教室のICT環境を充実させるべく機器を一新しました。すべての教室に電子黒板機能付きのプロジェクタや無線LANアクセスポイント、無線画面転送装置などを常設し、教卓周りの配線をなくしました。さらに、教材を手軽にかつ鮮明に投影できるように、黒板から映写対応ホワイトボードへの置き換えも実施しました。

この整備に加えて、教員、児童が利用できるタブレット端末も42台整備しました。【図1】。

タブレット端末は、Windows OS搭載の端末を採用しました。当初はiOSを想定していたのですが、デジタル教科書の対応状況や各種教育コンテンツの豊富さ、さらに授業支援機能を備えた学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』の対応を重視してWindows OSを選定しています。

【図1】

タブレットで写真を示しながら、自分の考えを伝える子どもが増加

タブレット端末は、「教師が1台」「児童がグループ活動で1台」といったように、授業の必要性に合わせて柔軟に活用されています。

例えば、4年理科では、グループごとにタブレット端末を持ち、『SKYMENUClass』の[カメラ]で植物の1年間の変化を記録しています。操作が簡単なので、今撮影した写真と先月撮影した写真を[画像比較]機能で並べて表示し、検討するといったことを子どもたちが行っています。写真を拡大して細い部分まで観察できるので、具体的に話し合えます。そうすることで、「自分の考えを伝える」という機会が格段に増えました。これまでプレゼンを苦手に感じていた子どもが、1歩踏み出して積極的に伝えようとする姿が見て取れます。

これからの時代、プレゼン力は欠かすことのできない力です。すべての子どもが「プレゼンが得意です」と言えるように、これからも取り組みたいと思います。

ノートを撮影して拡大提示
緊張感、責任感が高まる

低学年では、ICTによる視覚支援が効果的です。例えば、2年生では教師がタブレット端末を1台持ち、机間指導中に子どものノートを撮影。発表する際に、その子どものノートをホワイトボードに投影することで、素早く、わかりやすく考えを共有しています。そして、これは副次的な効果ですが、自分の書いているノートやプリントがプロジェクタに大きく映し出されることで、子どもたちに緊張感や学びに対する責任感が生まれています。学習活動に対して、より主体的に取り組もうとする姿が生まれています。

それから、私たちは「テレビ中継」と呼んでいるのですが、低学年の子どもたちが盛り上がる簡単で便利な活用方法があります。例えば、算数では積み木を組み合わせて、どのような形ができるのかを考える学習があります。具体物を使ってグループで取り組む活動ですが、これまではお手本となるグループの取り組みを共有するときに、その都度、そのグループの周りに集まってもらっていました。けれども、人影で成果物が見えにくいし、紹介するたびに作業が止まり、思考も途切れてしまっていました。

そこで、『SKYMENU Class』の[カメラ]と[投影]機能を活用した「テレビ中継」の出番です。まず教師がタブレット端末を1台持ち、「今からテレビ中継をします」と言って、リポーター兼カメラマンとして紹介したいグループの島に行きます。そこで成果物や発表する子どもを[カメラ]画面に映したまま、プロジェクタに[投影]して、まるでテレビのヒーローインタビューのように教師が子どもに質問するのです。子どもは大喜びで、積極的に説明してくれますし、発表を聞いている子たちも大きく提示されるので発表内容をよく理解できます。教師が「中継終わりです」と投影を切れば、すぐに学習活動に戻れるのも利点です。配線を気にすることなく教師も子どもも自由に動き回れる、本校の教室環境の良さだと思います。

教師のICT活用をお手本にして
子どもが発表するように

ほかにも、[タイマー]機能や[隠し付箋]機能が人気です。[タイマー]は授業時間に限らず、例えば帰りの準備や廊下に整列するときにも使っています。低学年の子どもは、時間感覚が曖昧ですから、カウントダウンや円グラフの表示で時間感覚が身についています。

[隠し付箋]は、クイズ形式で子どもに質問するときに使います。付箋がペロンとはがれるアニメーション効果が付いていて、それが楽しいようで積極的に参加してくれます。デジタル教科書や教材の一部分に注目させたいときには[スポット強調]もよく利用しています。視覚支援として非常に有効です。

4年生にもなると、子どもが[隠し付箋]や[スポット強調]を使うようになります。「ここに何があると思いますか?」と教師のICT活用をお手本にして発表するのです。子どもは、何にでも意欲的に取り組みます。私たち教師自身が楽しみ、そして効果的なICT活用をして見せることが、彼らの学びにつながっています。

ICTによる効率化、共有化で主体的・対話的で深い学びへ

これまでお話ししてきたように、ICTのメリットは視覚化や効率化にあります。教師がICTで教材を素早く、わかりやすく提示できることで、学習内容を効率的に理解させられます。そして、授業の効率化によって生まれた時間を使い、私たちはもう1歩踏み込んだ学習内容に取り組んでいます。ICTの良さを生かすことで、より深いレベルの学びに辿り着かせたいと考えています。

児童相互のコミュニケーションも活性化しています。例えば、これまでは調べ学習の発表資料を模造紙で1時間ほどかけて作成させていました。タブレット端末を使えば発表資料を短時間で作成できるので、新たに生まれた時間で1人でも多くの子どもに発表させたり、発表した内容について話し合ったりして対話的な取り組みを充実させることにつながっています。

そして、友だちと考えを共有することには、もう一つ大きな意味があります。それは子どもたちが学習課題を「自らが取り組むべき課題」として捉えられるということです。友だちの考えを知ることで、「この課題を自分たちで解決したい」と感じ、学習課題に主体的に取り組む意欲が高まります。新学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学び」につながるものと思います。

学力の向上は、子どもの主体性を高めることが重要です。教師、そして子どもが学びのツールとしてICTを効果的に使うことで、高い学力を身につけさせたいと考えています。

人生をより豊かにするためにICTを役立ててほしい

冒頭でもお話ししたように、社会に出て何か一つの事を成し遂げるためには、人と手をつなぎ、人と協調することが必要です。そのためには、「豊かな人間性」や「品格」が欠かせません。「不易と流行」の「不易」の部分を、小学校段階からブレさせることなく12年間の一貫教育で育むこと。それが私たちの智辯学園、そして智辯学園和歌山小学校の存在意義であり、使命だと考えています。

さらに、「流行」の部分として、情報教育にも力を入れています。「自分の人生をより豊かなものにするために、ICTを役立ててほしい」「AIに使われる人になるのではなく、AIを使いこなし、さまざまな課題を解決できる人になってほしい」。それが智辯学園の教師の願いです。本校を卒業する子たちが次世代のリーダーとして活躍することが楽しみです。

(2019年7月掲載)