授業でのICT活用

【教育情報化最前線】茨城県守谷市 充実したICT環境が引き出す「子ども本来の力」児童生徒3人に1台の割合でタブレット端末を整備

守谷市立守谷小学校 吉田 克也 副校長、守谷市立黒内小学校 倉持 光 教諭、守谷市教育委員会 嶋田 知成 指導主事

茨城県守谷市は、平成26年から「きらめきプロジェクト」の基、市内全小中学校に一斉にICT機器の整備を実施。各教室に70インチの電子黒板や無線LANアクセスポイントの設置、さらには児童生徒3人に1台程度のタブレット端末を配置するなど、充実した環境を整えています。導入から4年目を迎え、授業でICTを活用する光景が日常のものとなっています。同市の取り組みについて、吉田 克也 守谷市立守谷小学校副校長、倉持 光 守谷市立黒内小学校教諭、嶋田 知成 守谷市教育委員会指導主事にお話を伺いました。(2018年11月取材)

タブレット端末を児童生徒3人に1台の割合で整備

守谷市は、茨城県南部に位置する人口約67,000人の都市です。人口の増加が続いており、市内小学校9校、中学校4校には、6,141名の児童生徒が学んでいます(2018年5月1日現在)。

当市は、他市町村に比べて教育予算に多く予算が割かれており、ICTに限らずさまざまな教育環境の充実を図っています。例えば、外国語教育については、平成13年度からALTを各校に1人ずつ配置。さらには小学校1、2年生の学級に「学習支援ティーチャー」を配置し、学級担任を補助。小1プロブレムを解消するための体制を構築しています。

そうしたなか、平成26年度からは教育目標「新しい時代をたくましく生きぬく人づくり」を掲げ、守谷市保幼小中一貫教育「きらめきプロジェクト」をスタートさせました。4つの中学校区ごとに、校区内の小中が連携し、それぞれ特色ある教育活動を展開しています。ICT教育の推進は、同プロジェクトの重点施策であり、翌平成27年度から市内小中学校に一斉に大規模なICT環境整備を実施しました。具体的には、平成27年4月に全普通教室や特別教室に70インチの電子黒板と無線LANアクセスポイントを常設。あわせて「指導者用デジタル教科書」も導入しました。

タブレット端末は、平成27年度に約400台、翌平成28年9月には1,599台が導入されており、現在約2,000台の端末が稼働しています。児童生徒3人に1台程度の割合です。これらの端末すべてに、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』が導入されています。

守谷市立小中学校のICT環境

守谷小学校では、246台のタブレット端末が稼働しています。このうち40台はコンピュータ教室の端末です。コンピュータ教室では、タブレット端末はクレードルを介して、ディスプレイやキーボード、マウスと接続しており、従来のコンピュータ教室と変わらない使い方ができます。そのほかの約200台のタブレット端末は、4つのカートに分けて保管し、分担して活用しています。

平成28年度からは、ICT支援員を2名配置し、市内の小中学校のサポートをしてもらっています。ALTや学習指導サポーターなどを含め、人的な支援に十分な予算をかけているのが当市の特徴だと思います。

また市内一斉に整備を実施するため、どの学校でも同じタイミングで、同じICT環境が整います。これによって、市全体で足並みをそろえることができますから、モデル校など特定の学校のみ活用が進むといったことがありません。すべての学校でICTが日常的に活用される状況が生まれています。

子どもたちの考えや進捗状況を一覧で見たい

黒内小学校では、若手からベテランまでICT活用が定着しています。『SKYMENU Class』は、全学習者機の画面が一覧で表示される[画面一覧]機能がよく利用されています。教員が教員機で子どもたちの考えや進捗状況をリアルタイムに把握できるだけでなく、【写真1】のように電子黒板に一覧を表示させられるので、わからない子やつまずいている子が電子黒板からヒントを得ることができます。一覧の中から選択した児童の画面を拡大表示できるので発表もスムーズに行えます。当市の電子黒板は70インチなので、教室の後ろの児童でも「見えない」ということはありません。説明や発表がわかりやすく、スムーズに行える。単純なことですが、とても使い勝手が良い環境です。

【写真1】 電子黒板に投影された学習者機画面の一覧表示画面

今、倉持先生が言われたような「子どもたちの考えや進捗状況を一覧で見たい」という先生方の声で、授業支援の仕組みは導入されました。選定にあたっては、さまざまな授業支援系のソフトウェアを比較しました。『SKYMENU Class』は、数十台のタブレット端末が同時に接続しても安定して動くことや、専門のインストラクターによる講習会、情報誌や実践事例集など紙媒体による豊富な情報提供といったサポートの手厚さなどを評価し、採用しました。

授業でICTを活用する最大のメリットは、
比較・検討が容易にできることにある

[画面一覧]は、プログラミング教育との相性が良い

[画面一覧]は、プログラミング教育との相性が良いです。先日、図形の作図について、「フローチャート」で手順を考えさせました。まず、プリントにフローチャートを書かせ、成果物をタブレット端末で撮影。それを[画面一覧]で並べて表示させたり、大きく表示させたりすることで、1人ひとりの考えを共有しました。[マーキング]で考えを書き込みながら発表することもできました。

以前は、ホワイトボードを使ってフローチャートを考えさせたり、発表させたりしたのですが、画用紙で作成した記号がズレたり、落ちたりする。さらには教室の後ろからは見えにくいといったことがありました。プログラミング教育は、フローチャートにしろ、スクラッチなどにしろ、指導者が子どもの考え方をきちんと把握したり、学級全体で考えを共有したりする必要があります。タブレット端末や『SKYMENU Class』で思考を可視化することが授業の大きな助けになっています。

倉持先生の実践をきっかけに、市内では【写真2、3】のようにアンプラグドの取り組みも進んでいますね。

【写真2】 手書きのフローチャートを[カメラ]で撮影 【写真3】 各班のフローチャートを[画面一覧]で共有

プログラミング教育に限りませんが、今までは、画用紙やホワイトボードで作成した教材を黒板に貼り付け、子どもからは見えにくいものを「見て」と言わざるを得なかった部分は確かにあったと思います。今の教室には電子黒板で拡大提示し、わかりやすく説明できる環境が整っています。そして、子どもの画面を大きく投影して発表させることも簡単に素早く行えます。まずはこうした使い方を、授業の中に積極的に取り入れてほしいと思っています。一度使ってその良さを感じれば、もう離れられなくなります。

子どもは、大人が想像する以上にタブレット端末を使いこなします。[発表ノート]に写真を貼り付けたり、書き込んだりするだけでなく、得意な子はさまざまなオブジェクトを組み合わせて凝ったデザインのスライドを作ったりしています。[発表ノート]は、操作が簡単なので子どもたちがやりたいことが、実現できるツールなのだと思います。そして、そのようにして作成した[発表ノート]をみんな「発表したい」と思っていますから「今日、発表はないよ」と言うと子どもたちは「えー」と残念がります。当市の教室環境は、教員だけでなく子どもたちにとっても、非常に良い状態にあります。

子どもは大人と違って、タブレット端末などのICT機器に対して抵抗がまったくありません。低学年の子どもでも自分のノートやプリントを[カメラ]で撮って、[発表ノート]に貼り付ける程度の操作はすぐに覚えてしまいます。一度覚えてしまえば、自分の考えを撮影したり、書き込んだりして、電子黒板に投影して発表するといったことはスムーズにできます。日常の授業の中で子どもたちの考えや意見をわかりやすく比較して考えるといった学習活動が、気軽にできる。これがICT機器を整備する一番の意義だと思います。

【写真4】 ワークシートを[カメラ]で撮影し、発表。画面が大きいので後ろの席の児童からもよく見える(算数) 【写真5】 撮影した動画で、流水実験の結果を確かめる(理科) 【写真6】 [投票]で自分の考えや立場を表明(道徳)

そうですね。授業においてICTを活用する最大のメリットは比較・検討が容易にできることにあると思います。[画面一覧]や[比較表示]による思考の可視化、共有は、これまでとまったく違う授業を実現し、教育の形を塗り替えています。タブレット端末や電子黒板、そして『SKYMENU Class』は、そのためにあるといっても過言ではありません。

インストラクターによる集合研修や学校訪問を継続

こうした当市のICT活用の広がりは、これまでお話ししたような充実かつ安定したICT環境の整備と、教員研修や授業研究の取り組みがあります。教員研修については、導入当初から継続してSky株式会社のインストラクターによる集合研修や学校訪問を実施しています。昨年度は、インストラクターの方が各校を訪問し、合わせて42回の研修を実施してもらいました。公開授業や授業後の研究会にも参加してもらうことで、授業のサポートから、活用アイデアを共有する機会になりました。また講習会の実施は、主に女性の先生方のICT活用推進に効果がありました。女性の先生方は、真面目な方が多く、講習会で教わったことを、すぐに授業で実践されます。そうした積極的な姿が、市全体にICT活用を広げるきっかけになりました。

【写真7】テレビ会議システムで市内全小中学校を結び、研究授業を振り返った

授業研究の取り組みについては、「情報教育推進委員会」が中心となって進めています。昨年度、市教研の組織「情報教育研究部」と一体化し、各校から1名ずつ教員が参加し、授業研究やICT活用の普及に努めています。

情報教育推進委員会では、年に数回の研究授業を実施し、研究討議を行っています。今年度は、新たな教育課題である「プログラミング教育」の授業研究に注力しています。さらに研究会の在り方を見直すため、ICTを活用した新たな試みも進めています。具体的には、各校に1セットずつ導入されている「テレビ会議システム」を活用した打ち合わせに取り組んでいます【写真7】。

そもそも当市の「テレビ会議システム」は、保幼小中一貫教育を施設分離型で進めるにあたり、先生方や子どもたちが学校間を移動することなく、密なコミュニケーションを効率的に図る目的で設置されたものです。今、新学習指導要領の全面実施に向けて、さまざまな教員研修が行われていて、教員の出張回数が増えています。学校で校務処理をする時間を確保することが難しくなっています。テレビ会議システムを研究会や打ち合わせに積極的に活用することで、先生方が学校で作業する時間を確保できるようになり、ひいては「教員の働き方改革」につながると考えています。

情報教育推進委員会では、これまで「授業での活用」を中心にテレビ会議システムの提案を進めてきました。今後は、研究会や打ち合わせなど「授業以外での活用」も率先して取り組み、活用を定着させたいと考えています。

「授業での活用」については、テレビ会議システムと『SKYMENU Class』の相性が良いと感じています。小学校3年生社会の授業では、市内の離れた地域と交流学習を行う際に、テレビ会議システムを使用しました。まず発表する児童のタブレット端末画面を、テレビ会議システムで交流相手の学校に送信。子どもたちは校区周辺の地図画像を貼り付けた[発表ノート]に、[マーキング]で書き込みながら、わかりやすく発表していました。簡単な操作で実現できるので、さらに好事例を開発して市内に広げていきたいですね。

ICTを導入したことで、
子ども本来の姿、本来の力が表れてきています

ICTの導入で、ようやく「家庭」と同じ環境に

ICTが導入されて4年、子どもたちがどう変わったのかと問われれば、変わったのではなく、「彼らが家庭にいるときと同じ状態になっただけだ」と私は答えます。実際、子どもたちはICT機器に対してまったく抵抗がありませんし、「自分でもできそうだ」と思って、どんどん使います。学習意欲も高まり、主体的に学ぶ姿が見られます。とはいえ、大人同様に、子どもにも得手不得手はあります。ノートに書いた方が良いという子もいますし、[発表ノート]の方がうまく書けて、説明しやすいという子もいます。ICTを導入したことで、子ども1人ひとりが自分に合った方法を選び、考えたり、表現したりできるようになりました。子ども本来の姿、本来の力が表れてきています。

今の子どもたちは、家庭でスマホやタブレット端末を使っているので、大人よりも早くICT機器に慣れてしまいますね。ノートに書くことが苦手な子も、[発表ノート]であれば図を書き、画面を示しながら上手に説明してくれたりします。ICTは、すでに彼らにとって欠かせないツールになっています。彼らが「考えやすい」「みんなの前で発表しやすい」と感じられるのであれば、それだけでICTを活用する意義は大いにあると思います。

新学習指導要領の全面実施に向けて

今、情報教育推進委員会では、新学習指導要領の全面実施に向けてプログラミング教育の実践研究を進めています。若手メンバーが率先して実践に取り組み、授業研究を深め、より良い実践を市内に広げていきたいと思います。

子どもたちがICTを活用することで、主体的・対話的に学ぶ姿は確実に広がってきています。今後は「深い学び」をどのようにして実現するのかが大きな課題になります。ICTは協働学習に適していますから、協働的な学びの場面でICTをうまく取り入れることで、深い学びを実現してほしいと考えています。そして、そのとき最も大きな壁になるのは、児童生徒に与える「学習課題」です。どのような課題が子どもたちの学びを充実させ、深い学びにつながるのか。授業づくりの本質の部分がより一層問われてくると思います。

吉田先生が指摘されたように、「深い学び」をどのようにして実現していくのかが、今後の大きな課題です。新学習指導要領の全面実施に向けた諸課題に対して、教育委員会のリードは欠かせないと考えています。学校の先生方が指導しやすい環境の整備、そして研修の機会を設けること。これらを、学校の実態をしっかりと捉えながら進めていきたい。

また、倉持先生がプログラミング教育の推進について話されましたが、当市では「MORI-TECH(守谷型EdTech)」と称して「プログラミング教育の推進」「テレビ会議システムの活用」「家庭連携サポートシステムの活用」を3つの柱に掲げ、各活動を推進しています。子どもたちの学びの機会を保障するための「枠組み」をつくること。それが教育委員会の役割ですから、一層注力して取り組みたいと考えています。

(2019年3月掲載)