授業でのICT活用

ICT活用研究】大洗高等学校の授業改善 ~3年間ICTを活用して変わったこと~ 茨城県立大洗高等学校

茨城県立大洗高等学校 中澤 啓子 教諭(英語科)  小田部 明香 教諭(国語科)

茨城県立大洗高等学校について

本校は、全日制普通科の高等学校であり、全学年3クラス全校生徒225人という小さな学校です。 全国屈指の強豪校であるマーチングバンド部を始め、様々な部活動が活動しています。また学習面に関しても「学力を成果に」というキーワードのもと日々の学習活動に取り組んでいます。

本校では、生徒の学力向上、主体的・対話的な学びに向け、少人数授業を多く展開しています。コンピューター、プロジェクター、グループ学習用ホワイトボード等を活用して成果が見られていたことから、平成28年度から「いばらき高等学校学力向上推進総合事業推進校及び県立学校教育情報化推進事業重点推進校」の指定を受け「生徒の主体的な学習を促すアクティブ・ラーニングの推進」の研究主題のもとICTの活用を図りながら言語活動の充実及びアクティブ・ラーニングの推進に関する研究を全教科で進めていくことにしました。今回は、ICTの活用による英語と国語、2教科の実践研究を報告します。

本校のICT環境等について

本校は平成28年度の研究指定に伴い、生徒用タブレット端末40台、教師用1台、短焦点プロジェクター2台、無線ルーター2台を整備、また全端末に『SKYMENU Class』が導入されました。

そして、平成28年度、29年度は県からICT支援員を派遣していただき、週1回ICT機器の整備や、授業準備等の打ち合わせを行ってきました。研究授業や校内公開授業時は支援員の方に授業に入っていただき、機器の不具合等に即時対応していただきました。

さらに、今まで教員の中で一番大きかった「ICT活用に興味はあるけど、準備するのが面倒」「準備する時間が取られる」という声を反映し、平成29年度3月、授業でICTを使用したいときにすぐに使える教室を整備しました。教室内には無線ルーター、電子黒板、タブレットを常設しました。先生方からは「ICTを使った授業に対するハードルが下がった」「利用しようと思えるようになった」という声が聞かれるようになりました。

生徒は一人一つ、「情報」の授業で使うIDを持っているので、タブレット端末にログインする際も、そのIDを用いて使用することができます。また個人IDでログインすることにより、個人の名前が提示されるので、作品を提出するとき、提示するとき、比較するときに明確になり授業が進めやすくなりました。

水の東西

1年 国語総合

評論文を読む際に、「発表ノート」を活用して段落ごとに分けたシートを段落の役割を確認しながら正しい構成に並び替え、文章を作成することで、筆者の文章構成意図を考えさせました。作成後に『SKYMENU Class』の「グループワーク機能」を使って他の生徒と意見交流し、再度構成について考える時間を設定しました。その上で、最後に電子黒板に示しながら正しい文章構成を確認するという一斉指導を行いました。

その後、[図1]の学習内容に関する意識調査を行うと、段落の関係や例示に関する設問に関してポイントの上昇が見られました。

[図1] 学習内容に関する意識調査結果

[図2] 小テスト結果これは、操作しながら文章を読み、思考したことによる結果だと推察できます。また、小テストにおいては接続詞や文の並び替えに関する設問に関して、生徒達の点数の伸びを確認することが出来ました[図2]。この結果から、授業を通して、接続表現と文の並び替えの能力が向上したと言えます。特に、第1時と関連するのは、文の並び替えであり、タブレット端末を使用して接続や文のつながりを考えた学習活動によるものと推測できます。生徒の振り返りでは、正しい構成にする学習活動の困難さに関する記述が多数確認できました。このように、文章構成意図を考える授業ではタブレット端末の活用が有効であると考えられます。

徒然草 仁和寺にある法師

1年 国語総合

古文を読んで、そこから読み取った情報を可視化し、的確に内容を読み取れているかを確認するために、「発表ノート」に地図を添付したワークシートを配布し、生徒達に法師が歩いた道順と歩くべきであった道順を記入してもらいました。

普段古文を読むときには、一行ずつ品詞分解して、一語ずつ調べ、現代語訳しながら読んでいきますが、今回は何の情報もなくいきなり読み取りにチャレンジさせてみました。しかし、地図を使用することによって、古文ではありますが、生徒は抵抗感なく取り組むことができ、ただ現代語訳をしていくだけよりも興味を持って取り組むことができました。

このように道順を地図に書き込むことで、グループの全員がイメージを共有することができ、話し合いに積極的に取り組むことができるようになりました。さらに、電子黒板に即時に投影して、各グループの地図を比較することで、その場で読み取りの結果を確認することができました。このことによって、法師の失敗という内容がある程度わかり、興味を持つことができたので、その後の読みにスムーズに入ることができ、話のおもしろさを深く読みとることができたと思います。

マッピングを用いてライティングをしてみよう

1年 英語コミュニケーションⅠ

この実践では、『SKYMENU Class』の「マッピング機能」を使ってライティングの授業を実践しました。

また、授業実施前後で、学習に関する意識調査と小テストを行いました。小テストは、a)語彙数 b)文法的ミス数 c)情報量に関して事前事後で比較をしました。

マッピングを作成する授業では、まず個人で「マッピング」を用いて『赤いカード』を使ってメインテーマに関して作成していきます。その後「グルーピング機能」を用いてペアになってもらい、お互いのマッピングシートに、疑問や自分が持っている情報などを『黄色いカード』を使って作成してもらいました。

その後、「グルーピング機能」を解除し、友人の疑問や追記情報をもとに自分のマッピングシートを拡張していく作業を行いました。そして、そのマッピングシートをもとに英作文をワークシートに記入していくようにさせました。

まず、学習内容に関する意識調査の結果です。授業の事前事後に実施し、結果は[図3]のようになりました。英作文を書くことへの自信(Q1)、マッピングを用いた英作文に対しての関心意欲(Q2)に関しては、意識の変化が見られました。特にQ1に関しては、「タブレットを使って英作文を作る方が楽だと思う」「英作文が得意になってきた」という意見が聞かれました。

この授業では、ペアで学習を進めました。「マッピング機能」を用いて活動する事で、以下の点にメリットを感じました。

  • 自分の意見を可視化しやすい
  • 自分の考えを発信しやすい
  • 英作文の構成がしやすい
  • 自分の意見を深化させやすい

これらのメリットは、英作文を構成する上でとても重要なポイントだと思いました。生徒達が「英作文をやりたい」と思えるきっかけを与えられたと思います。

実際に事前事後の英作文を比較した結果[図4]のようになりました。文章内で扱われている情報数は、増加が見られました。しかし、使用されている語彙数は期待以上の増加は見られませんでした。これは今回、情報量が多くなり構成に時間がかかったため語彙数が少なくなったと思われます。生徒が情報数を獲得した分、英作文の構成にも時間がかかるので、今後授業設計をする際に工夫していきたい点です。また「グルーピング機能」を用いたことで、ペアでの作業が簡単に行えました。特に英作文を作成する前に、文法的なミスを確認し合えた点は、生徒に好評でした。そのため文法ミスが減少したと考えられます。

ALTの先生にメキシコ料理の面白さを動画で
分かりやすく伝えてみよう

1年 英語コミュニケーションⅠ

この実践は「ALTの先生に自分たちが調べたメキシコ料理や異文化について分かりやすく伝えよう」というテーマのもと「動画機能」を用いて行いました。

まず生徒達にはグループを作ってもらい、グループごとに教科書の内容を通して興味を持ったことを調べてもらい、それぞれ3分程度の簡単な英語を用いて動画を作りました。作成した動画は、教員機に提出してもらいました。お互いのグループの作品を見合い、相互評価し、その後ALTに実際に見てもらって順位をつけてもらいました。

生徒の活動中は、必ず電子黒板で「タイマー」を表示し、全員が時間管理をしながら取り組むようにします。また、各グループ1台生徒用タブレット端末を配布しました。タブレット端末の活用方法は活動内容によって様々で、作成準備中は情報収集や電子辞書として活用。動画作成中は、録画端末として活用するなど、生徒それぞれが上手く端末を活用することができていました。

動画を作成する中で、グループで協力し合いながら簡単な英語を使って自分達の意見をまとめるという活動は、生徒達に自分の意見を発信する能力、積極性を養うことができたのではないかと思います。

また「動画機能」を用いて、自分が英語を話している姿を客観的に見るという機会を与えることができました。授業中には「もっとカンペを見ずに話をしたい」「大事なところはゆっくり丁寧に話した方が相手に分かりやすいね」という活発的な意見交換が行われていました。

「動画機能」の良いところは、何度も撮影することができる点と、自分たちで確認しあえる点だと思います。他者の作品を見て、自分たちの作品を深めることもできますし、積極的に英語を用いて自分の言葉で発信する姿勢を養える活動になったと思います。

いままでの3年間とこれからの課題

本校がICTを授業に取り入れ、授業改善に取り組みはじめてから3年になります。導入当初は、当時の管理職の先生方が様々なICTに関するイベントを企画してくださいました。夏期休業中に教科別の研修会の実施をしたり、実際に『SKYMENU Class』に触れる機会を設けてくださいました。実際にタブレットを触れる機会を設けていただいたことで、私たちが授業にどのように取り組めばいいのか考えるきっかけになったと思います。

実際に導入されてからは、授業中に使いにくかった点、分からなかった点をICT支援員の方に教えていただきながら授業を進めていきました。

実際、授業中にトラブルで止まり、授業が中断したこともありました。そのたびに「ICTなんて・・・・」と思ったこともあります。

しかし2年目に入り、徐々に私たち教員も慣れ始めた時に生徒達から言われた言葉があります。それは「先生、今日はタブレット使わないの?」「またプレゼンテーションとかやろうよ」でした。今まで授業にあまり積極的に取り組むことが出来なかった生徒達が、授業に少しずつ参加してくれるようになりました。ICTを取り入れた授業改善をしたことによって、少しずつではありますが生徒達に変化が現れたように感じました。

本校では多くの教科でICTの活用を図っています。今では年数回の研究授業日を設け、授業公開をしています。昨年度は研究協議を全職員で行い、活発な意見交換が行われました。

今年度はいよいよ3年目です。研究指定校としての最終年度となります。今までの多くの授業でICTを活用してきましたが、より有効的に使えているのか不安になるところもあります。本校に在籍している生徒達の多くは、中学ですでにタブレット等を活用した授業を受けてきました。また自分の意見を発信する経験をしてきている生徒もたくさんいます。高校でも同じような授業を受けることに期待感を持っている生徒もいます。生徒達の期待感をかなえるべく、更に有効的に取り入れる必要性があるのではないかと日々模索しています。

授業を改善することによって、生徒達一人一人が授業に対して積極的に取り組み、自分の意見を発信しようとする姿勢が見られるようになってきました。友人の意見を積極的に聞き合おうという姿勢にもなってきたように感じます。生徒達がより活発に主体的で対話的な授業、そしてICTを活用することによって、生徒達が「〜せざるをえない」授業をこれからも展開できるように、研修していきたいと思います。

(2019年1月掲載)