授業でのICT活用

【教育情報化最前線】教職員の主体的な取り組みで進める北斗市の教育情報化

北海道北斗市は、平成29年度から31年度までの3か年計画で、小中学校全16校のコンピュータ教室をタブレット端末で整備されています。あわせて教員用タブレット端末を教員2人に1台の割合で整備し、体育館、特別教室も含めたすべての教室で活用できる無線LAN環境の構築も進めています。「すべての先生が使えるICT環境」をめざして情報化に取り組む、北斗市教育委員会の永田 裕 教育長、学校教育課 小野 義則 課長、学校教育課 総務係 山谷 成人 主事にお話を伺いました。

タブレット端末整備で、学力のさらなる向上をめざす

北斗市は、基本目標を「心豊かで、たくましく未来を生きる資質・能力を育む教育の推進」と定め、社会がどのように変化しても、子どもたちが社会に出て困らないための最低限の学力を全員につけることを重視しています。

具体的な取り組みとして、平成26年度より「知の保証プラン」を掲げ、オール北斗で子どもたちの学力の向上に取り組んできました。その結果、全国学力学習状況調査において、当市全体に占める学力低位層の割合の減少を達成でき、学力の底上げを図ることができました。さらに小中学校の平均点は、全国平均を上回る結果も得られています。

こうした結果を継続するとともに、さらなる向上をめざすため、平成29年度より3か年計画で授業改善、教員の資質向上に資する効果的なICT機器として、教員用、児童生徒用のタブレット端末の整備を推進しています。

市内小中学校へ「アポイントなし」で訪問し、普段の授業を見る

教育長に就任して以来、継続して取り組んでいることがあります。それは、市内の小中学校への「アポイントなし」の訪問です。研究発表会や公開授業ではなく、日常の授業を見ることで、先生や子どもたちの「ありのままの姿」を理解したいという思いで取り組んでいます。実は、私には教職員経験がありません。これまで当市の経済部に所属し、主に農業や漁業などの市の第一次産業に携わってきました。現場を訪れ、そこで働く人々の生の姿を見て、聞いて、私自身が納得したことを事業に反映してきました。教育という分野においても、この姿勢は変わりません。先生方が「やりたいこと」を肌で感じ、それを事業として実現したいと考えています。

先生方が主体となり、新しいことに協力して取り組む姿勢が、北斗市の教育を充実させます。

「先生がやりたいこと」に耳を傾け、一緒に整備を考える

平成28年度の市政執行方針を受け、新しいICT環境を検討するにあたり、私は「どのようなICT環境整備が必要で、何を実現したいのか」を先生方に問うことから始めるべきだと考えました。それは、どのように便利で、優れた機器を導入しても、使う先生方の「やる気」、つまり「気持ち」が伴わなければ、使われないからです。そして、先生方にやる気になってもらうためには、「先生がやりたいこと」を実現できる整備でなければなりません。行政が先生方の声に耳を傾け、一緒に整備を考える必要があります。

私からの問いかけに対して、すぐに、教頭、主幹教諭、一般教諭、そして教育委員会事務局から構成される「教育の情報化プロジェクトチーム」が発足しました。先進地域への視察、保護者へのアンケート調査、教員研修の立案、機種選定、運用管理の課題の洗い出しが先生方を中心に実施、検討され、平成28年度秋までに「北斗市立学校に係る教育の情報化推進計画」が答申されました。

タブレット端末の導入よりも、先生方が主体となって、新しいことに協力して取り組む姿勢が大切であり、当市の教育を充実させるものだと思いました。

そして翌平成29年度には、導入予定校の先生方が中心となって活用推進を目的とした新しいプロジェクトチーム「北斗市タブレット端末導入を基盤としたICT教育に係るプロジェクト」を発足されました。学校間、教職員間で協力し、タブレット端末の活用を推進してくれました。年度末には、170ページもの立派な報告書を提出してくれました。

こうしたタブレット端末活用の広がりは、授業改善、学力向上にとどまらず、教職員の働き方改革へつながることを期待しています。

タブレット端末整備は、授業を見直す「きっかけ」

タブレット端末の整備は、授業を見直す「きっかけ」だと捉えています。あくまで一つの教材・教具ですから、道具そのものが学力向上に寄与するとは考えていません。子どもがタブレット端末で教材を見たり、操作したりすることで、学習内容に興味が持てる。先生方がより意欲的に教材研究、教材開発に取り組み、工夫を凝らした授業が展開される。そのようなことの結果として、学力が向上するのです。

先生が授業に意欲的に取り組む姿や、わかるまで子どもに教えようとする姿こそ、本当に大切にすべきものです。先生の情熱や意欲的な姿は、必ず子どもたちに伝わり、次の世代を担う素晴らしい子どもたちが育つと信じています。

教職員を中心にプロジェクトチームを結成
先生方の「やりたい」を実現する環境整備へ

北斗市教育委員会 学校教育課 小野 義則 課長、北斗市教育委員会 学校教育課 総務係 山谷 成人 主事

PC教室をタブレット端末化 教員用端末の整備も実現

当市のタブレット端末整備の予算は、コンピュータ教室の機器更新予算を基盤にしています。平成29年夏に、まず市内小中学校5校を対象に更新を実施し、コンピュータ教室に設置されていたデスクトップPCを、【写真1】のように、Windows OSのタブレット端末に置き換えました。

タブレット端末は、クレードルを介して液晶ディスプレイとキーボード、マウス、有線LANに接続しており、従来のコンピュータ教室と変わらない運用を可能にしました。タブレット端末を持ち出して利用する場合は、クレードルから端末本体を取り外すだけで使えます。

教員用のタブレット端末も整備しました。予算の都合上、教員1人1台は実現できませんでしたが、おおよそ教員2人に1台の割合で各校に設置しています【写真2】。これらすべての端末に学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しています。

さらにタブレット端末の可搬性をさまざまな学習活動で生かすため、普通教室だけでなく特別教室、体育館など、授業で使うすべての教室に無線LAN環境を整えました。こうした環境づくりによって、職員室の自席で教材を作成して、それを教室の大型テレビに投影して説明するという活用が日常の姿になっています。

【写真1】更新されたコンピュータ教室。以前の周辺機器を再利用し、コストを抑えた、【写真2】2in1型の教員用タブレッ ト端末。ノートPCのように利用できる
【図1】 北斗市立小中学校のICT環境

一部の先生ではなく「すべての先生が使えるICT環境」を

こうした整備内容は、先ほど教育長からあったように、平成28年度「北斗市教育の情報化プロジェクトチーム」で検討した内容が基盤になっています。プロジェクトは6月に発足し、翌7月にはメンバー全員で先進地域へ視察に赴きました。視察から得るものはたくさんありましたが、当市の予算規模では充実した機器の整備やICT支援員の配置は困難でした。

そこで、コンパクトでありながらも効果的な整備とは何か。教育長のめざす、一部の先生ではなく、「すべての先生が使えるICT環境」をどうすれば実現できるのか。タブレット端末、OS、ソフトウェアなどの仕様を具体的に検討していきました。

授業と運用の両面で検討し、Windows端末を選定

OSやタブレット端末は、授業場面だけでなく運用管理の場面なども想定して検討しました。例えば、あるOSでは、セキュリティ面は信頼できても、財政の都合上、アプリケーションを都度購入することが困難であることや、頻繁なOSのバージョンアップにより継続して安定した運用を実現することが課題であることがわかってきました。

実際の整備では、既存のWindowsのPCとの円滑な連携や、今まで蓄積してきたさまざまなデータをそのまま活用できるといった「運用管理のしやすさ」と、今後、小学校から必修となる「プログラミング教育への対応」、将来仕事に就く子どもたちが「実社会と円滑に接続できること」などを考慮し、Windows OSの端末を選定しました。

ソフトはMicrosoft Officeと『SKYMENU Class』のみ整備

教員、児童生徒が学習活動で使うソフトウェアは、Microsoft Officeと『SKYMENU Class』に絞って整備しました。先生方からは、ドリルソフトや特定の教科や単元で使用できるアプリの導入要望がありましたが、それでは、特定の時、場面だけの活用になり、「すべての先生が使えるICT環境」の実現につながりません。教材を大きく提示するといった、日々の授業の中で利便性を実感できることを重視して検討しました。『SKYMENU Class』は、ツールバー上に日々の授業で必要な機能が整理されていて、迷わず操作できる点や、[追っかけ再生]機能や[画面合体]機能など、教員の意見をもとに開発された機能が多数搭載されている点を評価しました。

専門インストラクターによる講習会を2回実施

平成29年度の導入校の1校、北斗市立大野中学校では、8月24日から早速タブレット端末を使った授業が行われ、その後、活用がスムーズに進んでいきました。こうした展開の背景には、導入校5校の先生方から構成される「北斗市タブレット端末導入を基盤としたICT教育に係るプロジェクト」の存在があります。導入前から研修計画を立て、研修内容を話し合い、研修資料の準備をしてきました。導入後は計画に沿って各校で順次研修が行われ、5校が足並みを揃えながら活用を推進していきました。

加えて、Sky株式会社のインストラクターによる『SKYMENU Class』の講習会も効果的でした。当市では講習会を2回実施しました。1回目は8月に実施し、ソフトウェアの基本的な操作を中心に学びました。2回目は、導入から5か月後の1月に開催し、より発展的な活用方法を学びました。2回目の講習会では、先生方から質問が積極的に出され、さまざまな事例や便利な活用方法を知ることができました。活用をさらに深める良い機会になりました。

ユーザアカウントやデータ管理など、活用を支える仕組みが重要

授業で使用する機能だけでなく、ユーザアカウントやファイルの管理など、毎日の教員、児童生徒のタブレット端末活用を下支えする仕組みも重要です。

特に、当市は1人1台環境ではないため、教員、児童生徒が十数台のタブレット端末を共用で利用する必要があります。いつも同じ端末を利用できるとは限りませんから、端末本体にファイルを保存しても使えない場合があります。また、端末を常に快適な状態を保つためには、「環境復元ソフトウェア」を使った復元が欠かせないのですが、端末を起動するたびに端末本体に保存されたファイルが消えてしまいます。ファイルの管理と環境の維持の両立に課題がありました。

【図2】端末本体にファイルが残らない「個人フォルダ」『SKYMENU Class』の[ユーザ情報管理]と[個人フォルダ]は、【図2】のように、自分のユーザでログオンすれば、どの端末でも自分のファイルを自由に利用できる環境を実現できるため、この課題の解決に役立ちました。

そして、端末の調子が悪いときに予備の端末に切り替えたり、台数が足りないときは、教員用タブレット端末を児童生徒にログオンさせて使わせたりすることも可能です。柔軟な運用ができるため、学校に適していました。

さらに、学校では、年度末や年度初めに必ず教員の異動、児童生徒の進級や卒業があります。ユーザアカウントの変更やファイル整理などの保守作業は欠かせません。本来、こうした作業は専門的な知識が必要なのですが、『SKYMENU Class』は、先生方でも保守作業が行えるように作られています。実際、平成29年度末の作業は先生方だけで対応することができました。教育委員会に問い合わせなどはありませんでした。

ICT支援員はいません。先生方の主体的な取り組みで活用が進んでいます。

先生方と同じ目線に立ち、一緒に取り組むことが大切

当市にICT支援員はいません。先生方の主体的な取り組みでICT活用が進んでいます。先生方の連携と教育長のめざす「すべての先生が使えるICT環境」を整えることができれば、ICT支援員を配置しなくても、ICT機器の活用を広げられると考えています。

今回、私たちは整備計画をスタートさせたそのときから、先生方と一緒に整備を作り上げてきました。だからこそ、運用段階においても何の壁も感じることなく、一体となって取り組めています。

先生方と同じ目線に立ち、一緒に取り組むこと。単純なことですが、とても大切なことだと感じています。

北斗市立大野中学校

研修計画と使いやすい環境づくりでタブレット端末の日常的な活用が広がる

導入後すぐに活用し、子どもたちに還元できるように

北斗市立大野中学校 木﨑 彰 教頭本校は、平成29年度の北斗市におけるタブレット端末導入校の1校です。導入校の教頭や主幹教諭、一般教諭で構成される「北斗市タブレット端末導入を基盤としたICT教育に係るプロジェクト」のリーダー校としてICT活用を推進しています。このプロジェクトは、「導入されてから準備して活用するのではなく、導入後すぐに活用し、子どもたちに還元できるようにしたい」という教育長の思いを受けて発足しました。年度当初から活動を開始し、夏導入予定の機器を検証や、2学期から活用を軌道に乗せるために必要な研修内容やスケジュールの検討、研修資料の作成などを行いました。

タブレット端末は誰でも簡単に使える

整備は8月上旬に完了し、集合研修で導入された機器の操作や『SKYMENU Class』の操作方法を学びました。その後、プロジェクトで作成した研修計画に沿って、校内研修を行い、教職員に操作方法や活用方法を周知していきました。

初回の校内研修では、タブレット端末は誰でも簡単に使えることを強調して説明しました。活用例も、難しい活用方法ではなく、スキャナーで取り込んだ教科書や教材、資料などの画像を大型テレビで拡大提示する、といった手軽で実用的なものを紹介しました。本校の先生方は非常に積極的で、『SKYMENU Class』のどの機能がどのような場面で使えるだろうかと、授業アイデアを積極的に話し合っていました。

「ひと手間の使いにくさ」をなくす

研修とともに、使いやすい環境づくりも進めました。タブレット端末の便利さを実感してもらうには、手に取って、使ってもらわなければ始まらないからです。まず、教育委員会に許可を得て、コンピュータ教室に設置されていた教員用タブレット端末を、すべて職員室に移動させました。職員室の空いている机に置き、使いたい先生が持って行って、使い終わったら机に戻すという運用にしました。予約簿は作っていません。「いつまでに、誰が使うのか」を付箋に書いて、使いたい端末に貼り付けてもらっています。手続きを簡易化するとともに、特別なものではなく、普通の道具の一つとして扱いたいという思いがありました。先生方の手の届く範囲に置いたことで、先生方が教材を作成したり、先生同士で教え合ったりする姿が職員室で見られるようになりました。次第に、授業以外の部活動や三者面談で保護者への説明、学校評議員の方への説明などにも使われるようになり、道具の一つとして活用が定着していきました。

難しいことはしていません。普通の先生が、普通にタブレット端末を使っています。

導入から半年で57の事例を、学校のホームページ上で公開

本校では、【写真1】のように、教員用タブレット端末の画面を、大型テレビに投影し、教材を提示するという姿が日常のものになっています。何か難しいことをしているわけではありません。普通の先生が、毎日普通にタブレット端末を使っています。

一方、特別支援学級では生徒1人1台環境での活用を進めています。特別支援学級では異学年を同時に指導しますから、例えば、1年の生徒がドリル問題に取り組んでいるときに、3年生を直接指導します。本校では、1年生のタブレット端末画面を大型テレビに投影し、3年生の直接指導をしながらも、常に1年生の進捗状況を確認できるようにしています。これは複式学級などでも有効な活用方法だと思います。【写真2】

こうした本校の活用事例は、プロジェクト校の先生方と共有するために、本校のホームページで随時公開しています。平成29年度は約半年間で57事例を公開できました。実際はこの3倍以上の実践が行われていたと思います。事例は、私が参観して、撮影した授業の写真に文章を添えて作成しています。何事も大変さがあると続きませんから、できるだけ簡潔にまとめるようにしています。

【写真1】大型テレビに投影、【写真2】大型テレビで生徒の進捗を把握

部活動、学校祭など、生徒が主体の活用が広がる

【写真3】校外に持ち出して撮影生徒の活用も進んでいます。部活動や学校祭では欠かせない道具になっています。例えば、2年生は、宿泊研修で訪問した函館について、学校祭で映像を使って発表しました。映像は【写真3】のようにタブレット端末を校外に持ち出して撮影し、生徒たちが編集しました。映像の中の生徒とステージ上の生徒が掛け合い、まるで生中継でリポートしているような映像に仕上がっていました。タブレット端末があることで、生徒の表現力が豊かになり、授業、学習活動そのものが大きく変わると感じました。

ほかにも、表現活動で発表した生徒たちは、インターネット上の動画投稿サイトで参考になる動画を検索。繰り返し視聴して練習したり、自分たちの練習の様子を動画で撮影して、振り返りに使ったりしていました。

生徒たちの主体的な取り組みを妨げないように、学校祭の準備期間中はコンピュータ教室を放課後に開放しました。昨年度までは、実行委員会の生徒がポスター制作のために利用する程度でしたから、コンピュータ教室としての活用率も高まっています。

このようにさまざまな場面で生徒のタブレット端末の活用が広がっていますが、生徒がタブレット端末を落としたり、壊したりしたことは、一度もありません。生徒たちを信じて任せることで、活用が広がり、情報活用能力が自然な形で高まっています。これがタブレット端末を導入する意義だと思います。

みんなで教材を研究し、共有することで、より良い授業を効率的に

「タブレット端末を使って、もっとこんな取り組みができないだろうか」と、職員室で相談される機会が多くなりました。より良い授業に改善しようとする先生方の意欲の高まりを感じています。

今、先生方の積極的な授業研究の取り組みによって、さまざまなデジタル教材が開発されています。デジタル教材は、加工や編集、複製が容易にできるというメリットがあります。このメリットを生かすことが、教育長のめざす「教職員の働き方改革」につながると考えています。本校では、その足掛かりとして、道徳の授業研究を学年団で協力して取り組んでいます。教材や板書計画、ワークシートを協力して開発することで、どのクラスでも効率的に効果的な指導を行えました。みんなで教材を研究して、みんなで共有することで、より良い授業を効率的に実現できることを実感しています。

こうした取り組みは、まだ各学校内に限られていますから、今後は市全体での共有を実現したいと考えています。

(2018年9月取材 / 2019年1月掲載)