授業でのICT活用

【教育情報化最前線】講演レポート 中学校への『堺スタイル』によるタブレット整備の実際 浦 嘉太郎 堺市教育センター主任指導主事

教員がタブレット端末を活用する「堺スタイル」で、全小中学校整備

浦 嘉太郎 堺市教育センター主任指導主事当市は、平成25年度から【図1】のように、教員が各教室の大型デジタルテレビ(以下、大型テレビ)と教育用タブレット端末を使い、机間指導をしながら授業を進めることを想定した「堺スタイル」の整備を進めています。これまでの授業スタイルを変えず、ICTをツールとして活用することを重視した整備です。

以前から大型テレビは、全普通教室に整備されており、教育用ノートPCを有線ケーブルで接続して使っていました。しかし、「有線ケーブルの接続」や「教室に都度、ICT機器を持ち運ぶこと」が手間で、活用はなかなか進みませんでした。そうしたなか、タブレット端末が市場に登場し、教育用ノートPCに代わる端末として整備の検討を進めました。

まず、平成25年度に市内小学校全93校1,500の普通教室を対象に、1,500台のタブレット端末整備を実施しました。タブレット端末はWindows OSのものを採用しました。

翌平成26年度には、支援学級や特別教室などを含めた500教室に範囲を広げ、合わせて2,000台の整備を完了しました。

平成27年度には、教科書の採択に併せて小学校国語と算数の「指導者用デジタル教科書」を購入し、どのタブレット端末からも使えるようにしました。

中学校については、平成29年度に予算が付き、市内中学校3校をパイロット校とし、先行して「堺スタイル」の整備を実施しました。3校の成果を踏まえて、今年度(平成30年度)中に、残りの中学校40校への整備が完了する予定です。

【図1】学校の教室。大型テレビは壁掛け(可動式)で設置。従来通り、黒板を広く使えるように配慮した

『SKYMENU Class』との連動を重視し、機器を選定

授業でタブレット端末を使う際、「端末の画面を大型テレビに投影できれば十分」というわけではありません。例えば、子どものワークシートやノートを撮影した時に、それを教員が示したい方法できちんと提示できることが重要です。具体的には、複数の子どものノートを撮影し、その画像を並べて比較できるといったことです。当市が採用した学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』は、私たち教員が授業で必要だと考える機能が多数搭載されている点を評価しました。

また、有線ケーブルではなく、無線LANを介して大型テレビにタブレット端末画面を投影するために「画像転送機能付き無線アクセスポイント」を導入しました。

この機器選定にあたっては、堅牢性の高さ、信頼性を重視するとともに、先生方が日々の授業で利用する『SKYMENU Class』との連動も重視しました。

職員室前の連絡黒板を電子化。即時性や確実性が高まる

【図2】新しい取り組みも始めています。

今、全国の多くの中学校では、毎日、職員室前の連絡黒板を日直が見に来て、終礼の時に学級全体に伝達をするといった営みがあると思います。

当市では、各教室の大型テレビを生かし、「連絡黒板の電子化」を進めています。

各教室の大型テレビに教育用タブレット端末の画面が投影されていない時に、常に【図2】のように電子連絡黒板の画面を表示させています。これによって、情報伝達の即時性、確実性が高まるだけでなく、編集が容易になり、表現の幅が広がったという声が上がっています。

さらに、日直の子どもが見に行くのを忘れた、あるいは伝達事項を見落としたり、間違えたりするということがなくなり、教職員の負担軽減につながっています。

堺市立津久野中学校における「堺スタイル」の取り組み

中学校パイロット校として教育用タブレット端末を先行整備

本校は平成29年度の堺市パイロット校として、『堺スタイル』のICT環境が先行的に整備されました。整備された環境のもと約1年間、授業改善の取り組みを進めてきました。

【図3、4】は、現在の本校の授業の様子です。資料やデジタル教科書を大型テレビに提示する。実験の様子を映し出す。生徒が発表する様子を[カメラ]で動画撮影し、振り返りに生かす。全教員がほぼ毎時間、このようなタブレット端末を使った授業を行っています。

活用が進んだ要因として、「大型テレビ」「教育用タブレット端末」「授業支援システム」「画像転送機能付き無線LANアクセスポイント」で構成される当市の教室環境の「使いやすさ」があります。どのようなシステムであれ、「使いにくさ」があれば、全教員が日常的に活用することは実現できなかったと思います。

【図3・4】理科と英語の授業の様子

学校の「チーム力」が活用推進の力に

とはいえ、すぐにICTを活用した授業が実現できたわけではありません。導入を前に私たちはタブレット端末を活用した授業のイメージを持つことができませんでした。

そこで「堺スタイル」の整備と活用が進んでいる市内の小学校へ授業参観に行ったり、市の夏季小中合同研修に参加したりして、積極的に情報を収集しました。また、堺市教育センターをはじめ、企業のインストラクターによる研修も受け、理解を深めていきました。

このようにして2学期、タブレット端末の活用のスタートを迎えたのですが、まだまだ不安だらけでした。そのような中で、校長先生の「使える所から使ってみよう」「まずは全員がタブレット端末を使ってみよう」という方針を拠り所にし、全員で少しずつ活用を進めていきました。

次第に「今日どんな授業でしたか」とか「この前の授業で使っていた機能は、どんな風に使えるの?」といった会話が職員室で活発に交わされるようになっていきました。やがて、同じ教科の中でお互いの授業を見せ合うようになり、さらには教科の垣根を越えて、情報の交換や共有が活性化し、活用が広がっていきました。本校の「チーム力」が、タブレット端末の活用を推進する大きな力になりました。

視覚的な支援が有効、生徒への直接指導の機会が増加

導入から1年、本校の先生方にタブレット端末の有効性について伺いました。最も多かった意見は「デジタル教科書、自作教材、映像、これらを活用した視覚的な支援が有効」ということでした。この意見は5教科の先生方だけでなく、4教科の先生方からも挙がりました。

例えば、家庭科の裁縫の授業では、縫い方の手本を示すとき、生徒を教卓に集め、教員の手元を直接見せて説明していました。けれども、教卓を囲む輪の外側に立つ生徒は先生の手元が見えにくく、確認が難しい状態でした。タブレット端末が導入されてからは、[カメラ]機能で自分の手元を撮影し、大型テレビに投影することで、縫い方を全員に分かりやすく示せるようになりました。

「生徒への直接指導の機会が増加した」という意見も多くありました。特に音楽では高い効果がありました。これまでは先生自身がピアノ伴奏をしながら生徒に技術指導をしていたため、指導が難しく、直接指導の機会を十分に確保できませんでした。タブレット端末が導入されてからは、端末から簡単に音楽を再生できるので、先生が机間指導しながら教えることが可能になりました。

主体的・対話的で深い学びにタブレット端末をどう生かすか

一方で、「タブレット端末に頼りすぎると、振り回されてしまう。自分が必要だと思うときに使っていくべき」「教科の特性に応じた使い分けが必要」「映像の見せ方の工夫がいる」といった課題点も多数挙がってきています。

また本校は「主体的・対話的で深い学び」に、タブレット端末をツールとして活用することを今年度の研究テーマに掲げています。とても難しいテーマだと感じています。今後市内全中学校に「堺スタイル」の整備が進みますので、市内のさまざまな先生方と情報を交換・共有し、新学習指導要領に沿った授業の実現にむけて取り組みたいと考えています。

(2018年8月取材 / 2018年11月掲載)