授業でのICT活用

【教育情報化最前線】愛知県豊田市教育委員会 普通教室のICT環境整備とPC教室のタブレット化を5か年計画で推進 「子どもがICTを使って学ぶ」新しい授業スタイルへ

愛知県豊田市は、「豊田市学校教育情報化プラン」のもと、5か年計画でICT環境の整備を推進されています。プロジェクタなど普通教室で必要なICT機器をまとめた「ICTカート」や、コンピュータ教室の端末を持ち運びが容易なタブレット端末で整備し、教員だけでなく子どもがICTを活用して学ぶ環境づくりをめざしています。同市の取組について、豊田市教育委員会の杉山 和弘 指導主事、近藤 宣広 指導主事にお話を伺いました。

豊田市教育委員会 学校教育課 教育センター 杉山 和弘 指導主事、近藤 宣広 指導主事

市内全104校の情報化を5か年計画で段階的に推進

豊田市は愛知県北部に位置し、人口約420,000人を抱える中核市です。平成27年の市町村合併によって愛知県下で最も広い面積を有する市となり、北部は岐阜県や長野県に接します。市内には、小学校75校、中学校28校、特別支援学校1校の計104校があり、約36,400名の児童生徒が学んでいます。面積が広いため、人口が密集する都市部には教室をいくつも抱える大規模校があり、県境付近の山間部では完全複式学級の小規模校もあります。

このように多様な学校を抱える当市ですが、全校の足並みが揃った教育の情報化をめざし、平成28年度から平成32年度までの5か年の整備計画として「豊田市学校教育情報化プラン(以下、情報化プラン)」を平成28年3月に策定。平成28年8月から計画に沿って整備を進めています。

ICTカートで教員のICT活用が広がる

授業で必要なICT機器がまとまっているICTカート。車輪が大きく、段差を楽に乗り越えられる 平成21年の整備で、全校に大型デジタルテレビが数台ずつ設置されていますが、先生方が日常的に使うには十分な台数が揃っていませんでした。そこで、平成27年度から「ICTカート」の導入を進めました。ICTカートとは、電子黒板機能付きプロジェクタ、ノートPC、教材提示装置、ブルーレイ・DVD再生装置など、授業に必要なICT機器をセットにしてカートに設置したものです。デジタル教科書を投影でき、教室間を簡単に移動させられますから、先生方の評判は良く、ICT活用が広がるきっかけになりました。平成28年度からは情報化プランのもと、ICTカートの整備を拡大しつつ、平成32年度から全面実施される新学習指導要領に対応した整備をめざしました。

先生だけでなく、子どももICTを活用する授業へ

当市の情報化プランの根底には、子どもがICT機器を操作することで情報活用能力を高め、新学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学び」を実現するという考え方があります。そのことを分かりやすく表現するために、「新しい学びのスタイル」として2つの授業スタイルを掲げています。

1つは『自分の考えを仲間に分かりやすく伝える授業』です。これは教員だけでなく、子どももICTカートを使って、自分が調べたことを大きく映し出して発表したり、資料やノートを示したりして根拠をもとに説明する授業を指します。そのためには、より多くのICTカートが必要ですから、「2学級に1カート」の割合を整備目標にしました。平成27年度は288台しかありませんでしたが、平成29年度までに788台を整備し、「2学級に1カート」を実現しました。機器が充実したことで、先生が教材提示にICTを利用するだけでなく、子どもたちがICTを使って発表する機会が増えています。

問題解決に向けて協働し、試行錯誤しながら学びを深める

そして、平成30年度整備とともにめざすのは、もう1つの学びのスタイル『仲間とともに、試行錯誤しながら学びを深める授業』です。これまで問題解決の場面では、ホワイトボードや模造紙をグループの真ん中に置き、考えを書いたり、付箋を動かしたりして話し合っていました。もちろん、アナログにはアナログの良さがありますが、試行錯誤はコンピュータが得意とする部分です。新しい整備では、コンピュータ教室の端末を普通教室に持ち出して使えること。さらにグループの真ん中に置いて、子どもたちが問題解決に向けて協働したり、試行錯誤したりして学びを深められる環境の実現を検討しました。

まず、コンピュータ教室の端末をデスクトップPCからセパレート型のWindows OSのタブレット端末に変更しました。無線LANについては、画面転送機能付き無線LANアクセスポイント(以下:無線AP)※を学校規模に応じて導入(1校あたり平均7台)。無線APを持ち運んで設置すれば、校内のどこでもネットワークを利用できるようにしました。ICTカートと組み合わせて使えば、タブレット端末の画面をプロジェクタで拡大提示することも可能です。すべてのタブレット端末とICTカートのノートPCには、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しており、普通教室でも従来のコンピュータ教室のように児童生徒1人1台の環境で授業が行えます。グループに1台の利用であれば、複数の教室で同時に使うこともできます。

豊田市立小中学校のICT環境

※SKY-AP-302AN

市内4校をモデル校に指定し、活用効果や課題を検証

平成30年度の整備内容を検証するため、平成28年度から2年間、市内小中学校4校をモデル校に指定。タブレット端末や無線AP、『SKYMENU Class』を先行して導入しました。有識者の先生方や市内小中学校の先生方で構成する「新しい学びのスタイル推進委員会」と連携し、授業公開などをしながら、活用効果や運用上の課題などを整理してきました。

モデル校では、さまざまな実践が展開されました。例えば、中学校の技術では、ペアで1台のタブレット端末が使われていました。ペア同士で互いに木材を切断している様子を撮影し合い、その映像で自分の様子を客観的に振り返って理解を深めるというものです。こうした[カメラ]の活用は、体育や音楽などの実技教科で有効です。操作も簡単ですから、ぜひ多くの学校で取り組んでいただきたいです。その際、先生方には「撮影される子どもだけでなく、撮影する子どもにも学びがある」ということを意識して、指導してほしいと思います。例えば、ノコギリで木材を切断する様子を撮影する生徒は「何がポイントなのだろうか」「どのように撮影すれば後で振り返りになるのか」と意識して撮影する必要に迫られています。子どもがそのような状況にあることを理解し、適切な指導をすることで学習内容をより深く理解させられます。

大人顔負けのプレゼンをする生徒も

理科では、実験の様子や観察したことを[カメラ]で撮影すれば、画像にマーキングしながら具体的に話し合えます。中学1年では、蒸留の仕組みを[発表ノート]で図解し、図をもとに具体的な話し合いが行われていました。

中学2年では、遺伝の仕組みについて班で話し合い、[発表ノート]に考えをまとめて発表しました。なかには、大人顔負けのプレゼンをする生徒もいて、驚かされました。自分の意見をもち、友だちと練り合うことで考えが深まり、自分の言葉で説明できるようになりますから、彼らの自信に満ちたプレゼンは、タブレット端末や[発表ノート]を介して、よく話し合えた証拠なのだと思います。

中学1年理科:全学習者機に[発表ノート]で作成した教材を配付。一人ひとりが蒸留の仕組みを図解し、話し合った

『SKYMENU Class』は無線LAN環境で安定して使える

モデル校での2年間の検証から、子どもたちが話し合い、課題解決を図っていくような授業を実現する上で、題材となる写真や図、グラフなどの教材を学習者機に素早く安定して配付できることの必要性が見えてきました。そして、配付された教材に子ども一人ひとりが自分の考えを書き込んだとき、その内容を「個」「グループ」「全体」へと素早く共有したり、時にはその間を行き来させたりすることで学びが深まることもわかってきました。今回、整備した『SKYMENU Class』は、無線LAN環境下において素早く安定した通信が行え、さらに「個」「グループ」「全体」へと簡単な操作で情報を共有できる機能を備えています。当市のめざす新しい学びを支える仕組みとして、今後の活用の広がりに期待しています。

全104校、コンピュータ約5,000台を
教育センターで一括管理

『SKYSEA Client View』の[リモート操作]が迅速な対応を実現

[リモート操作]で、教育センターから学校のコンピュータの様子を確認して対応校務用コンピュータの運用管理や活用推進も私たちの役割の一つです。当市は、ヘルプデスク業務を民間業者に委託しており、教育センターから、全104校のコンピュータの運用管理と先生方の活用をサポートする体制を確立しています。学校でコンピュータに関するお困り事があれば、教育センター内にあるヘルプデスクに連絡をしてもらい、専門スタッフが対応しています。もちろん、すべてのお困り事が電話で解決できるわけではありませんから、状況によっては専門スタッフが学校に訪問します。しかし、教育センターから最長で片道約30㎞の学校もあるため、長時間にわたって先生方の手を止めてしまうことに課題を感じていました。

そこで、平成24〜25年に、全校務用コンピュータとICTカートに設置しているノートPC、あわせて5,000台にクライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入しました。これにより、[リモート操作]機能で教育センターのヘルプデスクから対象のコンピュータに遠隔でアクセスできるようになり、トラブルの解決や操作の説明が迅速に行えるようになりました。

[リモート操作]を活用してからは、学校に訪問しなくても解決できる案件が増え、1件あたりの対応時間も平均で5~10分程度短くなったと感じています。

学校からは「対応が早くなった」という声とともに、「ヘルプデスクに相談しやすくなった」という声も届いています。『SKYSEA Client View』は運用管理だけでなく、ICT活用の推進にも役立っています。

教育センターからすべてのPCにプリンタドライバを一斉配布

全校のプリンタの入れ替えをした際は、[ソフトウェア配布]で教育センターから約3,000台の校務用コンピュータに新しいプリンタのドライバを一斉配布しました。1台ずつインストール作業をする必要がありませんから、先生方がコンピュータで作業できない時間を短縮できました。

先生方の負担の軽減という点では、毎年年度末に実施している情報資産の棚卸作業の簡易化にも役立っています。教育センターの管理端末でICT機器の利用履歴を確認し、過去1か月以内に使用履歴がないICT機器に絞って各校の担当者に棚卸をお願いしています。項目を減らすことで先生方の負担を削減しています。今後もソフトウェアを上手に使って、先生方が子どもと向き合う時間を創出するとともに、先生方を守るために情報セキュリティ対策を進めたいと考えています。

教員がタブレット端末に触れ、良さを実感することが大切

平成32年度からの新学習指導要領全面実施に向けて、当市ではタブレット端末をはじめとしたICT機器の活用推進とプログラミング教育への対応に注力する予定です。

タブレット端末の活用を推進するためには、教員がタブレット端末に触れられる時間を十分に確保し、その良さを実感することが大切です。今回の整備では、予備機として複数台のタブレット端末を整備できたので、ぜひ職員室など先生方の手の届きやすいところに置いてもらい、操作方法の把握や教材研究に役立ててほしいと思います。

プログラミング教育については、今、ロボット教材をはじめ、さまざまな教材が開発されています。先生方の捉え方もさまざまです。教科の学びとプログラミング教育をどのように結びつけて授業を展開できるのか。これからの2年間で好事例の開発、研究に取り組み、市全体に広げていく計画です。

今、キーボード入力が不慣れで、入社早々にキーボード入力の練習をするという若者の話を聞きます。タブレット端末の活用を進めていますが、キーボード入力をはじめとした、コンピュータの基本的な操作スキルを義務教育9年間で身につけさせなければならないことに変わりはありません。すべての小中学校で段階的な指導を行えるようにICT環境を整え、子どもたちの情報活用能力の育成を図りたいと考えています。

(2018年3月取材 / 2018年7月掲載)