授業でのICT活用

新学習指導要領に対応した「活用されるICT環境」をめざして

静岡県藤枝市は、平成29年度に学校ICT環境整備事業のモデル校として小学校5校と中学校2校を指定し、7月に小学校5~6年生、中学校全学年を対象にタブレット端末やプロジェクタ型電子黒板などのICT環境を整備されました。さらに実証研究の成果を踏まえ、平成31年度末までに整備を進める当初計画を前倒しすることを決定。平成30年度中の整備完了をめざすことになりました。これらのICT環境整備が進められた背景について、藤枝市教育部教育政策課の片山 豊実 課長と田中 範明 主幹にお話を伺いました。

片山 豊実 課長、田中 範明 主幹

次期学習指導要領の改訂に向けたICT環境整備を計画

当市には、小学校17校、中学校10校の計27校の学校があり、約11,600人の児童生徒が学んでいます。

近年、授業におけるICT活用が学校教育において果たす意義が高まるなか、次期学習指導要領の改訂にあたって、プログラミング教育の必須化やデジタル教科書の導入などが示唆され、学校現場におけるICT環境整備についても言及されています。

当市は、平成22年度に小中学校のコンピュータ教室に40台ずつのデスクトップPCと1校あたり20台の教育用ノートPCを配置し、教員1人1台の校務用PCも配置していました。しかし、これらは整備から7年が経過しており、学校の先生方からもICT環境の整備に要望が寄せられていました。こうした背景から、平成29年度から平成31年度までの3か年計画で「藤枝市教育ICT整備計画」を策定し、ICT環境整備を進めることになりました。

そして、平成29年度に小学校5校と中学校2校を実証研究のモデル校に指定し、タブレット端末を1校あたり35台整備、プロジェクタ型の電子黒板と書画カメラを小学校5年生以上の全教室と特別支援教室、理科室に各1台ずつ常設しました。さらに小学校5年生以上の算数(数学)と理科のデジタル教科書などを整備しました。同時に、校務用として教員用には脱着式PCを640台、事務用としてノートPCを40台整備。加えて、市内の全27校の無線LAN環境を見直しました。

※藤枝市は35人学級を採用しており、1学級分の子ども1人1台の環境として1校あたり35台を整備。

「活用されるICT環境」をめざし、インフラを重視

何度も学校に通って先生方の要望や想定される使用場面をヒアリングし、どういった整備を行えば「活用されるICT環境」となるかという観点で、具体的に検討を進めました。

特に重視したのは、快適に操作できる「レスポンスの速さ」と安定して使い続けられる「可用性」です。そこで、まず無線LAN環境の改善を検討しました。以前は、無線LANアクセスポイント(以下、無線AP)が廊下に設置されていて、複数の教室で1台の無線APを共有していました。この状態で、35台のタブレット端末が一度に使用されると膨大な通信量が賄いきれず、デジタル教科書や教材などがなかなか読み込めない状態になってしまいます。また、ネットワークを通じて機器の死活状態を確認する機能がなく、通信にトラブルがあった際の原因特定に時間がかかり、たびたび授業が中断してしまうことが課題になっていました。そこで、市内27校すべてを対象に、小学校5年生以上の全277教室に常設で1台ずつ無線APを整備することにしました。

無線APだけではなく、校内ネットワークを構築するためのスイッチングハブも見直して、PoE給電に対応した機器にしました。PoE給電は、無線APなどのスイッチングハブとつながる機器にイーサネットケーブルを通じて給電する機能で、対応する無線APであれば電源ケーブルが不要になります。これによって無線AP用の電源工事が不要になり初期費用が抑えられるほか、今後のメンテナンスや機器増設の際の手間が減らせます。

「藤枝市教育ICT整備計画」当初予定

授業の効果的な場面で、パッと活用できるICT環境

授業では、写真や動画などの容量の大きなファイルを使用する場面が多いため、タブレット端末についても、当初検討していたものから上位機種に変更しました。今の子どもたちは、各家庭で日常的にスマートフォンやタブレット端末を使い慣れています。授業で使用するタブレット端末が、ファイルを呼び出したり動画を再生したりするたびに、操作を待たされてしまうようであれば不便さを感じて、次第に活用されなくなります。

また、電子黒板や書画カメラを、各教室に常設したのも活用される場面を考慮したからです。以前は、可搬型の大型テレビを1フロアに1台ずつ配置していたのですが、使用するたびに教室に運び込む必要がありました。しかし、授業の始めから終わりまでICTを活用する授業は多くありません。例えば、前時の板書を写した写真を提示して振り返りをするといった、授業の一部分で活用するケースが多いため、使いたいときに手早く使える環境を整えることが、活用を広げるために欠かせないと考えました。もちろん公費で整備する以上、費用を抑えることは大切ですが、そのために活用場面が限られてしまうのであれば意味がありません。ですから、電子黒板と書画カメラについても無線AP同様に小学校5年生以上の全教室に常設できるように整備することにしました。

端末を共有する環境ではデータの保存先を考えることが必要

授業においてタブレット端末を活用するには、学習活動をサポートするソフトウェアが不可欠です。特に、35台のタブレット端末を共有している環境ですから、子どもたちの学習成果となるデータをどこに保存すればいいのかを考えなくてはいけません。

『SKYMENU Class』には、[個人フォルダ]が用意されており、子どもたちが作成したファイルは、保存先を選ばなくても自分専用の[個人フォルダ]に保存でき、先生はそこから子どもたちの学習成果を確認できます。現時点では小学校5年生以上での活用が中心ですが、これから低学年でも活用していくことを考えると、この仕組みはとても重要です。

そのほか、先生のタブレット端末で子どもたちの端末の画面が一覧でき、取り組みの様子を確認できることはもちろん、子どもたちの端末のバッテリー残量や無線LANの接続状態も同時に確認できることを重視しました。もし、通信が途切れてしまいファイルが読み込めない端末があれば、すぐにそれを見つけて無線LANをつなぎ直し、子どもたちが学習活動に集中できるようにフォローする必要があります。

市としては、初めから学習活動ソフトウェアに『SKYMENU Class』を指定したわけではありませんが、こうした細かな配慮がされていることは、学校の先生方にも高く評価されています。特に、授業での活用がきちんと考慮されていて、ボタンの配置一つとってもとても使いやすく、色やデザインもよく考えられていて、分かりやすく視認性が高いという声もよく耳にします。

実践事例を共有し、教材研究していく取り組みを

もちろんICTの環境さえ整えば、効果的な活用が進むわけではありません。タブレット端末をはじめとするICTはあくまでも道具です。その道具を使って、授業を組み立てるときに、どう活用すればいいか分からないという場面もあります。そんなときに相談できるICT支援員の存在も大きいです。また、実証研究校の7校のなかでも非常に活用されている学校もあれば、そうではない学校もあります。今後は市としても実践事例を共有し、教材研究していくような取り組みを考える必要があるとは感じています。忙しい先生方に大きな負担をかけず、どういった取り組みができるかは今後の課題だと言えます。しかし、現段階でも実証研究校の実践を通じて、活用の仕方を工夫すれば大きな効果が得られる手応えは十分に感じています。

モデル校の藤岡小学校には、県知事が視察に来校され、同校の実践を高く評価されました。また、市長や教育長もICTの必要性を実感されており、平成31年度までの整備計画を前倒しして平成30年度において全小中学校の全学年に整備を完了することが決定しました。

課題も少なくはありませんが、当市がめざす「日本一の教育環境」の実現に向けて、一つずつ丁寧に取り組んでいきたいと思います。

(2018年2月取材 / 2018年4月掲載)