授業でのICT活用

“チーム学校”で挑む、主体的・対話的な授業の実現のためのICT活用

文京区立茗台中学校は、平成26年度、27年度の文京区のモデル校として生徒用のタブレット端末110台が整備されました。

平成28年度から同校に着任された石出 勉 校長は、2年間のモデル事業から得られた知見を基に、より授業に適したICT環境づくりに着手。「主体的・対話的な授業の実現のためのICT機器の活用」を研究目標に掲げ、“チーム学校”でICT活用を推進されています。同校の取り組みを石出校長に伺いました。

2年間の研究指定を終えたモデル校に着任

私が、本校に着任したのは平成28年4月です。本校は着任直前の平成28年3月まで、文京区教育研究協力校や文京区教育センターによる「タブレット端末を活用したICT教育モデル事業」のモデル校指定を受けており、2年間の研究に取り組んでいました。職員は、当時整備されたタブレット端末などのICT機器やソフトウェアを使って行える教育活動について、まさに手探りで研究に取り組んだと聞いています。

平成28年3月をもってモデル校としての役割は終えましたが、110台の生徒用のタブレット端末は本校で継続して活用できる状況でしたので、この資産の有効活用について、校長として課題意識を持っていました。

より授業で活用しやすい環境へ。ソフトウェアも新たに選定

新年度から新たなスタートを切るに当たって、まずはこれまでのモデル事業から得られた知見を基に既存のICT環境を見直して、より授業でICTが活用しやすい環境を整えることから始めました。

職員から意見を集めたり、実際に調べたりして浮かび上がった課題は大きく2つです。

1つ目は、ICT機器が教室に常設されていないため、準備に手間がかかり日常的に活用できないことでした。プロジェクタが6台しかなく、使うたびに教室まで持ち運ぶ必要がありました。この課題については、平成28年夏に全教室に94インチの大型電子黒板が整備される計画があり、解消のめどが立ちました。

2つ目は、生徒用のタブレット端末で使用していたソフトウェアの問題でした。以前のソフトウェアは挙動が遅くて通信が安定せず、授業でやりたいことを実現するには、異なる複数のソフトウェアを組み合わせて行う必要がありました。こうした操作の煩雑さが、ICT活用から職員を遠ざけていました。この課題については、教育委員会に相談し、授業で利用するソフトウェアを新たに選定し、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入することになりました。

“授業での活用に耐えられる機能”が
備わっていることが重要。

「軽快さ」「安定性」「一つのソフトウェアで手軽にできる」

『 SKYMENU Class』のツールバー(学習者機)。電子黒板などへの端末画面の「投影 / 発表」ボタンや画面に書き込める「ペン」ボタン、カメラを起動する「撮影」ボタンなど、授業で必要な機能が一つのツールバー上にまとまっている 新しいソフトウェアの選定では、より「軽快に動くこと」と「安定して活用できること」を重視しました。授業で利用するICT機器は、“授業での活用に耐えられる機能、性能”が備わっていることが重要で、機能があれば何でもよいというものではありません。例えば、教員が意図したタイミングで、速やかに電子黒板に教材提示ができることが大切で、数秒後にようやく提示されるようでは授業にならないわけです。

そして、授業でやりたいことを実現するために必要な操作が、一つのソフトウェアで完結することも重視しました。例えば、教材を配付するとき、画面を転送するとき、マーキングするとき、カメラで撮影するとき……それぞれが異なるソフトウェアだと、操作性が異なる手順をすべて覚えなければなりません。さらに、ソフトウェアによってはデータ保存に使用するフォルダが異なる場合もあり、ICTが苦手な職員には煩雑で扱いにくい環境になってしまいます。

その点、『SKYMENU Class』はさまざまな機能を一つのソフトウェア上で実現していながらも、基本的に統一された画面構成で、わかりやすくつくられていることを評価しました。直感的な操作性で、安心感があるソフトウェアだと感じました。

また、小学校のモデル校であった文京区立湯島小学校では、整備当初から『SKYMENU Class』が活用されており、公開授業においても軽快かつ安定して稼働している実績がありました。その実績も踏まえてソフトウェアが選定され、平成28年の夏に本校の生徒用のタブレット端末110 台に『SKYMENU Class』の整備が実現しました。

さらに同夏、区の整備で本校に教員用のタブレット端末が23台整備され、これらの端末にも『SKYMENU Class』が導入されました。これにより、教員機と学習者機をつなぎ、幅広い学習活動でタブレット端末を活用できる環境が整いました。

主体的・対話的な授業の実現のためのICT 機器の活用

今年度の研究目標は、「主体的・対話的な授業の実現のためのICT機器の活用」としました。新学習指導要領のキーワードである「主体的・対話的で深い学び」のうち「深い学び」はあえて省いていますが、これは決して深い学びを軽視しているわけではありません。主体的・対話的といった授業スタイルの部分はイメージがしやすいですから、授業改善の第一歩として、「まず授業スタイルから変えてみよう」「対話的な学びに役立つICTを授業の中に取り入れてみてほしい」といった意図があります。まずは失敗を恐れず、今行っている授業に対話的な活動やICTを少しだけ取り入れて変えてみる。数多くこなすことで、授業が上手くいくためのポイントや、逆に上手くいかない理由などが見えてきますから、それを共有して広げていきたいと考えています。「まずは、チャレンジしてみることが大切」と職員に声をかけています。

各教室に整備された94インチの大型電子黒板。デジタル教科書の提示などを中心に活用が定着している。教員用のタブレット端末は、教材提示や[タイマー]による時間管理などに利用されている

研修委員会とICT 推進委員会を設置、役割を分ける

研究目標を掲げるだけでなく、授業研究やICT活用をより推進するために、職員の体制も見直しました。

新しい体制では、ICTを活用した授業研究を進め、校内研修を企画する役割を担う「研修委員会」と、職員のICT活用をサポートして機器のトラブルや故障の対応を役割とする「ICT推進委員会」を設置しました。これは、授業研究の推進とICTの運用管理の役割を分けることで、それぞれの役割に集中できるようにすることを意図しています。

また、委員会のメンバーを各学年からそれぞれ1名ずつ計3名の体制で組織することで、多様な意見を出し合って企画を練れるようにしました。知恵が集まり、今までにない新しいアイデアが生まれています。各委員会の打ち合わせには私も参加しています。校長としての要望や方向性を示し、組織が動き出せるように後押しをしています。

電子黒板での教材提示は定着。タブレット端末活用へ

整備から約1年が経ち、電子黒板にデジタル教科書を投影して説明するといった活用は日常的な姿になっています。一方で、タブレット端末の活用は、まだ始まったばかりという段階です。今は、体育で模範演技を[カメラ]で撮影して動画で見せたり、[タイマー]を電子黒板に大きく映し出して時間管理に利用したりしています。[タイマー]は、タイマー音を任意の音源に変更できるので、使い方や用途に応じて音を変えている職員もいます。

生徒1人1台環境でのタブレット端末活用実践は、研修委員会のメンバーが率先して取り組んでくれています。例えば、理科の授業では生徒1人ひとりが[発表ノート]を活用していました。先生があらかじめ教員機の[発表ノート]で作成しておいた問題を全学習者機に一斉配付し、教科書などを参考にさせながら化学反応の様子を図解させて表現していました。

生徒たちは積極的に書き込み、表現していましたが、タブレット端末などの操作に気をとられてしまい、教科の内容に集中できていなかったり、先生も慣れておらず、紙で実践したほうが効率が良かったと思えるような部分もありました。ただし、そのようなことは何度か経験し、基本的なICT活用スキルが身に付けば解消されることと捉えています。次第に学習のための道具・手段として馴染んでくるものと思います。

一足飛びではなく、長期的な視野で捉えて、1つひとつ実践を積み重ねていくこと。そして、その成果を学校全体で共有すること。それが、学校というチームで教育活動を進める上で大切なことだと考えています。

教科書などを参考しながら化学反応の様子を[発表ノート]でまとめ、電子黒板に生徒の画面を投影して共有した

校内研修を充実させ、授業スタイルの転換へ

実践を重ねるなかで課題も浮き彫りになってきています。例えば、先ほど述べた理科の授業は、ICTを活用しているものの、授業形態はあくまで従来の一斉指示型の授業であるということです。『SKYMENU Class』には[画面合体]や[グループワーク]など、生徒同士の学び合いに役立つ機能が搭載されていますが、そうした機能を利用するような、主体的・対話的な新しいスタイルの授業はまだ実現できていません。

これまでの一斉指示型の授業から変わらなければならないのですが、講義型の授業を中心に行ってきた、または経験してきた私たちは、生徒たちが議論して課題を見つけ、解決するために周りの人と話し合って協力する……、そういった授業を実現させるための発想が十分に持てていないのが現実だと思います。

研修委員会と石出校長が協力して研修を実施しているこうした現状を踏まえ、研修委員会が中心となって校内研修やミニ研修などに取り組んでいます。1学期中に実施した1回目の研修では、茨城大学の小林祐紀准教授を招き、主体的・対話的な授業の実現のためのポイントや、ICT活用についての理論や実践例を学びました。2回目の研修は、本校のICT環境を使って実現できる授業について、より具体的な活用イメージを持ってもらえるように、研修委員会と協力して実演を交えた研修を行いました。2学期からは9月早々にSky株式会社のインストラクターを招いた操作講習会を実施し、その後各教員が授業アイデアを持ち寄る授業検討会を計画しています。研究授業なども複数回実施し、チームで一歩一歩進めていきます。

校長には、職員が授業をしやすく、
生徒の学びが促進される環境を
つくる責任があります

「物理的な環境」と「人的な環境」の両輪を整える

学校の状況はさまざまですから、ICT機器が整備されたタイミングで、各学校に最適な設定が施され、性能やパフォーマンスが十分に発揮できる状況になっているとは限りません。

ですから、職員が描く「こんな授業のこんな場面でこんなふうにICTを使いたい」というイメージを実現するために、小さな工夫や改善を積み重ね、最適な環境に設定することが必要です。それは、職員や生徒が作成したファイルは、どのフォルダに保存するように指定しておくとよいのか。書画カメラの向きは、どの方向にしたら使いやすいか。ビデオの描画速度は十分か。画面にちらつきがないか……など、数えればきりがないような小さなことかもしれません。しかし、そうした小さな改善のなかにこそ、「ICTを授業で使ってみよう」と思うきっかけが眠っているものです。

校長には、職員が授業をしやすく、生徒の学びが促進される環境をつくる責任があります。校長が裏方となり、職員の要望をしっかりと聞く。そして、学校の代表として関係諸機関にその要望を伝えて調整を図っていく。そのような動きを心がけています。

そして、物理的な環境を整えるだけでは活用は進みませんから、先ほど述べたような人的な環境も整えて、組織として動き出せるようにしていくことも必要です。

物理的な環境と人的な環境の両輪をしっかりと整え、チーム学校として生徒の学びの充実に向けて取り組んでいきたいと思います。

(2017年7月取材 / 2017年10月掲載)