授業でのICT活用

先生方が“タブレット端末の良さ”を体感できる取り組みを~21世紀型能力の育成と授業改善をめざして~

兵庫県芦屋市では、平成26年度から「タブレット端末協働学習実践事業」として、3か年で市内の小学校8校に各41台、中学校3校に各11台のタブレット端末と、学習支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を整備。新学習指導要領がめざす、主体的・対話的で深い学びの実現に取り組まれています。芦屋市教育委員会 芦屋市立打出教育文化センターの中村 整七 所長、幸谷 省吾 主査、大林 亮 指導主事にお話を伺いました。

元起 克敏 氏、長谷川 寿 氏、西條 英嗣 氏

計画変更し残したコンピュータ教室の稼働率は現在も下がっていない

当市が、タブレット端末の整備を進める目的は大きく2つあります。1つは、子どもたちにタブレット端末を活用した学習活動に取り組ませることで「21世紀型能力」を育成したいということ。もう1つは、タブレット端末の整備をきっかけにして、先生方にこれまでの授業の在り方を見直して「授業改善」に取り組んでいただき、よりわかりやすい授業づくりの推進を図ることです。

タブレット端末の整備と言っても、大切なのは「主体的・対話的で深い学び」を実現することにあり、協働学習を中心とした授業スタイルへと転換していくことが重要だと考えています。タブレット端末の整備は大きなきっかけではありますが、学習の場面によっては紙ベースでの取り組みによって、それらを実現してもいいと考えています。

1つだけ、タブレット端末の整備が始まってから大きく方針転換したことがあります。それは、コンピュータ教室の取り扱いです。当初は、コンピュータ教室のノートPCとタブレット端末を置き換える計画でした。しかし、整備初年度の段階で、コンピュータ教室において有線で校内LANに接続できる環境やタブレット端末よりも大きくて見やすい画面、文字入力しやすいキーボードなどは、これまでと変わりなく必要だとわかりました。そこで、市の財政課に掛け合って各校のコンピュータ教室の環境はそのまま残し、新たにタブレット端末を追加するという形態に整備計画を変更しました。その後、1年半が経過しましたが、タブレット端末の整備が完了している学校でも、コンピュータ教室の稼働率は下がっていないことから、この判断は間違っていなかったと感じています。

タブレット端末活用の基盤となる無線LAN環境を増強

タブレット端末を活用するために欠かせない無線LAN環境についても、タブレット端末の整備に合わせて改善しています。平成27年度まで、当市の研究指定校だった芦屋市立精道小学校は、最近立て替えられたばかりの学校だったこともあり、初めから全教室が無線LANの設置を想定した設計になっていました。しかし、家庭用の無線LANアクセスポイント機器(以下、無線AP)を使用しており、授業で複数のタブレット端末を同時使用できませんでした。そこで、業務用の無線APに交換し、校内のどこからでも快適にタブレット端末が使用できる環境にしたことで、活用率の向上につながっています。

精道小学校以外では全教室での無線LAN環境がないため、無線APを持ち運んで使っています。例えば、タブレット端末の利用機会が多い理科室などに無線APを常設し、残りの数台を持ち運んで使うなど、各学校の現状に即して活用いただいています。

これらの無線APは、ネットワークケーブルだけで給電できる「PoE給電」に対応したものを選びました。また、タブレット端末の充電保管庫の配線を整理するなど、持ち運び運用に伴う準備の負担を少しでも減らす工夫を積み重ねることで、活用率が徐々に上がりはじめています。

『SKYMENU Class』は学習の流れに沿って活用できるので、学習内容に集中させられる

学習活動を活性化するには思考を途切れさせないことが大事

当市では授業改善という意味で、大切にしているのが協働学習での主体的・対話的な学びです。しかし、先生が「さあ、話し合いなさい」と言うだけでは、活発な話し合いにはなりません。授業実践を見ても、タブレット端末だけではなく、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』という話し合いの道具があるからこそ、意見交流が活性化していると感じます。

確かにタブレット端末だけでも、写真を撮影したり、発表資料を作ったりできます。しかし、それらは単体の機能です。『SKYMENU Class』であれば、校外で撮影してきた写真も校内LANに接続されたときに、自動的に自分専用の[個人フォルダ]に保存されます。そして、教室に戻って[発表ノート]で資料を作るときには、自分の名前でログインするだけで、フォルダを指定して画像を呼び出さなくても自分の[個人フォルダ]に保存されている画像が一覧表示されます。さらに、タブレット端末の画面をつなげる[画面合体]機能を使えば、作成中の発表資料の上で写真を移動させながら、グループで意見を出し合い、分類するといった活動もできます。

校外 校内LAN環境
録画した実技の様子を自由に操作しながら再生することで、より多くの発見ができる

また、体育の実技の様子を動画で撮影するとします。もちろん、その動画を見せるだけでも意見交流はできるでしょう。しかし、より活発な意見交流にしようと思えば、スローモーションで再生したり、2つの動画を重ねて比較したりすることで、より多くのことを発見できるような工夫ができます。

このように各機能がつながり、活用しやすくなっているので、子どもたちの思考を途切れさせることなく学習内容に集中させられると感じています。

実は、こうしたタブレット端末を活用した授業デザインを考えるようになると、タブレット端末を使わない授業でも主体的・対話的な学びを意識するようになっていきました。授業の最後に、子どもたちにどう表現させればいいかを考えたり、どうやって話し合わせればいいかを意識したりすることで、少しずつ協働学習を中心とした授業が増えてきたように思います。

安心して活用するために[個人フォルダ]は欠かせない仕組み

タブレット端末を41台整備した小学校では、全児童のアカウントを登録して、アカウントごとの[個人フォルダ]を用意。また、学校全体とクラスの[グループフォルダ]も作成しています。タブレット端末で使用したファイルが、サーバ内の[個人フォルダ][グループフォルダ]に保存される仕組みは、タブレット端末を活用した学習活動に取り組ませる上で欠かせません。

特に低学年の子どもたちは、ファイル保存の確認メッセージに気づかず、そのまま終了させたり、意図せずソフトウェアを終了させてしまったりすることも少なくありません。同様に、ファイルをタブレット端末本体に保存してしまうと、後からどの端末に保存したかがわからなくなるだけでなく、端末の環境が復元されるとファイルが失われてしまいます。

学習活動を記録するという意味で、子どもたちが作成したファイルが失われないことは重要です。操作が容易で、かつファイルが失われない仕組みでなければ、子どもたちに自由に使わせることはできないというのが、学校の先生方の率直な意見です。

この点で、[発表ノート]をはじめ『SKYMENU Class』の各機能では、保存操作を行わなくても、ログインしている人の[個人フォルダ]に自動的に保存されるので、ファイルをなくしてしまう心配がありません。また、先ほど写真を例にお話ししましたが、校内LANにつながらない場所で作成されたファイルでも、校内LANに接続されたときに自動保存されます。このように手厚い仕組みがあることは、タブレット端末を学習活動に活用する上では、絶対に欠かせないと思います。

先生方がタブレット端末の良さを体感し、子どもたちにとって有益だと実感することが大事

独自のリーフレットを制作するなどし市内全体の活用推進をめざす

これは、当市に限ったことではないと思いますが、先生方の中には、ICTに苦手意識をお持ちの先生もいます。教育委員会としてタブレット端末の整備を進めるにあたり、最初の段階で「活用なんて無理だ」という印象にならないように配慮しました。Sky株式会社のインストラクターの協力を得て行った操作研修の際には、タブレット端末の電源の入れ方といった基本操作のほかに、例えばカメラ機能を「動かせる書画カメラ」と位置づけて説明するなど、まずは先生に気軽に取り組んでもらうことからスタートしています。

タブレット利活用探究チームのメンバーが中心となって制作した活用推進リーフレット

また、市の情報教育の研究部会のメンバーが中心となって、それぞれが所属する学校での授業実践の積み重ねを研究成果として、全教員に紹介するという取り組みを推進しています。さらに、県教育委員会の研究助成を受けた教職員研究グループ「タブレット利活用探究チーム」のメンバーの発案で『タブレットDE思考を深めよう!』というリーフレット【図】を制作。各校における実践事例を掲載し、さらに実践授業の様子を収録した映像を用意して、映像にアクセスできるQRコードも掲載しています。このように、学校現場の先生方からの発信による活発な取り組みが、各学校でのタブレット端末の活用推進に役立っています。

こうした取り組みに参加されている先生方は、「さらに情報化が進む将来の社会で、子どもたちが生き抜いていくために、基礎的な情報活用スキルを身につけさせてあげたい」「21世紀型能力の育成に、今こそ取り組んでいかなければ」という、子どもたちに対する思いを強く持たれていて、私どもは頭が下がる思いなのと同時に、非常に頼もしくも感じています。

参加者も発表ノートで、研究授業での気づきを共有

子どもたちに身につけさせたい力や教科の目標は明確です。どういうアプローチでそれに近づけていくかが、先生方の授業デザインに表れてくるのだと思います。

そういう意味で、まずは先生自身がタブレット端末の活用を経験してみることが大切ではないでしょうか。先述した精道小学校では、事前に指導案が配付されたタブレット端末を先生方全員が手に持って研究授業に参加する取り組みがありました。[グループワーク]機能を利用し、誰かが指導案にマーキングや文字入力をすると、ほかの先生方のタブレット端末にもリアルタイムに反映されます。つまり、子どもたちの取り組みを見ながら、その場で気がついたことを指導案に用意されている記入欄に書くと、自動的に先生方全員に共有されるという使い方です。

通常は事後研究会で、発表されたり付箋を貼ったりして共有される先生方の意見が、授業中にリアルタイムで共有できます。例えば、若い先生はベテランの先生の書き込みを参考に見取りをしたり、一緒に授業を見ることもできます。また、事後研究会が始まる時点で、すでに資料はできあがっており、意見も共有されているため、スムーズに意見交流をスタートさせることができます。非常に効率的・効果的な活用だと思います。

何より、先生方はこの経験を通じて、タブレット端末を使う側の気持ちを体感できます。実際に経験したことであれば、どこにタブレット端末を活用している効果があって、どんな難しさがあるのかも実感として理解できます。そして子どもたちなら、どのくらい活用できそうかを考えることにつながります。そうやって、先生自身が効果を感じたら、「子どもたちも、こんなふうに使わせると有効なんじゃないか」と工夫できるようになるのではないでしょうか。

操作方法がわかるだけでは、これまでのスタイルを変えて新たな取り組みをはじめていこうという動機には、なかなかつながりません。しかし、先生方がタブレット端末の良さを体感し、子どもたちにとって有益だということが実感できれば、少しずつ温度差が解消されていくと思います。教育委員会としては、今後とも学校の先生方とともに子どもたちの力になるよう、取り組んでまいります。

研究授業に参加する先生はタブレット端末を使って、気づいたことをリアルタイムで共有する / 事後研究会では、授業中に撮影した写真や気づいたことを記入した付箋を貼りつけた指導案を見ながら意見交流する

(2017年7月取材 / 2017年10月掲載)