授業でのICT活用

小中全学校に段階的にタブレット端末を整備

札幌市では、平成29年度から段階的に教員が活用する「授業用タブレット端末」と個別の支援を要する児童生徒が活用する「特別支援学級用タブレット端末」の整備を開始されています。従来のコンピュータ教室に設置されていたデスクトップPCをタブレット端末に置き換えて整備し、児童生徒が校内のさまざまな教室、場所で利用できる環境づくりが進んでいます。

同市の教育の情報化の取り組みについて、札幌市教育委員会生涯学習部総務課 元起 克敏 氏、長谷川 寿 氏、西條 英嗣 氏にお伺いしました。

元起 克敏 氏、長谷川 寿 氏、西條 英嗣 氏

PC教室に加え、教員の授業用タブレット端末も整備

当市は、約200万の人口を抱える北海道唯一の政令指定都市です。管内には幼・小・中・高等学校、特別支援学校あわせて324の学校及び幼稚園があり、教職員は約1万人、児童生徒は約14万人に上ります(平成28年5月時点)。

当市では、平成29年度から全小中学校302校のコンピュータ教室の機器更新を実施し、既存のデスクトップPCをタブレット端末に置き換えていきます。それにあわせて、主に教員が授業で活用する「授業用タブレット端末」と個別の支援を要する児童生徒が活用する「特別支援用タブレット端末」の整備も行います。

「コンピュータ教室」と「授業用タブレット端末」に整備する端末は、Windows OSのものを採用しました。これは、児童生徒が将来、社会に出て働くときに利用するコンピュータの多くがWindows OSであることや、「環境復元ソフトウェア」などを使って教員、児童生徒がいつでも安心して活用できること、さらには端末本体からデータを取り出しやすく、運用管理で先生方の手をわずらわせないといったことも考慮しました。

「クレードル型」「2in1型」学校に合わせた2パターンの整備

コンピュータ教室のタブレット端末化には、2パターンの整備を想定しています。

一つは「クレードル型」の整備です。常設のコンピュータ室がある多くの学校はこのパターンを採用します。タブレット端末とともにクレードルを設置し、外付けのディスプレイとマウス、キーボードを接続。これまでのデスクトップPCと変わらない操作性を確保しています【図1】。さらにクレードル使用時は有線LAN接続になるため、安定した通信が行えます。クレードルからタブレット端末を外しても、無線LANに接続できるので、コンピュータ教室から持ち出しても利用できます。

もう一つは、「2in1型」の整備です。キーボードを着脱してタブレット端末としてもノートPCとしても利用できる端末のことを2in1型と呼んでいます【図2】。この整備を実施する学校では、従来のコンピュータ教室を廃止し、無線LANに接続できる多目的教室の下でタブレット端末を活用することができます。端末は充電保管庫で管理し、必要に応じて取り出して使います。多目的教室には、楕円型の折りたたみテーブルや積み重ねられる椅子なども整備しており、児童生徒がテーブルを囲んで対話的に学べる学習空間になっています。今後、校舎の新設や建替の際にこのパターンの整備をしていきたいと考えています。

クレードル型と2in1型

授業用タブレットと無線APを同数整備、柔軟な運用が可能に

教員が使う「授業用タブレット端末」は、各校に「学級数+6台」を整備します。

画像伝送機能付の無線LANアクセスポイント(以下、無線AP)も授業用タブレット端末と同数整備します。各普通教室に無線APを常設するので、教員は職員室からタブレット端末を持参するだけで、各普通教室の大型テレビにタブレット端末の画面を[投影]して教材を提示できます。もちろんコンピュータ教室の端末を普通教室などで利用することもできます。端末も無線APも十分な数を整えているので、各校の状況や実態に応じた柔軟な運用が可能です。

これらのタブレット端末には、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しているので、大型テレビへの[投影]や[カメラ]での撮影、マーキングなどさまざまに活用できます。

札幌市立学校のICT環境

教員が活用する「授業用」タブレットと
「PC教室」のタブレットに
SKYMENU Classを導入

日常的なICT活用で「分かる・できる・楽しい授業」づくりへ

今回の整備は、コンピュータ教室だけでなく、主に教員が利用する授業用タブレット端末も導入するという非常に大きな整備です。このような整備の背景には、先生方が日常的にタブレット端末などのICTを活用することで「分かる・できる・楽しい授業」づくりをより一層充実させるねらいがあります。

特に「分かる・できる・楽しい授業」の実現には、大きく提示して分かりやすく示すことが有効です。タブレット端末と『SKYMENU Class』を使って大型テレビに教材を[投影]することで、分かりやすい説明が可能になりますし、先生方がこれまで資料作成に費やしていた時間を、より本質的な教材研究に振り向けられるようになると考えています。

授業のテンポも良くなると思います。例えば、机間指導しながら[カメラ]機能で児童生徒のノートを撮影して素早く大型テレビで紹介したり、その画面を示しながら児童生徒が説明することもできます。

『SKYMENU Class』には、[画面合体]機能や[グループワーク]機能のような、対話的な学習活動につながる機能も充実しています。「個」で考えたことを他者と交流し、練り合うことで次の学習展開につながりますから、当市で推進している課題探究的な学習の手助けになると思います。

いずれにしても、授業を行う教員自身がタブレット端末や『SKYMENU Class』を使えなければ、授業の中で使われません。そこで、授業用タブレット端末は職員室など、教員がいつでも手に取れる範囲で保管することにしています。教材研究、授業準備に役立てていただきたいと考えています。

タブレット端末を使った授業の様子

教育課程や校内研究の担当者を対象に校内リーダー研修を実施

すべての教員がICT機器を取り入れた授業の展開を具体的にイメージし、有効に活用できるようにしたいと考えています。教員研修を「管理職」「校内リーダー」「一般教員」に分けて実施したいと考えています。

特に「校内リーダー」向けの研修が重要になると考えています。この研修では、各校で教育課程や研修を担当する方に「校内研修リーダー」として集まっていただき、校内研修の進め方をお伝えし、校内研修のための必要な資料も提供します。タブレット端末の活用において、集合研修のような形式では先生方が学校を空けて参加しなければならなかったり、参加人数に限界があったり、さらには各校の実態にそわない一律の研修内容となってしまいます。

校内研修リーダーの先生方が各校の教育課程、校内研究や先生方のICT活用スキル等に合わせて研修を行うことで、単なる機器操作にとどまらず、授業の内容にまで踏み込んだ、より具体的な授業のイメージを持っていただけると考えています。

研修だけでなく活用事例の収集、共有も行っています。今後タブレット端末の整備が進みますから、さらに内容を充実させて先生方に具体的な活用イメージを持っていただけるように情報を充実させていく予定です。

(2017年6月取材 / 2017年9月掲載)