授業でのICT活用

首席 桂木 将之 先生 西川 祐輝 先生 加藤 吉徳 先生市内小中学校の全普通教室に大型テレビ、ノートPC、教材提示装置などのICT機器が整備され、ICTの日常的な活用が進む大阪府茨木市。平成26年度から全小中学校の情報処理室(コンピュータ教室)の端末をタブレット端末で整備され、機器を普通教室や体育館などに持ち運んで活用する事例も広がっています。同市の教育情報化やICT活用推進の取組みについて茨木市教育センター 上村 仁師 指導主事、長谷川 淳次指導主事に伺いました。


全普通教室に、大型テレビ、ノートPC、教材提示装置を整備

茨木市教育委員会では、小中学校全46校(小学校32校、中学校14校)を所管しています。教育の情報化を積極的に推進している当市では、平成17年度までに全小中学校で普通教室をはじめ特別教室、体育館などに校内ネットワークの敷設を完了しており、校内どこでもネットワークを利用できる環境です。

さらに、すべての普通教室に学級用PC(ノートPC)と大型提示装置(小学校:大型テレビ、中学校:プロジェクタ)、教材提示装置を1台ずつ整備しており、教員がICTを日常的に活用できる環境が整っています。

タブレット端末と無線APを普通教室に持ち運んで活用

平成26、27年度の情報処理室(コンピュータ教室)の機器更新で、それまでのノートPCで整備していた端末をタブレット端末に置き換えて整備しました。端末はWindows OSのものを採用しました。これは、これまでに作成・蓄積してきた教材などとの互換性や、既存のファイルサーバがWindows系のものが多いといった運用管理上の利点を考慮しています。児童生徒が情報処理室で創作的な活動に取り組みやすいように、すべての端末にキーボードとマウスも用意しました。

タブレット端末は、僻地校を除き42台ずつ整備し、無線LANアクセスポイント(以下、無線AP)は情報処理室に1台(中学校は2台)を常設しています。情報処理室外に持ち運んで利用することを想定して可搬型のものも4台整備しました。グループ1台の運用であれば最大で4学級同時にタブレット端末を利用できます。授業支援ソフトウェアには、タブレット対応授業支援・学習活動支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を採用しており、普通教室に持ち出しても情報処理室と同じように無線LANを介した教員機画面の[投影]や[マーキング]などを行えるようにしました。

特に普通教室での活用は、機器設置や接続の手間をできるだけ削減することが重要ですから、各普通教室に1台常設している学級用PCに『SKYMENU Class』の「提示機設定」を施しました。この設定をすることで、普通教室に持ち運ぶ機材がタブレット端末と無線APだけで済むようにできました。

このように持ち運びの運用によって普通教室でもタブレット端末を活用できるのですが、中学校では技術の授業で情報処理室を使う時期があるため、その時期は持ち出せないとった課題もあります。今後は、国の方針にもあるように、情報処理室とは別に、教員が自由に持ち出して使えるタブレット端末を10台~40台整備したり、無線APの各教室への常設などの検討が必要だと考えています。

タブレット端末と無線AP を普通教室に持ち運んで活用

単年度で校内のICT活用を推進「ICT授業デザイン推進校」

平成26年度から市内小中学校4校を「ICT授業デザイン推進校(以下、推進校)」とし、1年間、ICT活用の研究・普及に取組んでいただいています。推進校は、毎年2月に開催する「茨木市教育センターフォーラム」で1年間の成果を発表し、市内に発信することも大切な役割であり、目標の1つになっています。

この目標に向けて各推進校には、当センターの指導主事による訪問研修やICT活用を支援する「ICTデザイナー」の週1回派遣(通常は月2回)などで支援しています。このようなICT活用に関する手厚いサポートを得られるメリットや、2、3年間かけて継続的に取組む研究指定校とは異なる単年度の取組みであることが、校内の教員の理解を得やすいということで、特に管理職の教員から好評です。また、教員の関心も高く、「タブレット端末を授業でうまく活用する方法を知りたい」という方が多くいます。毎年2月に次年度の推進校を募集していますが、意欲あふれる学校や教員から多数立候補があります。

プレゼンやディベートで有効な[投票]機能を研修で体験

当センターでは、ICT活用に関係する研修を年間21回実施しており、そのうち9回を『タブレット活用授業づくり研修』としています。

研修講座は、タブレット端末や『SKYMENU Class』の基本的な操作や、タブレット端末を普通教室に持ち出したときの接続方法といった基本的なスキルを習得する内容から、推進校の教員による実践発表やミニ模擬授業でタブレット端末活用授業を体験するといった実践的な内容まで、幅広い内容で行っています。

後者の研修講座では、さまざまなタブレット端末の活用事例や活用アイデアを紹介していますが、なかでも、タブレット端末上で学習者1人ひとりが投票した結果がリアルタイムに集計・表示される[投票]機能を活用した「プレゼンの相互評価」や「ディベート」の取組みが好評です。

プレゼンの相互評価

プレゼンの相互評価は、教員にプレゼンしてもらい、プレゼンを聞いている教員が[投票]機能で発表者にリアルタイムで評価を返すという活動です。先生役の指導主事は、プレゼンを聞きながら何分くらいに高い評価を得られたのかを記録しつつ、プレゼンの様子を動画で撮影します。そして、プレゼン後に動画と投票の数値変化を見ながら「どのような場面で評価が高まり、説得力があったのか」「どのように間を取ると良かったのか」などとみんなで客観的にプレゼンを振り返ります。

1学期の実践を映像で振り返り共有この活動のメリットは、発表者が客観的に自身の発表を振り返られるとともに、子どもが評価に加われることにあります。これまでは教員のみが評価者になり、発表者の子どもに反応や評価を返す場合が多かったと思います。確かにアナログでは、発表のたびに集計してグラフ化し、視覚的に共有することは困難です。しかし、[投票]機能を使えば、発表を聞いた子どもたちがその評価を考えて投票ボタンを押すだけで、リアルタイムに評価を返せます。聞く側の子どもも真剣に聞けるので、全員参加の授業になります。

ディベート

ディベートでは、2つの対立事項について[投票]でまず意見表明してもらい、そのグラフをずっと表示しながらディベートを進行します。それぞれ対立する意見からの発言を聞いて説得力があると思えば、その時点でどんどん評価を変えてもらいます。リアルタイムに数値が変化するので、発言者は自分の発言に説得力があったのかどうかをすばやく、視覚的に把握できます。[画面保存]機能を使えば画面をキャプチャして記録できるので、振り返りにも使えて便利です。

このような研修を受けて、早速授業に活用された小学校の先生もいます。このような取組みを一度だけでなく、6年間継続することでプレゼンの力がつくと思いますので、今後の継続的な取組みを期待しています。

教育の情報化の先進地域に匹敵する、高い整備率

充実したICT環境を生かし、授業改善や意識改革を市全体で進めたい

当市は、教育委員会と学校が一体となって教育の情報化を進めていることが特長だと考えています。機器の整備だけでなく、研修による周知、普及までしっかりと手立てが取られており、「整備されたけど使われていない」というICT機器は見当たりません。

これまでのICT環境整備の成果は、文部科学省が実施している「教員のICT活用指導力」の調査において数値としても表れています。特にB項目「授業中にICTを活用して指導する能力」は、ここ数年は90%以上の教員が「指導できる」と回答しています。整備率についても、ほとんどの項目が教育の情報化の先進地域に匹敵する高い水準になっています。

ICTは、アクティブ・ラーニングにおいて有効なツールですから、このような充実した環境にあることを自覚し、それらを活かした授業改善、教員の意識改革を市全体で進めていきたいと思います。

(2017年1月取材 / 2017年4月掲載)