授業でのICT活用

渕上 一博 校長八代市教育委員会委嘱のICT教育推進モデル校である八代市立八代小学校では、平成28年8月に児童用のタブレット端末80台と授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』が導入されました。同校の渕上 一博 校長は、9月からの活用推進に向けて児童用タブレット端末の一部を教員用タブレット端末として教員1人ひとりに配付。教員が自由に教材研究や授業準備を行える環境を整えられました。同校のICT活用推進の取り組みについて、渕上校長にお話を伺うとともに、『SKYMENU Class』を活用した授業を取材させていただきました。

「ICT教育推進モデル校」として、タブレット端末80台整備

本校は、平成28、29年度八代市教育委員会委嘱ICT教育推進モデル校や平成28年度熊本県教育委員会指定ICTを活用した「未来の学校」創造プロジェクト研究推進校、平成28年度「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」指導力パワーアップコース研究推進校指定など多数の研究指定を受けており、ICTを活用した授業改善を積極的に進めています。

平成28年8月にコンピュータ教室の機器更新が行われ、タブレット端末41台と無線LANアクセスポイント2台が整備されました。さらに、ICT教育推進モデル校として、教育委員会から40台の児童用タブレット端末と6台の無線LANアクセスポイントの貸出を受けており、あわせて約80台のタブレット端末が整備されています。

すべてのタブレット端末には授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』が導入されており、各普通教室の大型デジタルテレビに教員機画面を投影して教材を提示したり、児童1人1台のタブレット端末を活用した授業も行ったりできる環境が整っています。

教員が自由に教材研究や授業準備を行える環境が必要

8月に『SKYMENU Class』の導入時講習会が行われ、私も教員と一緒に参加しました。さまざまな機能の紹介を聞きながら、授業者の立場で本校のICT環境を見直したときに、これから本校の教員が授業でタブレット端末を活用するためには、教員がいつでも自由にタブレット端末や『SKYMENU Class』に触れることができ、教材研究を行える環境が必要だと考えました。

そこで早速、教育委員会に相談し、児童用のタブレット端末80台のうち19台を教員用タブレット端末として教員1人ひとりに配付する承諾を得ました。残りの61台のタブレット端末は児童用のタブレット端末として主に3年生から6年生の児童が活用しています。

授業を見せ合い、授業改善『見に(ミニ)来てね!授業』を実施

環境づくりとともに、授業力向上、授業改善を両輪で進めなければなりません。本校では、平成28年度当初から教員がお互いに授業を見せ合い、授業改善や授業力の向上を図る取り組み「見に(ミニ)来てね!授業」を行ってきました。職員室に専用のホワイトボードを設置し、授業を参観してほしい教員が書き込んで呼びかける仕組みです。私も可能な限り参観し、授業後には、気付いたことなどをA41枚のプリントにまとめて返しています。すべての先生にプリントを返すのは大変なのですが、先生方のモチベーションにもつながるので、必ず返すようにしています。9月からはタブレット端末を活用した授業も増えており、ICT活用授業の推進にも一役買っています。

このような取り組みもあり、整備からまだ3ヵ月しか経っていませんが、タブレット端末は既に取り合いの状況で、台数の不足を感じるほどです。

授業を終えた教員から「今日(のICT活用)は上手くいかなかった」といった感想を聞くことが多くなってきました。このような感想は、ICT活用の壁にぶつかり、その壁をどのように乗り越えていくかを自ら考え始めているからこそ発せられるものです。先生方の授業改善、授業力向上への前向きな姿勢が素晴らしいと感じています。

ICTに振り回されない授業力を磨く

タブレット端末を活用した授業といっても、その根底には今までの授業があります。タブレット端末ばかりに目を奪われては、タブレット端末に振り回された本質のない授業になりかねません。本校の「見に(ミニ)来てね!授業」の取り組みは、授業力の底上げを目的に、今後も継続したいと考えています。

では、タブレット端末を活用すると一体どのような授業ができるのか。例えばこれまでの授業では、友だちと交流し合っても、友だちと話をしただけ、もしくは聞いただけになってしまう傾向が見られ、話合いの中から何か新しい考えや概念を生み育てていくような展開は難しいものでした。しかし、本校の授業を見ていると、教室のあちこちで児童がタブレット端末にまとめた自分の考えを見せ合い、考えを交流している様子が見受けられます。思考を可視化したり、共有したりできるICTの特徴を生かすことが、対話を通じて新しい概念を生み育てるような深い学び、深い理解につながるのではと期待しています。

そのためには、ICTに振り回されるのではなく、むしろICTを振り回すような授業力が必要です。先生方と共に磨きたいと考えています。

「発表ノート」「スポット強調」で教材を自作 基本表現を使う場面・活動を充実させる、タブレット端末の活用

浦田 尚美 教諭

「What's this?」など基本表現を
意欲的に使う場面をつくる
~SKYMENU Classを活用して~
5年2組担任の浦田尚美教諭は、外国語活動の時間で児童1人ひとりにタブレット端末を配付して実践されました。授業にICTを取り入れることで、児童が「What's this?」や「It's~」のフレーズを聞いたり、言ったりする場面・活動を充実させ、表現に慣れ親しませることをねらわれました。

【本時の展開】

過程 学習活動【学習形態】 指導上の留意点及び評価
導入
15分
1 あいさつをする。【一斉】 ○外国語活動の雰囲気づくりをする。

「これは何ですか。」ときいたり答えたりしてみよう。

2 ウォームアップ
(1)チャンツ【一斉】
(2)かくれんぼクイズ【一斉】
(3)アルファベットクイズ【個人】
(4)基本表現を取り入れたピクチャー
ブックの読み聞かせを聞く。【一斉】

徹底指導のポイント

◎いろいろな活動を通して基本表現に慣れ親しませる。
○クイズを出しながら、基本表現に慣れ親しませるようにする。
○児童と会話をしながら絵本に児童を引き込むとともに、基本表現に親しませる。
展開
25分
3 アクティビティ
(1) スポットクイズ【ペア】
(2) 自分たちで撮った写真を使ってクイズをする。【グループ】

○基本表現の“ What's this?”“ It's ~.” を使って友だちとやりとりをしながらその表現に慣れさせていく。

G : What's this?
C : It's ~ .
G : Yes. That's right!
Or I'm sorry. Try again.
Or Close.
(*C : Hint, please.)

能動型学習のポイント

◎児童自らがクイズを出題する活動を通して、基本表現を使う必要性を持たせる。
○自分たちでクイズを出すことで、意欲的に聞いたり答えたりできるようにする。
○やりとりをつなぐ言葉についてアドバイスをする。
整理
5分
4 活動を振り返る。【個人→一斉】
5 あいさつをする。【一斉】
○本時の学習と自分自身を振り返らせ、次の学習への意欲を高めるとともに、互いの良さに気付かせ認め合う場とする。

文字を動かして、慣れ親しむ「アルファベットクイズ」

アルファベットを認識したり慣れ親しませたりすることは、外国語活動の目標の一つです。本時の導入では、[発表ノート]を使って「アルファベットクイズ」を行いました。このクイズは、いくつかの文字を組み合わせて一つの単語を作ります。あらかじめ[発表ノート]で作成しておいたクイズ問題を全学習者機に一斉に配付し、児童1人ひとりが文字の並べ替えに挑戦しました。文字を並べ替えるだけで良いのでアルファベットを書けない児童でも、文字の並びを単語として理解できるようになります。

以前は紙で1つひとつ教材を作っていたのですが、[発表ノート]のおかげで教材準備の負担が減りました。また、答えあわせも[投影]機能で大型デジタルテレビに映せるので、テンポよく行えました。

「スポットクイズ」で意欲を高め、英語表現を繰り返し使う

「What's this?」を意欲的に使える場面を作るために「スポットクイズ」を行いました。「スポットクイズ」は、注目させたい箇所を強調して表示できる[スポット強調]の機能を使い、写真の一部だけを見せて、「What's this?」とクイズを出題する活動です。操作は簡単で、[カメラ]機能で撮影した写真を[スポット強調]で隠して質問するだけです。

質問された児童は「up」「down」「left」「right」と既習の単語を使いながら、スポットの部分を動かしてもらって考えます。児童の意欲を高めつつ、ターゲットセンテンスやこれまで学習した英語表現を繰り返し使えるので効果的なアクティビティだと考えています。

外国語活動では、1つのアクティビティだけでは児童の関心が次第に低くなってしまうため、何分かおきにアクティビティを変える必要があります。外国語を使う場面設定に広がりを持たせてくれるツールとしてタブレット端末や『SKYMENU Class』に期待しています。

「発表ノート」と「マッピング」で主張点や根拠を明確にした話合いへ

樋口 勇輝 教諭

課題別学習で食料自給率問題に迫る
~SKYMENU Classを活用して~
5年1組担任の樋口勇輝教諭は、社会「食料生産を支える人々」の単元において、日本の食料自給率の問題について課題別学習(ジグソー学習)で迫っていきました。本時は、児童1人ひとりにタブレット端末を配付し実践されました。

【本時の展開】

過程 学習活動【学習形態】 指導上の留意点及び評価
つかむ
5分
1 学習への課題意識を持つ。
(1)これまでの学習を想起する。【一斉】


(2)学習のめあてをつかむ。【一斉】
前時までの板書などを活用しながらこれまでの学習について振り返り、本時の学習へつなげる。
・学習の流れを大型モニターと板書に示し、見通しを持って学習に取り組めるようにする。
・「食料自給率を上げるための取組についてチームで検討し、安倍総理に提案しよう。」という単元を通した課題を意識させ、学習内容をより自分のこととして受け止め、児童の主体的な学びを促す。

めあて これからの日本の食料自給率を上げるための取組について考えよう。

考える・
深める
35分

【学習課題】これから日本の食料自給率を上げるために、今最優先すべき取組はなんだろう。

・課題別グループの考えを共有することで、共通理解を図りながら学びにつなげられるようにする。

徹底指導のポイント

◎全員がしっかりと考えを持ち、全員が発言できるように個人思考の時間を十分に確保する。

能動型学習のポイント

◎これまでの学習経験や教材からグループ・全体と協働し、自分の考えを広げ・深めていけるようにする。
・協働しながら導き出した考えはホワイトボードにまとめさせ、全体での考えの共有に役立てるようにする。
2 最優先すべき取組について考える。
(1)課題別グループで考える。【個人】
付箋紙に考えを書く。
(2)学習グループで学び合う。【グループ】
「最優先すべき取組」について話し合う。
(3)全体で検討する。【一斉】
3 自分の考えをまとめる。
(1)自分の考えを持つ。【個別】
(2)全体で学び合う。【一斉】
実践への
意欲化
まとめる
5分
4 「生産者」「販売者」「消費者」の思いや願いについて知る。 ・人々の思いや願いを視聴させ、自分たちの考えをさらに強化させる。
・人々の思いや願いを実感し、実践化への意欲を高める。
5 本時の学習についてまとめ、次時への意欲につなげる。

「マッピング」で自分の主張点やその根拠を明確化

本時は、学習課題を「日本の食料自給率を上げるために、今最優先すべき取組についてチームで検討し、安倍総理に提案しよう」としました。「生産者」「販売者」「消費者」の3つの立場で別々に学習してきた児童を1人ずつ集めた学習グループで、それぞれの視点から「今最優先するべき取組」を話し合わせ、グループの代表となる取組を1つ選ぶこととしました。

話合いは、思考ツールの1つ「ピラミッドチャート」を使いました。自分が考えた取組とその理由、根拠を付箋紙に書かせ、ピラミッドチャートに貼って話し合いました。児童は、[発表ノート]にまとめた資料や考えを整理した[マッピング]の画面を見せたりして説明していました。

[マッピング]を使った主張点の整理は、前時に行っていました。これまでもプレゼンテーションソフトなどを使って、自分の主張やその根拠をまとめさせていましたが、根拠や理由が曖昧になる傾向がありました。自分の考えが曖昧なままでは話合いが充実しません。本時は[マッピング]で理由と根拠を構造化して整理できたので、主張が明確になったうえで話合いに臨めました。どのグループも積極的に意見が交換され、具体的な話合いが行われていました。

主体的・対話的な学びに役立つ、『SKYMENU Class』

教師主導ではなく、児童1人ひとりが自分のこととして目の前の課題にどのように向き合うのかを考えられることに意味があると思っています。本時、児童はタブレット端末や[発表ノート]を使って、自分の考えを持ち、それを他者に説明すること、さらには他者と協働しながらチームとしての考えを生み出していました。

『SKYMENU Class』には、[画面合体]や[グループワーク]など主体的・対話的な学びに役立つ機能が充実しています。授業づくり、授業改善に役立てたいと思います。

(2016年11月取材 / 2017年2月掲載)