授業でのICT活用

学校図書館にPC教室を統合、「メディアセンター」を解説 広島県竹原市立東野小学校

芳川 真理 校長、小濱 美咲 教諭竹原市立東野小学校では、平成27年9月にコンピュータ教室の端末をタブレット端末で整備。今年9月には学校図書館にコンピュータ教室を統合して、児童の情報活用の場、主体的・協働的な活動に取り組める場として「メディアセンター」を設置されました。

メディアセンターの設置に中心的にかかわられた、芳川 真理 校長、小濱 美咲 教諭に、その意義や効果についてお話を伺いました。


コンピュータ教室をタブレット端末で整備

本校は、竹原市の北部に位置する全校児童数65名の小規模校です。竹原市は早くから全小中学校に電子黒板が導入されたり、ICT支援員を配置したりするなどICT活用教育に積極的な地域です。

そのようななか、昨年(平成27年)9月にコンピュータ教室の機器更新が行われ、従来のデスクトップPCに替わり、タブレット端末が17台導入されました。このときに、タブレット端末に対応した授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』も導入されました。

併せて、タブレット端末と大型提示装置を無線でつなぐ機器も3台整備されました。この機器は無線LANアクセスポイントも兼ねているため、教室に持ち運んでの情報コンセントに接続すれば、どこでも無線LANが利用できるようになりました。 

※SKY-AP-300AN

タブレット端末を使いにくい従来型のPC教室空間

コンピュータ教室は、更新時にデスクトップPCからタブレット端末に変わったものの、教室のレイアウトは従来のコンピュータ教室のままでした。そのため、タブレット端末を持ち寄って話し合ったり、グループで活動したりすることが難しい空間でした。

児童がより動きやすく、より協働しやすい学習空間にできないだろうか。そして、書籍を使って調べることを前提にしながら、タブレット端末なども使って主体的・協動的に学習活動に取り組める空間にできないだろうか。このような思いが教員にはありました。

「学習・情報センター」機能が弱い、学校図書館

竹原市はICT活用教育とともに、「読書活動」にも積極的に取り組んでいる地域です。本校の児童も読書が好きで、学校図書館に立ち寄って読書をする姿がよく見られます。

しかし、本校の学校図書館は、校舎の3階の一番奥にあり、読書習慣を身につけさせたい低学年の教室から一番遠い場所になっていました。低学年の児童の足が遠のいてしまうという位置的な問題を抱えていました。

また、学校図書館には、児童生徒の創造力を培い、学習に対する興味・関心などを呼び起こし、豊かな心をはぐくむ、自由な読書活動や読書指導の場である「読書センター」としての機能と、児童生徒の自発的、主体的な学習活動を支援するとともに、情報の収集・選択・活用能力を育成して、教育課程の展開に寄与する「学習・情報センター」としての機能を備えることが期待されています。しかし、本校の学校図書館は「学習・情報センター」としての機能が弱く、空間的な課題も抱えていました。

学校図書館にPC教室を統合し「メディアセンター」へ

そこで今年の夏に、読書活動推進員の方や地域の図書ボランティアの方、竹原市教育委員会の協力を得て、学校図書館にコンピュータ教室を統合し、新たな学習環境としてメディアセンターを立ち上げました。

メディアセンターの立ち上げは、従来の学校図書館が抱えていた課題と従来のコンピュータ教室が抱えていた課題を解決することを目標に、さらに「読書センター」と「学習・情報センター」の機能を明確に切り分けて、児童が学習するための環境づくりをめざしました。

コンピュータ教室としても機能する「学習・情報センター」のスペースは、児童が協働しやすいように、4人が向かい合って座るようにタブレット端末を設置しました。また、机2つ分を並べたワークスペースも作りました。模造紙やホワイトボードを広げて話し合うことや、複数のタブレット端末画面を合体できる『SKYMENU Class』の[画面合体] などを使って活動することを想定しています。

本棚の設置場所や書籍の配置、見せ方は、地域の読書ボランティアの方と一緒に検討しました。児童が調べ学習で書籍を探しやすいように、学習スペースの両壁面の本棚には、学習に関連する書籍などを配置しています。

「メディアセンター」化の効果

(1) 児童の会話量の増加

従来のコンピュータ教室と比較して、児童の会話量が増えました。これまでは、児童同士が横に並ぶレイアウトだったため、タブレット端末を使ってまとめた自分の考えや意見について、会話を通して伝えたいはずなのに、積極的な話し合いや交流が起こりにくい環境でした。メディアセンターで授業をするようになってからは、グループ4人が向き合って作業を進められるので、タブレット端末の画面を見せて教えあったり、まとめた自分の考えをもとに交流したりするといったことが自然に行われるようになりました。

(2) 調べ学習の質も向上

書籍とタブレット端末を組み合わせて使うことで、調べ学習の質も変化しています。例えば、書籍で調べ学習をしていて「いいな」と思った資料や情報があれば、児童は[カメラ]機能で撮影しています。今までは付箋紙を貼ったりメモをしたりしていましたが、撮影するほうが素早く情報を保存できます。そして、撮影した写真を[発表ノート]に貼り付ければ、まとめや発表の資料としても利用できます。

さらに、書籍だけでは情報が不足している場合やより詳しく調べたい事柄があれば、すぐにインターネットで検索して調べられます。情報を収集する場所が一か所に統合されたことで、思考が途切れることなく活動できるようになりました。

(3) 教員の目が行き届き、授業がしやすく

教員からは、「授業がしやすくなった」という声を聞きます。以前なら、調べ学習をする際に、書籍で調べたい児童は学校図書館へ、インターネットで調べたい児童はコンピュータ教室へと別れて活動をせざるを得ませんでした。別々の場所での活動では、教員の目が届かないことが多く、授業のしにくさを感じていました。

多くの教員が、1つの教室で授業ができることにメリットを感じており、今では低学年から高学年まで多くの授業で利用されています。教員にとっても児童にとっても「利用したくなる空間」になっています。

時間・空間も越えて世界とつながるICTの特長を生かす

児童は[発表ノート]や[カメラ]、[画面保存]など『SKYMENU Class』をさまざまに使いこなしています。

例えば理科では、仮説を書いて実験の様子を撮影。結果、考察をまとめて発表するという一連の活動を[発表ノート]で行っています。音楽では、自分たちの演奏の様子を動画で撮影して振り返りに生かしています。

今後は、どの学年でもタブレット端末を活用した授業を行えるように、教員が[発表ノート]などで作成した教材を校内で共有したいと考えています。先生方が、もっと手軽にタブレット端末を活用した授業が実践できるような環境づくりが必要だと感じています。

本校は小規模校であるため、児童の協働が成立しやすい土壌があります。その一方で少人数では多様性が限られ、内にこもる傾向があることも否めません。しかし、こうした課題も、時間・空間を越えて外の世界とつながることのできるICTの特長をうまく生かしたいと考えています。児童がICTを使ってまとめた情報を、学級の枠を飛び越えて、学校間交流するような取り組みに発展させられればと思います。


必要な資料を撮影し、[発表ノート]にまとめる

6年社会「江戸の社会と文化・学問」の単元を、メディアセンターで実践しました。町人の中で栄えた文化や新しい学問などを学習した後、「文化」「産業」「国学」「蘭学」の4つのテーマの中から、興味を持ったテーマごとにグループに分かれ、調べ学習に取り組ませました。

前時までに、教科書、資料集、メディアセンターの書籍から資料収集を行い、それをグループごとに[画面合体]して共有。グループ全員で資料の仲間分けや見出しをつけて整理しました。そして、さらにどの部分を深く調べてまとめるのかを話し合い、グループ内で担当を決定していました。

本時は、書籍だけでなくインターネットも活用させて、自分が調べる担当の部分をさらに深く調べていきました。

児童がインターネットで調べやすいように、グループごとにWebサイトのリンク集を配付しました。『SKYMENU Class』の[作品ビューア]を使えば、任意のユーザにファイルやフォルダを配付できるので、それぞれのテーマに沿った必要な情報だけを提供できました。

児童たちは自分のテーマについて、書籍やインターネットを活発に使い、さらには友だちと相談したりして主体的に調べ、深めていました。

[画面合体]が情報共有の手段に

[画面合体]は、タブレット端末上で収集した資料や情報を分類したり、根拠となる資料を共有したりできるので、意見交流の場面において有意義な機能だと思います【図1】。

「合体解除」をしても、1人ひとりの手元に同じデータが残るので、「前の時間にこんな話をしたな」と前時の振り返りに使えます。6年の児童は共有したい情報があれば、声を掛け合って自分たちで[画面合体]していました。情報共有の1つの手段になっています。

図1『SKYMENU Class』[画面合体]機能を活用した資料の共有

[グループワーク]で1人ひとりの考えが生きる

本単元のまとめでは、個々に作成した[発表ノート]を[グループワーク]機能で集め、グループとしての1つのまとめを作ることにしています。

従来のように模造紙やホワイトボードを使ってまとめることもよいのですが、それではリーダー的な児童が1人でまとめてしまうことになりがちです。みんなの意見や考えが反映されにくく、児童1人ひとりが存在感や有用感を得にくいと考えています。

[グループワーク]機能を使えば、1人ひとりが作ったページが、そのままグループで共有できるので、1人ひとりの意見や資料のまとめに生かせます。誰か1人の考えではなく、1人ひとりの考えを生かせるのは、ICTならではのメリットだと感じています。


市内全小中学校にタブレット端末を整備

竹原市教育委員会 学校教育課 富本 健司 主査(兼)指導主事 / 栗原 英 主事当市では、平成25年度からのタブレット実証実験を経て、平成27年度に市内の全小中学校(小学校9校・中学校4校)へタブレット端末(合計384台)と授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を導入しました。

その際に、コンピュータ教室に整備されていたデスクトップ端末の運用を廃止することになりましたが、コンピュータ教室にタブレット端末用のクレードルを設置し、豊富なインターフェイスにより周辺機器との接続を可能にすることで、総合的な学習や中学校の技術家庭科などのコンピュータ教室での授業に対応できるようになりました。これには、タブレット端末の導入によって全く新しいことをゼロから始めるということではなく、これまでの取り組みの蓄積や意義を鑑み、その継続性を重視した上で、新しい要素を取り入れ、ICT活用教育全体をどう発展させるのかという考えがもとにあります。

学校全体へ広がるICTの活用とPC教室の在り方

タブレット端末の導入後、ICT活用の場はコンピュータ教室から普通教室や理科室などの特別教室へと学校全体に広がっていきました。これは、タブレット端末が本来の目的に沿って活用されていて良いことなのですが、一方でコンピュータ教室の利用頻度が下がる反面があり、これからのコンピュータ教室の在り方について考えさせられるものでもありました。

そのようななか、東野小学校から「コンピュータ教室と学校図書館を一緒にしたい」という相談を受け、この取り組みが、これからのコンピュータ教室の在り方に対する1つの答えのように感じました。

学校の知と情報の中心「メディアセンター」

メディアセンターは、学校の「知と情報の中心となる場所」と位置付けています。現代の知識基盤社会の中では「知りたい情報をどのように得るか」という力はとても重要です。知りたい情報が得られるのであれば、情報媒体は、書籍や資料、新聞、テレビ、インターネットなど、何であっても構いません。

しかし、その過程においては、効率的かつ正確な情報を得る必要があります。それを学ぶため、学校にはあらゆる媒体を量的・質的に活用できる場所が必要だと考えています。自らが情報を得る手段を考え、得た情報を取捨選択し、目的の達成のために生かす、それが学習理解を深め、ひいては学力の向上、情報活用能力の向上につながるのだと思います。

また、メディアセンターは協働学習の場としても最適で、児童が同じ机を囲んで、意見の交換や共同で作業がしやすいように考えられています。さらに、無線LANの活用により、学習場所が机上に固定されず自由に移動できるので、あらゆる活用場面に対応できるようになっています。

現在、メディアセンターを設置している学校は東野小学校だけですが、平成30年4月に開校予定の義務教育学校である吉名学園(仮称)も同様のメディアセンターを開設する予定です。

学校、教員の意欲的な提案に丁寧に向き合う

ICT活用教育の推進における教育委員会の役割は、推進体制の整備や人材育成、物的・人的な面で学校をサポートすることが挙げられます。その役割を担う上で、現状を踏まえ、どうすれば学校でICTの活用が広がるかについて、全体的な視点で考えていく必要があります。

そのために重視していることは、現場である学校や教員の声をよく聞くことです。頻繁に学校訪問を行い、ICT機器の活用や普段の運用状況を直接見聞きすることで、課題や要望を把握するように努めています。

そして、東野小学校のメディアセンターのように、学校や教員の主体的かつ意欲ある提案に対しては、その実現の可否などをさまざまな角度から検討を行った上で、できるかぎり意向に沿えるように、また難しい場合は代替案を提示するなど、丁寧に対応しています。

そうした対応や教員が熱心に研究を重ねてきた結果、当市ではほかにもプログラミング教育を実践している小学校やデジタル教科書(指導者用)を導入している中学校、特別支援教育でアプリを活用した授業の実践など、良い事例が次々と生まれています。

こうして実績とノウハウを蓄積し、さらには情報共有することで、別の学校でICT活用の新しい芽を生み出すという好循環ができています。その好循環が維持・発展されるように、土壌作りを行うことが教育委員会の役割だと考えています。

(2016年10月取材 / 2016年12月掲載)